カテゴリー「 単行本 」の記事

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エッセイ。今回はいつもと違って掲載媒体的にいつも比ちょっとよそいきな感じ。
弟からの呼び方が「ブタさん」から「トンタク」にグレードアップしているあたりしぬほどふいた。

「この道を夜に通るひとは、なぜかよく歌うのよ」
私のぼやきに対し、父はこう言った。
「さびしいと歌うんだ」

(P59)

ここすき!

あとキリストの墓に関するあれこれがなんかほんとうにすごいとおもう。突っ込みのない文化。
国内で一番異世界かもしれない。

プリティが多すぎる

出版社小説。
週刊誌から文芸へ行きたかった佳孝の異動先はローティーン向けファッション誌「ピピン」編集部だった。
苗字が「新見」ということで南吉と呼ばれ、ピピンは同系列他紙と比べてダントツの売り上げを誇るが、佳孝はなにがいいのかまったくわからないままの船出となった。
最初は企画とか対象年齢とかがわからないゆえの壁にぶち当たる話とかあったけど段々ティーンズモデルの話になったような。広告会社とかモデルになるための壁とかオーディションとか。
これはなんかリンクしてたやつがあったと思うのでそっちも読んでみたい。

「その特別って、幸せなんでしょうか。数年間の特殊な経験のために、支払う代償は大きいってことですよね。延々とかなわぬ望みを持ち続けてしまう」

(P273)

サエズリ図書館のワルツさん 1 (星海社FICTIONS)

電子書籍なんて駄目だ本は「本」というかたちだからいい。嵩張ろうが重かろうがこの形を愛している、というひとはもれなく読むといいと思います。

1話を見る限りではちょっとドジなOLカミオさんが失敗したがゆえに知ることのできた「サエズリ図書館」という場所と、本を巡るちょっといい話 という感じなのですが、話が進むにつれてこの世界を取り巻く環境は生易しいものじゃねえぞというのがわかっていきます。

この世界は電子書籍が当たり前になっていて、「本」というものがいかに貴重で高価な嗜好品になっているか、そういう中で貸し出しカードを作れば誰でも無料で一定期間本を借りられる「サエズリ図書館」というのがいかに異様な場所か。本のことならなんでも来いな司書ワルツさんかと思えばこの図書館は全部わたしのものたくさん亡くなったんだからひとりひとりのことはどうでもいいって、もうひとりぐらい死んでもいいって思えますか?っていえるワルツさんまじぱねえとおもった。

「わしは毎日本を読むがね、娘はわしの本好きを、贅沢趣味だと渋い顔をしたし、端末映像やデータのほうが万倍面白いと、何度も言ったよ。それは正しいんだろうと、わしも思う」
続いて落ちた呟きは、悔いのようであったし、諦めのようでもあった。
「行き過ぎた執心は病だ」

(P37)

わたしの周りは病んでる人が多すぎる。

暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出

2011年3月11日、一人旅の最中にJR常盤線新地駅で被災。
被災時の5日間とその後2回にわたる福島訪問のルポ。

仙台からいわきに移動する最中に地震は起きた。被災した駅の500m向こうはもう海。
津波が町を飲み込んでいくのもみている。16時過ぎに福島原発で爆発の報が防災無線で流れ、一度は誤報とされるもニュース速報で福島原発で爆発のニュースが流れる。「情報は制御されている」の一文に震える。

散策路を上って町を見渡せる広場へ辿りつくと、五キロほど先だろうか、青い林の切れ目から甘い色をした穏やかな海が見えた。海面に特に異常は見つけられない。高台の足元からのどかな町並みが広がり、海の近くは平野になっている。
はじめはなにも気がつかなかった。景色を見ながら、弟さんが言った。
「本当は、ここから海は見えなかったんだ。防風林に完全に隠れていた。それに林の手前には、住宅地があった。もう、なにもないな」

(P26)

3月13日の話である。

水が怖い、土が怖い、子どもの将来が心配だ。引っ越しても、子供がいじめを受けるのではないか。うちのお米も、野菜も、美味しかったんだ! なのにもう、今までのようには贈っても喜んで貰えない。自分でも、今までとおなじ気持ちでは食べられない。こんな、雪のように降り積もる悲しみを、どう購えるというのだろう。

