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文明開化したころの東京が舞台。
17歳の蒼(あおい)は手品団で下働きをしながらサトリとして舞台にもあがっている。7歳より昔の記憶はぼんやりとしている。若干のしあわせな思い出と炎にまかれる両親、それから品のいい硬質の声。そのぐらいだ。7歳以後は親戚の家を転々として12歳から今の手品団で蔑まれ食べることもままならない日があり、意に沿わない相手との結婚が決まっている。
疲労を抱え自室へ戻ると所狭しと本が積まれている。蒼がひそかに「栞の君」と呼んでいる支援者から贈られてきたものだ。
顔も年齢も性別も分からない栞の君と蒼が出会ったのは蒼の嫁入りの日だった。以前手品団で蒼の演目たる「サトリ」で壇上にあがった青年で、蒼の窮状に割って入ったのだった。
蒼の「サトリ」は異能ではなく並外れて優れた観察眼と記憶力によるものだ。
栞の君こと城ケ崎宗一は壇上で蒼が見抜いた通り病気、しかも病名の原因も不明の病に侵されており、蒼は看護係として嫁入りが決まった。

帯には分かりやすく「帝都にきらめくシンデレラロマンス」の文字が踊ってるんですけど、
ラブロマンス一辺倒ではなく、鷹泉医学学校での学友、特に生涯の腹心の友になりそうな千夜子との交流もあります。

1冊でまとまっているように見えるものの(いかにも以下続刊! スタイルではないものの)、ここの話もうちょっと詳しく聞きたいよねという点がそこかしこにあるので、続き読みたいな。特にこれ、というのは銃創関連です。伯爵と呼ばれていた宗一が別の呼ばれ方をしていたあたりも気になります。

明治時代の医大関連については、確か発売日当日の昼休みにタイムラインに流れてきたこの漫画で見たやつや! と謎にテンションが上がる。

その生い立ちから自身も自己肯定感も自尊感情もあったものではない蒼が幸せというものに触れる、大事なものが増える、目標ややりたいことがが増える物語です。

同人誌です。
通販はここで買えます→少女文学館公式通販 - BOOTH
試し読みはここにあります→会社づくりエッセイ本『社長転生〜会社爆誕! 頼れる仲間と創作ライフ〜』試し読み|紅玉いづき|note

今年、紅玉いづきさんと栗原ちひろさんは会社を作りました
起業を決めた理由(紅玉さん)・副社長(栗原さん)の実務コラム・事務方(港区万能OLの森さん)による起業エッセイ。
わたしはTwitterに住んでいる会社勤めなので、インボイスの被害を被るのはクリエイター関連だと思っている節あるんだけど、いろんな方面にインボイスに頭を抱えている人はいるんだろうなあと思っている。

会社づくりのエッセイである。いうて小説家2人なので、「自分たちでできなくもないけど、そこはお金を払ってプロにお願いしていい感じにしてもらう」という感じ。会社を作るためにはこれこれこういうことが必要で、めっちゃ大変なんだなというのはわかる。
ちなみにわたくしわかるのは療養病棟に近い病棟を別の病棟の一部として立ち上げることの一部に携わり、電子カルテ変更のあれこれについてはめっちゃ携わったので、「立ち上げの大変さ」はある程度想像できる。

これは万が一にも誤読を防ぐために書くんだけど、これは誉め言葉なんだけど、あの、紅玉さんと栗原さんは「オタクはよくそういうけどほぼ叶うことはない、『老後は同じグループホームに入ろう』みたいなことを体現されているなあ」という感想を持ちました。20ページに対する感想です。
ちなみにTwitterでよく見る「好きな社長のカット」は14ページ(しおしおのぱー)と37ページ(ガラの悪い社長)です。
来年秋のコミティアでは起業2年目の社長転生を読みたいなと思います。
知らない世界を垣間見れるエッセイめっちゃ好物。

