カテゴリー「 一般文庫 」の記事

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日常の謎系ミステリ短編集。
荻窪のカフェ「アンブル」に集う作家と古本屋と同人誌の主宰、あと編集者。
ここでは「コージーボーイズの集い」が時折開催される。趣旨はお茶とケーキを囲んでミステリの話、掟は作品の悪口は大いに、人間の悪口は言ってはならない(※なお後者は時折破られる)
その場で「ああ、そういえばねこんなことが……」と謎が提示される。ああでもないこうでもないと言っているうちに店主も「恐縮ですが」と自説を述べる。
「アッと驚くような」展開はないが、ほのぼのとした雰囲気で読みやすくコージーボーイズの集いの席に座っているような気分になる。

物珍しいのは各短編終わりであとがきのような「本作の源泉」が語られる。なので制作秘話が好きな人は「おっいいね」と思うだろうし「作者の顔が頻繁にちらつく作品はちょっと」という人は避けられたほうがいいと思う。

カクヨムネクスト連載作品。

異世界に召喚され勇者となった高校生は魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらしました。めでたしめでたし。
の、あとの物語。

京都の弁当屋で働くひばりはアジフライ弁当ばかり買って帰る伊吹と恋に落ちた。長い遠距離恋愛、1度や2度ではないドタキャンを乗り越えてようやく結婚に至りひばりは東京に引っ越した。
とても忙しいらしい伊吹はちょいちょい同僚を連れて帰ってくる。それもいきなり連絡がきて、慌てて客用の食事を用意する。
そして連れてくるのは異国の名前で、日本人ではありえない容姿の人ばかりだ。

そしてひばりは伊吹が忘れたお弁当を届けにいった先で知った。
夫の勤め先「MKL」の正式名称はランズエンド多国籍騎士団。高校生の時留年したのは異世界で勇者をやっていたから。異世界から帰還して自動で騎士団預かりの身分になり東京で大学を出、今も東銀座から異世界へ出入りし剣を振るっている。
給与明細に出張手当と危険手当がついているのはそういうことだった。

いい感じに現代とファンタジーが入り交ざっていて軽めの読み口。軽めといっても大罪を犯したテロリストも親を殺された魔王の娘も出てくる。伊吹が連れてくる異世界人をひばりがもてなす物語。

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時は明治、舞台は金沢。英語を習いたい武良越義信は私塾の門をたたいた。英語の講師は16歳の寄宿生である泉鏡太郎が担当しているという。聞けば受験に備えて数学を習いに来たのに塾長から「英語ができるなら教えてみろ」と言われたからだという。

この泉鏡太郎がのちの泉鏡花である。
泉鏡花は著作はどれも読んでいないが金沢で入った泉鏡花記念館(だったと思う)で見た「俺を選ぶか婦を選ぶか」が忘れられず。もはや誰が誰に向かっていったのかはっきりと覚えていないが、うっかりこの少年がこれを言われる(もしくは言う)ようになるのかと思いながら読んだ。

本作は泉鏡花がのちの著作で手掛ける事件やモデルと遭遇してるかもなあで書かれているので、泉鏡花作品に触れている人ならおっとなるかもしれない。わたしは読んでない側の人間なので、その辺の機微は分からない。
義信は鏡太郎に「私塾の月謝は怪異の噂支払いで結構。噂を教えてもらえれば支払いは待つことにし、本物だったら免除」と言われ仕事柄いろんな話を聞く義信はあれこれ聞かせる。

鏡太郎と義信以外では貸本屋の娘、滝は以前ほどは見なくなった分かりやすいツンデレの子であり、しかしその好意があまり届いていないところもほほえましく読んだ。

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現代もの国家公務員オカルト(荒ぶる土着の神を鎮める系)ファンタジー。
オカルトというと人によって想像するものが違うので例えると「呪術廻戦の最初5冊ぐらいを想像してもらったら大きくは外さない(学園物ではない)」という感じだろうか。男バディで祖父と孫みたいな、栗原さんのいつもの感じで味が違うやつっていうやつ。

