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武道館既読者でyoutubeの筆者インタビューを見ていたらこれは面白そうだなあと思って買った。
主な登場人物は3人。
久保田慶彦(47)アイドルグループの運営に関わることになった。澄香の父。
武藤澄香(19)内向的な女子大学生。自分の性格に嫌気がさしているところにとあるアイドルと出会う。
隈川絢子(35)契約社員。舞台俳優を熱心に推していた。

推し活ビジネスを構築する者、推し活ズブズブの者、かつてズブズブだった者、という雰囲気に惹かれて読んでいたものの途中から「もしかしたら隣のタイムラインであったかも」「自分の身に降りかかっていたかも」と思う生々しさ。

まとまりがない感想を書いたが、今出力できる感想を書いたらこうなった。恐ろしい本を読んだ(面白い本です。CDやカレンダーやチケットをガンガン積んだりする趣味がある人におすすめです)

絢子周りが本当に怖かった。俳優の三浦さんの話をしているのかなと思った。ある程度長い間Twitterやってる人間はハッシュタグデモやってるところ見たことの一度や二度あるだろう。そしてわたしは割と最近に近親者を亡くしてグリーフケアの本に手を伸ばした。

オタクと話してるときってその人の職業とか家族構成とかどうでもいいし、年齢も本名も気にならないからさ。必要な情報って、どの界隈で誰担か、くらいだし

(P151)

わかるわー。
あと陰謀論ってほんまこのぐらいある日突然に、つけこみやすいところを狙ってくるんかって思う。

いやこれはフィクションやし、創作やけど「心の拠り所だった神のような存在がよく分からないままに突然この世を去って、朝も夜もないような状態で一人過ごし、かつて同じ時間を長く過ごしていた人が久しぶりに訪ねてくる」そしてその人が連れてきて、ある程度の時間を一緒に過ごした後、ある日突然に「私は新型コロナウィルスがきっかけだった」って滔々と「この世界の真実」について話し始めたとして、私はその人をちゃんと拒絶できるだろうかって考える。絶対受け入れてはいけない。youtubeならアプリを落としてしまえばそれで終わる。でも対面である。3人でいるのである。そして絢子は。

澄香もわかる。わたしは2次元だったけど10年ちょっと前はオーディションにずぶずぶだった。デビューさせたいってTwitterで選挙活動をしていた。慶彦はこれからわたしが行く道を歩いている。誰のことも「この感情わかる」と思いながら読んだ。こんなヤバい本なんで朝井リョウは書けるのか??? と思いながら読んだ。劇薬みたいな本なので、1章というか1視点ごとで切って読んだりしていた。
ひとりがわーーーって話してる横で、自分はひとりでちょっとパニックになっている、みたいなシーンがちょいちょいあるけど、わたしはその場所が見えるような気がした。聞こえているけど聞こえないふりをしている、今更そんなことを言われなくてもわかっているみたいな。
あの寄る辺ない感じがなんでこんなにもビジュアル化されているのかと思う(※文字なのでビジュアルはない)

読みながら、「こわい」「それはだめだ」「こわい」と言いながら読んだ。
CDをいっぱい買ったり「この界隈の人はみんなやさしい」「みんなでがんばろうね」とかいうのが普通になっている人たちにはちょっと読んでほしい本だった。いや「これが推し活の真実だ」みたいなことをいうわけではなく「中毒症状があるほうが苦しくないのだ、人生は」も正しいと思うし、「幻覚を守るためには強い物語が必要」もそう。わかりみが強すぎる本なんだ。人によっては劇薬。
すごい勢いで「エコーチェンバー」「フィルターバブル」ってこういうことなんかと思う本だった。
これが日経新聞で連載されていたのも驚きだ。すごい本を読んだ。