カテゴリー「 一般文庫 」の記事

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いい意味であらすじから想像する内容と違っててよかった。1冊目の読了感としてはオレンジでの竹岡作品では頭ひとつ抜けた感じ。本作は東方ウィッチクラフトのランラン以来久しぶりの女装男子が登場します。うちなるわたしがいやしゃっぷるがあるじゃんっていうんだけど、雪国は女装したくてしたわけじゃないからなー。

柔道一筋に生きてきた小田島沙央は膝を壊したことをきっかけに普通の女子大生として生きていくことを決めた。膝を壊したといっても日常生活に支障はないしそこそこどまりでという前提で柔道はできる。ただし目標としてきたオリンピックや全日本はもう難しい。リハビリの選択肢もあったが、沙央はこれまでとは違う道を選んだ。
大学進学をきっかけに入居したアパートは建物こそ古いが丁寧に手入れされている上品な洋館だ。大家の福子さん主導でこのアパートの住民5名で月に一度のパーティこと、料理を持ち寄る「ポットラック」が行われている。

このポットラックのシーンに大きく割かれるのかと思ったら割とそうでもない。ポットラックは「みんなが集まる」ための舞台装置で、消えた女の謎が持ちこまれたり、ホワイダニットがあったり、暗号があったりのほうがメインだ。

わたしが気になるのはゾンビ映画大好きなカレンさんが映画刀剣乱舞の円盤を持っていた案件。
あと沙央と、沙央の同期入居で料理がとてもうまくて口が悪い宗哉が服を買ってるシーンがとても好きなんだわ。沙央は骨格ストレートでアスリート体型。逆襲のシャアならぬ逆三の沙央言ってたところが。2話は全面的に推したい。

おいしいベランダにも登場した「律開大学」が出てくるので、もしかしたらおいしいベランダの登場人物が出てきたりしないだろうか。あと個人的にめっちゃびっくりしたんだけどオレンジ文庫って完結したらカバー袖の著作リストからシリーズごと落とすルールでもあるのかな。「君はさくらのなかで」と「谷中びんづめカフェ」と本作しかなかった。おいしいベランダは著者略歴のところにしかなかった。

これ本当に面白かったので、かつて東方魔女が好きだった人とか、ライトなミステリを好む方はちょっと読んでみてほしい。今はまだ電子書籍ないけど2週間ぐらいしたらkindle版はたぶん発売されると思うので。

富士見L文庫の新人賞受賞作がすごく面白かったので派手マするー。
ファンタジー要素ありの現代バディアクションものが好きな人はおすすめ。
書影初見でわたし好きそうって思って、試し読みちらっと読んで「あっこれ好きだわ」って思ったので買いました。

軽快に人が死ぬ系だけど残酷描写はなくて、もののけ姫レベルだと思いますが、臓器がない死体は出ます。試し読みがかなり多めに公開されているので気になる人はそれで確認してください。プロローグはニューヨーク市警の特殊部隊の精鋭が怪物を前になすすべもなく虐殺されるシーンではじまります。

あとがきに「レーベルカラーを度外視した作品」という一文があったんですが、モンスターズ・イン・パラダイス悪魔交渉人を混ぜて講談社タイガで割った感じです。確かに最近の富士見Lではあんまりない感じで、どっちかというと講談社タイガでありそうな感じ。

ニューヨーク市警特殊部隊の精鋭9人が殉職する事件があった1週間後、57人の男女を殺して食べた連続殺人鬼が逮捕され、世間の注目はこの「現代のハンニバル・レクター博士」に集まった。唯一の生き残りミキオ・ジェンキンスは病院で治療を受けつつ「自分たちは化け物に襲われた」と主張し続けた。半年後ようやく退院したミキオはFBIの捜査官に会いに行くように言われ、モリス捜査官とティモシー・ディモンと出会った。ティモシーは半年前逮捕され死刑が執行されたはずの連続殺人鬼だ。
ミキオは反射的に発砲し確実に射殺したはずが彼は生きていた。

ティモシーは当初精神病のウェンディゴ症候群が疑われた。これは「ウェンディゴ1に憑りつかれた」と人肉を欲するようになるものだが、電気椅子でも死ななかったティモシーは検査の結果、本物のウェンディゴであることが判明した。

