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帰天城の謎 ?TRICK 青春版?

TRICK青春版である。映画公開にあわせて発売されたということだけどなにかしらのノベライズということではなく完全な新作。しかしこの表紙、上田の存在感がありすぎである。

中学生山田奈緒子は先生に誘われて同級生数人と一緒にN県の踊螺那村に向かうことになる。そこで出会ったのが世界的に有名な物理学者になるべく武者修行中の上田次郎である。踊螺那村には突然消えてしまった「帰空城と玲姫」の謎と埋蔵金の噂があった。
そして名乗りこそしていないがどう見ても矢部としか思えない警官も出てくる。

ドラマより10年ほど前が舞台だというのに山田と上田のやりとりといったらまるで変わりない。
地の文に時々現れる「編集部注:」がくどく感じられる時があるんだけど、すごくTRICK愛に溢れた本だなあと思います。

道徳という名の少年

全体的に本のつくりがすごい。表紙の蔓草とか中扉のゴージャス感とか本文の飾り枠とか。
連作短編で、色んな雑誌に掲載されていたものがひとまとめになっている。「1、2、3、悠久!」と「地球で最後の日」は既読だったんだけどこんな感じだったっけ? とか思った。
単行本としてはかなり薄い部類に入る123ページ。でも内容はおそろしく濃い。酔う。くらくらするよ。 

女海賊メアリ・リード 第1巻 偽りの天使

1686年、7歳のメアリ・リードは母の一世一代の賭けのため男装させられていた。
父方の富豪・リード家に引き取られたかと思えば母と一緒に宿代を踏み倒し点々とし、あるときは武器商人の未亡人の秘書となりあるときは海賊船に乗っていた。
メアリはあっちこっちで人を変え場所を変え愛を育んでいた(※婉曲的表現)
ふらんすじんすごいな。フランス人すごいけどあの辺の描写は事前なうとか事後なう的なものが多い。
読んでたら< 黒衣の男>とかエルナン・コルテスが出てきてSH脳が大層刺激された。

南の子供が夜いくところ

短編集。
たぶん南太平洋の島が舞台なんだろうけど、今の関心ごとが南米であることもあり1私の中ではコンキスタドール到来のアステカあたりで再生される。紫焔樹の島とか特にねえ。

「紫焔樹の島」と「夜の果樹園」が好きだな。その次が「十字路のピンクの廟」

  1. (コルテス将軍に続けー! []

天国旅行

「心中」をテーマにした短編集。最初の話がいきなり青木ヶ原樹海で死ぬに死ねかったおっさんの話からはじまるので黒っぽい話が多いのかなと思ったら救いのある話が多かった。
かと思ったらきみはポラリスだった。救いがある話もあるとはいえ全体的な雰囲気としては薄暗い。光が指すかそのまま沈んでいくかは話次第。

ほかのひとが「心中がテーマの短編集だしました」っていうなら多分「えっ」って思うんだけど、
まあしをんさん文楽好きだしね。文楽と心中は切っても切り離せない存在だからねと普通に納得した。

好きなのは祖母の初盆にやってきた不思議な男の話「初盆の客」
私は子供のときから夜毎に不思議な夢を見る。江戸時代、私は愛する夫とともに暮らしている「君は夜」
丘の上の高校に通う地味派に類する私・亜利沙と派手グループの頭目初音とある先輩の死。その顛末「炎」

SINKも好きだな。この永遠に埋まらない虚感はよい。

なんだか“文学少女”見習いの、初戀。を思い出す。

キケン

文芸誌1で電撃文庫やってみましたよていう感じが。
電撃文庫っていう指定なのは表紙が既に漫画調なんですが各章扉もこんな感じです。
なんか電撃のカラーページっぽい。
年がら年中お祭り騒ぎみたいな大学の部活で、神様のメモ帳〈4〉のNEET探偵団2を皆男にした感じ。工学部なので主に18歳?21歳男子ばかりです。ラブコメ要素はなくはないですが、今回は刺身のつまです。

しかし有川浩既刊の中でも類を見ない軽さというか、ハイテンションなんて領域は既に通り越しているというか、阪急電車往路のえっちゃんの彼氏の話がずっと続いているような。

学祭の話が2部構成になっているのがとてもおいしい文化祭すきー。
あのラストのあの見開きは非常にGJであるとおもいます。

(現実の)男子中学生は殺伐としているのに男子高校生になるとお前らカップルかっていうぐらい急にイチャイチャしだしますね。微笑ましいぐらいキャッキャウフフしてますね。あんな感じです。
確かキケンは有川さんの旦那さんの話をベースにしているとかで、ある程度は小説になるように誇張されているとはいえすごい大学生時代を送った人もいるものだなあと。
キケン発売辺りに新井素子さんと対談していたのですが、それがいまネット上でも読めます

  1. キケンは小説新潮で連載されていました []
  2. ラーメン屋含む []

僕の明日を照らして

僕・中学生の隼太と歯科医で義父の優ちゃん、時々お母さんの話。

いきなり隼太が優ちゃんに殴られているシーンからはじまる。
優ちゃんは通常時は優しいお父さんなのにキレると手がつけられない人なのだ。お母さんはこのことを知らない。優ちゃんはこのことを話してしまって一刻も早くこの家を出るべきだと思っている。でも隼太はそれを許さなかった。本当なら病院に通うなり出て行くなりするべきなんだろうけど嫌がり「暴力を振るうだけふるって逃げるのは卑怯だよ」と解決方法を模索する。

