シグナル (幻冬舎文庫)

恵介は大学を休学して実家に帰ってきた。体調不良や将来の進路に行き詰ったわけではない。
仕送りなしのため奨学金とバイトを併用してなんとか学費と生活費を捻出していたのだがとうとう経済的に詰まった。
そしてふらりと入った昔懐かしい映画館「銀映館」で破格の時給だった映写技師補助のバイトにつくことになる。
この映画館の映写技師は女性で、映画館から出ることなく映写室を主な寝床して3年間暮らしている。

引きこもりの技師だからといってコミュ不全というわけではない。
ルカはとても魅力的で映画が好きで、映写技師としても優れていて、映写機にフィルムをかける実技指導も行う。ルカの指導はスパルタで、丁寧さと速さを要求し、かけ間違えれば容赦なく後頭部を叩いた。
恵介はバイト面接時に「ルカの過去を詮索してはいけない」などルカに関する不可解な約束に困惑しながら、ゆっくりとルカとの距離を近づけていく。

フィルムを映写機にかけるところの描写が好きです。なんか懐かしい。
今「県庁所在地に映画館がない県」在住なんですが、昔は市内中心部の商店街にいくつも映画館があって家族で映画にいって、しかも入れ替え制じゃなかったので2回とか見てた覚えがあります。今はもう映画館超遠いので年に何回もいきませんが。

レイジは得体の知れない危険な人物だと思ってたんですが、ゆとり乙トルネードみたいな。
でもレイジが一番脳内で音声になりやすかったというか。せめてイケメンに生まれてよかったなみたいな。

しかしことに及ぶと分かっていてルカはなんではじめての日に上下ベージュの下着とかそんな色気がない下着を選んだんだろうか!

闇の中では自分であることを忘れることができた。それでいながら、映画によってほかのお客さんたちと一緒に笑い、驚き、怒り、泣き、感動を共有することができた。闇の中に身を隠しつつ、人とのつながりを感じられたのだ。
予告編と本編をつなぐフィルムの黒味が流れて、スクリーンは黒く染まり、場内が真っ暗になった。
春人は小さくもらす。
「やさしい闇だ」
いい言葉だ。
「そうだな。やさしい闇だ」

(P155)