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普通じゃない。—Extraordinary.

御厨しいなはイングリッシュガーデナーを目指す普通の女の子だった。
そろそろ就職の時期である。ある日突然植物の声が聞こえるようになった。
mixiで連載されてそれから本になった作品らしい。どおりで作中にmixiが結構出てくるはずだ。

紆余曲折があるわけでもなく挫折らしい挫折があるわけでもなくトントン拍子に話が進んでいく。
「流れに乗ったら行けるところまで行ってみたらこういうところに辿り着いた」という感じだった。
読みやすいのは読みやすい。でも「おっ」と思うところがなかった。

ラストの植物と話せなくなった理由に驚く。
社長の「資金さえあれば実現可能な妄想」と「植物が喋ることが妄想」と言われるのはまるで意味が違う。それは夢見がちな人か精神的に病を抱えている人ほど違う。植物が喋ることが幻想展開なのだからもうちょっとファンタジーな展開にしてほしかったなあと思う。

ところで妄想といえば87ページあたりは意味不明すぎる。mixiでやってるときになにか企画をやっていたのだろうか。「こういうのあったらいいなあっていうあなたの妄想をお待ちしております」みたいな。

うみねこのなく頃に Episode1(上) (講談社BOX)

BOX版うみねこEp1。Ep1をやったのはもう遠い昔のようです。
実際かなり昔ですがその間にアニメとかコミカライズとか色々見てるのでその辺がもうごちゃ混ぜです。
ラストには「全面改稿し小説化したもの」となっていますが割とそのままのように思います。
わたしは原作ゲームを熱心に読み込んでいるわけではないので多少の修正レベルなら変わっていても分からないのですが、一目でわかる「見覚えのないシーンが追加されている」ということはないと思われます。

縁寿とかゴールドスミスとか雛見沢症候群的なあれがEp1時点で出ていることに驚くなどした。
ちなみに上巻は惨劇の直前までが収録されていた。

あした咲く蕾

短編集。7編収録。
わくらば日記と似た感じの「普通とはちょっと違う異能の持ち主」が出てきたり「追憶する語り手」の話が多いです。時代設定はいくつは特定されており大体昭和30年代?60年代です。
最近ブギーポップ再読してるので「MPLSとわたし」とか思いました1

なかにはちょっとええ話で終わるのもありますが、しんみり物悲しい雰囲気の思い出話というのもあります。死別前提の話も含まれています。

好きなのは「カンカン軒怪異譚」「空のひと」
チャーハンおいしそうだった。空のひとはファミコンのシーンにときめいたので2

近くのボウルに入れてある卵を二つ取ると、彼女は片手で同時に割り、煙が立ち上り始めた油の中に放り込む。(略)油を吸った卵が膨れたところで刻みネギを入れ、さらに油を足して冷ゴハンを入れ、鉄のお玉で勢い欲炒め始めたのだが——そこからがまさしく彼女の独擅場だった。まるで片手に持った中華鍋が太鼓で、手にした鉄のお玉が撥であるかのように……あるいは中華鍋が親の仇で、お玉が復讐の棍棒でもあるかのように、カン! カン! カン! と打ち鳴らし始めたのだ。

(P82)

小学校低学年男子児童の腿くらいありそうな二の腕がブルンブルンと高速に上下し、火がつくほどの油は入ってないはずなのに、時おり中華鍋全体が炎に包まれる。

(P83)
  1. そしてわくらば日記はAlways 3丁目のMPLS []
  2. 接続部をフーッとするとか []

野良女

・現代コメディです。
・非常に明るいノリで下ネタが多く含まれます。
・「女性に『自分の性生活』みたいな下ネタトークされたら引く」という方は読まないほうが無難です。1

28?30歳の独身女性が5人登場して、短編ごとに視点を交替して進んでいく話です。
「そこまであけすけでないけどそういう会話最近したわーーーー(゚д゚)」とか「やめろ現実を見せるなあああ」とか「そんな リアルさは いらない!(読むけど!」とか叫びながら読んだ。
とてもリザキル2上等の話だった。

「私、二十五を過ぎたら普通は結婚できるものだと思ってた」(略)
「ねえ鑓水、私たち二十八だよ? あと二年で三十だよ? 二十になったころ、こんな人生想像してた?」
「自分が三十歳になること自体想像していなかった。あ、瑞泉、ロックで」

(P11)

何をいうても最初の衝撃はこれ。こんな会話こないだ結婚式終わって突発開催昼の二次会の時したんだ。
再現するなら「15ぐらいの時にはなー、25ぐらいになったら子どもはおらんでも結婚ぐらいはしとるって思わんかったー?」「めっちゃ思ったー」である。
こういうのがそこかしこに存在する。耳と心が痛い。千切れるほど痛い。

「俺のピサの斜塔を君の青の洞窟にブチ込んでやる! さあ高らかにカンツォーネを歌うが良い!」

…… 無 理 だ !
ていうかソレントへ帰れ!!