ミキオは半ば脅される形でFBIで極秘発足するEAT(the Exceptional Affairs Team/特殊事件捜査班)の一員になった。相棒はこのウェンディゴ、司法取引をして織の外に出たティモシーだ。監視を兼ねて2人は一緒に暮らすことになったが、ティモシーの食事は人肉だ。FBIと取引して身寄りも葬儀予定もない死刑囚の肉が冷凍されて送られてくるが、ミキオにとってはまるで気が休まらない同居生活が始まる。

同居生活といっても、物語の大半は事件発生、状況確認、解決に至るまでのあれやこれやだ。のらくら飄々としたティモシー、ふつうに好みすぎる。私の好みを知っていて、既読の人はわかると思うけど普通に好きなタイプなんですよ。確かに世界一キュートな食人鬼だわ。

CIAの人もっと出てきてほしいので2巻でてほしーーー。

「モンスターのくせに口がうまい」
「モンスターは差別用語だぞ。ノンヒューマンと呼んでくれ」
ミキオの嫌味に、ティモシーは苦笑を浮かべた。真摯な態度で話を続ける。
「化け物だと一緒くたにせず、私は私だということを、君にちゃんと認めてもらいたいんだ。人間は未知のものに恐怖を抱く。私のことも、よく知れば怖くなくなるはずだ」
真っすぐに見つめられ、思わず目を逸らす。深い闇のように暗く淀んだその瞳が、ミキオは苦手だった。

(P75)
  1. ネイティブアメリカンの間で伝わる精霊 []

お仕事小説……なんだけど内容としては「人が良すぎるあまり慈善事業レベルで仕事を請け負う無能で思想がブラックの上司、しわ寄せは部下に流れてすり潰す」炎上プロジェクトの受注・残業続きの日々・顛末という感じなので脛に傷がある人は読まないほうがいい本。ブラック上司だけならともかく発想が昭和のコンプラ的にアウトの上司も登場します。

結衣は新卒でIT系企業(WEBサイト制作・アプリ開発)に入社して10年、中堅として仕事はきっちりこなし定時退社して職場近所の中華料理屋のハッピーアワーで半額のビールを飲むこと、好きなドラマを見ること、人生の楽しみとしている。

最初のほうは「どんなに体調が悪くても出勤するマン」「新人は有給など取るな働け空気を読めマン」「残業あたりまえ休日返上あたりまえマン」と濃い人間が多くその辺の個性が強い人間と何とかしていく話かと思えば、上司福永はやばい。これまでつぶしてきた人間の多さと手口の多様さがこわい。NO見積もりで稟議を出して通ってしまった予算はこれ以上出せないと言われ、残業を前提でスケジュールを組もう死ぬ気でやればなんとかなるとか背筋が寒くなる話がある中で、インパール作戦の話がぶちこまれる当たりすごい。
人間が考える創作上のブラック企業なので現実はたぶんこんなもんじゃないと思いつつ、顔を隠しつつも指の隙間から見てしまうような「読んじゃう」感じ。まんじゅうこわいって言いながら読む感じ。怖い物語です。ホラー。

ベランダではじまった恋の物語は結婚してかたちを変えて続くがとりあえずこの巻で終わる。
あとがきですごいふつうに「当時の売れ線から離れていたのでこのままでいきましょうと編集部から」みたいな楽屋裏話があってびっくりした。竹岡さんはデビュー作のウォーターソングからずっと読んでいて、コバルトから消えてもしかして作家廃業するのかもと思ってた時にお姉さんと同人誌作って売ってたときはそれヒャッハアって買ってたし、富士見ファンタジアの新刊告知で名前見かけたとき嬉しかったなあとしみじみ今思っている。
だっておいしいベランダあれだもんね、竹岡葉月史上最長シリーズ。しゃっぷるは9巻だから今時点で最長確定してるし、番外編もなんか出る予定らしいということだ。

2人は永遠に幸せでいてほしい。いいシリーズだった!

