タグ「 柚木麻子 」の記事

9件の投稿

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

バリキャリの栄利子、専業主婦の翔子。
翔子はおひょうというハンドルネームでブログを書いている。主婦主婦してない、相当適当な家事なのに不思議と生活感がある、と栄利子は思っている。ブログに書かれている内容から「おひょう」はこの付近に住んでいる人なんだろうなと思っていたら、カフェで「ブログの書籍化の話で」と打ち合わせをしている人たちを見かけた。彼女が「おひょう」だ。

ものすごく怖い話だ。なんせストーカーだ。自分がストーカーだと認識していない類のストーカーだ。あと距離の取り方がおかしい。一度あったら友達で毎日会ったら兄弟だを地でいく。神とたまたま接点ができてしまったために加速しておかしくなる感じ。ネットで出す個人情報割れにつながるものはまじで気をつけようと思った。(最近ではガラスケースの映り込みでほとんど顔バレしている人を見てしまった)
「友達」をめぐる気持ち悪い話なんだけどどういう着地をするのか気になって読まずにはいられなかった……。

自分が断じてストーカーではない。ストーカーとはもっと孤独で世間に認められない人間がなるものだ。他者への思いやりや想像力に欠ける人間がなるものだ。それを分かってもらうためなら、多少翔子を驚かせることになっても、構わない。

(P73)

とにかく、おひょうを元に戻さないといけない。これ以上、自分のように傷つく人間を増やさないためにも、再び読者を共感させるブログを書かさなければならない。友人として、いやここまで彼女を育ててやった読者として当然の要求だ。自分は断じて、おひょうの敵などではない。誰よりもおひょうを思う熱心なファンなのだ。だからおひょうが耳を傾けるのは自分の言葉であるべきなのだ。

(P149)

ランチのアッコちゃん

あまからカルテットを想定してたらあれよりはるかにライトだった。
三智子はひょんなことからアッコ女史こと黒川部長にお弁当を作りその代わりに黒川部長行きつけのランチを食べに外に行くという。短編で、全部アッコ女史と三智子の話かといえばそうでもなく共通して「寄り添う話」ではあるんだけど、ポトフの話をずっと読みたかった。
ゆとりのビアガーデンはタイトルで「ゆったりしたビアガーデンでの一幕」とおもいきやゆとりってそっちのゆとりなの!?ってなった。

伊藤くん  A to E

私が語りはじめた彼はみたいな感じで、伊藤くんというきっと何者にもなれない系クズに振り回される女性の話。
そんな男と女の話で好きなのは聡子と実希の話です。
男を切らしたことがない割に好きなのは実希といる時間な聡子とさばさばしていたと思ったら重たい系だった実希な。百合な……。
ふふーんと読んできたら伊藤くんEでちらりとみえる伊藤くんの内面が重くて重くて死ぬ!!!! っておもった。不意打ち鈍器だった……。

王妃の帰還

女子校で中学生でスクールカースト。
終点のあの子よりもうちょっと生々しい気がする。ガチに派閥とか女王とか。
上位グループはどれだけ大声ではしゃいでもいいとか、なんだか懐かしくなる。
突然百合百合しはじめるし15歳ならではとてつもない重さがあってよいものでした。

あまからカルテット

日常の謎といえなくもない感じの、恋愛とかも含まれる仲良し4人組の女性の話。
ピアノ講師の咲子、雄雄しい編集者の薫子、平凡なようで鋭い味覚を持つ専業主婦の由香子、美人でやや高飛車な美容部員の満里子。それぞれが主人公の話と群像劇が1篇。
相変わらず食べているものがおいしそうでやばい。由香子の話の中で出てきた甘食は、以前旅行のときに関東の友人が「これ食べたことないだろうと思って!」って持ってきてくれました。「甘食」というのははじめてみました。ああいう形状のものはこちらでは「帽子パン」と呼ばれているのだ。
食べるラー油も1回も食べたことないので、味が想像できない。

「グルーポンのスカスカおせち」にふいた。

嘆きの美女

耶居子は新卒入社した会社もアルバイトも続かずヒキニート生活をしていた。生活のお供はジャンクフード/ヲチ板/ブログの荒らしと粘着/写真から個人情報を特定/通報・炎上・ブログ閉鎖に追い込むことという、すごく駄目人間だった。

