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富士見L文庫の新人賞受賞作がすごく面白かったので派手マするー。
ファンタジー要素ありの現代バディアクションものが好きな人はおすすめ。
書影初見でわたし好きそうって思って、試し読みちらっと読んで「あっこれ好きだわ」って思ったので買いました。

軽快に人が死ぬ系だけど残酷描写はなくて、もののけ姫レベルだと思いますが、臓器がない死体は出ます。試し読みがかなり多めに公開されているので気になる人はそれで確認してください。プロローグはニューヨーク市警の特殊部隊の精鋭が怪物を前になすすべもなく虐殺されるシーンではじまります。

あとがきに「レーベルカラーを度外視した作品」という一文があったんですが、モンスターズ・イン・パラダイス悪魔交渉人を混ぜて講談社タイガで割った感じです。確かに最近の富士見Lではあんまりない感じで、どっちかというと講談社タイガでありそうな感じ。

ニューヨーク市警特殊部隊の精鋭9人が殉職する事件があった1週間後、57人の男女を殺して食べた連続殺人鬼が逮捕され、世間の注目はこの「現代のハンニバル・レクター博士」に集まった。唯一の生き残りミキオ・ジェンキンスは病院で治療を受けつつ「自分たちは化け物に襲われた」と主張し続けた。半年後ようやく退院したミキオはFBIの捜査官に会いに行くように言われ、モリス捜査官とティモシー・ディモンと出会った。ティモシーは半年前逮捕され死刑が執行されたはずの連続殺人鬼だ。
ミキオは反射的に発砲し確実に射殺したはずが彼は生きていた。

ティモシーは当初精神病のウェンディゴ症候群が疑われた。これは「ウェンディゴ1に憑りつかれた」と人肉を欲するようになるものだが、電気椅子でも死ななかったティモシーは検査の結果、本物のウェンディゴであることが判明した。

ミキオは半ば脅される形でFBIで極秘発足するEAT(the Exceptional Affairs Team/特殊事件捜査班)の一員になった。相棒はこのウェンディゴ、司法取引をして織の外に出たティモシーだ。監視を兼ねて2人は一緒に暮らすことになったが、ティモシーの食事は人肉だ。FBIと取引して身寄りも葬儀予定もない死刑囚の肉が冷凍されて送られてくるが、ミキオにとってはまるで気が休まらない同居生活が始まる。

同居生活といっても、物語の大半は事件発生、状況確認、解決に至るまでのあれやこれやだ。のらくら飄々としたティモシー、ふつうに好みすぎる。私の好みを知っていて、既読の人はわかると思うけど普通に好きなタイプなんですよ。確かに世界一キュートな食人鬼だわ。

CIAの人もっと出てきてほしいので2巻でてほしーーー。

「モンスターのくせに口がうまい」
「モンスターは差別用語だぞ。ノンヒューマンと呼んでくれ」
ミキオの嫌味に、ティモシーは苦笑を浮かべた。真摯な態度で話を続ける。
「化け物だと一緒くたにせず、私は私だということを、君にちゃんと認めてもらいたいんだ。人間は未知のものに恐怖を抱く。私のことも、よく知れば怖くなくなるはずだ」
真っすぐに見つめられ、思わず目を逸らす。深い闇のように暗く淀んだその瞳が、ミキオは苦手だった。

(P75)
  1. ネイティブアメリカンの間で伝わる精霊 []

お仕事小説……なんだけど内容としては「人が良すぎるあまり慈善事業レベルで仕事を請け負う無能で思想がブラックの上司、しわ寄せは部下に流れてすり潰す」炎上プロジェクトの受注・残業続きの日々・顛末という感じなので脛に傷がある人は読まないほうがいい本。ブラック上司だけならともかく発想が昭和のコンプラ的にアウトの上司も登場します。

結衣は新卒でIT系企業(WEBサイト制作・アプリ開発)に入社して10年、中堅として仕事はきっちりこなし定時退社して職場近所の中華料理屋のハッピーアワーで半額のビールを飲むこと、好きなドラマを見ること、人生の楽しみとしている。

