カテゴリー「 小説 」の記事

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光待つ場所へ

スピンオフ短編集。同じスピンオフでも元作品既読前提な「ロードムービー」より格段によい。
「冷たい校舎の時は止まる」から「しあわせのこみち」
「スロウハイツの神様」から「チハラトーコの物語」
「名前探しの放課後」から「樹氷の街」

好きなのはえぐられるような「しあわせのこみち」
今回も「おいやめろ」と思うよいくおりちーです。耳が裂けました。

私この期に及んでまだなにかを模索しているような気がする。なにになるつもりなんだろうか。
いや要するに4月病なんですけどね。

「チハラトーコの物語」
ああそういえば磯山ミオみたいな人ニュースでみた覚えがある。
ていうか冬子今そんなことやってるんだと思った。最近姿を見なくなった人の、今なにしているか聞く気分。

「樹氷の街」
思わぬダークホース。絶対そんなはずないのに「辻村さん私と一緒の学校に通ってたんじゃないの。なんでこんな身に覚えがある話が展開されてるの」って思うことがよくあるんですが今回もすごかった。
この伴奏者私が中1のときの合唱コンクールのあれやないか!!! 中1って何年前やねん!
いやもうちょう動揺した。中学校の時の記憶って基本的に覚えておいても何の足しにもならない負債ばかりで思い出そうとしても思い出せないことが圧倒的に多い。
なのに「あの子なんで立候補したん?」「なんで○○が伴奏せえへんの。あの子無理やろ」という話をしていたり、実際の合唱コンクールでどうなったのか。いろんなことがばっさーと思い出された。
物語の力ってすごい。でもあまり色々引きずり出さないでください。

自分が恋をするとか、誰かと家庭を築いていくだとか、そういうことの全てが、私には想像できない。本当にできなかった。道を歩くたび、歩いたすぐ後ろが崩れていく。帰り道のない私は、前を向くしか方法がない。

(P44)

図書室で読んできたハイファンタジーに登場する人々や種族の言動、ゲームに出てきた武器の名前がどの歴史的事件に由来するものなのか、ヒットを飛ばすアニメの元ネタがどれから来てるか。頭の中に地図を描くように「知る」ことが好きだった。アニメやゲームの教養主義はもう時代が古い。だけど、好きで観て詳しくなった分の、私のこの知識に罪はない。

(P141?142)

兄妹パズル

とてもピュアフル文庫。
松本さんちの3兄妹。上に兄がふたり、そして「わたし」亜実。上の子と下の子はとても親に似ている。
しかし真ん中の子はまるで似ていない。7つ年上の兄は院生、2つ上の兄は大学生そしてわたしは今高校2年。
どこにでもいるような仲良し家族。ある日真ん中の兄、潤一は家出をした。
月に1回はがきが送られてくるから元気ではあるようだ。

話が割と多方面に行くので、さっぱりしている。「忘れている過去」とかどす黒い過去が出てくるんじゃないかと思ったけど、そういうのはなかった。真ん中の兄と亜実はただしく兄妹だなあと思った。子供の時とはいえ妹可愛いっていってる。

「夜目遠目傘のうち」という言い回しはとてもロマンだなあとおもった。和ロマン。

薔薇を拒む

施設育ちのぼく、鈴原博人の元にある話がやってきた。
とある実業家が住み込みで働いてくれる17?19の若者を探している。3年間働いて大検を受ければ大学4年間の学費と生活費を援助してくれるという。ぼくは施設の経営状態やらを考えてその話を受けることにした。場所は和歌山の山奥、似たような境遇の樋野薫とともに陸の孤島へ行く。

和歌山の屋敷に住んでいるのは血の繋がらない母娘、娘(小夜)の家庭教師の角倉幸、住み込みのお手伝いさん(登美さん)、家を取り仕切る中瀬。ネットには繋がらず携帯も没収となる。

この閉塞感はよい。殺人事件ktkr! とか久しぶりに思ったな。こんな整えられた屋敷で起こらないはずがない。あのラストはぞっとするな。あれっとおもって2回読んだ。あんな謙虚なことを言っていたのに……

それでも「家族」と言ってもらったことは、ぼくの心の中にあたたかい灯を点した。
この先、大きな幸福など手に入らなくてもかまわない。
静かに本を読める時間だとか、コウさんにそう言ってもらったこととか、小夜がぼくに微笑んでくれたこととか、そんな小さな幸福を紡いで、ぼくはこの先も生きていくのだろう。

(P154)

