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桜庭一樹日記 BLACK AND WHITE

久しぶりに再読の日記。
一番新しいぶんで05年末だけど、この3年ちょっとあいだで取り巻く環境がめまぐるしく変わったなあと思うなど。

小説にしかできないこと、漫画にしかできないこと、映画にしかできないこと、お笑いにしかできないこと、っていうのが多分あって、普段わたしは"小説にしかできないこと"にこだわって書いてみたりとか、逆に映画から、お笑いからちょっと越境して抱えて持ってこようとしたりとか、色々と試行錯誤してるのですが、今夜は、あぁ、舞台でしかできないことってあるんだなぁ、すごい人たちだなぁと思いました。

(P61)



大崎梢「書店日常の謎ミステリ」の新しい主役は小さな出版社の新人営業井辻くんでした。
配達赤ずきんよりこっちのほうが書店密着な気がする……とかおもった。
カバー折り返し部分の「井辻くんが編集部には行きたくないわけ」は1話であっさり明かされるのでそこはメインではないです。

平台がおまちかね
5年前に出版した翻訳作品が小さな本屋で良く売れている。
品切れになってもおそらく重版がかかることはないぐらいの売り上げしかないその本が何故そんなにプッシュされているのか。井辻が営業に行くと手作りイベント台を作成した店長に冷たくあしらわれたのは何故か

マドンナの憂鬱な朝
複数の出版社営業マンのマドンナ書店員が消沈して棚を作りかえるといったのは何故か

贈呈式で会いましょう
宝力宝賞でデビューする新人にあてて井辻が受け取った老人からの伝言の真意とは

絵本の神さま
東北地方に出張営業する井辻のもとにあらわれた「潰れた書店とその前に立ち尽くす男」の謎とは

ときめきのポップスター
営業マンと書店が共催することになった「ポップスターコンテスト」で平台の上を動きまわる本の謎。誰が何のために動かしているのか

収録作品の一行内容を(平台がおまちかねだけ複数行だけど)
一番好きなのはときめきのポップスター。
文庫を出している出版社営業マン限定、自社本から1冊、他社本から1冊選んでポップを書いて売り上げを競う。競うのは他社文庫本のほうで自社本のほうは参加の駄賃のようなもの。埋もれた本に重点が置かれるので「放っておいても売れる作品」にはペナルティがつく。
みんなが忘れているような本を紹介し、本屋に活気を与え、すぐれた販促効果を出し売り上げに貢献する。その度合いがもっとも高かった営業マンをチャンピオンとし、その栄誉をたたえ翌月一ヶ月間はチャンピオン所属出版社が平台を埋め尽くす。そんなコンテストに井辻君とゆかいな仲間たちは参加することになった。

ポップコンテストに登場するのは実在の本です。ポップの内容も読めます。読みたい本が増えました。ワーオ。

「ひつじくん」と呼ばれいちいち毎回「井辻ですけど」っていってるところにときめいた。
とりあえず「死の蔵書」「幻の特装本」が気になってしょうがないのです。

「おお、いいところに来た。みっちゃん、今度この本の続編が出るんだよ」
「えー、また泣かす気? 女に泣かされ、本に泣かされ、干からびそうだ」
「泣かすよりいい。うんと泣かされなさい」

(P50)

本日、サービスデー

本日、サービスデーのあらすじ印象がとても強かったので連作短編と思ってました。
ちなみに事前に想像していたあらすじというのは「『今日は神さまから与えられたあなたの人生で最良の1日です。』そう言われてぼくは(わたしは)その日の過ごし方を模索する×大体4人か5人分の話」というものだった。
実際は独立している、ちょっといい話系(明日からまた頑張るぞ!的な)の短編集。5作入ってる。
サービスデーは「サービスデー管理課 次席主任 第2級天使 ガブリエル」という響きがとてもツボだった。禁書を読んだ後にこれを読んだので……