(P107)

野良女はモデルありの実話ベースだけど「太陽にぽえむ」のこれは実話ではないらしい……3
ここら辺から死ぬほど笑った。出陣じゃー! とか馬鹿だろう! 馬鹿だろう!

模型だらけの俺んちは全体的に笑いしかなかった。前半はDVである。しかし何故か明るい。
DVといえばDVなんだけど、「良い殴り方と悪い殴り方がある。見えないところ殴るなんて最悪、痛みないくせに顔とか見えるところにあざを作る殴り方が良い。それに暴力ありの性交渉は快楽がヤバい4。これ知ったら普通のとかもうできない」というDVの受け手、not被害者。「この人は自分がいないとどうしようもない」みたいな不幸のぬるま湯展開には程遠い。
不健康といえば不健康だけど「ある意味同意の上のDV」「性欲の捌け口」「未来への負債がない麻薬」ていう感じでした。後半はガチオタ男子登場である。この人ただのMじゃねえなと分かる。綾波長門の登場である。

曇りガラスの三十代が一番ローテンションというか湿度の高い話だけど最後はちゃんと幸せに終わる。
最後のしめの話がまたよい。よきかな。

愛する人に殴られても痛みを感じない私は、愛する人を殴っても心が痛まない。そういう被虐性と加虐性を併せ持っている人種は、結構いると思う。私は磯野さんに殴られたいとは思わなかった。代わりに、ものすごく殴りたいと思った。廻し蹴りをかまして鼻血を出したのを上から裸足で踏みつけて、許してくださいと足の裏を舐めさせながら懇願させたかった。

(P148)
  1. おそらくドン引きします []
  2. 死んで生き返ってもう1回死ぬ []
  3. と活字倶楽部09夏号インタビューといわれていた []
  4. いい意味で []

追想五断章

菅生芳光は伯父が経営している古書店・管生書店でバイトをしている。
ある日「先日こちらが甲野十蔵宅から引き取った本の中に、探している本があると聞いたので売ってくれないか。自分は旅行者のためできるだけ早く」と北里可南子と名乗る女性がやってきた。

残しておきたい本というのは100ページ程度の同人誌「壷天」、可南子の亡父・北里参悟/筆名:叶黒白が寄稿した作品が載っているという。間もなくして渡すことが出来たが可南子は続けてこんなことを言った。
「他にも父の作品で探して欲しいものがある。そういう手伝いはしてもらえるだろうか。父が書いたという小説は全5編、1編見つけてもらえればその都度10万円支払う」
叶黒白が書いた作品はどれもリドルストーリーだったという。
芳光は同じくバイトの笙子と一緒に捜索をはじめた。

「リドルストーリー」という単語はこの本ではじめて知りました。本の中で謎が提示され解決は読者に委ねられる形式のことをいうそうです。1全体的な雰囲気として閉塞感が超満ちてたり陰鬱な感じです。儚い羊たちの祝宴と仲が良さそうな感じです。

「アントワープの銃声」については読書メーターで色んな人がこれはロス疑惑がモデルではないか?と書いていたのでこういうのがそうか、と思う。なかなか理解が及ばないところがあったので時間を置いてまた再挑戦したい。

  1. ちなみにwikipediaによれば、作者が伏線をはったことを忘れたり打ち切りなどで伏線を回収できなかった場合は「意図的に回答を用意しなかった」わけではないのでリドルストーリーとは呼ばないらしい。 []

ひぐらしのなく頃に礼 賽殺し編 (講談社BOX)

コモリさんちで気になってふらふらと。極最初のほうは見覚えがあった。
多分インストールしてさわりだけやって放置しててうみねこがはじまったものとおもわれるー。

惨劇を打ち破った梨花が不注意で「何の罪も後ろ暗いところもない雛見沢」に迷い込む話だった。
どこまでいっても梨花の話ばかりで部活がなければ血生臭い話もない。
ベルンカステルの魔女だったり正しく賽殺し。

左京区七夕通東入ル

モリミーとはまた違う意味でファンタジーな「京大生ラブコメ」
京都大学だと明記されてないけどキャンパスの位置とか学生の描写とか寮の位置とかから察するに京大だな(・ω・)と。アリサの大学はぐぐってみたところでは同志社女子大学かなあとおもった。