小説家になろうで連載→書籍化→加筆修正して文庫化が本作。連載第1回は2010年。
ハルカがまだ女子高生だったころ、日本から異世界に召喚された。言葉を教えられ理解できるようになったころ、召喚者には「手違いだった。元の世界には戻してやれない」と言われた。ハルカはその後生活のために魔術の道を歩み、師匠となった老魔術師はある朝死んでいた。それから6年後、ハルカは戦地に立っていた。
ハルカは女性だが、出征を求められた際に侮られないよう魔術で男性の姿に化けてから出立した。

物語はハルカが粉塵爆発で敵を殲滅し、息のある味方を片っ端から蘇生し魔力の限界まで癒し続けて限界を迎えたところから動き始める。生きる気力をなくしていた青年にハルカは「私が死んだら家に帰って自殺でも何でもしろ、その代わり私が生きのびたらお前が捨てたお前の一生は私が拾う」と宣言し、ハルカは生き残った。
青年の名前はリカルド・メルツァース・ブラムディ。美形で騎士用の儀礼服を身にまとい実用性を妨げない程度に装飾された剣を佩いた絵に描いたような騎士だ。騎士といえば軍部のエリートで高貴な人間の護衛から指揮まで行う、ただの魔術師のハルカから見ればとてつもない高位の人間だ。
リカルドは貴族でありながら平民ハルカの従僕として仕えるし我が家で療養してくださいという。

物語の着陸場所が分からないままに読んでいた。1人称小説だけど、語り手が時折変わる。カメラを持つ人間は1人や2人ではない。視点が変わったことはわかるが誰目線なのかはすぐにはわからないところがもどかしかった。
読みながらロマンス小説ってこういう感じなのかなあと思うことが結構あった。そう思う程度に戦時下においても戦闘描写より恋愛描写のほうが圧倒的に多い。

桜庭一樹の私小説。
「少女を埋める」は去年話題になった作品だ。いい意味で話題になっていたのではなく、朝日新聞で「誤読もしくは独自の解釈」が「あらすじ」として書評が掲載されていたからだ。
「少女を埋める」のこと | colorful

わたしが読んだのはこの件を受けて少女を埋める|桜庭一樹|noteで公開されていた3分の2の部分で、全部読んだのはこれが初めてだが驚くほど重い内容だった。3分の1??? 加筆されたのではなく??? と読み終わってあれこれ見ていて思った。文体がヘビーなのではない(そこは桜庭さんの読書日記とほとんど変わらない)内容だ。
これまで長く(20年弱)著作を読んできた作家の生い立ち、プライベート、久々の帰省に7年ぶりの母との再会、父の死、去年起きた嵐のような一件の顛末について丁寧に語られるのだ。

「少女を埋める」
2021年2月、7年ぶりに聞く母からの電話で父がもう余命僅かであることを知った冬子は、東京から感染非拡大地域の地方へ行くことに葛藤もあったが、PCR検査で陰性を確認した後鳥取へ向かう。父はまもなく息を引き取り母と2人で葬儀をあげる。
地方で生まれて育つということ、家父長制、共同体、毒親という単語ではあまりにインスタントで不適切ではないのかと思うけど読んだだけで希死念慮を抱かせるような文章を送ってくるのは……と思いながら読んだ。

赤朽葉家の伝説が鳥取で書かれた理由、ファミリーポートレイトに関する背景、私の男のテーマの出元についても語られている。

「キメラ」
2021年8月。
「少女を埋める」を発表後、「母が老老介護の中で父を虐待した」という誤読もしくは独自解釈があらすじとして朝日新聞で掲載された。故郷鳥取でも多くの家庭で購読されている。そして高齢者は、母と同世代で周りにいる人々はNHKと朝日新聞のいうことを信じやすく小さな町での噂話の伝播速度はすさまじい。
冬子は母の名誉を守るために手を尽くす。

GOSICKの新シリーズは久城とヴィクトリカの間には一人娘がいた世界線があった(完成版には残っていない)ことを知る。東京ディストピア日記が2020年1月〜2021年1月のコロナ禍の東京や世界の模様なら、キメラは2021年夏の「少女を埋める」をめぐる模様だ。評論や渦中にあった冬子の心情、件の書評を書いたC氏はなぜそう書いたのだろうと考え、その時の生活について語られている。