びっくりしたのは「あおぞら怪談」でした。
何がびっくりしたって「妖怪アパートトリビュート るり子の話」なんかこれは?っていうぐらい似ていたのだ。
友人日下部が借りてるおんぼろアパート(月1万。広くて駅前のアパートから歩いて10分だった)には幽霊が出るという話を聞き、僕はそのアパートに行き不思議なものを見た。
手だけの幽霊だ。マニキュアもしている。日下部は手に普通に話しかけている。手はるり子と言うそうだ。(名前については筆談で聞いたそうだ。名前以外に本人に繋がるものをは教えてもらえなかったが味付けから察するに北方の人間のようだ)最初はびっくりしたが炊事掃除洗濯(主にアイロン)など家事をしてもらえるので、日下部は誰かに話すこともなく逃げ出すことも当然テレビ局に電話することもなく一緒に暮らしている。
コミカルな話だった。

東京しあわせクラブは収録作の中では唯一のダーク系。というか悪趣味系?
とりあえずそんな初朱川湊人。いまわくらば日記を積んでいるので早めに読みたい(気概だけは!

それから日下部さんと手首の奇妙な生活が始まった。
毎日掃除してもらえるのは当然として、たとえば適当な野菜や肉を買って冷蔵庫に入れておき、わざと一時間ほど外出すると、きちんと料理されてテーブルの上に並べられるようになった。比較的濃い目の味付けなので、どうやら手首の持ち主は北国の出身ではないかと思える。

(P208)

赤い月、廃駅の上に (幽BOOKS)

鉄道縛りで怪談話の短編集。中には三途の川を渡るのが列車だったり百物語だったり色々。
表題作の「赤い月、廃駅の上に」が好きだ。赤い月が一番雰囲気がすきなのだ。
次点が黒い車掌。

「ダイダイって……ああ、橙色の橙ですか。鬼月というのは、鬼の月?」
「そうです。恐ろしげな名前でしょう。邪気を招くというて、縁起がよくないとされる月です」
「悪いことの前触れですか?」
「よろしくないものがくるので、家の外に出るなとか言われています。古い迷信ですよ。それでも田舎のことですから、気にする人もおります」

(P205)

残される者たちへ

ある日方野葉小学校同窓会の知らせが届いた。
もう既に廃校になっているが、方野葉小生の多くは方野葉団地の住人だった。
川方準一(37)は同じ小学校卒の人間が一同に会するその会に出席することにしたが、幹事「押田明人」という名前にまったく聞き覚えがなかった。別の学年の人物だと思っていたが実際に行ってみて、同級生の話を総合すると自分と押田は(途中で転校したとはいえ)1年半のあいだ一緒のクラスで過ごした、しかも昔の住んでいた家の向かいの住人だという。生まれたときからのお向かいさんだっただろう押田のことをまったく覚えていない。
準一は同じ団地の2階下の住人だった未香(35・精神科医)と一緒になくした記憶を探しに方野葉団地へ向かった。方野葉団地には現在未香の患者である芳野みつきがいるのだ。団地に呼ばれるかのように2人は団地へと向かった。

あらすじは未読でしたが、辻村深月が帯文を書いていた覚えもあったので最初のほうを読んで「冷たい校舎の時は止まる」みたいなミステリなのかなーと思ったらそうじゃなかった。中盤までは不吉な雰囲気がとても好きだったのでえーってなった。
終盤に触れてるので一応隠しします。

なんかこう、超不可能な密室殺人! 犯人はドラえもんのようなものがどこでもドアのようなもので乱入して射殺!これはこういうものなのでこれ以上の説明はしない! みたいな。

もうちょっと不思議な話なりの説明がなされるんだと思ってました。

思い出した。同じ棟の二つ下の階に住んでいた下級生の女の子。僕のことをそう呼んで慕ってくれた女の子。
お世辞抜きできれいになったその顔に、確かに当時の面影を見つけることができた。それなのに。
会場でみんなと談笑している押田明人の顔が浮かんできた。
どうしてあいつが思い出せないんだ。