最初のほうは「どんなに体調が悪くても出勤するマン」「新人は有給など取るな働け空気を読めマン」「残業あたりまえ休日返上あたりまえマン」と濃い人間が多くその辺の個性が強い人間と何とかしていく話かと思えば、上司福永はやばい。これまでつぶしてきた人間の多さと手口の多様さがこわい。NO見積もりで稟議を出して通ってしまった予算はこれ以上出せないと言われ、残業を前提でスケジュールを組もう死ぬ気でやればなんとかなるとか背筋が寒くなる話がある中で、インパール作戦の話がぶちこまれる当たりすごい。
人間が考える創作上のブラック企業なので現実はたぶんこんなもんじゃないと思いつつ、顔を隠しつつも指の隙間から見てしまうような「読んじゃう」感じ。まんじゅうこわいって言いながら読む感じ。怖い物語です。ホラー。

死んでも推します!! 〜人生二度目の公爵令嬢、今度は男装騎士になって最推し婚約者をお救いします〜のコミカライズが始まったので、パルシーをダウンロードして読んだ。とても出来がいい。

で、無料更新分だけ読んできて、アプリ内を歩いていたらなんかすごいバリエーションが豊富なんだなと思った。講談社の女性向け漫画雑誌からの拾い上げかと思ったらアフタヌーンからもある。とりあえず、これおもしろーいと思ってお気に入りに入れているのは上記のでも推しコミカライズと、

オタ友が彼氏になったら、最高、かもしれない(BE LOVE)

カフェのキッチン担当兼チーフ(男・推しは男性アイドル。女性が苦手で性的指向はストレート)とフロア担当(女・推しは若手俳優)がもう1話で付き合うところから始まる。萌えは恋愛になるのかという、ある意味でも推しに近い現代もの。

カモナマイハウス 南波あつこ(フレンド)

昔住んでいた家に(新しい人が決まるまで、という大家の許可のもと)入り浸る陽向。庭が広いその家についに住人がやってきた。ゲームクリエイターの樹は「誘拐だのなんだのと通報されても困るから」とここには来るなと通告する。年の差ラブコメ。

波よ聞いてくれ 沙村広明(アフタヌーン)

北海道札幌のスープカレー屋で働いているミナレは失恋の愚痴を酒場で知り合ったラジオ局員に垂れ流した。それっきりの中だと思えばその時話したものが電波に乗っていることを店内BGM代わりのラジオで気づいてしまった。激昂したミナレは生放送のラジオ局に突撃する。

ルックバック 藤本タツキ ジャンププラス

あと昨日今日と話題が沸騰している藤本タツキのルックバックも読んだ。
ルックバック - 藤本タツキ | 少年ジャンプ+

台詞なしの画面があまりにも雄弁。143ページもあるとは思えない。読み終わると「漫画がうまい」以外の語彙が消え失せてしまう。
趣味に合わない(グロい)のでチェンソーマンはほぼ読んでいないので、ちゃんと読むのははじめて。映画たくさん見ているんだろうなと思うぐらいにはコマ割りが映画的だった。クラスで一番漫画がうまいと思っていた人間が敗北感を覚えるところや微妙にうまくなっている漫画とか、こいつには勝てないと思ってた人間がめっちゃ自分のファンで雨の中有頂天ではしゃぐ小学生とか、実在の事件1を想起させるところとか、読んだ人間の記憶(トラウマ含む)をクリティカルに引き出すところはすごいと思う。バクマンなのかなあと思いながら読んだけど、藤野は一人で漫画を描けるからそこは違うんだわ。

ウィキペディアのスクショがRTされてきて「藤本タツキの絵柄の目標は沙村広明」というのをみたあとに、パルシーでストーリーチケットほしさに占いのページを設定して「おすすめの漫画は『波よ聞いてくれ 』」って出てきて飛んでみたら沙村広明作品だったので「お導きか?」って思いながら読んだ。面白かったです。

  1. 2種類は目にしたけどまだあるかもしれない []

すごく良い本だったなこれ。
明治大学在学中に教職課程で齋藤孝さん(以下齋藤先生)の講義を聞いていた安住紳一郎さん(以下安住アナ)が、今度は明大で大学生相手に2人で話すという本です。
対談を書き起こしたものです、といっても本の形式になるとテーマがあって、それに対して安住アナ3ページ、齋藤先生2ページ。質疑応答と思われるページはふたりで見開き1〜2ページという本です。
話すことのプロが語る「話し方」の話、とても興味深かった。ベースが講義なだけあって平易な文章で読みやすい。