1年ぐらい積んでた気がする。2巻がいわゆる「悪夢の2020年4月刊1」だったと思う。これはシリーズものの1巻。

警察学校を卒業した麻生瞬が配属されたのは警察の花形捜査一課……の地下2階の書庫に存在する2人しかいない係「特殊能力係」。ここには上司の徳永と瞬の2人しか存在しない。地下で2人のみだからといって閑職というわけではない。むしろ瞬の能力を買われこの部署へ呼ばれた。ここは未解決の事件、逃亡中の犯人逮捕のための「特殊能力班」だ。別に異能集団ではない。瞬の能力というのは「人の顔を覚えて忘れないこと」、しかも子供の時からずっと。自分はそのことを「普通」だと思って疑っていない。
瞬はその力を存分に発揮して配属初日から金星をあげた。

刑事ものといっても非常にライトな物語でルートは1本道。事件が起こるのも物語の中盤以降。非常に読みやすくバディものの軽い読み物を読みたい人にはオススメで、「刑事もの」という単語で想像される相棒だったり特捜9だったりに近いものを求めている人にはあんまりオススメしない。

  1. 都内の大型書店は緊急事態宣言で閉店していた []

ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にしたオカルトミステリー2巻。

社交界で知らないものはいない心霊マニア、実際に幽霊も見える彼についた通り名は「幽霊男爵」エリオット。
物語は彼の10代のころから始まる。生きた人と幽霊の区別がつきにくく疲れたエリオット少年が休憩場所に選んだ場所は墓地だった。幽霊になるような人間はまともに弔われなかった人が多く、墓地のような「ちゃんと埋葬された人しかない」場所には意外と幽霊が少ないものだった。その中で出会った彼女(幽霊)は棺ごと動かしベルを鳴らしていた。今回社交界で聴いた「ベルを鳴らす幽霊」のように。
幽霊の正体とは、なぜ彼女はベルを鳴らしていたのか。

でも好きなのは2話で。「最新式魔法による殺人
車椅子に載せられ両手両足を拘束された人が出てきたり、黒幕らしい黒幕が登場する。
イギリス舞台ならモリアーティみたいな人が出てほしいものと思っていたけどいい感じのあれです。

残りの2話は異形が出るしクリスマスだ。よいものをよんだ。

いやー勇気がもらえる作品でしたね!
なんかこれ違うな……と思いつつ3日ほど使ったインクがあったんですけど、作中で「合わなかったら即洗浄!」っていうセリフがあったので昨日読み終わってから洗浄して1日置いてさっき別のインクを入れました。

そんな沼い話は置いておいて、これはちょっとブラックな職場に勤めていた葵がふらりと立ち寄ったお店で万年筆とその後の職を見つけてしまったというはじまりです。葵は年若い店主志貴に万年筆の知識をレクチャーされつつ、なんとか1人前の店員を目指そうと頑張っています。実在の万年筆やインクも出てきて割とパイロットとプラチナ強めです。葵のファースト万年筆もです。わたしが住んでいるところは万年筆を試筆できるようなお店がないのでめっちゃ憧れです……。三宮でキャップレプラチナスデシモの試筆したときは恐る恐るだっただけど嬉しかったわ……。

わたしも数年前から万年筆に分け入り、去年うっかりインク沼に入水して水際でぱちゃぱちゃ遊んでいます。今年は神戸ペンショーに行くのをやっぱりやめたので代わりにバス代+現地で使う分ぐらいインクを買いました。5桁余裕です。インクは増えるんですよね……。わたしは欲しい万年筆はキャップレスデシモで他はまあカクノとTWISBIとガラスペン3本で満足しています。

紙書籍のほうは在庫切れなのでkindle版にリンクを貼っておく。最近これtiktokでバズってめっちゃ売れたらしいのだ1
帯が衝撃的(僕の恋人は150人以上を自殺に追いやった殺人犯でした)なんだけど、そこまでセンセーショナルな内容じゃなくて、でもずっと青い蝶が一斉に飛び立つ絵面が脳内で見えてたな……。
凄く面白いけど凄く感想が書きにくい。「ゲームの指示に従って進めていたら最終的に自殺してしまうゲーム」ってちょっと前に現実にそういう自殺教唆ゲームがあるっていう話(なおこれはのちにデマであることが発覚)を見たけどまさにこんな感じ。それだけじゃないけどこんな感じ。

小学生の頃から人心を把握して操作することに長けており、誰からも愛されるクラスの中心人物、青い蝶(ブルーモルフォ)という自殺教唆ゲームのマスターをしていた寄河景とその幼馴染宮嶺の、特に寄河周りは極々最近でいうと同人女の感情の綾城さんと点対称っていう感じ。寄河は分かったうえでいろいろやっているし、綾城さんは自覚の有無は描写されていないけど同じぐらい人を動かしている。

