手紙形式でつづられる物語。書簡体でもモリミーの恋文の技術とは違い、ちゃんと往復なのである。一方的に送られる手紙ではない。10年後の卒業文集がいいな!
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築ウン十年、全六世帯、安普請極まりない安アパートに住む人々の短編集。
3年前に消えた恋人・晃生のことを気にしながらも並木を受け入れた繭の元に晃生が戻ってきた。どろどろ感とはあまり縁のない奇妙な3人での生活「シンプリー・ヘヴン」
繭視点では「美容師」設定のニジコの物語「嘘の味」
「喫茶さえき」の若夫婦の最初けだもの→草食へ→そして怪しい行動「黒い飲み物」
死が間近に迫っているにも関わらず性的に盛んな友人の姿を見てワシも一発……と思い出した「心身」
奇妙な柱の出っ張りとトリマー「柱の実り」
間男なう「穴」
穴の続き・よその赤ん坊を世話することになった「ピース」
好きなのは「柱の実り」と「穴」である。出張先ってどう見てもお勤めである。実刑である。高齢者専門は実在するんだろうか。世の中にはすごい産業もあったもんだ。
小学校4年生の「ぼく1」の街に突然ペンギンが現れた。
ぼくはウチダくんやハマモトさんと一緒にペンギンや歯医者のお姉さんの研究をする。
ペンギンはなんかSF心をくすぐる生き物なのだろうか。不思議生物ペンギン。
ペンギン・サマーとかを思い出す。
そういえば何かのエッセイで「ノートはすごい。いいノートがあればいい小説が書けるような気がする」とかモリミーだったかがasta*でノート愛エッセイを語っていた。「ぼく」もノートを片手に研究内容や知ったことや実験結果をもりもりと書いていた。ノートは強い。
「世界の果ては折りたたまれて、世界の内側にもぐりこんでいる」
(P205)
「アオヤマ君はスズキ君にも怒らないんだね。」
「怒りそうになったら、おっぱいのことを考えるといいよ。そうすると心が大変平和になるんだ」
「ぼく、アオヤマ君はえらいと思うけども……でも、あまりそういうことを考えるのはよくない」(P48)
- アオヤマ君 [↩]
ふたりの距離の概算というからホータローと千反田か思った。
ホータローがマラソン大会の間たらたら走りながら「古典部の新入部員は何故急に辞めるとか言い出したんだろう」とかいうことを考えながら、新入生歓迎会から今までを思い出したり人との距離感を考える。
「大日向が辞めるといった理由」の千反田の予想がえらいかわいかった。
話の展開的には「ただ走るには長すぎる」と「とても素敵なお店」が好きだ。
「ただ走るには長すぎる」は遠まわりする雛の「心当たりのあるものは」っぽい。
好きだー。
元女中の老婆タキによる追憶。
タキさんは以前に「タキおばあちゃんのスーパー家事ブック」という本を出した。これが結構売れた。
出版社からはエッセイを出しませんかと言われたが、もっと書くことがあるんじゃないかとタキさんは自分が10代前半の頃から女中として勤めていた屋敷の話を発表するあてもなく書く昭和初期の頃。
主にはタキ14歳のときに出会った時子、後の平井家の奥様と平井家の女中タキの話。
甥っ子の健史がタキさんの勝手に読んではひとことふたこという。
二・二六事件があったころがそんなに平和なわけないじゃないか。おばあちゃんボケちゃったんじゃないのという。歴史でしか知らない人がその時代を生きた人に偉そうに、とか思った。自分で置き換えたら「100年に1度の不況だの派遣切りだのリーマンショックだのあった時代にそんな安穏と生きてたの? 本当に?」って言われるようなもんじゃないか。
転換点はやはり戦争だった。
節々で出てきてはしたり顔な健史にいーっとなりつつ読んだよ。あと平井家の息子がだんだん育っていることに時間の移り変わりを感じた。
神様のカルテとかバチスタみたいな主に医療系と思ったらそうではなかった。熱い救急車の話である。
