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視点を変えて短編形式で物語が進む。車内でチャラ男と呼ばれているあの男「三芳部長」周囲の人々のお仕事小説。
私が語りはじめた彼はと違うのは三芳部長はめっちゃ喋るし、なんならチャラ男視点の章もある。

彼らは「ジョルジュさん」と呼ばれる小規模な食品会社に勤めている。人員不足でフラストレーションをためている社員もいれば、「ここで長居をするつもりはないと思っているがなかなか見切りをつけられないでいる」社員もいる。雰囲気はよろしくない会社で、ドストレートな男尊女卑をぶつけてくるところもある。

問題を抱えて悩んだり、体調崩したところで絶対面倒なんかみないくせに。やめるならぎりぎりまで働けと思っているくせに。何を言うかチャラ男。
支配したいだけなんだろ。あなたがしたいことは、出世でも金儲けでもない。

(P113)

AさんはBさんのことをこういう風に言ってたけど、Cさん視点から見るBさん、というのはキモがひゅっと縮まるものがあったな。特に池田かな子さん←→伊藤雪菜さん。伊藤さん周りはしんどい。どこまでも現実の「仕事」を小説にした本だった。

ジャニーズ事務所所属アイドルは運よく顔がよく生まれ、運よくジャニーズに選ばれ、運よく人気を得た「特別な星の元に生まれた選ばれしものたち」だと思っていたけどその活躍の裏側に地道な努力の積み重ねがある、という本。

第1部 努力の16人
中居正広、木村拓哉、長瀬智也、国分太一、岡田准一、井ノ原快彦、堂本剛・光一、櫻井翔、大野智、滝沢秀明、風間俊介、村上信五、亀梨和也、中島健人、伊野尾慧
第1部のまとめ
第2部 ジャニー喜多川論(育てる力)

という流れで、ここで名前が出てない人も出るには出てるけど、ページを割かれている、となるとこの辺になる。
ソースの表記がすごく多い。例えば中居くんの「話すのは、正直苦手なんですよ(*2)」のように参考文献が明記されている。だいたい雑誌のインタビューで、2008年以降。
合間を縫って毎日本1冊読んで映画3本見る(10代の岡田くん)、とか移動時間を利用してガンガンインプットする(太一くん)とか、映像作品の編集は必ず立ち会ってがっつり関わる(光一くん)とかこの世界で生きていくためにしている努力がすごい。
そら蜷川監督も「なんでジャニーズの方が努力してんだよ! お前らより売れてる奴らがよ! 全然説得力ねえよ!」っていう1

「ジャニーズの場合は、ジャニーさんが、きっかけを作ってくれて、あとは自分のことは自分で磨いていくというか、だから、ジャニイズム2は人の数だけある。(中略)みんなちがっていいし、だからこそバラバラな個性がグループになったらおもしろくもなったりする」

才能とは死ぬ気で身につけるものである、という本。
彼らはどういう道のりを辿っていまの位置にいるのかということを、陰謀論や過剰な思い入れ抜きで膨大な資料からまとめられているので、「エンタメでプロフェッショナルの仕事」が好きな人によい本なのではないか。

  1. NHKのドキュメンタリーでの話。自分の劇団所属で、まだ売れてない若手俳優に檄を飛ばす []
  2. ジャニーさんはショービジネスは楽しいという風に教えてくれる。この世界でやっていく欲を叩きこむのではなく引き出してくれる、という滝沢秀明が語るジャニー喜多川の教育姿勢 []

「お金の増やし方」について書いて欲しいと依頼されて書いた本がこれである。
何故そんな依頼をしたのだろうか、自分はお金を増やした経験などない。庭に線路を敷いて自分が乗れる鉄道を走らせたかった。もっと儲かるバイトはないものか、でも土日も出勤しているし勤務時間の倍ぐらいは仕事をしている。でも夜は空いている。小説を書いてみた。売れた。年収1億超えても普通に出勤して16時間ぐらい勤務していた。印税収入が20億超えてもマックのハンバーガーセットぐらいしか外食をしていない。別荘地を買って自分が乗って鉄道は走らせる夢は実現させた。
と、そういうはじまりをする。そんな人おらんやろと思うけど、書いているのが森博嗣なので、森博嗣ならまあそうなんだろうなと思う。
この本はお金との付き合い方との本だ。