津々良相次(つづらそうじ)は警察官だったがとある事件で心身に不調をきたし、国土交通省へ職場を移ることになった。今日が初出勤である。「国土交通省水管理・保全局」の中にある「鎮守指導係」は地下倉庫にひっそりと存在した。
ようやく見つけたが室内にいたのは倉庫番を名乗る神矢良樹のみ。係長と「君の相棒」天崎志津也は不在だという。出張で1週間不在の係長はともかく都内にいるはずの天崎まで帰り時間不明とはどういうことかと言えば事故や災害と聞くと飛び出して行って帰ってこないのだという。
元警察官津々良は現場を手伝おうと天崎の居場所を聞いた。天崎は定年を過ぎて嘱託として勤務している「可愛いお爺ちゃん」とは神矢評だったが、津々良が出会った天崎はどう見ても10代、酒も煙草も深夜徘徊もご法度の年の少年だった。

この天崎がわたしのなかで時々刀剣乱舞の一文字則宗が通り過ぎるので困った(なおビジュアルは全然違う。表紙手前が天崎、奥が津々良である)あとちょっとツボだったのはトンカツサウナ。面白かった。

高校1年生の茜と小学1年生のすみれの姉妹は京都市上七軒の喫茶店で父と3人暮らしだったが、春に父を亡くした。
葬儀の後一時叔父の家へ預けられまた転居することになった。遠い親戚の久我青藍という、26歳の男性絵師が引き取るということだった。人嫌いで平安神宮北側の「月白邸」という広い屋敷に住んでいるが、外にはめったに出てこないということだった。

月白邸にはもうひとり男性がいた。紀伊陽時という青藍の仕事仲間で、絵具屋をしているという。
すみれはあっという間になじみ「青藍」「陽時くん」と呼び、茜は月白邸は「いずれ、例えば高校卒業すれば出ていく家」「他人様にご迷惑はかけられない」と思っているけどじわじわと「月白邸の子」として馴染んでいく様はええですなあと思う。
かつて月白が青藍にしたように、人嫌いの青藍が幼い姉妹を引き取って、積極的に親代わりをするわけではないけど人間的なコミュニケーションを取っていくのもよい。
じんわり、こう、「ええ話や……」ととなる感じの物語でした。

ガチガチの現代。令和の池袋が舞台。シェアハウスに住む4人の物語。
この4人が知り合ったのはアニメイト池袋店の原画展のメッセージコーナーの付箋だ。
池袋駅徒歩10分、築10年敷金礼金不要家賃4万。
入居条件は「週刊少年ガッツで絶賛連載中の『超絶テニス燃くん』で同人活動をしており、今年12月29日のコミケに参加できる方」
大家は英博(大手)、大学生の美影(左右固定の腐)社会人の舞(夢女)大学生の直輝(一番ライト層だけど救われ方が半端ない)が最終的にコミケで頒布する話で、とはいえ同人誌制作に悩む話ではなく、シェアハウスの人間関係で悩む話でもない。
オタ活と個人、オタ活とオタクへのあこがれ、文字にすると途端に陳腐になるけど、やっぱりこれが一番しっくりくるので使うけど「絆」の話よ。
個人の掘り下げがガッとあるのと、オタクの描写がリアルっていうか生だった。
序盤に魂をつかまれたのが美影と舞がお互いの属性をオープンにするところで

「私は、二次創作はあくまで作品の延長線上にこちらが勝手に作り出している幻覚であり自分の解釈と食い違ったからといって公式や作者を批判することは未来永劫ありませんが、既出の情報と己の想像に矛盾がない限り純然たるもゆはゆ左右固定厨です」
「うわ、急にすごい喋る」
(略)
「ちょっとね、争いはしたくないから刺されるなら先に刺されようと思って身構えてたけど、思った以上のダメージだ、これは、待ってね、今、抗体を作ってるから」

この多分早口で喋ってるんだろうなあ感と友達の話聞いてるみたいだなあ感すごかった。実際左右固定強火のオタクにここを見せたら「わかりみが深い。この心大事ですよ」って言ってた。
「青い鳥と何年一緒にいたと思ってるの」とかいう舞さんマジ友達になれるわ。

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両親との縁が薄かった女子高生が異世界転生した。織物に魔力を宿す国の王となるべくチルは迎えられた。
初めて読むのになんか懐かしかった。わたしは17歳の冬に初めて図南の翼(小野不由美)を読んだ時のことを思い出した。といっても似てるわけではない。チルは珠晶ほど強い女ではないし幼くもない。チルは一度は生きることもあきらめている。それでも異世界で生きた。
でも運命なんだよなーーーー。

