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お嬢さま大戦

読む順番間違えた。これが全四冊のうちの最終巻で、書下ろしは高等部への受験とかそんな感じの。
でもおそろしく記憶ははっきりしていた。10代の記憶って凄い。
収録されているのは「お嬢さまと無礼者」「お嬢さま大戦」そして書き下ろし「受験戦争と平和」
あとがきで本編では明かされなかった裏設定・裏話が公開されていました。

世間ではライトノベル作家が一般小説のジャンルに移行することはステップアップとみなされるようですが、実は私はライトノベル界を卒業したのではなく、放逐されたのです。私がライトノベルを棄てたのではなく、ライトノベルが私を棄てたのです。
よって今回のお嬢さまシリーズ復刊で、私は非常に救われた気持ちになり、また、新作短編4本を執筆するチャンスをいただいたことは、ささやかな再チャレンジであり、リベンジでもありました。

(あとがき P360)

これが印象に残る。

私の家では何も起こらない (幽BOOKS)

書影では黒っぽくなっているところが金色できらきらします。
短編です。ぞわっとする感じのホラーです。びびりがうっかり夜に読むとあばばばばばばばとなります1
どれも怖いんですが大工の話「俺と彼らと彼女たち」でちょっと救われた気がした。こわい。
でも好きなのはびびった2話「私は風の音に耳を澄ます」「俺と彼らと彼女たち」「奴らは夜に這ってくる」
「夜を這うもの」でニャル子をおもいだす。

  1. つまり私のことである。1話はともかく2話はやべえええええとなった。 []

お嬢さまとお呼び!

ちょっと前にルルル文庫の新人作品に悪役令嬢ヴィクトリアという作品がありました。
買おうかなーとぺらっとしてみたところ最初の5ページ読んでみたらびっくりするほどお嬢さまシリーズ。
そらもう記憶の水底から高笑いしながら舞い上がってくる麗花お嬢さま。懐かしくなって10年ぶりぐらいに再読しました。今はなき学研レモン文庫で出た森奈津子デビュー作品でその新装版です。ありがとうエンターブレイン。

1冊で3巻分が収録されています。どんな感じの話かというと私立花園学園中等部が舞台で。

あたくしの名前は、綾小路麗花。
人はあたくしを「お嬢さま」と呼ぶ。
なぜなら、あたくしのトレードマークはたてロールの髪型にピンクのリボン。
そして身にまとうは、フリルぴらぴら、レースひらひらのお嬢様ワンピース。

(お嬢さま帝国 P285)

こういう女の子が主人公です。「ツンデレ」ということばがない時代のツンデレです。
子どもの時に読んだバレエ漫画のいじわるお嬢さまに感銘を受けて悪役お嬢さまを目指した中学3年生です。笑う時は当然「ホーホホホホホ」とかって笑います。

わたし麗花お嬢さまが可愛いと思ったことが一番「俺も年取るわけだぜ……」というぐらいの衝撃。
「眼鏡を外したら美人」のメイド(というか侍女)系女子。学園のアイドル的イケメン。変人系1のイケメン。
「眼鏡を外したら可愛い系。女装超似合う。ラノベキャラでいうと生徒会シリーズの中目黒」の男子。
91年作品である。時代先取りしすぎた。

お杉さま最強です。この本ではまだ出てないけど「3歩下がって師の尻なでる」は私の中で燦然と輝く名言。「ぼくのことはイクラちゃんとお呼びください!」も死ぬかと思ったけど

「だ、だれだっ! さっさと出てこいっ!」
「愛らしく戦いたい! 『サザエさん』がつづくかぎり! 千年幼児イクラちゃんだ!」

(P372)

殺されるかと思った。どんだけイクラちゃん好きやねん。

時代を感じるぜええと思ったのは「トレンディ」とか「モーションをかける」「スケ番」「ぶりっ子」という単語ですね。公衆電話もポケベルもまだ生きています。

書き下ろしも一編収録されています。めっちゃおもろかった。
手持ちの新装版は2冊ですが友達に文庫版も借りているのでごりごり読みます。

やっぱり、たまには大切に思っていることを態度に示してあげようかしら。
だって……本当に大切にしてあげたいんですもの。
「大切にしなくちゃいけない」とか「大切にしたほうがいい」とかいう理由じゃなくて、ただ、あたくし、拓人のこと「大切にしてあげたい」って思っているだけ。
それが理由よ。
ふんっ。
誰にも文句はいわせなくってよ。

(P258)
  1. ハチクロの森田さん風 []

吉祥寺の朝日奈くん

短編集。
交換日記の話が好きだ。「交換日記」ていう響きが懐かしい。「文通」に似た響きだ。
交換日記とうるさいおなかが好きだ。しかし

たとえば、天使がステッキをふりまわしているかのような「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー」という音。

(P190)

