日々のこと アーカイブ | 外の音、内の香 | 一田憲子 : 外の音、内の香 | 一田憲子の書籍化、でも月日はあっても年の記載がないので初版発行日と緊急事態宣言という単語からおそらく2020年ごろ、というのしかわからない。緊急事態宣言という単語はあってもあえてなのかもともとなのかコロナに関する記述は少ない。
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読んでから「デビュー作」ということを知った。
大手法律事務所で弁護士として働いている剣持麗子は金の亡者の業突く張りだった。
世間平均並の40万強の結婚指輪はこんな安物を渡すなんてどういうつもりと切って捨て、ボーナスを減額告知をされその場で退職の意を伝えた。慰留はされたがどちらにせよしばらく仕事は休もう決めた麗子は携帯電話の連絡先を見て、3か月ほど付き合った元彼、森川栄治に連絡した。しかし帰ってきたのは「栄治は先日この世を去った」というメールだった。
その後麗子はゼミの後輩であり栄治とも親交が深かった篠田と連絡をとり、栄治が実は製薬会社の御曹司だったことや「遺産は自分を殺した犯人に譲る」と奇妙な遺言状を残していたことを知る。
篠田は麗子にこう話を持ち出した。
「栄治の死因はインフルエンザだといわれているけど、自分が栄治と会った時インフルエンザ治癒後だった。どうだろう僕は栄治を殺した犯人になりえないだろうか」
自分の代理人になってこの件を調べてくれないか謝礼なら出すと言われたが、無効になるかもしれない遺言状、遺留分を除いた遺産とそこから麗子が得られる金額、今後の自分につくイメージから一度は断った。
しかしよくよく調べてみればこの件がうまくいけば自分に転がり込む金額は150億。最初に想定していた金額の10倍以上だ。麗子は篠田の代理人として森川家主催の犯人選考会に参加することを決めた。
さくさく読んだ。
地の文少なめ(会話多めというわけではない)で物語のサイズの割に登場人物が多いがキャラクターはわかりやすい。
海と山に囲まれ温泉もある温暖な餅湯町は関東近郊から客が来るリゾート地だ。団体旅行が減って久しい今旅館・観光業を営む親たちはため息をつき、土産物屋を営む怜の家も似たようなものだ。
高校生の日常を書いた物語だ。高校生は日常が青春だと読んでいて思う。屋上でお弁当を食べたり修学旅行へ行ったり友達カップルがいちゃついているところを見、ある日は留年がかかった友達に勉強を教え、進路に悩み、家業を手伝う。
穏やかな日常にも時々事件が起こり、それも管理がとてもザルな餅湯博物館から縄文土器が盗まれるというものだ。
怜には母親がふたり父不在で、2つの家を行ったり来たりしている複雑そうな家庭環境があるものの、重くなりすぎず「平凡な日常」が続いている。
「普通の人生」を書いたら多分こうなるのだ。ドラマチックさはかけらもないが毎日同じ日が続くわけでもなく、大小なり事件があって、それでも日常が続いていく。
冒頭読みながら、モデルの土地を椿山荘ホテルに設定して1読んでいた。
桜山ホテルに入社して苦節7年。涼音はあこがれのバンケット棟(宴会班)からあこがれのホテル棟アフタヌーンティーチームに異動した。先輩の香織が産休に入ったことによる代替要員だ。異動後初めてのプラン会議でなんとか自分のプランを採用してもらおうと頑張るが、ほぼ門前払いのような状態だった。
そんな桜山ホテルで働く人やアフタヌーンティーを楽しみに訪れる人のお仕事小説だったり差別の話だったり。ディスクレイシア(読字障害)、国籍、正規雇用/非正規雇用、男だったら、女だったら。
「誰のそばにでもある問題」がそこかしこに書かれているけど、語り口がライトなので重くなりすぎない感じ。登場人物はみんな前向きで目標に向かって頑張ってて偉いなあ……と思いながら読んだ。
- 行ったことはないけどここだ! と思った [↩]
コロナ禍はじまりの2020年の日記。同種では東京ディストピア日記があるけど、あちらよりはもうちょっとパーソナル寄り。一児の母の綿矢さん、マスクを忘れたときの対応が大変そうで、あと、あとがきに変えてみたいなエッセイ部分がとても長かった。
倒叙ミステリでこれめっちゃ映像映えするやんって思った。そのうちドラマになるんでは。というのもちょいちょい古畑任三郎とかコナンとか相棒のオマージュを感じられるネタがちりばめられたから、「古畑任三郎でした」とか古畑警部が登場するときに流れる音楽がめっちゃ流れていた。
倒叙ミステリそんなに好きではなかったんだけどこれは面白いなーーと思った。mediumみたいな「ギャーーー」ってなる感じはないんだけど(そら倒叙やしな)これは丁寧に「犯人がミスを犯したところはどこか」を翡翠が暴いていくのが痛快だった。あと翡翠自身の魅力があるな。あのあざとい感じが。