病人を搬送した帰り吐血して倒れた男性・悠木を発見する。隊長の筒井・機関員の生田・救急救命士の森の3名はただちに悠木を搬送するため救急車に収容した。森が念のため体を固定しようとしたところ悠木は叫んだ。
「動くなっ」「二人とも俺の言う事を聞け。聞かなければこいつを殺す」
長きに渡る救急車ジャックのはじまりである。
読んでてすごくハラハラする。相棒の2時間SPを見守るような気分。
救急車内の緊迫した状況、犯人とのやりとり、無線の向こうの司令官、消防無線の傍聴者1、マスコミ関係者などの視点により話は展開する。傍聴者は大筋には関わらず掲示板に集って実況したり、情報を求めてやってきた傍受はしてない人とか色々いて、ちょっと「海の底」とか「ネットワークフォックスハンティング」みたい。
映像で見たらどうなるんだろうと思ったけどこのスピード感は本ならではだ。
最初の数10ページは医療用語が多いけどそこからはもう本当に80キロで走らされる感じ。
視点変わったら多少ブレーキになるのかと思ってたけどアクセル踏みっぱなしじゃないか。
消防歌のシーンとガソリンのところまじかっこいい。
- 初めて知ったのだけど消防無線の傍聴は盗聴ではなくまた合法らしい。内容を話したりなどは違法だそうだが。 [↩]
Story Seller収録のストーリーセラーをSideAとしてSideBを書き下ろした一冊。
文庫のほうは未読なので不明ですが、雑誌のほうと比べるとがっつり加筆修正されてるように思います。
サラリーマンの夫と作家の妻。彼らを襲った過酷な運命。書くことを諦めなかった妻の行方など。
有川さんのインタビューとかエッセイとかかなり追いかけて読んでいたので、作中の「作家でもある妻」の言動や作家になったきっかけが有川さんそのものとだぶっていて、初読の時すごく驚きました。そのときの感想がこれです。
今回は旦那との出会いのシーンも含まれていたり、さすがに2回目なのでがっつり虚構の話としていただきました1。
読書メーターの感想を見て驚いたことには「それなりに多くの人はこれを泣ける話として認識していて、実際読みながら大泣きしているらしい」ということです。
個人的には「足の裏がぞわっとする理不尽ホラー+愛」の話だと思っています。「泣ける話」ではない。
あとこの作品の夫氏は「よくできた夫」すぎて、個人的には「ある日空から美少女が降ってきた」「ある日資産家の令嬢であることを知らされてイケメンにかしずかれる身分になった」と一緒のカテゴリに入れたい。
いっそ胡散臭いほどによくできすぎている。
しかし書き下ろしよりStorySeller発表の3作がまとまった1冊のほうが嬉しかったやもしれぬ。
いや単にSS3は雑誌こそ買っていても絶賛積読中なのであれなのですが……。
ヒトモドキとか最強に気持ち悪い話 (※褒め言葉)なのであれはぜひともどっかに収録して欲しいな。
- 有川さんの夫氏との初対面はどっちかというとレインツリーの国なんですな。オフ会が初対面でしたというようなことを講演会かトップランナーの公開収録の時に聞いた [↩]
小川洋子の対談とかエッセイは読んでたけど小説を読むのはこれがはじめてかも。
タイトルは日記だけど中身は小説です。日記調の小説です。
乙一の小生物語よりはもうちょっと小説寄りで、紺野キリフキのキリハラキリコよりはもうちょっと現実寄り。
日記の書き手は小説家で「小説を読んであらすじを語る」のが上手で、長編の執筆に悩んでいる。
ようやく3枚ほど書いたかと思えば次の日にはそれを棄てる。毎回の日記の締めは(原稿零枚)
母の見舞いへ行き、運動会に侵入し、パーティに参加し、取材に出向き、毎回締めは(原稿零枚)なのである。
「どうもありがとうございました」
形だけお辞儀をして、編集者は部屋を出て行った。
いいか、お前の話を聞きたがっている人間などこの世に一人もいないのだ。付け上がるんじゃない。
取材の後必ず自分に言い聞かせる戒めを、今日も高らかに唱える。(P33)