地味に続いている企画。今回は一冊完結の本です。
1冊しか出ていないものがほとんどですが中には近日に続刊発売が予定されているものや、発売されたのが最近過ぎて続きが出るのかさえも分からないものもありますがなんせ1冊で終わっているものです。

1冊完結というとどうしてもアイリスのターンになるので新旧織り交ぜた。
あと上から現代→ファンタジーという順番に。

天使ズ/野梨原花南(角川ビーンズ文庫)

天使ズ。 (角川ビーンズ文庫)

舞台:現代
キーワード:天使 もうひとつの町 悪魔 霧の向こうの不思議な町

クローゼットでうとうと眠りにつくのが悪いくせになりつつあった鷹司奈々に転機が訪れる。
ある日突然クローゼットの扉が開き、扉の向こうには2人組の男性が立っており「天使です」「マスターはお前を指名した」「俺たちと組まないか?」などといった。
なんだかんだで奈々は2人の天使、朝人と敏弘と組むことになったのだが……。

イケメンを侍らせてる女主人公が多いビーンズ作品も昔は「ブス」だの「デブ」だの罵られつつ、実際デブでダサメガネにばさばさの髪でいじめられっこの女子が汗と涙を流しながら頑張っていた主人公だったこともあるのです。

今富士見ファンタジア文庫でやってる天使から百年が好きな人はもしかしたら好きかも。

奈々はぐっと拳を握りしめると、二人の前にずかずかと立って、思いっきり息を吸って、睨みつけて怒鳴った。
これが言いたくてここまで来たのだ。
「ほんとでもなんでも、ブスっていうな! ムカつく!」
言ったら涙が浮いた。それが悔しくて、でも視線を逸らすのもイヤで、涙を浮かべたまま睨み付けた。
細いほうの天使は、唇を尖らせ、肩をすくめて呟く。
「でもお前ブスじゃん」
奈々は産まれて初めて、他人のどてっ腹に、思いっきりボディブローをくらわした。

(P23-24)

ペテン師1山400円/嬉野君(ウィングス文庫)

ペテン師一山400円 (ウィングス文庫)

舞台:現代(三重県のあたり)
キーワード:コメディ 詐欺師 青年と少年 婆ちゃんがヒロイン 

表紙がスーツばっかりですがBLではありません(そもそも恋愛成分ありません

母方の曾祖母フサ(90)が危篤だと雲出家顧問弁護士から手紙が舞い込んだ。
亡祖母は「自分の葬式には雲出家の人間を呼ぶな」と遺言に残すほど雲出家を嫌っており完全に縁が切れて約20年になる。母ハル子も一度も行ったことのない三重の雲出本家に行くのは面倒がったが、一人旅をしてみたい年頃の純太(中2)がハル子の代理となった。
ところが旅費の入った財布がいつの間にか鞄から消え、現在の所持金400円。携帯は圏外。
山道を行く軽トラに親切になりようやく辿り着いた雲出本家は遺産相続でぎすぎすしていた。
普通に相続されるのかと思えば、フサは「遺産は1ヶ月以内に雲出流のやりかたで目標金額を達することができたもののみに分配する」という。
雲出家=詐欺師の家系。 雲出系のやりかた=詐欺で。目標金額=現在の所持金×1000×年齢の10の位。

純太は初対面の親戚、研士と参加することになった。

お父さん、お母さん、僕は中学2年生の夏休みに、親戚のお兄さんと詐欺を働くことになりました。
目標金額は二千万円です。

(P46)

ヤンキー巫女逢桜伝/夕鷺かのう(ビーズログ文庫)

ヤンキー巫女逢桜伝 (B’s‐LOG文庫)

舞台:現代(田舎)
キーワード:コメディ ルー語の神様と遊ぼう 科学は正義 一人称小説

穂倉梓は生まれもっての不幸スパイラルでグレてそのうち両親が交通事故で亡くなり、遠方に住む母方の祖母である穂倉神社宮司の梅に引き取られる。転校初日に同じクラス染井良信(ヨシノ)に声をかけられ、梓は喧嘩を売られるものだと思ったがヨシノはその場で土下座をした。
「僕の父親を一緒に探してください」「僕(梓の)神社の神様なんです」
ヨシノいわく自分は半人半神であり、今は父の代役で神様を勤めているが将来の夢は科学者である。迷信の極地みたいな立場は父に突き返してやりたい、そのために穂倉神社の巫女の梓に協力してほしいと(梓の不幸体質の理由を述べながら脅し半分に)頼み込んだ。