(P104)

1年半ほど前に現実にあって今も続いている話。120ページほどの本で淡々としていてすごく身近に感じられる。西日本で地震もたいしてない地域の住人ながら立地的に「明日は我が身」と寝つきの悪かった夜を思い出す。

14f症候群

14歳の女子中学生は無敵だという短編集。
既読のふりして3年ぐらい本棚に刺さっていたのをようやく読んだ。1話とかはリアルタイムで野性時代で読んでたなあ。

病気の話だ。微熱が出たり関節が痛んだりする日々が続くけど病院にいっても異常はない成長期でしょうと告げられる。彼女らは効能がよくわからない紅白のカプセルを内服していた。それから9日間、不思議な症状が起きる。
昨日までは女だったのに男になっていたりする。ささやかながらあった胸もまったいらになり声変わりもしてナニもついている。そういう感じの短編を含んだある女子グループの話である。

4話の「独占」がすごい好きなのだ。簡単に言うと停滞百合である。女王様と従者。

けれどあたしたちの均衡は崩れた。あたしと七美がこれまで互いを等しく必要としていたのは間違いないが、あたしたちは自分たちで思っていたよりもずっと危うい、ぎりぎりのバランスでもって左右の端に乗っていたのだ。それぞれの持ち物ががちょっと変わったらそのバランスはあっけなく片方に傾いた。

(P209)

ほかの短編は男女間で、これだけちょっと色が違う。少女同士はなんか妖しくて綺麗でどろっとしている。

サマーサイダー

幼い頃は三浦誉と倉田ミズは恵悠の子分だった。
3人の関係は緊張感をもったものになったり子分ではなくなったり形を変えつつも高校になった今も続いている。
廃校になった中学校に残った備品の整理に最後の世代がかりだされ、最終的に残ったのは誉と悠とミズの3人。
3人が過ごした教室は卒業式の雰囲気をまだ残していた。2次会の出席や落書きが残された黒板を見ているとクラスメイトの声が聞こえてきそうなものの、室内は蝉時雨で満たされている。
干からびて花瓶に貼り付いた花が教壇に置かれていた。夏の日に教員宿舎で変死体として発見された担任に手向けられた花だ。3人の中学校の時の担任は「僕は蝉の幼虫なんだ」と蝉に傾倒した佐野青春という変わり者だった。

夏が来るまで寝かせてた。夏の福井が舞台の青春ホラー。
2人の少年と1人の少女(幼馴染み) 廃校になった母校 秘密 異形
といういつもの壁井さんです。ホラーはホラーなんですが、日常が侵食される系の?
鳥篭荘よりもうちょっと現実味がある感じ。いや鳥篭荘も大概ホラー要素があると思うんですが。

章扉がイラスト表紙なんですが、象徴っていうか暗喩っていうか。4章……! っていう。
あの時奥にあったのが「変死体」として処理されたアオハルの抜け殻なんだろうなあ

ラストシーンは脳内で再生するぐらいでちょうどいい。これが忠実に映像化されようものならガチホラーすぎて夏は外に出れなくなる。「ぱー……ぱ?」はやばい。あのながれであれはやばい。ゾクッとするなあ。

「いかにきれいな抜け殻を見つけるか」に重点を置いていた頃はあっても蝉爆弾に出くわしたことはないんだよなあ。フィクションあれだけ鳴いてるのに。隣の人の声が聞こえないぐらい鳴いてるのに。タイミングの問題か「ミンミンゼミは関西には生息してない」みたいなものか。

水底フェスタ

直木賞受賞の話を聞き1年ぐらい寝ていた本を読む。
日本5大ロックフェスに数えられるまでに成長したムツシロ・ロック・フェスティバルで、睦ツ代村の村民の広海は芸能人の織場由貴美に出会う。由貴美は田舎を嫌いとうの昔に出て行った。村民からの評判も悪い。
ダムに沈んだ土地もあるこの閉鎖的な村はフェス誘致で盛り上がりを取り戻した。
この村には秘密と闇が眠っている。由貴美はその闇を暴きに復讐心を抱いて戻ってきた。