収入に応じた生活のデザインをする(森家は収入の1割はそれぞれ自分のしたいことにお金を使おうという約束をした。)
「どれくらい必要か」ではない「どれくらい欲しいか」だ。これは必要なものだという認識でお金を使い切るのは贅沢だ。
「お金がないから、時間がないからできない」という人は、実は本当にやりたいことが分かっていない。具体的に質問していくと答えられない。本当にやりたい人はなんとか工面している。自分が好きなことをやっている人は時間とお金が潤沢にあるのではない。実際は苦労して生み出している。目的のためには犠牲が必要である。

損を先に、得は後からする。

小説を書いたことに対して、好きなものを仕事にしなかった。小説家には憧れていなかった。パソコンがあればできる仕事だと次の日に書き始めて睡眠時間を半分にして書いた。好きなものは得意になるかもしれないが、僕(森氏)が観察した限り客観性を持て自分を見られている人は少ない。

音楽を聞く・演劇を見る・スポーツを観戦するというのは突き詰めれば簡単な消費である。楽しいし、仲間もできるかもしれない。その時間が終われば何も残らない。そこでもう少し探求・研究という場面に踏み込むと話は違ってくる。消費ではなくなる。自分に何らかの知識を得たりレベルアップする。レベルが高くなると周囲に何かを依頼されたり指導してほしいと頼まれたりするかもしれない。

この場合の「金星特急」が指すものは小説ウィングスで絶賛連載中のほうの「続・金星特急 竜血の娘」第5話。

小説Wings 2021年 06 月号 [雑誌] 雑誌 ? 2021/5/10

文庫本換算で3巻の1話目? 季刊ペースの雑誌連載で文庫本1冊当たり2話で、まとまるのが待てないので本誌派なんですけど、最近読めるコンディションじゃなかったのでずっと積んでたのをようやく読めました。いや最近攻撃力まじ高なんですよ。第4話、拝んだしこの展開死ぬって思ったわ。

腕と脚を組み、窓にもたれて目を閉じた彼女の髪が、ガラス越しの鈍い光で淡く浮かび上がっている。静かに目を閉じた表情はどこかあどけなく、いつもの凛とした表情ではない。(略)
----ああ、この人は彼女が目の前にいるだけでいいんだな。
そう思った。
早く思い出してもらえないと可哀想、なんて焦っていた自分が恥ずかしい。
彼女が存在する。それが彼を生かしている。他に何もいらないのだ。

(P38)

なんてことないこのシーンがすごく美しくて、そこにあるのは愛だけだなと思った。正座して読んだ。

文字を読んでいるのにビジュアルが想起される文章が毎回すごい。その場合の想起されるビジュアルは人じゃなくて背景画、自然の風景が圧倒的に多い。
そういうビジュアルがあるのかというと特にそうでもない。掲載される挿絵はキャラクターが中心で、それも数えられるぐらいしかないし、世界を旅する物語とはいえ金星特急(錆丸が主人公の方、かろうじて現代に近い)と竜血の娘では旅をする世界がまるで違う。知らない世界のはずなのだ。
鉄馬号が走るシーン、知らないはずなのになんか見えたな。本物のロシアさえフィギュア関連(YOI含む)でしか知らないのに。お前は人を殺せるかっていうあいつもやばいしね。温泉の桜もすごくいい。
気軽に旅行に出かけられなくなった現在、写真がたくさん載っている旅行エッセイよりも旅に出ているような気にさせる小説だ。

地平に沈みゆく太陽。
湖からの夕霧。狂ったように鳴く鳥たち。倒れた馬たちが手綱に絡まってあがいている。

(P56)

ここから始まる戦いよ(感嘆)
8月10日が楽しみだ。

本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ Kindle版

料理研究家によるエッセイ。
「お父さんが料理研究家なら普段さぞおいしいものを食べてるんでしょう」と言われがちだけど、普段の食事は質素なもんですよ。料理自体は好きだけど子どもが3人もいると大変だし、撮影で作った余りが食卓に上がることもあるけど、我が子、冒険しないから定番の料理にしか箸をつけない。土井先生は「一汁一菜でええんですよ」っていうけど一汁一菜でさえしんどいときがあるんです土井先生……

