影詠みの天花 胡蝶の舞と月の記憶 (一迅社文庫アイリス)

大正時代の日本っぽい感じの別の国の和風ファンタジーです。退魔ものですが陰陽師方面ではなく異能系っぽい。
封殺鬼かオーラバかといわれれば初期オーラバです。古い例えです。あとアンゲルゼが同じカテゴリに入ってる。

55年前、西の大陸の沙漠を皮切りに世界各地で星が落ち穴が空いた。穴からは後に《影》と呼ばれる、人の強い感情を好み心を喰う異形が這い出した。世界で唯一人口密集地で穴が空いた天明国では影の対抗手段が発達し、影を破壊する能力は血で受け継がれることが分かり、巫と呼ばれ重要視された。

物語の舞台は天明国につくられた治外法権の人工島にある、遊郭が集う歓楽街「胡蝶街」。胡蝶街の遊女は舞を舞うし音楽も奏でる。しかし客はとらない。彼女らは影を封じる巫(かんなぎ)であり、胡蝶街は天明国で最も巫が住まう街なのだ。

胡蝶街一の巫と名高い少女天花は、花祭りで7年前の祭りの時姿を消した幼馴染みの月長と再会する。
同じ頃大陸からやってきた影にとり憑かれているという皇子の護衛を依頼されることになるのだが……。

物腰穏やか系敬語眼鏡もえ(ろくでもない発言だ)
幼馴染みの恋はいいなあ! 再会を喜ぶとか幼き日の恋心に幼い願いとか狂おしい燃えるような恋とか。
天花と月長の会話あれこれが、なんでもない普通の会話なのになんかしんみりしてきてせつない。
端的にいうときゅんきゅん! なのである。7年前の天花の願いとかもろきゅんきゅんなのである。

あらすじ的には「開幕」なのでシリーズなのだろうか。
アイリスは一冊完結が多いしこれはこれでおいしく完結しているのでこれで完結でもいい。
ああでもヴィートさんについてはもうちょっと詳しく! と思う。

長い長い時を経て残った美しい壷をこの手にしたとき、わたしはその壷の見た目と同時に、壷が愛されてきた時間の長さを思うんですよ。ほんのわずかな修復の痕や、作り直された箱。そういうものは傷ではなくて、美の一部です。愛された時間ぶんの美しさが加わって、この壷はなおさら美しくなった——そう思うと、わたしは本当に嬉しくて、嬉しくて、たまらなくなる。

(P90)