古畑任三郎とか右京さんがふらりと寄り付きそうな村だなあと思った。
フェスのシーンが好きで、ライブ行きたいなあと思ってまだ先の11月の遠征費用の試算などをした。
面白かったけど好きかどうかでいうとちょっと悩む。後味はもうちょっと悪くてもよかった。

トッカンvs勤労商工会

ドラマ化が決まり井上真央主演だわ主題歌ミスチルだわなんか追い風が吹いている気がする。
さてトッカン2巻である。
「京橋中央署の死神」特別国税徴収官1の鏡が担当滞納者を恫喝して自殺に追い込んだとして行政訴訟を起こされるかもしれない、ということになった。原告の背後には税務署の天敵勤労商工会が控えている。
勤労商工会は弱者救済を掲げ商工会と大差はないものの、税務行政の改善をスローガンにデモ活動も積極的に行っている。

今回は比較的鏡トッカンは控えめで、ぐーこがなんとか羽ばたいてみようと頑張っている話でした。
じたばたもがいて少々みっともなくても突き進んでいく姿は格好いいコガモの巣立ちを見守る気分だった。
「助けてドラえもん!」のあのシーンはなんか妙に映像的だった。あと裁判官の「時雨沢」という名前に思わず笑った。貴方の憤懣解決しますってABCテレビの17時18時ぐらいにやってたなあと思いつつ。

さすが、と言われるなにかが欲しい。
何々だったら鈴宮さんにまかせておけばいい、と言われるなにかが欲しい。
会社の中は、椅子取りゲームと同じだ。居場所を確保するための無言の戦いが繰り広げられている。のうのうとしていては有能な後輩や同僚が異動してきて、あっという間に自分の居場所を陣取ってしまう。

(P239〜P240)

耳が痛い。

  1. 略してトッカン []

あたたかい水の出るところ

あるところに温泉が好きな女の子がいました。女の子の名前は柚子と言います。柚子は高校生で、そろそろ進路決定にさしかかりました。進学なんてまっぴらだけど就職する未来もよくわからない。というところからはじまります。

柚子の家庭環境がかるーく書かれているけどすんごい重い。
母の愛は妹ばかりに向いている。姉は金の無心に来るのできっちり期限をつけて貸してやる。妹はデブでおそらくかつては天才だった。父は影が薄い。ゆずは家事を任されている。このまま家にいたら搾取される未来しかない。屋根があるところに寝床はあるけど、虐待されているようなものだよなあ。
その辺はアナザー「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」っぽい感じではあります。
軽く書かれているけど実態は重いから読んでると段々胃が重くて気持ち悪くなってくる。本との戦いである。
水中毒に覚えがあって、あって思う。でもあれは違うと思う。

そのお疲れ様な人生が永遠に終わらないということはない、というあたりよかったな。
あとちゃんと報われたあたり。

「小さい頃、あんだけ神童神童言われてたのが、だんだん目立ちもしないフツーの成績に近づいていくのはどんな気分よ! え? 公立でトップクラスでも予備校入ってみたら、自分と同じくらいの女の子がザラにいて、しかもフツーにかわいかったり彼氏いたりすんのを見るのはどんな気分よ! え? クラス中にキモブタ呼ばわりでハブされてるイライラを、お母さんが甘やかしてくれる家の中でだけ、威張りくさって発散するのはどんな気分よ! え? え? え!?」

(P137)

あまからカルテット

日常の謎といえなくもない感じの、恋愛とかも含まれる仲良し4人組の女性の話。
ピアノ講師の咲子、雄雄しい編集者の薫子、平凡なようで鋭い味覚を持つ専業主婦の由香子、美人でやや高飛車な美容部員の満里子。それぞれが主人公の話と群像劇が1篇。
相変わらず食べているものがおいしそうでやばい。由香子の話の中で出てきた甘食は、以前旅行のときに関東の友人が「これ食べたことないだろうと思って!」って持ってきてくれました。「甘食」というのははじめてみました。ああいう形状のものはこちらでは「帽子パン」と呼ばれているのだ。
食べるラー油も1回も食べたことないので、味が想像できない。

「グルーポンのスカスカおせち」にふいた。

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