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読んでから「デビュー作」ということを知った。

大手法律事務所で弁護士として働いている剣持麗子は金の亡者の業突く張りだった。
世間平均並の40万強の結婚指輪はこんな安物を渡すなんてどういうつもりと切って捨て、ボーナスを減額告知をされその場で退職の意を伝えた。慰留はされたがどちらにせよしばらく仕事は休もう決めた麗子は携帯電話の連絡先を見て、3か月ほど付き合った元彼、森川栄治に連絡した。しかし帰ってきたのは「栄治は先日この世を去った」というメールだった。
その後麗子はゼミの後輩であり栄治とも親交が深かった篠田と連絡をとり、栄治が実は製薬会社の御曹司だったことや「遺産は自分を殺した犯人に譲る」と奇妙な遺言状を残していたことを知る。

篠田は麗子にこう話を持ち出した。
「栄治の死因はインフルエンザだといわれているけど、自分が栄治と会った時インフルエンザ治癒後だった。どうだろう僕は栄治を殺した犯人になりえないだろうか」
自分の代理人になってこの件を調べてくれないか謝礼なら出すと言われたが、無効になるかもしれない遺言状、遺留分を除いた遺産とそこから麗子が得られる金額、今後の自分につくイメージから一度は断った。
しかしよくよく調べてみればこの件がうまくいけば自分に転がり込む金額は150億。最初に想定していた金額の10倍以上だ。麗子は篠田の代理人として森川家主催の犯人選考会に参加することを決めた。

さくさく読んだ。
地の文少なめ(会話多めというわけではない)で物語のサイズの割に登場人物が多いがキャラクターはわかりやすい。

海と山に囲まれ温泉もある温暖な餅湯町は関東近郊から客が来るリゾート地だ。団体旅行が減って久しい今旅館・観光業を営む親たちはため息をつき、土産物屋を営む怜の家も似たようなものだ。
高校生の日常を書いた物語だ。高校生は日常が青春だと読んでいて思う。屋上でお弁当を食べたり修学旅行へ行ったり友達カップルがいちゃついているところを見、ある日は留年がかかった友達に勉強を教え、進路に悩み、家業を手伝う。
穏やかな日常にも時々事件が起こり、それも管理がとてもザルな餅湯博物館から縄文土器が盗まれるというものだ。
怜には母親がふたり父不在で、2つの家を行ったり来たりしている複雑そうな家庭環境があるものの、重くなりすぎず「平凡な日常」が続いている。

「普通の人生」を書いたら多分こうなるのだ。ドラマチックさはかけらもないが毎日同じ日が続くわけでもなく、大小なり事件があって、それでも日常が続いていく。

冒頭読みながら、モデルの土地を椿山荘ホテルに設定して1読んでいた。
桜山ホテルに入社して苦節7年。涼音はあこがれのバンケット棟(宴会班)からあこがれのホテル棟アフタヌーンティーチームに異動した。先輩の香織が産休に入ったことによる代替要員だ。異動後初めてのプラン会議でなんとか自分のプランを採用してもらおうと頑張るが、ほぼ門前払いのような状態だった。

そんな桜山ホテルで働く人やアフタヌーンティーを楽しみに訪れる人のお仕事小説だったり差別の話だったり。ディスクレイシア(読字障害)、国籍、正規雇用/非正規雇用、男だったら、女だったら。
「誰のそばにでもある問題」がそこかしこに書かれているけど、語り口がライトなので重くなりすぎない感じ。登場人物はみんな前向きで目標に向かって頑張ってて偉いなあ……と思いながら読んだ。

  1. 行ったことはないけどここだ! と思った []

コロナ禍はじまりの2020年の日記。同種では東京ディストピア日記があるけど、あちらよりはもうちょっとパーソナル寄り。一児の母の綿矢さん、マスクを忘れたときの対応が大変そうで、あと、あとがきに変えてみたいなエッセイ部分がとても長かった。

これは在りし日の富士見ミステリー文庫のGOSICKを思い出す感じのミステリ。
夫デイビットが好む女性でいようと自分を殺していた女王オフィーリアはある夜本当に殺された。死の間際にオフィーリアは声を聴いた。「妖精王リアの王冠を持つ者が死んだ。古の約束に従い条件がそろえば呪いが発動する。まずはオフィーリア、君が10日だけ生き返るよ、さあ君の願いを言ってごらん」
オフィーリアは望んだ。「自分を殺した人間が知りたい」

そうして生き返ったオフィーリアは、10日だけ生き返るといわれたオフィーリアはもはや誰の意向をうかがうこともなく自分のやりたいことをはじめた。
オフィーリアを殺したのは誰なのか、あと10日のうちに弟ジョンを後継に仕立て上げないといけない。
石田リンネ作品はおこぼれ姫以来久しぶりに読んだが、「強い女性」は健在だった。

倒叙ミステリでこれめっちゃ映像映えするやんって思った。そのうちドラマになるんでは。というのもちょいちょい古畑任三郎とかコナンとか相棒のオマージュを感じられるネタがちりばめられたから、「古畑任三郎でした」とか古畑警部が登場するときに流れる音楽がめっちゃ流れていた。