今の玩具は「嘆きの美女」というお悩み相談コミュニティだった。耶居子はあれこれと駆使するがここの住人は煽り耐性が高すぎる。ならば「自称美女」の写真を晒し上げてやろうではないかとオフ会会場(ケーキ屋前)でカメラ片手に潜んだが、驚いたことに本当に美女ばかりのオフ会だった。
そしてオフ会参加者のひとり、ユリエのストーカーともみ合いになり乗用車にはねられ入院した。

退院後の耶居子は「嘆きの美女」オフ会参加者が同居している家で療養していた。あのコミュニティの管理人は小学校のときの友達で、休職中の看護師もいるこの家で是非とも療養をかねて御礼がしたい、と耶居子の母親に頼み込んだ。この家の住人は早寝早起き・健康な食事・適度な運動という健康的な生活をしており、外見も中身もブスだった耶居子は多少美人になる。攻撃的過ぎた生活も多少マシになった。
やっぱり陰険でひがみっぽいところもあるが魅力的な女性にはなる。

「終点のあの子」の奥沢エイジも登場する。
朱里はもう大学生になっていて、エイジの話の中に登場するけど本人は出てこない。

耶居子はこのあとフードコーディネーターの道へ進む。ジャンクフードを再現していくのだがでっかいコアラのマーチとかまじ美味そうで死ぬ。これに限らず食べ物の描写の「美味そうな感じ」がもう本当に半端ない。
「耶居子のごはん日記」は深夜に読むのはお腹と体重へのテロでしかなかった。

上等な土鍋の中には澄んだおつゆと、つやつやの白いうどん。とろんとした卵、かまぼこ、椎茸、ほうれんそう、焼き目のついた餅、ネギ、そしえぶっとい海老天が沈んでいて、いまにもほかほかと湯気が上がってきそう。

(P245)

終点のあの子

思ったよりびっくりするほどスクールカーストの話。
世田谷の私立お嬢様高校の普通グループの希代子は、外部からの編入生で有名カメラマンの父を持つ朱里と仲良くなる。朱里があまりに自由で、休みも多いのに先生には愛されてどこのグループにもまんべんなく付き合って、自分に正直なところに羨望を抱いていたが日記を盗み見したところからやがて嫉妬や怒りが沸いてくる。
クラスを扇動してクラス1の派手系女子も動かして朱里をいじめる。それも長くは続かなかった。
そういう話「フォーゲットミー、ノットブルー」からはじまる。

1番好きなのは「二人でいるのに無言で読書」である。
フォーゲットミー、ノットブルーにも出てくる派手系女子恭子の話。夏休みだというのに彼氏とも別れて店の手伝いもせず一人暇つぶしのため図書館にぶらぶらいってみたらクラスの地味女子「ウィンナー指」早智子と出会う。
恭子は本なんか読まないけど早智子の「本の話」は好きだという。早智子は「本は好きだ。恭子とは話は合わないけど綺麗。」というふたりが頭をつき合わせて無言で本を読み、時々本の話をして、ごはんを食べて一緒にいるという。恭子は人の目がすごく気になって、早智子は周りのことには割と無関心で、でも恭子といる時間は楽しいなあと思っている。
クラスの上位グループの女帝とオタクグループに潜む地味女子。その出会いにはじまる夏休みの話。

柚木麻子の単著を読むのはこれが初めてだけど、心理描写がすごくいい。
2学期デビューのため禁止されているバイトをするとか、自分以外の女子は皆普通とか、ここまで堕ちてくればいいとか、10代女子の自意識とか劣等感とか嫉妬とかたまらないな。まじ美味だな。

あのころの、 (実業之日本社文庫)