「夏の終わり」
キメラよりさらに後。2021年9月〜10月。
読書日記で「らったったと鳥取へ帰る」と書いたが本当は父が倒れたと連絡を受けて駆け付けたのだと書かれていてひっくり返る。私が桜庭さんのご両親について「ちょっとだけ知っている人のご両親」のように感じているのは読書日記1冊目では割とよくでてきたからだ。転ばないようにいきなさいという母、飼い犬と娘を間違えて呼ぶ父。

すごい本を読んだな、という感じだ。
印象強く残っているのは冬子が実家を訪れることに対して強い拒絶を示す母だ。40代後半の娘をもつ女性はおそらく80に手が届くぐらいの年齢ではないかと思われる。困ることが何もないとはちょっと思えないが、それを上回って冬子を、実子を家に入れるがそんなにも嫌う何かがあるのだ、と思う。そしてそれはここ数年の話ではなく、赤朽葉家の伝説が書かれた2006年のころには始まっていたようだった。「家にはこないでね」と、1行2行ほどで語られるそのことのバックグラウンドがどれほどものか想像もつかない。

『神神化身』という女性向け楽曲×小説コンテンツの小説。
小説担当の斜線堂有紀さんが割とRTされていたお詫び画像新規という世にも珍しい入り方をしてしまった。なんか新しいコンテンツに触れたかったのだ。

ニコ動のところやTwitterにあがっている小説は形式が読みにくかったし音楽はぴんと来なかったので、「アイマスガチ勢の斜線堂有紀が描く女性向け(アイドル)作品」に興味があって唯一あった1冊にまとまっている小説を読んでみることにした。

カミと呼ばれる存在へ覡(げき)と呼ばれる神職が舞奏(まいかなず)と呼ばれる歌舞音曲を奉納し平穏を祈ったり本願成就を願ったりする世界。現代の舞奏は奉納という体で一種のエンタメとして定着しており、3人組が望ましいとされている。

本作はノベライズとかそういうのではなく本編? ちらっと見た公式サイトに載っていた3人組ユニットが生まれるより前の物語でした(あとがきでも連載中の小説では明かされてない過去編ですという記述があります)。
伝奇小説です。個人的には伝奇小説という響きになじみがないんですが、自分になじみがあるものでいえば「現代風異能ファンタジー」もしくは「絵馬に願ひを」の曲が披露されたSound Horizon Arround 15周年祝賀祭みたいな設定だなと思いました。

ニコニコ動画とYouTubeに投稿されたミュージックビデオの再生数とコメント数の合計値でチームの勝敗を決定するユーザー参加型評定システムです。『神神化身』においては、動画再生を「拝観」、コメントを「拍手」と呼称し、観囃子(ファン)による拝観と拍手を募るといった趣旨で実施します。

この辺。要するに全員がプレミアム大神1っていうことやんと思った

本作ではそこまでは描かれず、負けなしの探偵が探偵を辞めるまで、小説家がカミと出会って音楽を作ってヒットチャートを席巻してそれから。浪磯(ろういそ)で育った幼馴染3人組の出会いと別れと再集結と、世界について。

オンラインで読める小説やyoutubeで聞ける音楽よりはどういう世界観の物語なのかはわかりやすかった。とりあえず来月刊行される何かも電子書籍が来たら読んでみようかと思います。

  1. 大神=観客のこと。プレミアム大神は前列に座っている高額チケットを買った人で配布された機器で投票することで公演のセットリストの行方を左右する権力を握っている。生殺与奪の権利とも呼ばれた。 []

前作(忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む)に比べると随分と読みやすかったような……。

異能異能したバトルありきの事件がなく(テネブレやヴァンピーロは登場するが)描かれているのは日常が多い。
ダンピールのK=加藤和樹=かっぱとニボーテ(ダンピールの監視役)のガブリエーレ(ガビー)の関係性やフィレンツェでの生活や二人の今後について比重が多かったように思う。
ガブリエーレはニボーテとしてふさわしいのかと観察に来た神父のバシリス視点からもかっぱやガビーについて描かれる。
ガビーが選ぶ道も興味深い。