倒叙ミステリそんなに好きではなかったんだけどこれは面白いなーーと思った。mediumみたいな「ギャーーー」ってなる感じはないんだけど(そら倒叙やしな)これは丁寧に「犯人がミスを犯したところはどこか」を翡翠が暴いていくのが痛快だった。あと翡翠自身の魅力があるな。あのあざとい感じが。

DV夫が離婚後も金の無心に来る。食費だろうが何だろうが、千鶴を殴ってでもありったけの金を持ち逃げする。夜逃げ同然で引っ越しても半月もしない間に弥一は千鶴の前に現れた。
夜勤のパン工場で働き、食べ放題のパンで食をつなぎ、それでも生活していくにはお金が必要だから千鶴はラジオの企画に夏休みの思い出を投稿し、それが採用された。母との最後の思い出は5万円と引き換えにコンテンツになった。
でもそれが千鶴の転機となる。小1の時にいなくなった母聖子を「ママ」と慕う恵真に連れられ「さざめきハイツ」で暮らすことになった。聖子は若年性認知症を患っており、さざめきハイツにはほかにも娘に捨てられた彩子が聖子の周りの家事をしていた。
さざめきハイツにはいろんな「母娘風の組み合わせ」がありながらも、「普通の母娘」の関係が築けなかった人間しか住んでいない。

ちょっとあまりにすごい本で吸引力が強すぎて明日仕事だけど読み終わるまで首根っこをつかまれてるみたいな本だった。強い。

どうしようもないほど嬉しかった。いまやっとはじまった私の新しい人生を、すべてが祝ってくれている。私はあの日、たくさんの人に祝福されて生まれた。千鶴がそうしてくれたのだ。
 あれ以上の、幸福はない。あれからどんなことがあっても、どれだけ辛くても、思い出すだけで何度だって救われる思い出になった。いままでも、そしてこれからも。私の生きてきた愛しい思い出たちの中で、いっとう輝くうつくしい星。

(P287)

いい意味であらすじから想像する内容と違っててよかった。1冊目の読了感としてはオレンジでの竹岡作品では頭ひとつ抜けた感じ。本作は東方ウィッチクラフトのランラン以来久しぶりの女装男子が登場します。うちなるわたしがいやしゃっぷるがあるじゃんっていうんだけど、雪国は女装したくてしたわけじゃないからなー。

柔道一筋に生きてきた小田島沙央は膝を壊したことをきっかけに普通の女子大生として生きていくことを決めた。膝を壊したといっても日常生活に支障はないしそこそこどまりでという前提で柔道はできる。ただし目標としてきたオリンピックや全日本はもう難しい。リハビリの選択肢もあったが、沙央はこれまでとは違う道を選んだ。
大学進学をきっかけに入居したアパートは建物こそ古いが丁寧に手入れされている上品な洋館だ。大家の福子さん主導でこのアパートの住民5名で月に一度のパーティこと、料理を持ち寄る「ポットラック」が行われている。

このポットラックのシーンに大きく割かれるのかと思ったら割とそうでもない。ポットラックは「みんなが集まる」ための舞台装置で、消えた女の謎が持ちこまれたり、ホワイダニットがあったり、暗号があったりのほうがメインだ。

わたしが気になるのはゾンビ映画大好きなカレンさんが映画刀剣乱舞の円盤を持っていた案件。
あと沙央と、沙央の同期入居で料理がとてもうまくて口が悪い宗哉が服を買ってるシーンがとても好きなんだわ。沙央は骨格ストレートでアスリート体型。逆襲のシャアならぬ逆三の沙央言ってたところが。2話は全面的に推したい。

おいしいベランダにも登場した「律開大学」が出てくるので、もしかしたらおいしいベランダの登場人物が出てきたりしないだろうか。あと個人的にめっちゃびっくりしたんだけどオレンジ文庫って完結したらカバー袖の著作リストからシリーズごと落とすルールでもあるのかな。「君はさくらのなかで」と「谷中びんづめカフェ」と本作しかなかった。おいしいベランダは著者略歴のところにしかなかった。

これ本当に面白かったので、かつて東方魔女が好きだった人とか、ライトなミステリを好む方はちょっと読んでみてほしい。今はまだ電子書籍ないけど2週間ぐらいしたらkindle版はたぶん発売されると思うので。

ちょっと前kindle unlimitedで壇蜜日記 (文春文庫) Kindle版を読んでいた。壇蜜さんは時々テレビで見る高級そうなバーが似合う感じの、二次創作で見るにっかり青江みたいな人だが、彼女の日記やエッセイはテレビから受けるイメージとはまるで違うから面白かった。なので別の本を読んだ。

先日、ラジオ番組収録中に、男性アナウンサーからこんな話を聞いた。
「子供のころに何かやって褒めてもらった経験は、いつまでも心に残る。結果、無意識のうちにその『褒められた何か』の延長線上にあるような職に就くことが多い」と彼は言うのだった。

(P149)