DV夫が離婚後も金の無心に来る。食費だろうが何だろうが、千鶴を殴ってでもありったけの金を持ち逃げする。夜逃げ同然で引っ越しても半月もしない間に弥一は千鶴の前に現れた。
夜勤のパン工場で働き、食べ放題のパンで食をつなぎ、それでも生活していくにはお金が必要だから千鶴はラジオの企画に夏休みの思い出を投稿し、それが採用された。母との最後の思い出は5万円と引き換えにコンテンツになった。
でもそれが千鶴の転機となる。小1の時にいなくなった母聖子を「ママ」と慕う恵真に連れられ「さざめきハイツ」で暮らすことになった。聖子は若年性認知症を患っており、さざめきハイツにはほかにも娘に捨てられた彩子が聖子の周りの家事をしていた。
さざめきハイツにはいろんな「母娘風の組み合わせ」がありながらも、「普通の母娘」の関係が築けなかった人間しか住んでいない。
ちょっとあまりにすごい本で吸引力が強すぎて明日仕事だけど読み終わるまで首根っこをつかまれてるみたいな本だった。強い。
どうしようもないほど嬉しかった。いまやっとはじまった私の新しい人生を、すべてが祝ってくれている。私はあの日、たくさんの人に祝福されて生まれた。千鶴がそうしてくれたのだ。
あれ以上の、幸福はない。あれからどんなことがあっても、どれだけ辛くても、思い出すだけで何度だって救われる思い出になった。いままでも、そしてこれからも。私の生きてきた愛しい思い出たちの中で、いっとう輝くうつくしい星。(P287)
ちょっと前kindle unlimitedで壇蜜日記 (文春文庫) Kindle版を読んでいた。壇蜜さんは時々テレビで見る高級そうなバーが似合う感じの、二次創作で見るにっかり青江みたいな人だが、彼女の日記やエッセイはテレビから受けるイメージとはまるで違うから面白かった。なので別の本を読んだ。
先日、ラジオ番組収録中に、男性アナウンサーからこんな話を聞いた。
「子供のころに何かやって褒めてもらった経験は、いつまでも心に残る。結果、無意識のうちにその『褒められた何か』の延長線上にあるような職に就くことが多い」と彼は言うのだった。(P149)
壇蜜さんは褒められた記憶を呼び起こして「通信簿には苦労してひねり出しただろう褒め言葉が並んでいた」ということを書いていたので、自分もなんかあったかなあと思い出そうとしたが、まじで思い出せない。家庭環境が悪かったとかなんかそういうのはないと思う1。
抜きんでた技術や特技はない、普通の子だった。
自転車に片手離しで乗れることがステータスだった時代だから両手離しにも果敢に挑戦し、図工の課題は終わらず常に放課後まで居残りを強いられ、図書室の貸し出しカードの色がひとりくるくる変わる人間だった。
この年齢まで生きてきて特に表彰されたことはないかなと思ったがあれがあった。小学校の時には本をたくさん読んだ子には無条件で賞状が授与された。どこで「たくさん読んだ」と判定されたかといえばページ数だ。
「運動場を走った周数をキロに換算して日本のどこまで走ったか」で表彰する2機会が卒業までの間でたびたびあったがあれの読書版だ。
表彰対象者は全校朝会で名前が呼ばれる→立つ→代表者が賞状を受け取る→座るという流れだった。その制度が生まれてから卒業するまで毎回表彰されていたと思う。最終的には代表者にもなった。あれが人生単位で「卒業式以外で壇上で何かを授与された」機会だ。
何度か同じ話をしているような気がするけど、母親はわたしを「本を読む子に育てたかった」と言っていた口で「まだ読めんだろうに英語の辞書読んでて気持ち悪かった」とも言っていて、特に本が多い家ではなかったし読み聞かせをしてもらったか本なら何でも無条件に買ってもらえたとかそういう特別な記憶もない。ただ読み聞かせの専用カセットを自分で選択して再生し、「病院は退屈3だから持っていく絵本を厳選しようとして結果リュックに入るだけパンパンに詰めていく」幼稚園児だった。
仕事にはなっていないが、そういう記憶が20年ちょっと本の話とかいろいろをするブログをやっているのか? とはちょっと思う。はと文庫オンラインはまじで天啓で、友達に「わたし読書系のウェブマガジンやろうとおもうんだけど」って言ったんですよね。
はと文庫オンラインはじめます! | はと文庫オンラインに書いたとおりです。
その辺が仕事になったらいいけどなー。
すごく良い本だったなこれ。
明治大学在学中に教職課程で齋藤孝さん(以下齋藤先生)の講義を聞いていた安住紳一郎さん(以下安住アナ)が、今度は明大で大学生相手に2人で話すという本です。