誰に対してもどれぐらい「景がそう思うように仕組んだことなのか分からない」ところがすごいよな。人間の自由意思とは。

  1. って斜線堂さんのtwitterで見た []

母子家庭で育った由奈はここ半年放課後に病院へ通う生活をしている。入院中の母を見舞うためだ。病院までそれなりに時間がかかる距離だったけど週3回は行くのは義務として自分で決めた。
由奈の母愛理はスナック勤めで誰からも愛されていた。今思えば貧困家庭だった由奈はそんな風に「母がお客さんに愛された結果」節目節目で必要なもの、例えばランドセルや制服は初対面のお客さんに買い与えられて育った。でも由奈は「男に頼って生きている」母ののことが嫌いで、そのせいで「何事もきっちりする」「人に頼らない」性分として育った

母の死を知らされたのは、状態が安定しているから面会の回数を減らそうかなと思ったり多少遅れていっても大丈夫だろうと思っていた日だった。そして葬儀の場で「1人になった由奈は誰が引き取るのか」問題が勃発していたところ父親だと名乗る男が2人現れた。
金髪で強面の竜二、眼鏡で硬い仕事の秋生。2人とも母から「黙っていたけどあなたの子供に子供がいる」という手紙を受け取っており、親戚一同は2人に由奈を押し付けて方々へ散った。
しかし由奈は「母と暮らしたこの家で暮らす。どちらにも引き取られない」「どうしてもいうならそっちがこの町に引っ越して来い」と啖呵を切り2人とも本当に引っ越してきた。
母と暮らした築60年のボロアパートに。

序盤の方から物語のゴールとしては第3の、真の父が出てくるんだろうなと思っていたので、そこに至るまでどういう道をたどるのかと楽しく読んだ。一緒に暮らすことは認めても、家賃生活費を受け取ることさえよしとしなかった由奈が、父候補2人とどうやって交わっていくのか、知らされていなかった母の過去などが丁寧に描かれていてよかった。

でもこの本を投げようかと思ったのは「坂口ディーン」という芸能人(中高年に人気のアイドル俳優)が思いのほかがっつり物語に関わってくることで、なんでこの名前にしたのかと多少いらついた。ディーン・フジオカがちらついてしょうがなかった。しかも謎に「坂口ディーン」と、何度もフルネーム呼びをされていてあまりいい役柄ではないので不思議とフジオカsageをされているような気分になる。わたしはディーンフジオカのファンではないが、ご存命の人間を想起させる人を出す場合は立ち位置を注意してほしい。
そこが無理という以外はよい王道疑似家族もの。でも登場するところがあのへんじゃなかったら読むのやめてました。

なんかすごいものを読んだぞ。そうだよわたしが夜市を読んでこの人すげーーーな! って思ったのはこういう作風なんだよな。短編集で、共通点としてはどの話も閉鎖されたというか閉塞したというか、なんせ異界での話だ。異世界じゃないんだよなこれは異界なんだよな。幻想小説だ。わたしは幻想小説はジャンル的にあまり読まないこともあって「同じ箱に入ってる作品」というのが恒川作品の場合まじでない。恒川光太郎ジャンル恒川光太郎だ。あえていうなら夜市とか秋の牢獄が好きな人は多分好きってぐらい。
なんせ読み始めて最初にテンションが上がったのは無貌の神の、血まみれの男が神に飲み込まれたところだ。死神と旅する女の「放棄された世界」の空気も好きだし12月の悪魔のおっそろしく「白い闇」って感じのラストも好きだ。

ハッピーエンドとかバッドエンドとかはっきりした終わりのものが好きな人にはあんまり積極的には薦めないんだけど、私はあっこれ好きって感じ。例えば真夏にセミの鳴き声を聞きながら道を歩いていたらとても日本とは思えないところに迷い込んでそのままなのか無事元の生活に迷い込んだのか分からないままに終わる、みたいなのがハッピーかバッドなのかって言われたら分からんけど、そういう絶妙な「カーテン1枚向こう」の世界の空気を吸える小説はすごいと思うんだよな。

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