「死なずに生き延びられたのならば、お前は十分に力を尽くしたということだ。お前は戦士だった。小さいながらも、誇りをもって生きたということだ」

(P125)

ここのシーンすごく好きなんだよな。マニージェがどえらい肯定ペンギンだ。
いいファンタジーです。最近は現代ものばっかり読んでいたので心があらわれる。わたしは長らく異世界ファンタジーを読んで育ってきたのだ。

辻村七子作品ガチ勢の方が読むかもしれないエントリで残すのは大変恐縮なんですけど、わたしが好んで読んでいた頃とはたぶん結構別物だと感じてるんですよ。みのるが登場してからは割とそれは顕著だと思ってて。
序盤の頃は普通に連作短編であの頃たくさんあった仕事系ライトミステリ、ちょっとBL的な要素ありって感じだったと思うんだよなあ。今は割とミステリ要素なくて人間の営みとか成長とかが描かれる感じがする。
体感ちょーシリーズのちょー新世界より以降を読んでる感じ。正義の大学時代の友達とかいろいろでてきてて、みのる視点では「リチャードと正義は顔が広い」と思っていても、あと15年ぐらいしたらみのるも真凛と良太に対してそう思われるかもしれんみたいな。
リチャードと正義の関係は、多様性? それ使うかと思われそうだけども「世の中には人生を共にしたいと思える人は異性かもしれないし同性かもしれないし次元がいっこ下かもしれない」みたいな感じ。きのう何食べた? のケンジとシロさんは同性パートナーだけど「BL」って感じではないし、あの感じ。でもあのふたりよりは湿度は高いと思う。

でもジェフリーとヨアキムの関係はどんな感じだったかなあと思いながら読んだ。9割忘れている。
でもいつぞやのあとがきで野梨原花南さんが「角のタバコ屋のおばあちゃんも燃えるような恋があったかもしれないんだよ」みたいななにかなかったっけ。「今はこんな感じだけど昔はいろいろあったふたり」みたいな感じで読んでた。
たぶんずっと好きでずっとこの関係性が好きな人はたまらんわまじでって感じなんだろうなと思う。

タイトルと表紙で全部説明してる系なんですけど、チャイニーズスープとフジリュー封神を混ぜて夕鷺かのうが出力した感じです。暗黒童話的メシウマ小説と裏表紙にありますが、メシウマ……メシウマ……? とはなります。
メシウマがどのぐらいの世代まで認知されている単語かはわかりませんが、メシウマとは「人の不幸で今日もメシがうまい」というネットスラングです。
不幸な成分を書いておくと「タイタニックを契機に水中考古学に魅せられて院に進んだが、研究成果を根こそぎ奪われて研究職への道を絶たれて今は労働条件が限りなく黒の生命保険会社で働いている」女性、「地方から上京、大学デビューをしたが悪い男に引っかかって風俗に沈められた」女性、「ガチ恋粘着獣にいそうなパラサイトシングル1、同担に危害を加える系同担拒否勢」女性。
胸糞悪い系とグロは文字でも読めない人にはちょっとおすすめできない。でも夕鷺さんのビーズログ作品じゃないやつを読んだことがある人ならセーフだと思う。ほっこりごはんものではないのでそこだけは注意してほしい。

確かこの本の発売前に表紙を見て「どう見てもチャイニーズスープやん」と言ってた覚えがあって、だからこそ1話を読んであれって思ったんだよな。あーーそうそうこれこれこの味って思った。

  1. この単語もどのぐらい伝わるんだろう。令和の世だと子供部屋なんちゃらと言われる人で、実家におんぶにだっこされて生きている人たちのことである。 []

栗きんとん事件出たん13年前なん????
この巻は小鳩くんと小佐内さんは別行動である。新聞部が追う連続放火事件。小鳩くんは目の前の謎を解いてしまう。例えば満員のバスの中で停車ボタンが押されたが、誰も下りなかった。間違えて押したのだろう。押したのはおそらくこのふたりのどっちかだ。押したのはどっちか。小鳩くんパートにはそういうのも含まれている。
「あはっ」はよかったし小佐内さんは出番自体はものすごく多い、というわけではないがTRICKとかでいる「思わせぶりなことを言っていく割と重要人物(悪役寄り)」ポジションだった。

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