父親探しと何故か舞手になることになった7年に一度の神楽舞の稽古。
探す相手は神様、張り込みに村の伝承を辿ったりと民俗学じみて犬はどこだっぽくもある。

神様パワーとか巫女の不思議パワーを駆使して戦うのかというとまったくそうではなく、科学は正義・釘バットは武器、使用済みトイレのスッポンは恐ろしい拷問道具という仕様。

「なんだよ『ブ』さえなければソメイヨシノでサクラじゃんよ」
「実際問題『ブ』が付いてるんだからサクラじゃありません」
「いちいちつっかかるな。じゃ、チェリー」
「それも余計にあらぬ誤解を招きます! ……いや誤解かどうかは置いといて、ついでに小中高と付けられ続けていたあだ名であることも置いといて、下品です」
男子校みたいなノリで呼び方を考えるのはやめてくださいと続けて、目の前のチェリー神はズリ落ちてきたメガネを押し上げた。

(P75-76)

影詠みの天花 胡蝶の舞と月の記憶/栗原ちひろ(一迅社文庫アイリス)

影詠みの天花 胡蝶の舞と月の記憶 (一迅社文庫アイリス)

舞台:和風(大正時代の日本風別の国)
キーワード:和風 退魔 幼馴染み 幼い恋と約束

天明国につくられた治外法権の人工島にある、遊郭が集う歓楽街「胡蝶街」。ここの遊女は舞を舞うし音楽も奏でる。しかし客はとらない。彼女らは影を封じる巫(かんなぎ)であり、胡蝶街は天明国で最も巫が住まう街である。
影とは55年前から世界各地で見られるようになった異形であり、星が落ちてできた穴が這い出てきたものである。世界で唯一王都で穴が空いた天明国は影への対抗手段が発達した。
血で受け継がれることが判明した巫は国をあげて保護され重要視されることになった。

胡蝶街1の巫の天花は花祭りで7年前の祭以降姿を消した幼馴染みの月長と再会する。

そのまま月長を見つめる勇気はなかったので、池の水面に視線を逃がす。滑らかな水面には、ほろほろと桜の花びらが浮いていた。
花びらの合間に映る月長と天花の姿は、背丈だけでも七年前とはまったく違う。
七年前と同じなのは、二人の背後にかかるまん丸な月だけだ。
静かな月を見ていると徐々に心が鎮まってきて、天花はどうにか月長を見上げた。

(P85)

ウォーターソング/竹岡葉月(コバルト文庫)

ウォーターソング (コバルト文庫)

舞台:地球以外の惑星
キーワード:近未来 欠陥惑星 酸の雨 鉄屑の街 アイアンガール

人類は宇宙に飛び出し惑星を開拓し、第1期移民として多くの人があちこちの惑星に移り住んだ。
ナットもそんな移民の子どもであり、ナットの住む惑星は欠陥住宅ならぬ欠陥惑星だ。
絶賛開発中のエリアに行けば多少はマシなようだが、ナットの住む街では雨季になると強酸の雨が降る。小学生達は宇宙活動もOKで、スクールカラーである黄色の頑丈なスペーススーツを着て学校に通う。雨季のある日小学校に転校してきた少女アサヒととあるクラスと動き。(僕ら降る雨)
転校生アサヒの幼き頃の出来事。ある星系の、災害に見舞われても立ち直りたくましく生きている街の物語。(ウォーターソング)

赤い目をぬぐって、アサヒは僕を睨みつける。そのまま刺し殺されそうな厳しさがあった。
「パパと一緒に、世界中の戦う人たちを見てきた。私もこの戦いはやめない。道行く全ての人に、私の存在刻みつけて生きてやるんだから……!」

(P51)

鳥は星形の庭に降りる(西東天)(講談社X文庫ホワイトハート)

鳥は星形の庭におりる (講談社X文庫—ホワイトハート)

舞台;ファンタジー
キーワード:迷宮 神話が生きている時代 パズル 聡明さゆえに孤立する少女と胡散臭い詩人 

祖母の弔いに故郷アラニビカ島へ向かう貴族一行。その令嬢プルーデンスが大人たちの陰謀に巻き込まれたりする話。アラニビカへ渡るまえに伯爵が雇ったオスカーと名乗る蒼い衣をまとった吟遊詩人が現れた。周りは歌がすばらしいと絶賛するがプルーデンスはその詩人がとても胡散臭いものに感じられる。彼の目的とは何なのか。