花は京大文学部の4年生で、就職活動も単位取得も終了しあとはモラトリアムを満喫するだけだ。
七夕の日、花はひょんなことから人気の高い女子大へ通うアリサに誘われ合コンへ行くことになった。
そこへやってきたのが龍彦だった。花は数学が大の苦手で龍彦は数学科1に在籍しているという。花は龍彦に誘われ学生寮のたこ焼きパーティに行ったりデルタで花火をしたりする。
登場人物は他に修治(アリサの彼氏)・アンドウくん・ヤマネくん(龍彦の友人。花を入れた4人でよく遊びまわっている)
お互い大学生で、花は別にはじめての恋愛でもないのにすごく初々しい。キスどころか手を繋ぐような描写さえあったかなあというような感じなのだ。ごはんを食べに行ったり十条まで撤去自転車回収デート行ったりはするのだけど。

ところで「花ちゃん」と関西弁で見るたびにわたしの脳内では「なちゃん」ではなく「はちゃん」と再生しよるのでした。山田花子風。龍彦は「数学科の大学生」ということで時々たゆんの偉い人が走っていった。

夜は短し歩けよ乙女の学園祭のシーンで韋駄天コタツがあちこちで出てきて、わたしはこれは「モリミーの創作だろう」と思っていたんだけど、こちらでも学園祭で「何故か設置されているコタツ」が登場しているのでコタツ云々はもしかしてガチで存在するものなんだろうか、と思った。

「地元が舞台の小説」だと近すぎて逆に直視できないところがあるんだけど、京都とか大阪とかが舞台の小説はそこそこ近くて地理がわかって親しみが持てるなあとつくづく思う。

たっくんのことを恋人と呼べるかどうかは別として、少なくともわたしは恋に落ちている。(略)
どうしてこの人なんだろうと思う。客観的に見て、異性にもてはやされるタイプとはいえそうにない。目を引くような美男ではないし、話がものすごく面白いわけでも、ことさらに気がきくわけでもない。世間一般はさておき、わたしを惹きつけるということにしぼってみても、あまり思い当たる理由はない。

(P88)
  1. 理学部数学科である。 []

芙蓉千里

最初厚さにびびっていたのですが1読み出すとこれが凄い勢いで時間を忘れる小説でした。本読みながら「やばいもう寝んと」と思ったのはなんだか久しぶりな気がするなあ。

時期的には第1次大戦のちょっと前、日本はまだ明治時代の20世紀初頭、中国ハルビンが舞台。
「大陸一の女郎になる!」と自ら人買いに志願して東北地方から大陸に渡ったフミ、フミと一緒に売られてきたタエ、2人が売られた女郎屋酔芙蓉の格好いい姐さんがたの話です。

フミは最初から女郎志望で、タエは女郎になることをとにかく嫌がっている女になりたくないと思ってる実に対照的な2人。フミはどう見ても流血女神伝でいうところのカリエポジションなので、フミはサジェだったらどうするよ……救われるのはグラーシカお姉さまかな……と思ってたらうまいこと共存共栄みたいな感じだったのでほっとする。

近現代に舞台が置かれているため史実もすごく自然なかたちで絡んできます。
蘭花姐さん……!

ちなみに私は山村派です!(何か主張しておかないといけない気がした
しかし黒谷への啖呵切る&宣戦布告シーンは美味しい……

とりあえずsarisariの短編かな……11月の上旬ぐらいまでは公開されてるらしい。
sarisariはエッセイだけは読んでるんですが、携帯で小説とかまじ読みにくい。

「それと同じだよ。踊らなきゃ生きていけなかったから、必死に練習しただけ。辻芸も、畑仕事も、体を売る女郎も何も変わらない。それに私はもう、生娘じゃないからね。今さら、どうってことはないよ」
息を呑んだのタエの顔が、みるみるうちに青ざめていく。フミはひどく残酷な気分になっていた。

(P107)

離れろ。その一心で、ひた走る。離れろ。離れろ。死の空気から。敗北と絶望から。

(P136)

「だから、早く来て。ほんとに来て。私が、諦めてしまわないうちに」
フミは目を閉じた。睫毛が震え、ひとすじの涙が零れる。ああ、夢でもいい。また会いたい。

(P235)
  1. 400ページ近くあります []

船に乗れ!(2) 独奏

1巻とはえらい色が違います。
1巻はキャッキャウフフしてて青春で音楽でオーケストラなので、さよならピアノソナタとかのだめカンタービレ好きな人はどうですかどうですか書いてた覚えがあるんですが、2巻は「気安く触らないでよ(゚д゚)」という雰囲気です。