友達が安住アナを推しているので「安住アナはパンダが好きで」とか「安住アナはよく現場(テレビ)に出てるけど本当はめちゃくちゃ偉い人。しかも現場レベルじゃない偉さ」とちょいちょい情報が入るので、この本を読みながら肩書をググったら「TBSテレビ総合編成本部アナウンスセンター局長待遇エキスパート職」と、想像以上に長くて素人目にも「ものすごく偉い人」であることが分かった1
それだけ偉い人で、土曜日は23時半までニュースキャスターの生出演、それから反省会を30分、いろんな番組の打ち合わせを午前1時くらいまで続けて、そこから翌朝10時からのラジオ番組の打ち合わせを5時ぐらいまでやって6時〜8時で仮眠取って、という週末を過ごされている。平日は平日で仕事あるだろうし、朝の情報番組の顔になるっていうニュースをこの前見て週7日勤務なのでは2……? と思った。

あとエゴサの話とか、フリーにならないのかといろいろ言われているのも知ってるけど自分はテレビを変えるにはフリーではなく放送局員であったほうがいいと思うという話もある。

この前読んだジャニーズは努力が9割もそうなんだけど、できる人っていうのは死ぬほど地道な努力してるんだよ。スラムダンクで花道がシュート3万本黙々と練習してたようなもんだ。

以下メモ。

人とコミュニケーションをとる上での話

安住アナ)いろいろ聞きたくなる気持ちを抑えてあえて相手の言葉が出てくるのを待つ。最近この黙るという手法を使えるようになった。
齋藤先生)相手を乗せる時に必要なのはテンポ。テンポよく話を展開していくと段取りがいいという印象につながる。世の中のすべては段取りでできている。段取りを説明する能力があれば物事を理解できるようになる。実習例としてキューピー3分クッキングの料理の段取りをメモして記憶通りに再現してもらう(短時間の料理番組は段取り命、テンポよく説明する)
テンポよく話せる→話し上手という印象。(P88~P91)

インプットとアウトプットについて

安住アナ)どんな業界でもいいアウトプットをしたかったら3倍ぐらいインプットをする。旅でも本でも映画でもアーティストのライブでも。お金はかかるしずっとはできない。でもそのぐらいの心意気で。インプットはあくまでもアウトプットの手段。インプットが目的になってはいけない。(P116~117)

・初対面の人と話すときのコツは?

安住アナ)お会いできて嬉しいですと口に出して伝える←意外とできない
初対面で様子見してはいけない、会った瞬間から距離を詰めていく。感情を伝えていく。これが緊張を乗り越える最良の方法
齋藤先生)緊張にのまれると自分をアピールできなくなる。緊張していると感じたら肩甲骨を回す。初対面の人とはできるだけ早く共通点を探す(P104~105)

賢い人と思われる話し方をするには?

安住アナ)スピーチがうまい人は必ず事前に練習しています。(びっくりするほど入念に)ぶっつけ本番で話せる人はほんの一部の天才。
齋藤先生)治世は語彙に現れる。賢いと思われる話し方をするには語彙力。つまり読書が一番。好きな作家を見つけてその語彙を会話でアウトプットしてみると知性も磨かれる。
(P166〜P188)

わかりやすく話す
人間関係がうまくいく話し方
話すためのインプット
日本語の面白さにハマる
上機嫌で話すマインドセット

  1. 本書ではまだ部次長だった。そこからまだ出世している []
  2. さすがにサラリーマンなのでその勤務は法律的に許されないと思うが、何をどうするのか想像がつかない []

ベランダではじまった恋の物語は結婚してかたちを変えて続くがとりあえずこの巻で終わる。
あとがきですごいふつうに「当時の売れ線から離れていたのでこのままでいきましょうと編集部から」みたいな楽屋裏話があってびっくりした。竹岡さんはデビュー作のウォーターソングからずっと読んでいて、コバルトから消えてもしかして作家廃業するのかもと思ってた時にお姉さんと同人誌作って売ってたときはそれヒャッハアって買ってたし、富士見ファンタジアの新刊告知で名前見かけたとき嬉しかったなあとしみじみ今思っている。
だっておいしいベランダあれだもんね、竹岡葉月史上最長シリーズ。しゃっぷるは9巻だから今時点で最長確定してるし、番外編もなんか出る予定らしいということだ。

2人は永遠に幸せでいてほしい。いいシリーズだった!