数には神々の支配がおよばない。世界を支配した神々といえども、時間を逆戻りすることはできない。また証明された数学の定理や公式を覆すこともできないのだ。
「でも、だからこそ神様は美しい図形や数に魅了されるのですって。お祖母様はこの時の神の神話が大好きで、よく私にお話してくださったわ」

(P75)

海が愛したボニー・ブランシェ/緑川愛彩(ビーズログ文庫)

海が愛したボニー・ブランシェ (B’s‐LOG文庫)

舞台:ファンタジー 海上
キーワード:海賊 修道女 イヤボーン

海賊で異能ものです。
ボニーは両親が亡くなるとほぼ同時期に王命で「ロランの乙女修道会」に放り込まれることとなる。修道院ではほぼ監禁状態であったが父の遺作、軍船メレアグリナ号の進水式のため1ヶ月ぶりに故郷へ戻ることになった。進水式の場でボニーは両親を殺したとされる海賊ファド・ディアス一行に遭遇する。濡れ衣だと主張するファド、ボニーは真実を求めてファド一行に同行することを決めた。

大きく傾いて右の海上にせり出した二本目のマスト。その先にある巨人のマントのような3枚の帆さえなくなれば、風の抵抗が少なくなって、スピードも落ちるし舵取りも楽になる。
深呼吸をしたボニーは、マストの上でうっかり取り落としてしまわないよう、ハンモックで作った鞘をほどき、抜き身のナイフを口にくわえて1歩を踏み出した。

(P71)

キスから始まる召喚魔法/渡瀬桂子(一迅社文庫アイリス)

キスからはじまる契約魔法 少年魔法人形 (一迅社文庫 アイリス わ 1-1)

舞台:ファンタジー+学園
キーワード:学園 ツンデレ×ツンデレ 人形 ピンク髪のロリババア1

ツンデレ不器用少女と長き眠りから覚めた慇懃無礼少年人形の話。
(ちなみに表紙に3人いますが右の人の出番は少ないです。三角関係にもなりません)

レヴィントン校普通科に通うエミリアは優等生だがコミュニケーションが極めて苦手である。
内心はどんなに浮かれていても表情はいつも仏頂面。とっつきにくい人だと思われているためまだ友達はいない。
図書館で秘密の小部屋とそこに置かれていた精巧な人形を見つけて2年。
今日もクラスメイトにうまく挨拶ができなかったと泣き言を漏らし、あらゆるコミュニケーションの練習として物言わぬ人形を目の前に行ってきた。クラスメイトがはじめてキスをしたという話を聞いた日、エミリアはキスも練習しておくべきなんじゃないかと人形とキスをした。すると人形が大事そうに抱えていた拳銃が光り、人形が目を開けた。

それがきっかけでエミリアは普通科から魔法科へ転入することになる。

自分は、宿題も見せてやらないケチと思われたのかもしれない。
もしくは、わずかな不正も見逃さない鬼のごとく厳しい人間と思われたかもしれない。
そう思うと悲しくて悔しくて、気がついたら宿題のノートを相手の眼前に叩きつけていた。
『う、写すならさっさと写しなさいよ! けど、丸写しなんかしたって意味ないんだからっ、次からは自分達でやりなさいよね! こんなの今回だけだからねっ!』
……そんなことを怒鳴ってしまった自分を、今すぐこの手で抹殺したい。

(P26)

ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを(一迅社文庫アイリス)

ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを。 (一迅社文庫 アイリス こ 3-1)

舞台:21世紀にあって中世の生活を守りつつもしれっと最新家電が導入されている森
キーワード:森 魔女 ダンス ネコミミヒーロー 入れ替わり

——これ以上の幸せはないと感じた夜に、子どもを一人不幸にしようと決めた。

14歳のルナを襲った不幸、それは大魔女ベファーナの赤い靴を買ったことにはじまる「赤い靴の呪い」だった。大魔女ベファーナと体を入れ換えられ、21世紀でありながら中世同様の暮らしをしている「魔女の森」に放り出されたルナは、ハードボイルドイエネズミ・ネズチューと元黒猫で今も猫耳が生えたままのベファーナの使い魔ノーチェに迎えられる。
ルナは元の体に戻るべく、森の長老に話を聞きにいくのだが……。