メモリー・ラボへようこそ

梶尾作品を読むのはこれが2作目で1冊目です1

誰かの思い出の脳に定着させられる。
元気なうちに自分の思い出をバックアップとして保存できる。

そんな感じに記憶のいい部分のみをコピペできる技術がある2世界。
「がむしゃらに働き恋も結婚もなにひとつ輝かしい思い出はもっていない」という還暦ぐらいの男性の話「メモリー・ラボへようこそ」
病気を患い介護施設で暮らす70歳の母を持つ娘のはなし「思い出が融けるまで」の2編。

「メモリーラボへようこそ」がよかったな。ちょっとだけ読むはずが超集中して読んでしまった。
実にロマンだ。

  1. 前読んだのは美亜に捧げる真珠をアンソロでなので []
  2. それなりに低価格で []

あの日にかえりたい

あの日に帰りたいと願う人 別れてしまったあの日から帰ってくる人 彼岸と此岸のしんみり系短編集。
雰囲気的にはわくらば日記とかかなあ。

好きなのは「へび玉」
度肝を抜かれたのは「あの日にかえりたい」
あの日にかえりたいは老健ボランティアが石橋老人の亡妻なのかもおもったわたしである。あれはびびった。

翔ける少年は私の男の一番最後の話を思い出す。

何のビジョンも持たない自分だけが残って、なにになるというのだろう——そう思って泣いた。案の定、十五年後の今、なににもなっていない、何事も成し遂げていない。ただ生きているだけだ。左足を引きずりながら。
若さを失いながら。

(P187)

帰天城の謎 ?TRICK 青春版?

TRICK青春版である。映画公開にあわせて発売されたということだけどなにかしらのノベライズということではなく完全な新作。しかしこの表紙、上田の存在感がありすぎである。

中学生山田奈緒子は先生に誘われて同級生数人と一緒にN県の踊螺那村に向かうことになる。そこで出会ったのが世界的に有名な物理学者になるべく武者修行中の上田次郎である。踊螺那村には突然消えてしまった「帰空城と玲姫」の謎と埋蔵金の噂があった。
そして名乗りこそしていないがどう見ても矢部としか思えない警官も出てくる。

ドラマより10年ほど前が舞台だというのに山田と上田のやりとりといったらまるで変わりない。
地の文に時々現れる「編集部注:」がくどく感じられる時があるんだけど、すごくTRICK愛に溢れた本だなあと思います。

道徳という名の少年

全体的に本のつくりがすごい。表紙の蔓草とか中扉のゴージャス感とか本文の飾り枠とか。
連作短編で、色んな雑誌に掲載されていたものがひとまとめになっている。「1、2、3、悠久!」と「地球で最後の日」は既読だったんだけどこんな感じだったっけ? とか思った。
単行本としてはかなり薄い部類に入る123ページ。でも内容はおそろしく濃い。酔う。くらくらするよ。 

女海賊メアリ・リード 第1巻 偽りの天使

1686年、7歳のメアリ・リードは母の一世一代の賭けのため男装させられていた。
父方の富豪・リード家に引き取られたかと思えば母と一緒に宿代を踏み倒し点々とし、あるときは武器商人の未亡人の秘書となりあるときは海賊船に乗っていた。
メアリはあっちこっちで人を変え場所を変え愛を育んでいた(※婉曲的表現)
ふらんすじんすごいな。フランス人すごいけどあの辺の描写は事前なうとか事後なう的なものが多い。
読んでたら< 黒衣の男>とかエルナン・コルテスが出てきてSH脳が大層刺激された。

南の子供が夜いくところ

短編集。
たぶん南太平洋の島が舞台なんだろうけど、今の関心ごとが南米であることもあり1私の中ではコンキスタドール到来のアステカあたりで再生される。紫焔樹の島とか特にねえ。

「紫焔樹の島」と「夜の果樹園」が好きだな。その次が「十字路のピンクの廟」

  1. (コルテス将軍に続けー! []

天国旅行

「心中」をテーマにした短編集。最初の話がいきなり青木ヶ原樹海で死ぬに死ねかったおっさんの話からはじまるので黒っぽい話が多いのかなと思ったら救いのある話が多かった。
かと思ったらきみはポラリスだった。救いがある話もあるとはいえ全体的な雰囲気としては薄暗い。光が指すかそのまま沈んでいくかは話次第。

ほかのひとが「心中がテーマの短編集だしました」っていうなら多分「えっ」って思うんだけど、
まあしをんさん文楽好きだしね。文楽と心中は切っても切り離せない存在だからねと普通に納得した。

好きなのは祖母の初盆にやってきた不思議な男の話「初盆の客」
私は子供のときから夜毎に不思議な夢を見る。江戸時代、私は愛する夫とともに暮らしている「君は夜」
丘の上の高校に通う地味派に類する私・亜利沙と派手グループの頭目初音とある先輩の死。その顛末「炎」

SINKも好きだな。この永遠に埋まらない虚感はよい。

なんだか“文学少女”見習いの、初戀。を思い出す。

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