視点を変えて短編形式で物語が進む。車内でチャラ男と呼ばれているあの男「三芳部長」周囲の人々のお仕事小説。
私が語りはじめた彼はと違うのは三芳部長はめっちゃ喋るし、なんならチャラ男視点の章もある。

彼らは「ジョルジュさん」と呼ばれる小規模な食品会社に勤めている。人員不足でフラストレーションをためている社員もいれば、「ここで長居をするつもりはないと思っているがなかなか見切りをつけられないでいる」社員もいる。雰囲気はよろしくない会社で、ドストレートな男尊女卑をぶつけてくるところもある。

問題を抱えて悩んだり、体調崩したところで絶対面倒なんかみないくせに。やめるならぎりぎりまで働けと思っているくせに。何を言うかチャラ男。
支配したいだけなんだろ。あなたがしたいことは、出世でも金儲けでもない。

(P113)

AさんはBさんのことをこういう風に言ってたけど、Cさん視点から見るBさん、というのはキモがひゅっと縮まるものがあったな。特に池田かな子さん←→伊藤雪菜さん。伊藤さん周りはしんどい。どこまでも現実の「仕事」を小説にした本だった。

ジャニーズ事務所所属アイドルは運よく顔がよく生まれ、運よくジャニーズに選ばれ、運よく人気を得た「特別な星の元に生まれた選ばれしものたち」だと思っていたけどその活躍の裏側に地道な努力の積み重ねがある、という本。

第1部 努力の16人
中居正広、木村拓哉、長瀬智也、国分太一、岡田准一、井ノ原快彦、堂本剛・光一、櫻井翔、大野智、滝沢秀明、風間俊介、村上信五、亀梨和也、中島健人、伊野尾慧
第1部のまとめ
第2部 ジャニー喜多川論(育てる力)

という流れで、ここで名前が出てない人も出るには出てるけど、ページを割かれている、となるとこの辺になる。
ソースの表記がすごく多い。例えば中居くんの「話すのは、正直苦手なんですよ(*2)」のように参考文献が明記されている。だいたい雑誌のインタビューで、2008年以降。
合間を縫って毎日本1冊読んで映画3本見る(10代の岡田くん)、とか移動時間を利用してガンガンインプットする(太一くん)とか、映像作品の編集は必ず立ち会ってがっつり関わる(光一くん)とかこの世界で生きていくためにしている努力がすごい。
そら蜷川監督も「なんでジャニーズの方が努力してんだよ! お前らより売れてる奴らがよ! 全然説得力ねえよ!」っていう1

「ジャニーズの場合は、ジャニーさんが、きっかけを作ってくれて、あとは自分のことは自分で磨いていくというか、だから、ジャニイズム2は人の数だけある。(中略)みんなちがっていいし、だからこそバラバラな個性がグループになったらおもしろくもなったりする」

才能とは死ぬ気で身につけるものである、という本。
彼らはどういう道のりを辿っていまの位置にいるのかということを、陰謀論や過剰な思い入れ抜きで膨大な資料からまとめられているので、「エンタメでプロフェッショナルの仕事」が好きな人によい本なのではないか。

  1. NHKのドキュメンタリーでの話。自分の劇団所属で、まだ売れてない若手俳優に檄を飛ばす []
  2. ジャニーさんはショービジネスは楽しいという風に教えてくれる。この世界でやっていく欲を叩きこむのではなく引き出してくれる、という滝沢秀明が語るジャニー喜多川の教育姿勢 []

「お金の増やし方」について書いて欲しいと依頼されて書いた本がこれである。
何故そんな依頼をしたのだろうか、自分はお金を増やした経験などない。庭に線路を敷いて自分が乗れる鉄道を走らせたかった。もっと儲かるバイトはないものか、でも土日も出勤しているし勤務時間の倍ぐらいは仕事をしている。でも夜は空いている。小説を書いてみた。売れた。年収1億超えても普通に出勤して16時間ぐらい勤務していた。印税収入が20億超えてもマックのハンバーガーセットぐらいしか外食をしていない。別荘地を買って自分が乗って鉄道は走らせる夢は実現させた。
と、そういうはじまりをする。そんな人おらんやろと思うけど、書いているのが森博嗣なので、森博嗣ならまあそうなんだろうなと思う。
この本はお金との付き合い方との本だ。

収入に応じた生活のデザインをする(森家は収入の1割はそれぞれ自分のしたいことにお金を使おうという約束をした。)
「どれくらい必要か」ではない「どれくらい欲しいか」だ。これは必要なものだという認識でお金を使い切るのは贅沢だ。
「お金がないから、時間がないからできない」という人は、実は本当にやりたいことが分かっていない。具体的に質問していくと答えられない。本当にやりたい人はなんとか工面している。自分が好きなことをやっている人は時間とお金が潤沢にあるのではない。実際は苦労して生み出している。目的のためには犠牲が必要である。