それ本当にステッキかい。撲殺されてないかい。

交換日記がしたいと思いながら読んだ。

難民探偵

いい意味で西尾維新風ではなかったなあ。驚きだ。
西尾維新作品の登場人物なのに証子が普通の子だった。
「おいやめろそこに鏡置くな」「私のHPはもうわずかよ!」と思えるぐらいに同じ穴の狢感があった。

就職活動に失敗し教授に留年を薦められるも就職先未定のまま卒業、今日も書類選考や面接に落ちる。
そんな生活がもう数年続いている。
証子は本当ならもっと簡単に就職できたはずなのだ。大学時代の就活では内定も何社か出た、卒業後の先の見えない就職活動をはじめたころにはバイト先で「うちの正社員にならないか」とも言われたこともあった。しかしどこも蹴った。どこでもいいと思いつつもハードルをあげている。「もっと自分向きの仕事があるんじゃないか」と高望みしている。往生際の悪さがどんどん首を絞めている。

最近もなんかそういうの読んだなと思ったらあれか。増田か。→わたし、こんなところで埋もれたくない。
あと豊島ミホのエッセイやさぐれるには、まだ早い! に「向いてる仕事なんてないんだよ」とかそんな感じのがあったような。

そうして証子が辿り着いたのは叔父で作家をしている窓居京樹のところだ。
この叔父、お金の使い方が非常に雑であった。雑と言ってもけっして浪費家ではない。切り詰めどころは締め上げるのだが初対面時には「半年程度面倒を見よう。就職活動でもなんでもしてください。合間に家の片付けとか雑用をしてくれたら給料も出すよ、1日1万の月30万ぐらい? とりあえず300万渡すから引越しの準備とかしといて」というのである。

証子はこの人の元にいたら駄目になる、と今日も就職活動に精を出す。
そしてひょんなことから叔父の友人・根深陽義と出会い殺人事件に首を突っ込むこととなる。

ところで

「根深さん。働くってなんなんでしょう」
「生きる手段だよ。自己実現の手段でもあるし、世界をよくするための手段かもしれない。まあ色々あるけれど、詰まるところは——手段だ」

(P220)

犀川助教授と萌絵を思い出した。

「先生、現実ってなんでしょう?」
萌絵は小さな顔を少し傾げて言った。
「現実とは何か、と考える瞬間にだけ、人間の思考に現れる幻想だ」
犀川はすぐ答えた。
「普段はそんなものは存在しない」

(すべてがFになる 森博嗣)

もいちどあなたにあいたいな

その日は澪湖(みおこ)が「やまとばちゃん」と呼び慕う叔母、和(やまと)の娘が亡くなった日だった。
澪湖は父・大介とともに徒歩1分のところに住む恭一・和夫妻の家へ行った。

やまとばちゃんは強い。いや強い人だと皆に思われてる。子どもの時から様々な不幸に見舞われてきた。
しかしまるで泣かないし立ち直るまでの期間がとても短かった。それが和最強伝説の裏づけとなっていったのだが、今度は不妊治療を続けてきた上でようやく生まれた愛娘の死だ。
父子は今度こそ和を支えねばと思ったのだ。

しかし澪湖は違和感に襲われる。このやまとばちゃんは私が知ってるやまとばちゃんなのか?
澪湖・大介(父)・陽湖(母)と視点が移り変わりつつ話は進んでいく。

途中なんとも言えない静かな恐ろしさがあった。和どころかお父さんさえも得体の知れない不気味さがあったのだ。お母さんもこわいこわい。「オタクの基礎教養」という木塚くんが癒しスポットだった。

作中では「盗まれた町だね」っていってたけどわたしは盗まれた町は未読なので月の裏側とタイムリープと薄めたおしまいの日がミックスされた。よいSFでホラーだった。

しかしなんだ、やまとばちゃんはいいが和とでるとなごみとしか読めない1し、澪湖はれいことしか読めない2

  1. 友人に和と書いてなごみと読む子がいるのだ []
  2. どうみても澪音の世界である。 []

神様のカルテ

信州にある一般診療から救急医療まで幅広く行う基幹病院「本庄病院」の内科医として勤務する(あと夏目漱石に傾倒する)栗原一止の忙しき日々の話。短編集で200ページ程度の薄めの本だけど3編収録されている。

医者として患者を看取ったり翻弄されたり徹夜続きの激務に追われる一方で、変人や半ば世捨て人のような人が住む築20年の幽霊屋敷のようなアパート御嶽荘で過ごす妻1や住人との日々。
個人的には医療方面より御嶽荘の生活をもっと読みたいなあと思いました。というのもわたしはこういうアパート同居モノがとても好きだからです。

そんなわけで一番好きなのは門出の桜。
それぞれ「ドクトル」「男爵殿」「学士殿」と呼び合っているのが好きだ。

ちなみに脳外科の教科書によると脳には痛覚神経はないらしい。だから仮に麻酔なしで脳みそをぐちゃぐちゃにスプーンでかきまわしても、人は痛みを感じない。もちろん実際試した人はいないし、試してから「痛いですか?」と聞いて返事ができたら、それは人間ではない。
いずれにしてもこの頭のど真ん中ががんがんする頭痛を感じるたびに、私には、凡人にはない特殊な痛覚神経が脳の中を走っているのだということを革新するのだ。

