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魔眼の匣の殺人

前作の屍人荘の殺人は飛び道具クローズドサークルで今回はTRICKっぽさあるクローズドサークルでなんかちゃんとしてる。
「ちゃんとしてるクローズドサークル」って何って話だけど、ちゃんとしてるクローズドサークルなんだよ。こいつを隔離しようとかそういうの。
今回は予知とか予言とかそういうの。TRICKっぽさあるけどTRICKじゃないんだ。丁寧な仕上がりだー。
館の見取り図とかアリバイ表とかあるの無条件で評価高い。とても面白かった。

小説 映画刀剣乱舞

映画刀剣乱舞のノベライズです。ばっさりと書いてしまうと小説としてはあんまりおもしろくない……。
ト書き会話説明って感じであんまり情景描写や心理描写には割かれない。いやよくあのボリュームの映画を40字×16行×200ページ程度で収納したなという感じはあるんだけど、これを読んで映画を見た気分になろうというのはあんまりおすすめできない。刀剣乱舞についてあんまり詳しくはないんだけど予習としてっていう人は普通に映画見たほうがいいです。
映画であまりしゃべらなかった山姥切の心理描写を読みたいとか、どうして日本号だけ寝間着姿だったのかとか、川のシーンについてもっと詳しくって言う人は読んでもいいかもしれない。あとざっくり映画の筋を思い出したいという人にもいいかもしれない。
でも繰り返して言うけど小説として面白いものを読みたい人にはあんまりおすすめできない。

青空と逃げる (単行本)

物語は四万十から始まる。本条早苗と力 母子は東京から逃げ出して高知にいた。父親(舞台役者)が女優と夜、事故を起こした……。ダブル不倫だと言われている。それからメディアから逃げ、女優側の所属事務所から逃げ、四万十にも事務所の人間がやってきた。父親は一緒ではないのかと聞かれる。
そして四万十からも逃げ出す。
NHKが全4回ぐらいのドラマにしそうな内容だと思った。母子は途中で旅館に泊まって職を探してずっと逃避行を続ける。明るくはないけど不思議と青空の下にいるような物語だった。

噛みあわない会話と、ある過去について

タイトルはそういう表題作があるのではなくて、「そういう感じの物語を集めてみました」っていう感じの短編集。
「どうして?」「なんでそんなことに」「こんなはずじゃなかったのに」ていう。
一番オウフってなったのは「パッとしない子」なんだけど、「早穂とゆかり」はゆかりはわたしだって思う。どういう自意識なのって聞いてみたい人は、確かにいるだわ……。
「パッとしない子」も「ママ・はは」も怖い話なんだけど怖さの方向が違うんだわ。自分が一時関わっていた今国民的アイドルにちょっと時間いいですかっていわれて、何言われるんだろうと期待してたらまさかそんなことを……っていうのと、「ママ・はは」は首筋をぞわっと撫でていくような、暴力はないけど息が詰まるようなやりとりでつづられる支配的な親の話なんだわ
それを考えると「ナベちゃんのヨメ」はライトだな。なんであの子があんな子とっていう話だ。

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

バリキャリの栄利子、専業主婦の翔子。
翔子はおひょうというハンドルネームでブログを書いている。主婦主婦してない、相当適当な家事なのに不思議と生活感がある、と栄利子は思っている。ブログに書かれている内容から「おひょう」はこの付近に住んでいる人なんだろうなと思っていたら、カフェで「ブログの書籍化の話で」と打ち合わせをしている人たちを見かけた。彼女が「おひょう」だ。

ものすごく怖い話だ。なんせストーカーだ。自分がストーカーだと認識していない類のストーカーだ。あと距離の取り方がおかしい。一度あったら友達で毎日会ったら兄弟だを地でいく。神とたまたま接点ができてしまったために加速しておかしくなる感じ。ネットで出す個人情報割れにつながるものはまじで気をつけようと思った。(最近ではガラスケースの映り込みでほとんど顔バレしている人を見てしまった)
「友達」をめぐる気持ち悪い話なんだけどどういう着地をするのか気になって読まずにはいられなかった……。

自分が断じてストーカーではない。ストーカーとはもっと孤独で世間に認められない人間がなるものだ。他者への思いやりや想像力に欠ける人間がなるものだ。それを分かってもらうためなら、多少翔子を驚かせることになっても、構わない。

(P73)

とにかく、おひょうを元に戻さないといけない。これ以上、自分のように傷つく人間を増やさないためにも、再び読者を共感させるブログを書かさなければならない。友人として、いやここまで彼女を育ててやった読者として当然の要求だ。自分は断じて、おひょうの敵などではない。誰よりもおひょうを思う熱心なファンなのだ。だからおひょうが耳を傾けるのは自分の言葉であるべきなのだ。

(P149)

クローバーナイト

おっそろしい1冊だーーーーー。
会社員の夫、自営経営者の妻、4歳の長女、もうすぐ2歳の長男。で幼稚園での話、保育所に入るまでの活動の話、お誕生会の話、お受験の話と、育児系あるあるのテーマでミステリ風の話なんだけども、自分にはまだ縁のない話だと思っていたのだがぞっとする話だったのは一番最後の話。
母と娘(妻)の話である……。

