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夜を乗り越える(小学館よしもと新書)

想定以上に攻撃力が高かった……。小説のほうはまるで読んでなくて第2図書係補佐とかは読んでる。
2章の「創作について」と3章の「なぜ本を読むのか」がすごくよかった。

僕が本を読んでいて、おもしろいなあ、この瞬間だなあと思うのは、普段からなんとなく感じている細かい感覚や自分の中で曖昧模糊としていた感情を、文章で的確に表現された時です。自分の感覚の確認。つまり共感です。
わかっていることことを分かっている言葉で書かれていても、あまり共感はしません。(略)自分の中で散らかっていた感情を整理できる。複雑でどうしようもなかった感情や感覚を、形の合う言葉という箱に一旦しまうことができる。

(P114)

これをやっていったのがこちらになります。

僕は僕の好きな小説を、みんなが読んで、一緒に夢中になれたらいいなと思っています。一方で、これが売れなかったらおかしいだろともまったく思いません。僕は面白いものが読めて幸せだし、今後も読み続けていきたいので、素晴らしい才能の作家さん達が自分の創作活動に手ごたえを感じて頂けるように読者として「これはおもしろいのだ」と全力で言い続けたいというスタンスです。

(P96)

何を想定していたかというとはいとあるアイドルですね。
colorful | S+h(スプラッシュ)デビュー1周年おめでとう!
それな! めっちゃそれな!!! というしかない「首がもげるほど同意」というあれに出会えた瞬間というのはすげーな!!って思うのよ。
かといって「自分は下手だしほかの人も書いてるからいいや」っていうのも嫌で自分が書きたいことは自分にしかないからできるだけ手は尽くしたいぞ。色んなことに対してこうかこうか? と考えてはいるけどうまいこと言語化できてる気がしないときはあるけど、それはそれだ。

本を読むことについてもまたそんなかんじでたくさんあったんですけどいちいち引用しきれないので、読みながら「それな」ボタンがとてもほしかった。攻撃力高いけど読むのもやめられなかった。そんな本でした。よかったぞ!

おいしいベランダ。 午前1時のお隣ごはん (富士見L文庫)

いとこが海外転勤が決まった。「期限付きの転勤だし家具はおいていきたいし引き払うのはもったいないいい物件だから維持したい。ついては大学進学にあたってここに住まないか」と持ち掛けられまもりは一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めるうえで両親とした約束のひとつに「ちゃんと野菜を食べる」というものがある。小学生じゃないと言い放ったものの今日も冷蔵庫で野菜が腐っているところを発見した。

そんな感じではじまるベランダ菜園で料理もの、社畜あがりのフリーのデザイナーと女子大生の話。

ひょんなことからお近づきになった男子に料理をふるまわれる話って乙女ゲーを除けばもしかすると植物図鑑以来な気がするけどあれほど恋愛恋愛はしていない。流れている雰囲気、特に前半〜中盤は過去作の東方ウィッチクラフト?垣根の上の人を思い出す感じ。
かつて東方魔女を読んでいたコバルト育ちの皆さんこれは買いですよ!!!(めっちゃ大声で)(派手マ)
「いっしょのご飯を食べるふたりと、近づく関係、形を変える呼び名」その響きにきゅんとなった人ももれなく読むのださあさあ。
おすすめです。

チョコレート・コンフュージョン (メディアワークス文庫)

すれ違いに次ぐすれ違いラブコメ。凶悪な外見ド天然(35歳)×大人ぶりたい乙女(27歳)

龍生は鋭い目つきと凶悪な人相と、噂が独り歩きして背びれに尾ひれについた結果殺し屋と称されており、恋愛はおろかバレンタインなど無縁で生きていた。海外事業部の千紗は自分にも笑顔で接してくれているので憧れは抱いている。
それがバレンタインの夜、千紗がヒール部分を折って龍生がこれを使ってくださいとスリッパを差し出し、千紗はお礼を兼ねた物々交換でチョコレートを渡したことに始まる。

アラサーの恋愛で交換日記と除菌スプレーが飛び交うんですけど、いい意味でばかばかしい。
すれ違いと思い込みと誤解は華やなあと思います。とても王道のラブコメです。
千紗と後輩の桃原の関係がこれtwitterで見かけるやつやーーーっていうやつだった。どことも後輩指導は大変やなあ……。妙なリアル感。
あとほんとうにゆとりはほしい。大事だ。

卯ノ花さんちのおいしい食卓 (集英社オレンジ文庫)