損を先に、得は後からする。

小説を書いたことに対して、好きなものを仕事にしなかった。小説家には憧れていなかった。パソコンがあればできる仕事だと次の日に書き始めて睡眠時間を半分にして書いた。好きなものは得意になるかもしれないが、僕(森氏)が観察した限り客観性を持て自分を見られている人は少ない。

音楽を聞く・演劇を見る・スポーツを観戦するというのは突き詰めれば簡単な消費である。楽しいし、仲間もできるかもしれない。その時間が終われば何も残らない。そこでもう少し探求・研究という場面に踏み込むと話は違ってくる。消費ではなくなる。自分に何らかの知識を得たりレベルアップする。レベルが高くなると周囲に何かを依頼されたり指導してほしいと頼まれたりするかもしれない。

この場合の「金星特急」が指すものは小説ウィングスで絶賛連載中のほうの「続・金星特急 竜血の娘」第5話。

小説Wings 2021年 06 月号 [雑誌] 雑誌 ? 2021/5/10

文庫本換算で3巻の1話目? 季刊ペースの雑誌連載で文庫本1冊当たり2話で、まとまるのが待てないので本誌派なんですけど、最近読めるコンディションじゃなかったのでずっと積んでたのをようやく読めました。いや最近攻撃力まじ高なんですよ。第4話、拝んだしこの展開死ぬって思ったわ。

腕と脚を組み、窓にもたれて目を閉じた彼女の髪が、ガラス越しの鈍い光で淡く浮かび上がっている。静かに目を閉じた表情はどこかあどけなく、いつもの凛とした表情ではない。(略)
----ああ、この人は彼女が目の前にいるだけでいいんだな。
そう思った。
早く思い出してもらえないと可哀想、なんて焦っていた自分が恥ずかしい。
彼女が存在する。それが彼を生かしている。他に何もいらないのだ。

(P38)

なんてことないこのシーンがすごく美しくて、そこにあるのは愛だけだなと思った。正座して読んだ。

文字を読んでいるのにビジュアルが想起される文章が毎回すごい。その場合の想起されるビジュアルは人じゃなくて背景画、自然の風景が圧倒的に多い。
そういうビジュアルがあるのかというと特にそうでもない。掲載される挿絵はキャラクターが中心で、それも数えられるぐらいしかないし、世界を旅する物語とはいえ金星特急(錆丸が主人公の方、かろうじて現代に近い)と竜血の娘では旅をする世界がまるで違う。知らない世界のはずなのだ。
鉄馬号が走るシーン、知らないはずなのになんか見えたな。本物のロシアさえフィギュア関連(YOI含む)でしか知らないのに。お前は人を殺せるかっていうあいつもやばいしね。温泉の桜もすごくいい。
気軽に旅行に出かけられなくなった現在、写真がたくさん載っている旅行エッセイよりも旅に出ているような気にさせる小説だ。

地平に沈みゆく太陽。
湖からの夕霧。狂ったように鳴く鳥たち。倒れた馬たちが手綱に絡まってあがいている。

(P56)

ここから始まる戦いよ(感嘆)
8月10日が楽しみだ。

本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ Kindle版

料理研究家によるエッセイ。
「お父さんが料理研究家なら普段さぞおいしいものを食べてるんでしょう」と言われがちだけど、普段の食事は質素なもんですよ。料理自体は好きだけど子どもが3人もいると大変だし、撮影で作った余りが食卓に上がることもあるけど、我が子、冒険しないから定番の料理にしか箸をつけない。土井先生は「一汁一菜でええんですよ」っていうけど一汁一菜でさえしんどいときがあるんです土井先生……

手料理=子供への愛情の大きさではないし自分は子どもが満腹ならそれでよいと思っている。別にアルデンテにこだわらなくても子どもは美味しく食べてるし腕によりをかけて作った料理よりコンビニのみかんゼリーが子どもに爆ウケすることもあるし、無理に野菜食べさせなくてもいいけどそれでもやっぱり……っていう人にはこういう手段はどうかという感じの内容なので、絶賛子育て中世代に良いのではないかという本。あと既婚子持ち料理研究家の日常ごはんについて見てみたいという人にも。

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