手料理=子供への愛情の大きさではないし自分は子どもが満腹ならそれでよいと思っている。別にアルデンテにこだわらなくても子どもは美味しく食べてるし腕によりをかけて作った料理よりコンビニのみかんゼリーが子どもに爆ウケすることもあるし、無理に野菜食べさせなくてもいいけどそれでもやっぱり……っていう人にはこういう手段はどうかという感じの内容なので、絶賛子育て中世代に良いのではないかという本。あと既婚子持ち料理研究家の日常ごはんについて見てみたいという人にも。

死んでも推します!! ~人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします~ (Kラノベブックス f) 単行本(ソフトカバー) ? 2021/6/2

「小説家になろう!」連載作品でオンラインでは完結済、書籍化の1冊目で全3巻予定。
【書籍化】死んでも推します!!〜人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします〜

公爵令嬢セレーナは婚約者のフィニスのガチ勢だった。帝国最強の辺境の騎士団、黒狼騎士団団長のフィニスのことは肖像画でしか知らない。でも肖像画を見た瞬間天使に祝福されたような、圧倒的な「好き」の圧力の前にひれ伏した。
この感情は萌えであると、私の婚約者は圧倒的に推せる存在であると、肖像画から得られるささやかな情報から考察し、解釈し推しへの愛と推しを讃える語彙をはぐくんだ。

そして10歳だった初対面(※肖像画)から6年後、フィニスとセレーナは戴冠と婚姻のため「楽園」への移動中の夜、白い炎に包まれて命を落とした。そしてきがつけば前世の記憶を保ったまま二度目の人生が赤子からスタートしていた。
そしてセレーナは決めた。今度の生では貴婦人ではなくフィニスを守る騎士を目指す。願いはただひとつ「推しには健康で長生きしてほしい」

そうして黒狼騎士団の門をたたいた男装騎士セレーナ1 は入団試験としてフィニスとの一戦交え、同じくフィニスガチ勢のザクトと一戦交え(※料理対決)同担の友情をはぐくみ、1秒ごとに更新されるフィニスの新規映像に喜び悶え萌え気絶をしている。

基本的にコメディガン寄せである。最推しを前にして語彙力が死んでいるように見せて実はめっちゃ讃えているフィニスガチ勢(1巻では3人出てくる)は大体面白い。でもラブコメ一辺倒というわけでもなく辺境の騎士団は生還率が低く、ラブコメの気配に隠されがちだが死の気配もまた漂っている。

「そう。ザクトだけではなく、騎士団員はみな、わたしのためになら死んでもいいと思っている。わたしはそれを知っているし、いつか彼らを死地に追いやる」
(略)
「わたしの役割は、皆をうっとり死なせることだ。わたしは皆の旗印。わたしが正しく生きるのも、美しくあろうとするのも、強くあろうとするのも、何もかもが彼らの美しい死のためだ」

(P172)

挿絵がいい仕事をしていて……普通に一推しなのは髪を下ろしたフィニス様なんだけど、あんな子供が書いたぬりかべか豆腐みたいな体形でいい関節をしている四番様を推さないわけにもいかない。

剣術対決・料理対決・湯煙旅情編・接待ヤキュウの1巻です。3巻はガチガチのガチで戦争するので、ラブコメ展開からのガチ戦争のギャップに振り落とされる第3部を再体験したいのであと2冊刊行されますように。

  1. ただの鉄の剣を振り回せる筋肉質の体で暗器も仕込んでいる []

貴瑚(きこ、あだ名はキナコ)は東京から大分の漁師町にある亡祖母の家へ逃げるようにして引っ越してきた。役場の歓迎ムードとは裏腹に無職のキナコに田舎の閉鎖的な空気は厳しい。わけありそうな雰囲気、働かずとも金銭面に不自由していなさそう、憶測が憶測を呼んで「あいつは風俗嬢だ」と根も葉もない噂が流れて時折突っかかってくる住人がいた。

ある雨の日、かつて包丁が刺さったもう治ったはずの傷が強く痛みうずくまっているところを子供が通りかかった。なんとか足止めして家に連れ帰り、一緒にお風呂に入ろうと服を脱がすと肋骨の浮いた薄いからだと、明らかに虐待によってつけられた多くの傷が現れた。女の子だと思った子供は男の子で、口がきけなかった。