(P14)

思わずされ竜のアナピヤ周辺とひぐらしの皆殺し編か祭囃子編かのコミカライズを思い出す。

ところでわたしカスヤナガトと中村佑介の区別がつきません。
こっちは「あ、植物図鑑と似てる」と思ったので間違ってはないのですが。

御嶽荘は不思議な空間である。
まるで世の中に適合しきれなくなった人々が、さまよい歩いた先に見つけた駆け込み寺のような様相が確かにある。だが、寺と大きく違うことは、訪れた人々はけして世を儚んで出家などせぬということだ。彼らは再び世の中という大海原に向けて船を出す。難破を恐れて孤島に閉じこもる人ではない。生きにくい世の中に自分の居場所を見つけるために何度でも旅立つ人々だ。

(P93)
  1. 漱石かぶれの栗原は地の文では彼女のことを細君と呼ぶ []

29歳

8人の作家による「29歳女性」を主人公に置いたアンソロジー
最近30前女子がメインの小説を読むことが多いのでこれを読んでみた。
1人ぐらい満ち足りてる人がいてもよかったのではと思うぐらい仕事に悩んでる人と不倫してる人の話が多かった。仕事はともかく29歳なんでそんなに不倫するのか……

好きなのは宮木あや子「憧憬☆カトマンズ」と栗田有起「クーデター、やってみないか?」
あと書店員補正で山崎ナオコーラ「私の人生は56億7000万年」

リテイク・シックスティーン

星星峡で連載してたやつ。1冊にまとまるのを待ってた。
キリのいいところまで読もうと思っていたら気がついたら読み終わっていたという。
あれだな。豊島ミホの長編を読むのは久しぶりだな。

放課後の教室で孝子がいかにも秘密を打ち明けますといった感じで話し始めた。
「あたし2009年から来たの。本当は27歳で無職の引きこもりだった。今度こそ青春らしい青春を送るんだ」というはじまり。
といってもSFSFした展開はなく、あくまで未来から来たと言い張る痛々しい人の話ではなくガチの青春。
語り手は孝子ではなく沙織。見た目はお嬢だけど実際はそうではない。

舞台は97年の地方1で高校1年生。携帯はまだない。
調理実習・球技大会・席替え・「教科書忘れたから見せて」・部活・彼氏が出来てはじめての海・進路・スキー研修
要素を並べるだけでも王道だなということが分かると思います……

序盤の大海君が可愛い。

笑点の話の時も、即座「小峰さんは誰が好きですか!」とこっちに接近してきたし、バドミントンにいたっては、私に向かって羽根を打つたびに「愛のサンダースマッシュ!」とか変な技名を叫ぶ。

(P68)

男の子って馬鹿だ。

自分は27歳だったという女子高生の口から語られる「かつての自分」はわたしの心のやらかいところを締め付けるわけですよ。私もうすぐ29歳を読もうと思っているけど大丈夫か。

働いていないから、一年前と今日の違いがよくわからない。気力がなくて家事もあまりしない。どうしてこんなことになったのか、ひとりで部屋に篭って考えてばかりいる。(略)
「沙織には……や、若い子は皆、わかんないかもしんない。人生が止まっちゃうって感覚。大学出ても就職できなくて、どこにも行き場なくて、でもひとりでやりたいようなこともなくて……まさに手詰まりって感じ」

(P198?200)

わたしはてっきりもう休業しているもんだと思っていたのですが、これが休業前最後の小説2なんだそうです。どおりで豊島ミホ休業エントリへのアクセスが多いはずである。

papyrus (パピルス) 2010年 02月号 [雑誌]

papyrusに休業前最後の特集が組まれています。

きっと、今この瞬間だけの幸福の重さを、みんながわかっている。

(P382)
  1. 「鶴賀」っていう地名が出てくるのでもしかしたら長野県。 []
  2. 書いたのは、という意味。まだ週刊アスキーで連載していた「廃墟の女王」が単行本化されていない。ちなみに今年は文庫が出るそうだ。 []

イチゴミルク ビターデイズ

再読なんだけどなんかやたらと面白かったので書く。
「やたらと面白い」っていうか再読なので「あれこんなに面白かったっけ」っていうのが多分正しい。
書影見るたびに思うけどこれは帯までコミで装丁だねとおもう。帯はチョコレート色をしています。

壁井ユカコ作品の中では一番普通。面白さが普通っていうんじゃなくて書かれてる人々が普通。
現代が舞台で20代のOLが主人公で、特に異能力は持ってないしサムシング1も生えない。過去から電話もかかってこない。誰も死なない。誰も歪んでない。鞠子がエキセントリックではあるけどそんなに妙でもない。17歳と24歳のわたしの話がいったりきたりする。

以下はさくっとネタバレが含まれています。

  1. 鴨川ホルモー的表現 []
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