加筆修正された少女文学1号〜3号連載分と書下ろしの最終章とあとがきが追加された個人の同人誌で、去年天金加工(黄金に輝くキラキラ本)で話題だった。現在手に入るのは現在はkindleの電子書籍(kindle unlimited対象)。紙で読みたい人は今年加工なしの通常版が頒布予定だそう。
黄金と骨の王国【通常装丁版】 - 栗原移動遊園売店 - BOOTH

大陸の中央に位置し、国土のほとんどが高原のこの国のことを人々は「黄金と骨の王国」と呼んだ。火山が多いところには竜がたくさん住んでいる。この国もその例外ではなく一時は王族と竜は契約を結び共存していた時期もあったが、ある時から竜は契約以上の生贄を求め、人はそれを退けた。その時竜は王国に呪いをかけた。
竜の一吹きで国民の3分の1が金の像と化し、砂となり崩れ落ち一か所に固まったそれは壁となった。
接触で感染するその呪いは黄金病と呼ばれ、全身が黄金へ変わるその病はなお恐れられている。

竜殺しという触れ込みに己が殺した竜の骨を兜として寝るとき以外は装着しているギョウは闘技場で見た足のきかないごみのような見た目の人間を傭兵として雇った。ギョウが男だと思っていたその足の悪い人間を自宅で風呂へ放り込むと半身を黄金病に侵された女エンだということを知った。

第1王女ハイリが露台から落ちて死んだという。王族の弔いのため、多くの民が「嘆きの民」として埋められる。狩られた各集落の民99人にのぼる。葬列を襲撃して長の娘を奪還せよと依頼を受けたのがギョウだ。そうして葬列が通る輿へとかけあがったエンは第1王女として棺で寝かされていた女の死骸をギョウへ見せた。彼女こそが依頼のあった長の娘だ。

そういうはじまりをする神話が終わって歴史が始まる物語です。結構硬いファンタジーで、奈落に突き落とされた少女のその後の物語。

日々のこと アーカイブ | 外の音、内の香 | 一田憲子 : 外の音、内の香 | 一田憲子の書籍化、でも月日はあっても年の記載がないので初版発行日と緊急事態宣言という単語からおそらく2020年ごろ、というのしかわからない。緊急事態宣言という単語はあってもあえてなのかもともとなのかコロナに関する記述は少ない。

続編。今回はお仕事小説ではなくフェロモン店長も1巻比登場控えめ。
息子夫婦の都合で家や田畑を売って見知らぬ土地に引っ越した祖母は店長に恋をした。(恋の考察をグランマと)
コンビニ店員廣瀬太郎とその元カノと志波3きょうだいの話(廣瀬太郎の憂鬱)
1巻からの続投、高校生になった村井美月のその後の話。(クイーンの失脚)
明らかに続刊ありきのボスキャラ的な登場と引きがあって終わった。

カクヨムからの書籍化。

何かというと自殺を企てる曽根崎を六文銭が甲斐甲斐しくお世話する(ついでに自殺も阻止する)ライトなミステリで、ブロマンス的なやつ。
曽根崎は自殺か他殺か死の匂いをかぎ分ける能力を持っていて、それは写真でもスーパーマーケット(魚とか)でもいかんなく発揮されるのでかなり引きこもり傾向で生活能力は低い。
六文銭は曽根崎のことを「つづるちゃん」と呼びまるで「飼い主に追いすがる大型犬」男子だ。
途中でいきなり過去編に時間軸が飛んでるのがちょっと分かりにくかったかな。結構軽快に人が死ぬ話でそこは良かったんだけど、ブロマンスを売りにするなら死体を増やすよりもっと絡みを増やしてほしかった(あとがきを読むまでは「これをブロマンス入門としてすすめてほしい」というほどにそれをメインにしていることを知らなかった)
全体的には面白く読んだ。

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