これは「現代のサトルが過去を振り返っている物語」という設定で挫折があったことも既に語られていたけど、まさか1冊のうちにこれだけ「挫折と喪失」が凝縮されていようとは思いもよらなかった。

サトルたちは2年生に進学した。今年の1年生は優秀だとか今年のオケ課題曲は去年の夏に市民オケでやったリストの「交響詩 プレリュード」。その日から阿鼻叫喚の日々がはじまる。鏑木先生はまた怒鳴り倒している。
そしてサトルに転機が訪れる。ある日父が笑顔で言った。「ハイデルベルクへチェロを習いにいかないか。(サトル叔父の妻)ビアンカが参加しているオーケストラの主席チェリストが練習を見てくれるといっている」

各所でサトルはぼっこぼこである。ふるぼっこである。
音楽家同士であるため恋人の南にもハイデルベルクに行く際も応援されるどころか妬まれる。
ハイデルベルクでもそのあとも悪い方向にしか転がらないのである。

ラストのサトルが好きだった先生を退職せざるをえない状況に追い込んだことってどうなん! どうなん! ておもった。高2こえー。

つ、つづきを早く……
ブンゲイ・ピュアフルでも読めるけど、縦書きで紙で読みたいし船に乗れ2の様式で行くならいいところで切れてしまう。凄い展開のところでぶった切られたらわたしは しぬ!

南は閉じた口の中で奥歯を噛みしめ、涙のこぼれる目で僕を睨んだ。それは女子高生の可憐な涙なんかではまったくなかった。愛情はあっても理解の薄い環境で音楽に取り組んでいる女性の、裕福で恵まれた環境にいる僕への、どうにもならない悔し涙だった。

(P116)

自分がこれまで、本を読むという名目でやってきたことの正体が、一気に見えてきた。理解できたわけでも、共感できたわけでもない、ただ難解そうに見える本を選んで、さも理解できてでもいるかのように頁をめくり、さも共感できたかのように本を閉じ、その様子がちゃんと周囲の人に目撃されたかどうかを確認する、たとえそこに誰もいなくても、自分自身を目撃者にして、ごまかしてしまう。自分をだます。そんな茶番劇を僕はこれまで何年間も「読書」ということにしていたのだ。

(P176)

「僕が君に、誰も殺させはしないからだよ」先生はいった。「哲学上の結論として、僕は君に、人を殺してもいい、と今いった。その代わり殺されても仕方ないともいったが、それでも殺していいといったことに変わりはない。あれは哲学上の結論であって、君をそそのかしたんじゃない、なんていい逃れをするつもりは僕にはないんだ。人に何かをいう人間は、いったことについて全責任を持っている。とりわけ人の命に関わることはね(以下略)」

(P258)

ほんたにちゃん (本人本 3)

凄く痛い小説だった。作品が痛いんじゃなくて、登場人物が痛いのでもなくて、読んでるこっちの胸が痛い。

学校で飲み会あるって聞いたけど誰にも誘われなかったから「誰かに誘われた」風に店までやってきた。
そこでの「中2病をこじらせた女子(ぼっち)の孤独」描写がとてもいたたまれない。
こんな状況に立たされたらもう泣きながら帰るわな(゚д゚)と思った。
ちなみに私は席移動ができるなら席を転々としつつグラスもしくは酒瓶片手に喋り倒すほうです。

二十歳前ならまだやり直せるよ……むしろ更生的にはラストチャンス……とか思ったり凄くはらはらしながら読んだ。

この表紙は何事だと思ってたけどちゃんと理由があったので読み終わったあと表紙見てふいた。
Amazonレビューいわく「メディアに露出しまくり」だそう1だけど私が見るようなのには出ないらしく見たことはない。
でもどこかで拾ってきたこの本のタイトルは覚えてたのでこの本を実際に読むまでずっと「ほんたにゆきこ」さんだと思っていた。表紙にも大きく「もとやゆきこ」とふりがな振られていて初めて間違いに気がついた。

敗北感。
私の胸に広がる、この複雑な気持ちを言葉にするならばこれだ。敗北。何に敗北したのかはよく分からんよ。でも飲み会で席を奪われ、隣に座っていた人物にはさりげなく移動され、今こうして追いやられるようにみんなから離れた場所にポツネンと佇みながら誰ひとり気にされることなく存在する自分。

(P45)

何しろ昔から『天然最強説』を唱えてやまない私だ。やつらは狙ってないぶん、滑ることを知らない。滑らない人間ほど強いものはない!

(P80)
  1. 書かれた日付を見ると古めだったので今はもう「だったそう」かもしれないけど []
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