カテゴリー「 一般文庫 」の記事

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真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

久しぶりに読んだけどキレッキレだった。
さよなら妖精に登場する大刀洗万智が大人になって新聞社職員になって(あるいはフリーライターとなって)事件に巡り合うという短編集で王とサーカスの前日譚。フーダニットだったりホワイダニットだったりキレッキレだった。ミステリは心が洗われる。

すみれ荘ファミリア (富士見L文庫)

トイレ、風呂、台所共有、朝食夕食付きのおんぼろ下宿すみれ荘。大家代理兼管理人をしている一悟は、古株の青子、TV制作マンの隼人、OLの美寿々ら下宿人と家族のように暮らしていた。そこに、芥一二三と名乗る新しい入居者がやってきた。作家だという芥は、マイペースで歯に衣着せず、攻撃的ではないけれども思ったことを平気で口にする。そのせいか、平穏なすみれ荘の住人たちの今まで見えなかった顔が見えてきて?。一つ屋根の下の他人、そして家族の再生ものがたり。

これは裏表紙のあらすじなんだけど、ここから連想されるほっこりミステリではなくて、ヘビーな口当たりのパンチの強い物語。

情念っていう感じ、ていうかえーと、とと考えた結果「好きって絶望だよね」っていう物語です。
「一二三と名乗る」だけあって、これは偽名なんだけどそれは冒頭20ページぐらい読んだら明かされることなのでネタバレではないはず。それがどういうところに着地するのかというのがとてもドキドキしたんだけど、え、そっち!? っていうのが相当でかかった。みすずさんは1回病院行きませんか……ってすすめたくなるし「あーーーーーつら!」っていう描写が的確。
案外ミステリタッチで、「憧れる理想のシェアハウス」でもなくて、結構重い話なので、ゆるふわほっこりが読みたい人にはおすすめしないしちょっと重たい話が読みたい人にはどうっすか! っていう感じ。おすすめです。

ある小説家をめぐる一冊 (富士見L文庫)

小説家が担当編集に介護される話……。世話を焼く人焼かれる人はロマンだ。
オタなので桜の話とか好きだし幻想成分があってとてもよいものです。

死神もたまには間違えるものです。 (新潮文庫nex)

シリーズ2巻の1冊完結。
死んだことに気づいていない人に保険の勧誘をして遺される家族へ保険金を遺したりあの世へ送る俗世間慣れした死神の話です。
死神は結構葬送のほうがなかなかエグい(死にたくないという思いをエネルギーにしてあの世へ送る)ので好きになれるかどうかというとそれは微妙なんだけど人間死ぬときは死ぬもんだぽん。さぞ無念が残ると思うぽん。でもそれは生きてるから思うことで死んだらもうなにも分からないから大丈夫、というのがこの死神です。

くるみちゃんわたしオタ隠ししてるメジャーなマンガのマイナーカプなんだけど死ぬ前に薄い本を作らないと! と言ってるあたりはすごいリアル。居飛車の王子さまは最初うたプリかなと思ったけどあれテニプリのほうが近いよな……。
いやでもここで死にたくないだろうなって思うところでみんな死ぬんだもんな……。

おいしいベランダ。 午前1時のお隣ごはん (富士見L文庫)

いとこが海外転勤が決まった。「期限付きの転勤だし家具はおいていきたいし引き払うのはもったいないいい物件だから維持したい。ついては大学進学にあたってここに住まないか」と持ち掛けられまもりは一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めるうえで両親とした約束のひとつに「ちゃんと野菜を食べる」というものがある。小学生じゃないと言い放ったものの今日も冷蔵庫で野菜が腐っているところを発見した。

そんな感じではじまるベランダ菜園で料理もの、社畜あがりのフリーのデザイナーと女子大生の話。

ひょんなことからお近づきになった男子に料理をふるまわれる話って乙女ゲーを除けばもしかすると植物図鑑以来な気がするけどあれほど恋愛恋愛はしていない。流れている雰囲気、特に前半〜中盤は過去作の東方ウィッチクラフト?垣根の上の人を思い出す感じ。
かつて東方魔女を読んでいたコバルト育ちの皆さんこれは買いですよ!!!(めっちゃ大声で)(派手マ)
「いっしょのご飯を食べるふたりと、近づく関係、形を変える呼び名」その響きにきゅんとなった人ももれなく読むのださあさあ。
おすすめです。

チョコレート・コンフュージョン (メディアワークス文庫)

すれ違いに次ぐすれ違いラブコメ。凶悪な外見ド天然(35歳)×大人ぶりたい乙女(27歳)

龍生は鋭い目つきと凶悪な人相と、噂が独り歩きして背びれに尾ひれについた結果殺し屋と称されており、恋愛はおろかバレンタインなど無縁で生きていた。海外事業部の千紗は自分にも笑顔で接してくれているので憧れは抱いている。
それがバレンタインの夜、千紗がヒール部分を折って龍生がこれを使ってくださいとスリッパを差し出し、千紗はお礼を兼ねた物々交換でチョコレートを渡したことに始まる。

アラサーの恋愛で交換日記と除菌スプレーが飛び交うんですけど、いい意味でばかばかしい。
すれ違いと思い込みと誤解は華やなあと思います。とても王道のラブコメです。
千紗と後輩の桃原の関係がこれtwitterで見かけるやつやーーーっていうやつだった。どことも後輩指導は大変やなあ……。妙なリアル感。
あとほんとうにゆとりはほしい。大事だ。