施設育ち、勤め先の工場は突然閉鎖され古いながらも自分の居場所だったアパートは全焼した。
大家の口添えがあって若葉は「薔薇屋敷」と呼ばれる近所の卯の花一家に身を寄せることになった。

表紙と1話から受ける感覚とはまるで違った方向に進むので家族になろうよ系ホームコメディを期待して読むのはやめたほうがいい系。良くも悪くも表紙詐欺では……。
表紙の4人のバックグラウンドの物語に終始します。「ラノベの1巻1」っていう感じです。かなりファンタジーです。
貧乏描写が堂に入っていてすごかった。
あと戸籍上は兄妹になっても今回みたいなまったく血のつながりのないケースは結婚はできるんじゃないのかと……
左のふたり、朱璃と凪の出会いの話は人外BLのような匂いがしたので普段はBL畑の人2なのかもしれないと思いました。

  1. 登場人物の紹介と背景の説明に1冊使う感じ []
  2. 著者略歴によれば「別名義で著作多数」とのこと []

Roman  冬の朝と聖なる夜を廻る君の物語 (上)

告知の時点で豪快に転がったRomanのノベライズです。左さんのHiverを公式として拝める2016年素晴らしい。
上巻に収録されているのは朝夜、風車、腕、革紐、宝石、屋根裏Romanです。あとNoel。
SH楽曲のノベライズ・コミカライズも随分増えましたが、原作サイド1による監修が入っているわけでも訂正が入るわけでもなく、「自由にやってください、解釈はおまかせします」ということになっています。だからこそというか、屋根裏ロマンが読めると思わなかった……。

曲は断然朝夜・腕・宝石なんだけど、革紐と腕がすごいよかった。腕はそこで天秤とつなげるのかとわくわくした。
10年前に出たアルバムに今も首ったけだって思わないだろうよ。

  1. うちの王様 []

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)

普段はBL畑の人の多分初の? 一般向け作品。
2025年夏、17歳の明日子・日々人のもとに突如現れたいとこの今日子。彼女は火事に巻き込まれたことで全身に火傷を負い生死の境をさまよった。
その、さまよった期間は実に28年、冷凍睡眠で眠っていた彼女は夜眠って朝目覚めたままの17歳で止まっている。1年半リハビリをしてついに社会に出ることになった。
影の濃い真夏の、3人の17歳の話。

今日子はミスチルのシーソーゲームが新曲としてラジオに流れていた時に17歳に巻き込まれ、そのまま年を重ねれば47歳だった。リテイク・シックスティーンは2009年から1997年にやってきた女子高生だったけど、今日子は未来の世界に来てしまった。未来と言っても別に車がチューブの中を走るわけでもなく、温暖化は相変わらず叫ばれていて、東京タワーは変わらずそこにあって、でも自分が愛したCDも、MDも、ゲームも、漫画も、自分が知っているものと違うもの、よく似ているはずなのに別のものであふれていた。
夏が舞台の話は情緒があっていい。

「また夏休みがいいな」
「うん、もっと暑くなってても、ジャングルになってても、砂漠になってても、そんなこと関係なく一緒に遊ぼう」
 もっと大きな塔が東京に建っていても。明かりを灯し始めた東京タワーがなくなっていても」
「うん、絶対」
と今日子が答えた。

(P236)

ブックマートの金狼

カッコいい男を描こうというコンセプトの新レーベル。表紙はこれ4分の3帯で海外文学系の装丁みたいでかっこいい。
まあ神様のメモ帳方向の杉井光なんですけど、ヘタレではない。昼行燈ぽい感じはあるんですけどそれよりかは童顔の人が伊達眼鏡をかける感じの装いが近い。

かつては裏の世界に足を突っ込んで気の合う仲間とチームを組んで喧嘩に明け暮れたり金を稼いだりして、そっちの世界では名の知れた掃除屋で感覚は鈍ってないし心身のどこかが欠損しているわけでもない。
でも今は書店の店長をしていて、童顔がたたってバイトにもなめられていて、という感じだけどとびかかってきた男の腕は慣れた感じで関節を外す。
昔馴染みのやくざに頼まれてアイドルのストーカー対策に乗り出すことになる。
頭が悪いけどやたらとノリのいいチンピラは健在。ナオト(店長)よりレイジ(ナオトの昔の仲間)がいい。
神メモの1巻を読んだときの感じとか近いなあって思った。