学校に行ってお母さんが夜働いているスナックへいって喋ったり、優ちゃんと心理学の本を読んでみたり絵本を読んでみたりカルシウムをとる料理をつくって食べてみたりする。時々嵐が起こるけど平穏に日々は続いていく。

闘病生活を頑張る夫婦のように、虐待する側される側が手を取り合って、しかも虐待されてる側がイニシアチブをとって解決方法が模索するのとか非現実的と思うけど最初からそういう雰囲気なんだしアリだ! と思うんだけど最後はどうしてそうなった!感が半端ない。
あの対応は間違ってないとは思う。間違ってはないけどすべてが終わったような流れであの展開はひどくしょんぼり。嫌な言い方だけど、「男同士傷つけ傷つきあいつつ支えあって頑張っていたのに女が首突っ込んで駄目にした」としか思えないんですよ。「お母さんをないがしろにしてた」のは事実ですが「これ最初からずっと父と息子の物語だったのに」って思うので。
児童相談所に通報されるとかお母さんがいる場で優ちゃんがキレるとかそういうのだったらしょうがないと思うんだけど。あのまま何事もなかったかのように幸せになってもよかったのに隼太はまた理不尽な暴力にさらされて終わるなんてあんまりだ。

でも現実はそんなもの? 釈然としません。

メグル

短編集。ホラー要素も時々まじるすこしふしぎな物語。
H大学1学生部奨学係にはアルバイトを斡旋する女性職員がいる。
彼女はふらりとあらわれた学生に対して「あなたは行くべきよ。断らないでね」と言いバイトをさせるのだ。

好きなのは「アタエル」。いや読みながら超怖かったんですが1個選べといわれたら多分これを選ぶ。
ただ「犬に餌をやるだけの簡単なお仕事です。ただし噂ではものすごい凶暴犬」なんですが、想像力をかきたてられる類の怖さ。
ふだんは「あなたは行くべきよ」という結城さんが「本当ならあなたは行くべきではない」という。
凍った謎の肉に張り付いた一筋の黒い毛 とか どう見ても内臓 とか。
いやいや下手したら高口殺されるんじゃないかと思った

そんな初の乾ルカ作品でした。まだデビューしてまだそんなに間がない感じでとりあえず他の本も読んでみる。

  1. おそらく北海道大学 []

真綿荘の住人たち

台所風呂トイレ共同の共同生活度の高いあるアパートでの話。語り手が1話ごとに変更する短編集。
爽やか! っていう感じとか青春! みたいな方向ではないです。
真綿荘にはそれなりにややこしい事情を抱えた面倒くさい感じのひとたちしか住んでません。
「真綿荘の恋人たち」の結末はどうしてそうなった! っていう感じなんだがそれがよいハッピーエンドなのだろう。逆から辿る私の男っぽい。あと椿と八重子は百合だと思う。

すぐに呼吸が苦しくなるほどに鼻が詰まって、いそいで数枚の紙ナプキンを引き出して顔を覆いながら、自分でもびっくりするほど溢れて止まらないものに揺さぶられて、嗚咽が、吐き気のように込み上げました。
愛されないことを受け入れるのは、いったんあきらめてしまえば、たやすかった。だけど、こんなにも長い間、持ち続けていた悪い夢が色褪せていくなんて、想像もしていなかった。

(P237)

十四歳の遠距離恋愛

ちょっと前の「青春と読書」で嶽本野ばら×宮木あや子対談で気になってたんだけど、この前ふと出会ったので読んだ。現物はもっときれいなピンクなんだけど書影はなんでこんなにくすんだ汚い感じのピンクなのか。

タイトルどおり14歳の2人、片方はロリータ少女仲葦さんと昭和ガキ大将藤森君の遠距離恋愛の、すごく王道で平凡なはなし。

舞台は名古屋です。わたしがはじめて名古屋に降り立ったころの名古屋を思い出してきゅんきゅんしました。生活創庫にあるゴスロリブランドの店とか。スガキヤとか。パッセ8Fの星野書店とかナナちゃんとか。まだゴスロリバイブルはなくてケラだけだったとかジュディマリ・TSUNAMIひゃっふー。
遠距離恋愛をすることにした2人が決めた合う方法とか本当にふつうの14歳らしい必死っぷりなんだよ。

14歳ってなんでもできそうな万能感とどこへも行けない不自由感を併せ持ってる不思議な年だなあと思う。かつて14だった私はどうだったかというとばっかじゃねえのっていう中2っぽい万能感はやっぱりあったなあと思う。

よく、嫉妬や計算があるうちはまだ愛に辿り着いていなくって、その人が存在するということだけで幸せを感じられるなら、それが愛だとか、報われなくとも与えることだけで満足、無償の域に達した時愛の本質が解るだとかいうけれど、本当にそうなのかなぁと疑問に感じます。10代で本当の恋愛なぞ出来るものか、ましてや中学生で恋だなんて、かりそめあったとしてもそれは恋に似たあどけない稚拙なものだと往々にしていわれるけれど、ならば一体、何処からをちゃんとした恋愛としていいのか。私にはその境界が観えません。

(P78)

街でも公衆電話自体を見掛けなくなりましたが、通話時間が残り少なくなると鳴るブーという無情な音、仕方なく10円を追加するとガシャンと落ちるコインの音は切なくて、時々、まだ夢に出てきます。

(P132)
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