「ママと志保ちゃんは、似てるんだと思う」
親子だから、と荒い息と一緒に、義母が言った。
「他の人だったら気にもならないようなことを、親子だから、ママ、わかっちゃうんだよ。似てるから、志保ちゃんが何を気にしているのかも見抜いて言えちゃうんだと思う。だって、志保ちゃんとママは親子だもん」
親子だもん、親子だもん、親子だもん。
この一撃で相手を殺せると思った言葉を呑み込んだ後で、義母から繰り出される言葉は甘噛みのような、現実感のない言葉の粒だった。

(P313)

屍人荘の殺人

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は同じ大学の剣崎比留子に誘われた映画研究部の夏合宿に加わるためペンション紫湛荘を訪ねた。
心霊スポットで撮影して制作会社に買い取ってもらいあわよくば番組に流してもらいたいという肝試しと、コンパ目的の合宿だが、今夏は合宿直前に「今年の生贄は誰だ」と怪文書が届き、部員の多くが参加を辞退した。コンパという名目上女性が必要で、自分(比留子)が参加するなら男2人ぐらい増えても構わないということで「夏のペンションとか事件が起きそうでいいじゃないか」という明智と剣崎の間で利害が一致した。
合宿地の近くではサベアロックフェスという有名人が多くやってくるイベントがあるようで周囲はごった返している。その中で始まった合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……

外部と連絡を取る方法については革命的な進歩をしている現代で新しいクローズドサークルだった。面白かった。
マダラメ周りの話をもう少し読んでみたかったけどこれ続編でないかな。
登場人物の名前のおさらいがあったり、館見取り図のある小説がそれだけでぐっとくる。あとテンポが良かった。そして突然の○○○。
荒唐無稽じゃないほうのコズミック(清涼院流水)。北村薫の選評が「野球を見に行ったと思ったら闘牛だった」で、ほんまそれって思った。

以下ネタバレの話をしたい。ワンクッションにもう1回書影を置く。

王とサーカス

「タチアライ。お前はサーカスの座長だ。お前の書く物はサーカスの演し物だ。我々の王の死は、とっておきのメインイベントということだ」

(P178)

「さよなら妖精」「真実の10メートル手前」の大刀洗万智、新聞社を辞めたばかりの2001年に海外旅行特集の仕事を受けネパールへ飛んだ。同じころ、王宮では国王をはじめ王族殺害事件が勃発する。大刀洗もまたジャーナリスト、現地で取材を始めるが、その矢先に大刀洗の前に死体が現れる。

「伝えること」で苦悩し辿りついた真実がそういうところに着地にするのかと。凄いものを読んだ。ミステリは心が洗われる。

ののはな通信

昭和59年ごろから2011年まで、野々原茜(のの)と磯崎はな(はな)のふたりの手紙やメールや、授業中に回すノートのきれっぱしに至るまでの書簡体小説。この勢いでよくこの厚さと流れの小説を書いたなあと感嘆するが、あと私的で親密なやり取りをのぞき見しているようで背徳感ある。展開急だな!? とか(書簡体なのに)百合だな! と思っていたら時代が流れて行って、2人の歴史の積み重ねを感じる1冊だった。
わたしも授業中手紙を回したりレターパッド1冊分の手紙を書いて長いやり取りをしたりその時送られてきたものはすべて残しているからののとはなのやりとりはすごくわかる。重たい話もたくさんしたなあと当時を思い出して懐かしんだ。

チュベローズで待ってる AGE22チュベローズで待ってる AGE32

すげー面白かった。わたしが思うところの良いミステリというのは「うまいことだましてほしい(あわよくば世界がひっくり返るような感覚をあじあわせてほしい)」「そうかあれはそういうことかと膝を叩きたい」という要素がある物語なんですがこの「チュベローズで待ってる」はそれらをいい感じに満たしている。

2015年、就職活動に失敗した僕、光太は30社以上受けたがどこにも採用されなかった。ここが最後の望み、という会社からも不採用通知が届いた。就職浪人するか、バイトをするか。就職浪人するにしては家計が苦しい。母の体調も思わしくない。自分に残された道はどちらも不自由で八方ふさがりだった。光太は新宿の街の片隅で吐いていたところ関西弁の男に声をかけられた。その男が光太の人生を動かすことになるチュベローズのホスト、雫だ。

上下巻で、22歳と32歳。トータルで500ページだけど読みやすいというか物語の引力がかなり強い。ぐいぐい引っ張られていく。ホストって華やかそうな世界で結構湿度は高めな気がする……。割と王道は王道だと思う。けどすごい目まぐるしい展開。
上巻(就職に失敗してホストになった22歳)だけでもかなりすごいんだけど、下巻(32歳、10年後の話)もかなりすごい。上巻ものすごく引いて終わるからな。これ上下巻一緒に買ってよかった。だって23時に読み終わって電書にもなくて続ぎが気になって普通に死ぬぞ! 伏線が綺麗に回収され多可と思ったらもう一回角度が変わるのとかまじごちそうさまだ。

封神演義か! とかポケモンショックみたいだなとか、ブギーポップに出会ったからしょうがないとかいろいろ同じ箱にいれる本を考えながら読んでたけど、読後感的には昨日は彼女も恋してた&明日も彼女は恋をするかなあと思った。
あっちは割と呪いみたいな話だけどチュベローズは祈りみたいな話。

凄い本を読んだ!

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