2021年本屋大賞受賞作。
去年の本屋大賞受賞作「流浪の月」とは多少似たところがある。本作の2人、キナコとのちに52と呼ばれる少年が抱えているものは傷だ。傷つけられ奪われ愛されなかった過去を背負っている。キナコが寂しくて狂いそうなときに聞「52ヘルツのクジラ」の鳴き声を52に聞かせると全身を振わせて泣いていた。52ヘルツの鳴き声は周波数が違うから同族のクジラには届かない。近くに群れがいたとしても気づかれない世界で最も孤独な周波数だ。
キナコの52ヘルツの鳴き声を受け止めてくれた人がかつていた。今はもういない人だ。

生きづらさ、虐待、ヤングケアラーと、物語は進むにつれ深度を下げていく。何とか生きてきたバックグラウンドがかなりしんどいものだ。軽さは微塵もないが、物語に引き込む力がすごい。著者略歴を読んだら「女のためのR-18文学賞」大賞でデビューとなっていて、そりゃあわたし好きだなと思った。宮木あや子、豊島ミホ、窪美澄、山内マリコと「決して明るい物語ではないのに物語の引力がすさまじい作品」を書く人がよく生まれてくる賞と思っている。良いものを読んだ。

凄いものを読んだ、というのがまず思う感想。
色んな種類の物語が読めるので読後感はアンソロジーに近い。
不妊に悩む女性とコンビニで出会った男子中学生の話「ネオンテトラ」
コメディに振った「魔王の帰還」
膝を打つしかないミステリ「ピクニック」
兄を殺された女性と受刑者男性の書簡体小説「花うた」
うらぶれた男性教師とLGBTの娘(心の性別は男)の話「愛を適量」
高校時代の後輩から「葬式に来てくれないか」と連絡がきた話「式日」

どれも読んでいくと「えっそうなるんだ?」という展開をする。安直に「泣ける話」「ほっこりする話」と言うのでもなく、かといって分かりやすい絶望の物語でもない。さじ加減が絶妙で共通点は家族という小さい単位での物語。
発売前からすごい勢いで推されていて、なんだ? なんだ?? そんな面白いのか??と思っていたけど高め期待値のハードルぽーーんと飛んで行った。
近作では「つないで」が好きなんです。講演で向かった先の広島で大雨特別警報が発令される災害にぶち当たったテレビ局所属報道畑の2人が「この非常用電源が落ちたら県下120万世帯のテレビへ映像を届けることができなくなる」緊迫した状況下で間髪いれぬやり取りをするところとか好きで、活動の幅が広がったら読めるジャンルの幅も増えるから見つかってくれてとてもうれしい。

中学校の図書室が主な舞台で、教室に居場所がない子とかが図書室に集まってくるという。
いじめを受けている子もいれば同じキャラを推していた友達が3次元の彼氏に目覚めて「そんなの気持ち悪い」と引かれたり読書感想文についてだったり。昔はそういえばこうだったなという感じで、野村美月の文学少女シリーズと小説の神様をすごい勢いで混ぜたみたいな連作短編だった。
まるで保健室登校みたいな図書室だった。

1年ぐらい積んでた気がする。2巻がいわゆる「悪夢の2020年4月刊1」だったと思う。これはシリーズものの1巻。

警察学校を卒業した麻生瞬が配属されたのは警察の花形捜査一課……の地下2階の書庫に存在する2人しかいない係「特殊能力係」。ここには上司の徳永と瞬の2人しか存在しない。地下で2人のみだからといって閑職というわけではない。むしろ瞬の能力を買われこの部署へ呼ばれた。ここは未解決の事件、逃亡中の犯人逮捕のための「特殊能力班」だ。別に異能集団ではない。瞬の能力というのは「人の顔を覚えて忘れないこと」、しかも子供の時からずっと。自分はそのことを「普通」だと思って疑っていない。
瞬はその力を存分に発揮して配属初日から金星をあげた。

刑事ものといっても非常にライトな物語でルートは1本道。事件が起こるのも物語の中盤以降。非常に読みやすくバディものの軽い読み物を読みたい人にはオススメで、「刑事もの」という単語で想像される相棒だったり特捜9だったりに近いものを求めている人にはあんまりオススメしない。

  1. 都内の大型書店は緊急事態宣言で閉店していた []
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