少年巫子姫と龍の守り人 (一迅社文庫アイリス か 1-2)

舞台となるのは大正後期の帝都東京。

イツキは「禍を呼ぶ忌むべきもの」として幼い頃からずっと1人で御霊島で過ごしてきたが、ある日九鬼と名乗る男が訪ねてくる。彼は自分は八神家の守り人だと名乗り「イツキは八神依月という名前の八神公爵家当主の甥」「美月という双子の姉がおり、妖魔に襲われ瀕死であること」「依月は男だけど、巫子姫である美月の身代わりをして欲しい」と言う。イツキは自分を必要としてくれたことを喜び島を出て帝都へ向かう。

帯のアオリ文いわく「女装巫子×主従大正ロマン」です。
読んで連想したのは高殿円「バルビザンデの宝冠」と時雨沢恵一「アリソン2」でした。主従成分的には「素直なアルとマウリシオ」という脳内設定でした。というのも依月から性別の匂いがまるでしないのです。
確かに「少年が女装する」なんだけど、喋り方とか雰囲気は「女ではないけど、男でもない」ていう感じを受けました。かといってバカテスの「性別:秀吉」みたいな第3の性別でもなくて「性別:なし」が一番しっくり来る。八神の巫子姫は未来を読んだりするので「それ、高殿円のヘスペリアン(性別のないもの)じゃね?」っていう結論に至った。

「何かこれは読んだほうがいい気がする……」と読んでみたら思ってたよりおもしろかったです。
街のきらびやかな描写と、一皮剥いたら薄暗い感じの描写にときめく。
依月と九鬼の主従ロマンは大変美味しくいただきました。
妖魔退治のターンとか鵺とか出てきたので封殺鬼を思い出しました。ちょうどルルル封殺鬼なら似たような時間軸。こちらの攻撃手段は祝詞とか祓いとかでした。猫屋敷じゃなくてみかんだね!

しかし終わりが近づいてくるにつれてなんだか妙な感じになってくるんですね。「本物の巫子姫になって九鬼とずっと一緒にいたい」と九鬼に告げるとか「姉が目覚めたら身代わりの自分はいらない。このぬくもりは失うことになる」とか、ドレスで踊ったりとか。九鬼は九鬼で、「理想的な巫子姫として自分で1から育てた彼を、命令とはいえ殺すことが出来るのか」と悩んだり、そんなせつなくて美味しいシチュエーションが用意されているのになんで依月は女じゃないんだよー! と叫んだ。1

美月は話に全面的に関わってくるけどほぼ退場しているようなもので、「八神美月」というひとについては冒頭シーンとあとは会話の中から類推することしかできないんですが「高飛車で自分勝手なところ」が冒頭から中盤にかけて多く出てくるので、もうちょっと早いうちにフォローが欲しかったなと思います。2 恋の味を知って、巫子姫としての義務を果たしつつ恋がしたい自由が欲しい、でも……! とか冒頭のあのシーンに繋がる葛藤のシーンがあったら超美味しくないですか。それ凄い好物です。メインが依月である以上無理なんだけど。

本宮ことはさんの日記で「アイリスで使う紙は薄くてスリムな文庫だったけど、諸事情で厚い紙を使う事になりました」って知りました。創刊以降でアイリス作品で買ったのって4冊だけだしそんな影響ないだろうと思ってたんですが、手がアイリスの厚みを覚えててすごく違和感を覚えた。
紙1枚の厚みなめてた。同じアイリスでもこれページ数同じなんだぜ

  1. 依月を男として認識してなかったのでニアホモには該当しなかった。 []
  2. 貴重な女の子なんだし! []