窪 美澄,瀧羽 麻子,吉野万理子,加藤千恵,彩瀬まる,柚木麻子による女子高生青春アンソロジー。
女子高生ですが当人的にはほとんど恋愛は関わってこなくて、むしろ百合百合である。
高校卒業したらもうこんな風に一緒にいられないとか、たくさんの時間と出来事を共有しているのに同じものを見ていないとか、一緒に東京へ行こうとか、女子校で女の子にキャーキャーいう感覚。焦燥感に絶望感、ともだち。
百合ですよって言うのは単に女の子同士がキャッキャウフフしているだけに留まらずキスまではするからです。でも性的な百合はないよ。
アンソロだったら割と当たり外れがあったりもするんですが、これは割とどれも面白い。
で特に好きなのは加藤千恵「耳の中の水」 彩瀬まる「傘下の花」 柚木麻子「終わりを待つ季節」
要するに百合百合してるやつです!
「耳の中の水」は仲良しグループのかなめから「好きな人ができた」と告白され、きゃあきゃあいいながら協力しかなめは無事彼氏ができた。のはいいのだけど四人は段々すれ違ってきたように思う。高校2年生、進級したくないようずっとここでいたいようという話。
「傘下の花」は転勤族の母に連れられやってきた長野県での話。標準語の私・訛ってる周り。馴染めない。
そして出会ったのが老舗の和菓子屋の一人娘だった。
「終わりを待つ季節」は大学推薦をとって私の選択はこれで間違ってなかったんだろうかエスカレーターではなく外に出るべきではなかったのかと悩み、ひょんなことから学年1の人気者と仲良くなる話。

「約束は今も届かなくて」は鷺沢萠さんのことが出てきてドキッとした。訃報を目にしたのも今ぐらいの季節だったなあ。ぐぐったら4月11日、もう8年前のことでまだ35歳だった。

「でも、女の子も怖いよね。みんなさあ、子供です、無邪気ですって顔しているんだけど、体はもうバッチリ大人なんだよね。男が欲しくてうずうずしているんだよ。私はいわば男の代替品。もみの木の代わりのヒマラヤ杉、ホットケーキミックスで作るお菓子、口紅じゃなくて色つきリップクリームってとこ」

(P256)

文芸あねもね (新潮文庫)

電子書籍版も買ったけど紙も買ったよ。ちょこちょこ読んでいたけどはからずも今日読み終わった。
彩瀬まる,蛭田亜紗子, 三日月拓, 南綾子, 豊島ミホ,宮木あや子,山内マリコ,山本文緒,柚木麻子,吉川トリコの10名による小説集。
最初は東日本大震災復興チャリティとして売上100%を寄付する目的で電子書籍として販売された同人誌でした。「女のためのR-18文学賞」界隈の人が集まって、特に固定テーマは決めず好きなものを、固定ファンがいる人は固定ファンが喜んでくれるものを、そこの段階にいたってない人は新しい読者を獲得する気概でということで書かれたそうだ。この辺は巻末に紙書籍版のおまけとして制作のバックステージが一部公開されている。

「新しい読者を獲得する気概で」の通りこの人のほかの作品読んでみたいなあと思うのが多くてすごい。
柚木麻子は元々読もうと思ってて、南綾子は今積んでる幻冬舎文庫のアンソロに参加してて、蛭田亜紗子はデビュー作をチラッと読んだことがある。
「川田伸子の少し特異なやりくち」はすごかった。俺妹の黒猫があのまま30歳になったらこうなるのかなという感じだった。なんか刺さった! やめて! とか思いながら読んだ。同じささりっぷりは「ばばあのば」にもあった。

「あんた今、男いないだろう? でもそのうち適当に暮らしとれば出会いがあって、彼氏ができて、遅くとも三十五歳ぐらいまでには結婚できると思っとるんだろう?」

(P327)

これがなんかえらい衝撃で、衝撃っていうことは私心の底では結婚したいって思ってるのかなあ、いやでもその次はなんとも思わんなあ、なんやねんと思いつつ椅子に座ってぐるぐる回っていた1。そういえば10代半ばの頃には「25歳の頃には子どもはいなくても結婚ぐらいはしてる」って思ってたよなあ、ということを思い出した。そんなの幻想だって知るまでにそう時間はかからなかったけど。「ばばあのば」はどのぐらい実話なんやろと思った。
「私にふさわしいホテル」は文豪コールにいたるまでに笑った。あねもねの中ではこの3作がとても好きです。

エッセイの文庫落ちはあれどリテイクシックスティーン以降休業状態が続いている豊島ミホさんの新作が読めるのは今のところこれだけです。

ということで今度はこれを読もうと思います。

暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出

  1. ばばあのばは職場で読んでいた。土曜日だから人が少なかったので部屋を移動しなくてもよかった []
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