(P28)



「変人揃いの洋館アパートといえば鳥篭荘だな!」といってるときに「変人揃い洋館アパートといえば望楼館」という声があって手を伸ばしてみる。
すごく変だ!(褒めことば) 思ったよりずっと厚かったし、海外モノは不慣れなこともあり読めるかなあといざ読み始めてみるととてもおもしろい。
望楼館は24世帯が暮らせるように設計されていたが、住人を慄かせた「18号室の新しい住人」がやってくるまでは七人のだけだった。ぼく、フランシス・オームはどうにかして新しい住人アンナ・タップを立ち退かせたかったが、アンナ・タップは住人の心に入り込み、住人は追想にふけ語った。凍りついた時間は動き出し館に変化が訪れる。

凄く変なのである。変だけどおもしろい。

望楼館の住人は、少人数の風変わりな仲間だった。いや、ぼくらに共通しているのは同じ建物に住んでいるということだけだったので、仲間という言い方は正しくないかもしれない。ただ、ひとりでいる時間が長くなればなるほど人は気難しくなるものだから、長いあいだ孤独に暮らしてきたぼくらはどこか似通ったところがあったかもしれない。(略)彼らは自分自身から逃れたいと思っている。肉体からだけでなく、その過去、現在、未来から逃れたいと思っている。つまり自分とつながりのあるものはなにもかも、永久に忘れてしまいたいのだ。

(P15?P16)

我慢なんかできない! わたしを自由にさせて! わたしにさわらないで! わたしは生きている! 死にたくなんかない! そんなところに座ってないで、動いてよ! お願い。人間だってところ、見せてよ。フランシス、動いて。話すのよ。だれでもいいから!

(P455)

喋々喃々

食堂かたつむりに続く第2作。かたつむりよりこっちのほうが好き。しかしやっぱり雰囲気重視なんだな。
関係を気にせず読むならほんわかしたいい恋愛と下町の日常話。
実際は何でもっとどろどろしないのか不思議なぐらいの突っ込みどころのある小説だった。
かたつむりもそうだったし、これはもうそういう作風なんですと思うしかないのかも。

舞台は東京谷中。
アンティーク着物の店「ひめまつ屋」を営む横山栞はお正月のある日、父とよく似た声を持つ木下春一郎と出会う。彼は初釜に着ていく着物がほしいということでひめまつ屋を訪れたのであった。左手の薬指に指輪をしている男性だった。
栞は店で一人暮らしをしているが、父母は離婚済みで、父は再婚して山中で自給自足のような生活をしている。母は都営住宅で栞の妹花子と、異父妹楽子と一緒に暮らしている。栞はひめまつ屋営業を終えた後様子を伺いにいったりしている。

食べ物の描写がよいです。とり鍋天丼からあげ黒糖焼酎焼き鳥みつ豆お惣菜、食堂かたつむりよりよっぽど身近な食べ物が増えました。酒飲んでるところが地味に多いですね。「谷中はいいところですよ」みたいな描写もとても多いのでいつか行ってみたいなあと思うところでした。

しかしどうしようもなく気になるのは栞と春一郎の関係。浮気です。妻子ありです。
でも2人とも独身です、ていうか恋なんて初めてですとでも思うような初々しさ。やることはやりますが。
以下一応一応隠します。
春一郎本宅と谷中は別次元の空間みたいに春一郎の嫁の存在感が希薄。栞も春一郎も真面目な割には罪悪感的なものは感じられないし。最初は指輪は一応つけてるだけで嫁は実はもうお亡くなりになっているのかと思うぐらい早々に告白だった。
雪道嫁がはがきを持ってきたシーンで、名乗るまでは「ついに本妻が泥棒猫チェックにきた(゚∀゚)」とときめいたのに。最後は栞が春一郎と完璧に別れて新しい日々を送ることを決めるか、春一郎が離婚を決めるかの二択かと思ったのでえーーーそこで終わるんだ!って思った。