壇蜜さんは褒められた記憶を呼び起こして「通信簿には苦労してひねり出しただろう褒め言葉が並んでいた」ということを書いていたので、自分もなんかあったかなあと思い出そうとしたが、まじで思い出せない。家庭環境が悪かったとかなんかそういうのはないと思う1
抜きんでた技術や特技はない、普通の子だった。
自転車に片手離しで乗れることがステータスだった時代だから両手離しにも果敢に挑戦し、図工の課題は終わらず常に放課後まで居残りを強いられ、図書室の貸し出しカードの色がひとりくるくる変わる人間だった。

この年齢まで生きてきて特に表彰されたことはないかなと思ったがあれがあった。小学校の時には本をたくさん読んだ子には無条件で賞状が授与された。どこで「たくさん読んだ」と判定されたかといえばページ数だ。
「運動場を走った周数をキロに換算して日本のどこまで走ったか」で表彰する2機会が卒業までの間でたびたびあったがあれの読書版だ。

表彰対象者は全校朝会で名前が呼ばれる→立つ→代表者が賞状を受け取る→座るという流れだった。その制度が生まれてから卒業するまで毎回表彰されていたと思う。最終的には代表者にもなった。あれが人生単位で「卒業式以外で壇上で何かを授与された」機会だ。

何度か同じ話をしているような気がするけど、母親はわたしを「本を読む子に育てたかった」と言っていた口で「まだ読めんだろうに英語の辞書読んでて気持ち悪かった」とも言っていて、特に本が多い家ではなかったし読み聞かせをしてもらったか本なら何でも無条件に買ってもらえたとかそういう特別な記憶もない。ただ読み聞かせの専用カセットを自分で選択して再生し、「病院は退屈3だから持っていく絵本を厳選しようとして結果リュックに入るだけパンパンに詰めていく」幼稚園児だった。

仕事にはなっていないが、そういう記憶が20年ちょっと本の話とかいろいろをするブログをやっているのか? とはちょっと思う。はと文庫オンラインはまじで天啓で、友達に「わたし読書系のウェブマガジンやろうとおもうんだけど」って言ったんですよね。
はと文庫オンラインはじめます! | はと文庫オンラインに書いたとおりです。
その辺が仕事になったらいいけどなー。

  1. まああえてよそさんと比較したことがないので分からないが []
  2. 表彰第1の都市が兵庫県明石市だった。同じクラスの男子が北海道まで行った覚えがある。運動場を走る時間は朝の活動時間として設けられていたがわたしのように大半の時間を歩く人間は明石までたどり着くことはなかった。自己申告だが、不正はたいてい帰りの会で吊るされるのでなかっただろうと思う。 []
  3. 誰の病院だったのかは分からないがたぶん母方の祖母だと思われる []

この前掃除した時に見つけた破天荒遊戯の19巻を見て「あっ久しぶりに見たなあ、これ今どうなってるのかなあ」と思って検索した。わたしは4年ぐらい読んでなかったらしい。4年のうちに本の値段が300円ぐらい上がっていてびっくりした(※現物手に取ったら厚みがかなりあったので増量による値上げもあったと思う。)

電子書籍もあったんだけど、今まで買ってたのはふつうの紙書籍で、それでも連載開始当初から追いかけているのでかなり散逸している(捨ててはいないので家のどこかにはあるし最悪ゼロサム版を買い直せると思う)が今回も紙で買うことにした。

この選択正解だったなあと思う。10代時分がずっと追いかけてきた漫画を同じ形状で読むというのは(メンタル的に)健康に良いと思った。同じ時期に連載が始まって先に完結したあまつきもそうなんだけど、連載開始当初とは似ても似つかない内容なわけですよ。破天荒遊戯の最初って世界を見てみないかいと家を追い出されたラゼルが敵討ちの旅をしている白髪の男と出会うファンタジー要素が強い漫画だからね。あのころから考えると22年経ってあんな展開になってるとは思わんしあんなに時代を先取り(コロナ的に)してると思わんやん。

でもヴィーとか、ジェリスちゃんとか、レイボーンとか、絶対忘れてたはずなのに読んでたら思い出したし、わたし今22・3なんじゃないかと思ってしまった。割とそういう傾向にあるんだけど、「昔からずっと好きな漫画とか小説の新作を読むとき、自分の年齢をロストする」現象が起きる。
あと「紙で漫画1を読む」という行為にずいぶん「贅沢」を感じてしまった。「未読のコミックスを物理的に斜めの角度から見る」経験最近あんまりしてなかったなあと思った。
絵柄がびっくりするほど変わってないこともあるんだろうなあ。4年間読んでなかったとは思えないぐらい、わたしが知ってるラゼルなんだ。

今破天荒遊戯ゼロサムオンラインでやってるんだね。23巻掲載分からもう9か月目が来ていて、そう待たないうちに24巻が出るんじゃないかと思ってとりあえず作者の遠藤海成さんをフォローしました。新刊情報落とさないようにするにはたぶんhontoでお気に入り作家登録すればいいじゃないかと思うんだけど(紅玉いづき新刊情報を余すことなく送ってくれるhontoさん。)

破天荒遊戯は1巻がKindle Unlimited対象書籍なのでよろしくな。

  1. ジャンプではないし単話で完結するコミックスでもない []
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