皮肉を呑みこんで、俺も段ボール箱のひとつに取り掛かる。やけに重たい。テープをはがして開いてみると、色とりどりの紙が折りたたまれてぎっしり詰め込まれていた。折り込みチラシでも保管しているのかと思って何枚か抜き取って開いてみると、それは便箋だった。どれも、きらきらした丸文字できらきらした文章がつづられている。
『ことみん愛してる』
『おかげで受験頑張る勇気が出ました』
『新曲最高! ライブぜったい行きます』
『全財産かけて一生推す』
『ことみんにあえてよかった、生まれてきてくれてありがとう』
 一読しただけで息が詰まり、俺は便箋を箱に突っ込んだ。

(P111〜112)

ここでうっかりなっちゃんとか玲ちゃんに送ったファンレターは今どうなってるんだろうなあってふと思いました。現実味のある話をすると「一定期間保管後に個人情報後保護のためシュレッダー」処理になってても不思議じゃないと思うんだけど、どこかに残っていればいいなあって思うし、あわよくば次元の裂け目に飛び込んでいるといいなあと思う。陛下宛はどうかなあ。一番古いのは何人かで組んでアルバム形式で送ったから残ってたら段ボールの中かなあ。100本の薔薇は重かった。

ゆきうさぎのお品書き 6時20分の肉じゃが (集英社オレンジ文庫)

貧血で倒れた女子大生の碧は目を覚ますと小料理屋の一角に寝かされていた。この小料理屋を営む大樹と、バイトをすることになった碧とその周辺の人々の話。

小料理屋と聞いてラ・パマルとか香菜里屋をちょっと期待して読んでみたら、小料理屋ゆきうさぎに集まってくる人々の悩みの提示とその解決という感じで、ほっこりライト文芸あるあるの1冊。序章は大樹と意味深な野良猫ではじまったから大樹と猫と碧の話なのかと思えばずっと碧のターンだった。

還るマルドールの月 The Return of the Mardore Moon (コバルト文庫)

最近はいろんな方面で「2016年だよ!?」というようなことがあるんですが、野梨原花南の新刊がコバルトで出るというのもなかなかすごい。

没落貴族のダリアードは爵位と引き換えに元敵国の警部と結婚することになった。怪盗が犯行予告をしている宝石の警備のためだ。恋に落ちたらもうお祭り騒ぎだし情報を探すためにはいろんなところに行ってしまうぜという話。

わたしこれを読んで古い野梨原花南読者にこれどう? これどう? って言って回りました。というのもすごい雰囲気が懐かしいんですよ。これは確かにコバルトの野梨原花南だ! って思った。

「世の人があきれかえって、笑って、そしてあなたが泥まみれで死んだとしても、だとしても人がしたいように生きるというのは、人生を思うさま謳歌するというのは、とても素晴らしいことです。大切なのは、したいと思ってそれをする今であって、何も決まっていない未来ではないのです。けれど忘れないでダリアード様」
イズーデはダリアードの手を。両手で包んで強く握った。
「この手は、愛を掴んで抱き締める手です。糞で汚してはなりません」

(P57~58)

この辺がもう北でオニキスとクラスターが殴り合いしていたこととか、ポムグラとか比較的古い野梨原作品がぶわーと流れ出てきて猛烈に涙腺パンチされていた。最近火村さんのドラマやっているせいか10代の思春期女子が非常に活発です。yes10代のわたしにとって火村さんが結婚したい相手で野梨原花南作品は神だった。
恋って素敵だ!!! と10代のわたしがきらきらした目で叫ぶよ。ジオとダイヤの物語を読んだ日にはいつだってそうだったよ。
たくさんのいろいろをありがとうございます。

晴追町には、ひまりさんがいる。 はじまりの春は犬を連れた人妻と (講談社タイガ)

タイガ創刊したはいいもののひまりさんはどこへいっても在庫がなくてこの前ようやく見つけた。
大学生の春近は幼稚園の頃からさかのぼってもずっと決まって好きになる相手は人妻だった。眠れない冬の夜、公園に散歩に出かけて人妻のひまりさんとサモエド犬の有海さんと出会う。
「今日は○○の日です」と恋と日常の謎ミステリ。

3話がすごく良くて、好きで好きでたまらなくなると、あとは飽和してしぼんでいくだけでしょうと語る大学の友達の彼女の話がとても刺さる。

あんなに大好きで、憧れていて、胸をときめかせていたのに、いつからその想いは薄れて消えていったのだろう。
好きでたまらないものへ一途に向けられていた情熱がさめてしまうことは、あたりまえにあることなのだ。
決して、薄情とか移り気というわけではなく、生活してゆく中で、ごく自然に、あたりまえに、それは残酷な事実で。

(P189)

薄れたり壊れたりするかもしれないけど百年分の幸せのために唇を合わせるんだっていうあれな。

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