対談を書き起こしたものです、といっても本の形式になるとテーマがあって、それに対して安住アナ3ページ、齋藤先生2ページ。質疑応答と思われるページはふたりで見開き1〜2ページという本です。
話すことのプロが語る「話し方」の話、とても興味深かった。ベースが講義なだけあって平易な文章で読みやすい。
友達が安住アナを推しているので「安住アナはパンダが好きで」とか「安住アナはよく現場(テレビ)に出てるけど本当はめちゃくちゃ偉い人。しかも現場レベルじゃない偉さ」とちょいちょい情報が入るので、この本を読みながら肩書をググったら「TBSテレビ総合編成本部アナウンスセンター局長待遇エキスパート職」と、想像以上に長くて素人目にも「ものすごく偉い人」であることが分かった1。
それだけ偉い人で、土曜日は23時半までニュースキャスターの生出演、それから反省会を30分、いろんな番組の打ち合わせを午前1時くらいまで続けて、そこから翌朝10時からのラジオ番組の打ち合わせを5時ぐらいまでやって6時〜8時で仮眠取って、という週末を過ごされている。平日は平日で仕事あるだろうし、朝の情報番組の顔になるっていうニュースをこの前見て週7日勤務なのでは2……? と思った。
あとエゴサの話とか、フリーにならないのかといろいろ言われているのも知ってるけど自分はテレビを変えるにはフリーではなく放送局員であったほうがいいと思うという話もある。
この前読んだジャニーズは努力が9割もそうなんだけど、できる人っていうのは死ぬほど地道な努力してるんだよ。スラムダンクで花道がシュート3万本黙々と練習してたようなもんだ。
以下メモ。
人とコミュニケーションをとる上での話
安住アナ)いろいろ聞きたくなる気持ちを抑えてあえて相手の言葉が出てくるのを待つ。最近この黙るという手法を使えるようになった。
齋藤先生)相手を乗せる時に必要なのはテンポ。テンポよく話を展開していくと段取りがいいという印象につながる。世の中のすべては段取りでできている。段取りを説明する能力があれば物事を理解できるようになる。実習例としてキューピー3分クッキングの料理の段取りをメモして記憶通りに再現してもらう(短時間の料理番組は段取り命、テンポよく説明する)
テンポよく話せる→話し上手という印象。(P88~P91)
インプットとアウトプットについて
安住アナ)どんな業界でもいいアウトプットをしたかったら3倍ぐらいインプットをする。旅でも本でも映画でもアーティストのライブでも。お金はかかるしずっとはできない。でもそのぐらいの心意気で。インプットはあくまでもアウトプットの手段。インプットが目的になってはいけない。(P116~117)
・初対面の人と話すときのコツは?
安住アナ)お会いできて嬉しいですと口に出して伝える←意外とできない
初対面で様子見してはいけない、会った瞬間から距離を詰めていく。感情を伝えていく。これが緊張を乗り越える最良の方法
齋藤先生)緊張にのまれると自分をアピールできなくなる。緊張していると感じたら肩甲骨を回す。初対面の人とはできるだけ早く共通点を探す(P104~105)
賢い人と思われる話し方をするには?
安住アナ)スピーチがうまい人は必ず事前に練習しています。(びっくりするほど入念に)ぶっつけ本番で話せる人はほんの一部の天才。
齋藤先生)治世は語彙に現れる。賢いと思われる話し方をするには語彙力。つまり読書が一番。好きな作家を見つけてその語彙を会話でアウトプットしてみると知性も磨かれる。
(P166〜P188)
わかりやすく話す
人間関係がうまくいく話し方
話すためのインプット
日本語の面白さにハマる
上機嫌で話すマインドセット
視点を変えて短編形式で物語が進む。車内でチャラ男と呼ばれているあの男「三芳部長」周囲の人々のお仕事小説。
私が語りはじめた彼はと違うのは三芳部長はめっちゃ喋るし、なんならチャラ男視点の章もある。
彼らは「ジョルジュさん」と呼ばれる小規模な食品会社に勤めている。人員不足でフラストレーションをためている社員もいれば、「ここで長居をするつもりはないと思っているがなかなか見切りをつけられないでいる」社員もいる。雰囲気はよろしくない会社で、ドストレートな男尊女卑をぶつけてくるところもある。
問題を抱えて悩んだり、体調崩したところで絶対面倒なんかみないくせに。やめるならぎりぎりまで働けと思っているくせに。何を言うかチャラ男。
支配したいだけなんだろ。あなたがしたいことは、出世でも金儲けでもない。(P113)
AさんはBさんのことをこういう風に言ってたけど、Cさん視点から見るBさん、というのはキモがひゅっと縮まるものがあったな。特に池田かな子さん←→伊藤雪菜さん。伊藤さん周りはしんどい。どこまでも現実の「仕事」を小説にした本だった。