卯ノ花さんちのおいしい食卓 (集英社オレンジ文庫)

施設育ち、勤め先の工場は突然閉鎖され古いながらも自分の居場所だったアパートは全焼した。
大家の口添えがあって若葉は「薔薇屋敷」と呼ばれる近所の卯の花一家に身を寄せることになった。

表紙と1話から受ける感覚とはまるで違った方向に進むので家族になろうよ系ホームコメディを期待して読むのはやめたほうがいい系。良くも悪くも表紙詐欺では……。
表紙の4人のバックグラウンドの物語に終始します。「ラノベの1巻1」っていう感じです。かなりファンタジーです。
貧乏描写が堂に入っていてすごかった。
あと戸籍上は兄妹になっても今回みたいなまったく血のつながりのないケースは結婚はできるんじゃないのかと……
左のふたり、朱璃と凪の出会いの話は人外BLのような匂いがしたので普段はBL畑の人2なのかもしれないと思いました。

  1. 登場人物の紹介と背景の説明に1冊使う感じ []
  2. 著者略歴によれば「別名義で著作多数」とのこと []

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)

普段はBL畑の人の多分初の? 一般向け作品。
2025年夏、17歳の明日子・日々人のもとに突如現れたいとこの今日子。彼女は火事に巻き込まれたことで全身に火傷を負い生死の境をさまよった。
その、さまよった期間は実に28年、冷凍睡眠で眠っていた彼女は夜眠って朝目覚めたままの17歳で止まっている。1年半リハビリをしてついに社会に出ることになった。
影の濃い真夏の、3人の17歳の話。

今日子はミスチルのシーソーゲームが新曲としてラジオに流れていた時に17歳に巻き込まれ、そのまま年を重ねれば47歳だった。リテイク・シックスティーンは2009年から1997年にやってきた女子高生だったけど、今日子は未来の世界に来てしまった。未来と言っても別に車がチューブの中を走るわけでもなく、温暖化は相変わらず叫ばれていて、東京タワーは変わらずそこにあって、でも自分が愛したCDも、MDも、ゲームも、漫画も、自分が知っているものと違うもの、よく似ているはずなのに別のものであふれていた。
夏が舞台の話は情緒があっていい。

「また夏休みがいいな」
「うん、もっと暑くなってても、ジャングルになってても、砂漠になってても、そんなこと関係なく一緒に遊ぼう」
 もっと大きな塔が東京に建っていても。明かりを灯し始めた東京タワーがなくなっていても」
「うん、絶対」
と今日子が答えた。

(P236)

ブックマートの金狼

カッコいい男を描こうというコンセプトの新レーベル。表紙はこれ4分の3帯で海外文学系の装丁みたいでかっこいい。
まあ神様のメモ帳方向の杉井光なんですけど、ヘタレではない。昼行燈ぽい感じはあるんですけどそれよりかは童顔の人が伊達眼鏡をかける感じの装いが近い。

かつては裏の世界に足を突っ込んで気の合う仲間とチームを組んで喧嘩に明け暮れたり金を稼いだりして、そっちの世界では名の知れた掃除屋で感覚は鈍ってないし心身のどこかが欠損しているわけでもない。
でも今は書店の店長をしていて、童顔がたたってバイトにもなめられていて、という感じだけどとびかかってきた男の腕は慣れた感じで関節を外す。
昔馴染みのやくざに頼まれてアイドルのストーカー対策に乗り出すことになる。
頭が悪いけどやたらとノリのいいチンピラは健在。ナオト(店長)よりレイジ(ナオトの昔の仲間)がいい。
神メモの1巻を読んだときの感じとか近いなあって思った。

皮肉を呑みこんで、俺も段ボール箱のひとつに取り掛かる。やけに重たい。テープをはがして開いてみると、色とりどりの紙が折りたたまれてぎっしり詰め込まれていた。折り込みチラシでも保管しているのかと思って何枚か抜き取って開いてみると、それは便箋だった。どれも、きらきらした丸文字できらきらした文章がつづられている。
『ことみん愛してる』
『おかげで受験頑張る勇気が出ました』
『新曲最高! ライブぜったい行きます』
『全財産かけて一生推す』
『ことみんにあえてよかった、生まれてきてくれてありがとう』
 一読しただけで息が詰まり、俺は便箋を箱に突っ込んだ。

(P111〜112)

ここでうっかりなっちゃんとか玲ちゃんに送ったファンレターは今どうなってるんだろうなあってふと思いました。現実味のある話をすると「一定期間保管後に個人情報後保護のためシュレッダー」処理になってても不思議じゃないと思うんだけど、どこかに残っていればいいなあって思うし、あわよくば次元の裂け目に飛び込んでいるといいなあと思う。陛下宛はどうかなあ。一番古いのは何人かで組んでアルバム形式で送ったから残ってたら段ボールの中かなあ。100本の薔薇は重かった。

ゆきうさぎのお品書き 6時20分の肉じゃが (集英社オレンジ文庫)

貧血で倒れた女子大生の碧は目を覚ますと小料理屋の一角に寝かされていた。この小料理屋を営む大樹と、バイトをすることになった碧とその周辺の人々の話。

小料理屋と聞いてラ・パマルとか香菜里屋をちょっと期待して読んでみたら、小料理屋ゆきうさぎに集まってくる人々の悩みの提示とその解決という感じで、ほっこりライト文芸あるあるの1冊。序章は大樹と意味深な野良猫ではじまったから大樹と猫と碧の話なのかと思えばずっと碧のターンだった。

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