「まったく、がらにもなく早起きしちまったじゃねぇか」
色気を感じさせるため息。
吸ってもいないのに、煙草をくわえているかのような幻覚を見せる態度。
その周囲にだけ、ドラマで見る深夜のバーにも似た独特の雰囲気が漂っている。
「俺は揉め事は嫌いなんだ。喧嘩なら外でしな」
完璧な男前だ。身にまとう空気だけを言うのなら。
だがそこにいたのは、ミニチュアサイズのバズーカ砲を肩に担いだイエネズミで、あまりにもわけのわからない状況に、今度こそ本当に意識を失った。

(P29-30)

宝石姫は微笑まない/本宮ことは(一迅社文庫アイリス)

宝石姫は微笑まない。 (一迅社文庫アイリス)

舞台:ファンタジー
キーワード:亡国の姫 傭兵 任務 

ルディーン王国前国王の娘、この世の宝石と謳われたセラティファーラ(ファーラ)はいずれ来たる日まで生き抜くため、醜い風貌に身を落とし「愚鈍なファーラ」として寒村で暮らしていた。ファーラが宮殿と共に燃え尽き死んだと思われて10年。ある日村を訪れた傭兵が彼女の正体に気がついた。傭兵は彼女の命を奪いにきたのではない。隣国ランディスケリアの王妃でファーラの叔母が彼女の生存を知り迎えをよこしたのだ。
ファーラもまた18の年にかの国に嫁ぐためランディスケリアへ向かう予定だった。
3人はルディーン王国を離れランディスケリアへ向かう。

「ある日突然亡国の姫であると知らされる」とか「お付に守られてひっそりと暮らしていた」とかそういうのじゃなくて、生き延びることを第1目的にして、騎士の指導のもと剣の修行をしていたり、騎士が死んでからは単身愚鈍な娘を演じて宿の下働きをしていたのである。しかしなんだな融通のきかない四角四面コンビというのは萌えるな!

「姫として、女性としての誇りはどうでもいいと言われるのか? そういえば初めてお会いしたあのときも、貴女は襲われる婦女を見捨てようとしていたな。——そうまでして、ご自分の身の安全と楽な道とを選ばれるのか」
「なんとでも」
ファーラは冷ややかな声でダリオンに向かって吐き捨てるように言った。
「わたくしのことをどう思おうと貴方の勝手です。好きになさるがいいわ。……けれど、わたくしが思う姫としての誇りは、貴方が思っているそれとは違う」

(P127)

悪魔のような花婿/松田志乃ぶ(コバルト文庫)

悪魔のような花婿 (コバルト文庫)

舞台:ファンタジー
キーワード:童話のその後 新婚夫婦 ベタ甘 マザーグース

「王子さまとお姫さまは末永く幸せに暮らしました」のその後を書いたような作品。

スプリング男爵家の末娘ジュリエットは畑仕事が好きで、領民からも愛される娘に育った。
本人の資質とは別に「不吉な13番目の子ども」であり生家の財政的にも結婚などは難しいと思われていたが、「悪魔伯爵」と怖れられるバジル家との結婚の話が持ち上がった。

と書くと気難しい家に嫁いでいく娘の話にみえますがまるで違い、夫婦がひたすらいちゃいちゃするのを描いた話です。犬も喰わない夫婦喧嘩に多少のトラブルさえも予定調和の中。
夫婦の夜の営みを邪魔する呪いがあるのですが、まあその辺はコバルトなのでどうせ描かれないしそれ以上に恥ずかしい少女漫画的展開に溢れているので問題はない。
「障害のない恋愛などまったくもって萌えない」という方には断じて薦められないぐらいにはこの上なく甘い、邪魔者が存在しない物語。ベタ甘ラブコメというと有川浩作品が思い浮かびますが、あれとはまた違う甘さです。

「ジュリエットさまと大人のキスをしないかな? そしたら、すぐむらむらして変身するぞ」
「すぐむらむらしちゃうもんな、ウィリアムさまは」
「むらむら伯爵だもんな、ウィリアムさまは」
へんなあだ名をつけられている。
会話の内容はウィリアムの耳にも届いていたが、おおらかな彼は子どもたちの無礼を叱ろうとはしない。のんびり笑っているだけである。

(P126)
  1. ただし口調に限る []