拍子抜け、というのが正直なところである。
役者はいつも通りのいい仕事をしていたけど、脚本と広報がちょっとあれだったという話をだらだらしています。

離島を襲い掛かる大型台風、土砂崩れ、未知の感染症。
大切な人がもし助からないとわかったら? ”病の写真家”も、別れだけは視えなかったという予告を見ていた。
なので、「絶海の孤島で巻き起こる感染症サスペンス系医療ドラマ」を想定していたのだ。

ふたを開けてみれば連作短編風の2時間ドラマだった。別れがさすものは担当した患者のトリアージだった。
未知の感染症については後半のごく短い要素で、前半は正面衝突の交通事故のその後の話だ。
当事者は全部で3人もしくは4人。加害者は飲酒運転で責任逃れをしたい。飲酒運転に巻き込まれた対向車線の車は甘春総合病院に検査に向かう途中の夫婦が乗っていて、妻の胎内には9か月になる命が宿っていた。事故のシーンからして夫婦のダメージは明らかに大きそうだった。

被害者(妻)は長時間心停止していたことや頚髄損傷もありいつ亡くなってもおかしくない状態で、不幸中の幸いは9か月を迎えたお腹の子は無事だったということだ。一刻も早く帝王切開でとりあげないといけないが、被害者(夫)は「妻はまだ生きている。なぜそんな決断をしないといけない」と書類へのサインを拒否した。こっちのほうが尺が長い気がしたんだけど、劇場版公式サイトのあらすじにも全く触れられてないんだよな。
感染症側も「未知の感染症」という割に冒頭(杏が離島に到着したとき)からやたらと井戸水がクローズアップされていたので、「あっ水が感染源なんだな」っていうことが容易に想像できてしまい、若干つらくもあり原因はなんだろうなあと考えていた。エキノコックスがひどい腹痛だけどあれは発症までにかなり時間がかかるというし、台風で土砂が相当井戸水に混入した描写があるので、どう考えても水が原因だろうなあ。コレラ、チフス、カンビロとか思ってたら正解してしまった悲しい。
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この悲しさの原因は「未知の感染症」をあおっていたのに「わかってしまった」ということなんだろな。ふたを開けてみたらめっちゃ地味にしたって裏切られたいんだ。これミステリドラマ名乗ってないから正解してもうれしくない。

救援部隊は原因何かわからないから空気感染接触感染を想定に入れて防護服着てたけどこっちはそれいらんってわかるやん。ああもしかして知識が楽しみを阻害するってこれがそういうこと!?

なのであの遺伝的に心疾患があるふささん(杏父が最後まで気にしていた患者さん)に水を届けられたときとか、「その水飲んだらあかーん」っていう脳内応援上映が開催されていた。
テレビドラマ1・2両方見てきて、映画版役者はいい仕事してるのに、脚本と広報がいまいち(未知の感染症をあおっておきながら実際的にはもうすぐ新しい家族が増えるというときに10:0の交通事故に巻き込まれて、妻はもう助からない、自分がサインをしなければお腹の子も死んでしまうという涙を誘いたい脚本に尺を使っている)だなあという。
けいすけ(山崎育三郎)はなつきを看取ったか生きたのかどうかはまったく触れないしなあ。その辺は本当に「連作短編」っていう感じだなあ。タイトルをつけるなら「雨の日の出会いと別れ」みたいな。けいすけとなつきの話はもう終わったからここから先は一切触れない、みたいな。
映画館という環境だから最後まで見られたようなものだった。くぼたくんと山崎育三郎、あと鏑木先生と田中軒下は特にいい仕事をしていました。鏑木先生と技師長のあのシーンは笑いが起こっていて、あっここ笑うところなんだって思った。