イッセイさんがiPhone使ってたから吹いた。
Twitter上の所持率が半端ないから実際の普及率がよく分からないがiPhone教は確実に存在すると思う今日この頃。ちなみに友達は9割ドコモです。

注文してからわずか数分で、見事な天丼が運ばれてくる。
「すごいボリュームですね」
「若いんだから、いっぱい食べろ」
どんぶりには、どこから食べていいのか途方に暮れるほどに、立派な天麩羅がこぼれ落ちそうになって入っている。海老、穴子、烏賊のかき揚げ、獅子唐。私は海老からかぶりついた。サクサクでカリカリの衣にくるまれた立派な海老からは、活きのよさが伝わってくる。しっかりと甘辛いタレと、とてもよく合う。箸で天麩羅をかき分け、ご飯も口に含む。
「幸せです」

(P157)

孕むことば

妊娠出産育児と翻訳・文学・ことばをからめたエッセイ。
40歳ではじめて子ども(娘)を産んで4歳になるまで。翻訳のココロのほうが好きだったりする。

好きなことさえ見つかれば、きっとアンパンマンがその夢を守ってくれるのだろう。好きであることが大事。自分にあった仕事にしよう。優劣を競うな。ナンバーワンよりオンリーワンを目指せ。

(P103)

日本の経済と雇用の平和を守ってよアンパンマーン。
ちなみにこの後は好きにしなさいと言われ夢がうまっているよと煽られるだけはしんどいのではないかーと続く。

物の本によれば、不謹慎な、汚い、エッチなことばを、言ってはいけない場で言ってしまうのは、「汚言症」というらしい。言語の正常な発達過程で4?5歳ごろの子どもにも、そういった傾向があらわれるという。

(P134)

うつ歴十年、色恋妄想

タイトル通りのエッセイです。そんなに明るい方面ではないけど妙に惹かれるものがあったので……

布団かぶり、とも称している。うつが来たら文字どおり、寝床から出られなくなる。いったい今度で通算何百回目だろう。(略)軽いときには長風呂や長散歩、幸運なら半日ほどの布団かぶりを経てうつは遠のく。原稿も下書き程度なら書ける。が、重くなるほど薄い眠りと濃い不安感と、深い絶望感とに交互に襲われ、ひどくなると一日二十時間くらい布団から出られない。

(P8)

こんな感じで始まる。
入眠エスコート(シマシマ みたいな感じ)は商売として成り立たないかと考えたり、旅先(海外)で会う予定の彼氏にドタキャンされて、ファミリーとカップルが泊まる部屋にはさまれて「もうひとりで○○するのは嫌だ!」と延々書き殴ったり、北米の自殺防止センターに電話をかけたりとても赤裸々だったりする内容でした。ちなみにうつ病の完治が本の終わりではないです。

再婚生活をちょっと思い出した。
再婚生活はここまでではないけど。

彼女は、わたしが泥沼の底から這い上がる間ずっと伴走してくれた。ゆえに、再びわたしがへこむのを想像したくないのだ。うんと若かったり、場所が離れていたりする相手に惚れた挙げ句、恋煩いが重篤状態に陥ったり、あっさりフラれてうつ地獄へ逆戻り。そんな展開を恐れるが故の助言と解釈している。

(P177)

めっちゃ心当たりある、と思った。(友達がここ数年このパターンなのだ

刺激的生活

生活に根付いたエッセイだった。
検査とかゴミの分別とかジムに入会すること数度にわたるとか洗濯乾燥機と戦うとか。
軽く読める。おもしろい。

が、その先、五十キロはどうしても割らない。体重計の針が五十以上に固定されてしまったかのように。
十の位が常に四であり続けたのは、過去のことか。2度と還らぬ数字なのか。

(P78)

みみがいたい。

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