カテゴリー「 単行本 」の記事

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矢上教授の午後

多摩に存在するとある大学、広大なキャンパスの一角に位置する第1研究棟別の名をオンボロ棟。
夏休みのある日雷雨による停電と出入り口にうっかり看板をおいたことによりオンボロ棟は密室と化した。
外には出られない・落雷と基地局の故障か固定電話も携帯電話もネットも不通で外部への連絡は不可能。
そんな状況で死体が見つかる。

細かく章が区切られており視点変更が多い。視点変更のせいか緊迫感とかはあんまりなかった。
ゆるゆる読めた。おもしろかった。

「現代日本は、絶対人間が孤であることを許さない、とね。一人で静かにしていたくても、電話は鳴る、どこに行こうと携帯電話で追いかけてくる、いや、昨今はおのれの居所まで突き止められてしまうらしい。それがなんと。東京都下で名実ともに閉ざされた空間が出現し、殺人事件まで起き、その一員に加われた」
馳部は毒気を抜かれた思いで、熱弁をふるう老教授の顔を見ていた。

(P167)

マノロブラニクには早すぎる

asta*連載途中ちょっとだけ読んでた作品。

小島世里は翻訳文学の編集者志望で出版社に就職したのだが、配属になったのは女性向けファッション誌編集部だった。ちなみに「20代のキャリア志向がさほど高くない女性」向けの異性ウケを重視する雑誌である。これまで服や時計や靴は機能性重視で選んできて、学生時代はテニス部所属でジャージ率が高かったためさほど興味はない分野だったがこの編集部はそうはいかないのである。
女性編集者の成長を描く物語と思えばもうひとつの線が出てくる。

ある日見知らぬ中学生が世里の会社に訪ねてくる。自分は二之宮太一と言います、カメラマンの二之宮伸一の息子ですと名乗る。父息子ともに初めて聞く名前だが、「あなたは父のことを知っているはずだ」と敵意をもって詰め寄られる。話を聞けば世里は「父の浮気相手」認定され突撃されたのである。1
というのも太一の父は少し前に川に流され死亡した。事故死ということになったが父の死に疑問を持ち2浮気相手(だと思った)世里のところへやってきたのだ。そして世里は太一の手助けをすることになる。

しかし全体的には編集者としての日常に重点が置かれていた。企画が成功した、成功したから妬まれて嘘情報をつかまされた、企画にトラブルがあった解決した上よりよいものが出来たとかそちらのほうが楽しかった。
カメラマン死亡の謎関係は正直すごくどうでもよかったのだけど、いきなり事件の顛末・責任を感じての自殺未遂・動機の吐露など土曜ワイド劇場展開がはじまる。えー(゚д゚;)とおもう。

野心というのは、ドロドロとしたマグマのようなもので、そばにいる人に火傷を負わせるばかりと思っていたし、実際に火傷を負わされたのだが、仕事への強い愛情ゆえに生まれてくるそれは、大事なものでもあるんだなと詩織を見ていると感じるのだ。
そして自分に足りないのはその野心なのかもしれないと世里は思う。

(P241~P242)
  1. とても早計だった []
  2. 誰かに呼び出されたのでは。女と一緒にいたのではないか []

ころころろ

いつもの独立した短編かなと思ったら長編寄りの連作短編でした。
若だんなの子ども時代の話から始まる。
若だんな(当時12歳)と日限の親分と親分が連れてきた沙衣による、目の病に霊験あらたかな生目社の再建を廻る騒ぎとその顛末。初恋の話でもあった。
色々あって話は現代1に戻る。
朝起きると若だんなの目から光が失われていた。相変わらず病弱ではあるけど視力を失うほどの目の病ではない、かといってなにかに取り憑かれている様子でもない。仁吉と佐助は光を取り戻す方法を探す。

いつもより家鳴の出番が多い気がします。

「喰われるのは、嫌?」
余りに何気ない問いであったから、佐助もさらりと返す。
「そりゃ、生きていけなくなるからね」
「でも、喰いたいほどいとしく思う事が、あるかもしれないわ。喰われたいほどの思いにさえ、出会えるかもしれない」

(P163)
  1. しゃばけワールド内の []

午前零時のサンドリヨン

鮎川哲也賞受賞作ということで巻末に選評が載っているのですが

『午前零時のサンドリヨン』は、言ってみれば、赤いリボンのかかったケーキの小箱のように愛らしい作品で、いわゆる日常の謎を軸にした、恋愛風味のミステリである。

(P327)

というのが実に言い得て妙。

僕こと須川くんは同じクラスの酉野初に一目惚れする。
学校での初は親しい友達はほとんど居らず望んで孤立しているようなところがあるのだが、サンドリヨンというレストランバーでマジシャンとして日々手品を披露していた。魔術の腕は素晴らしくよいがコミュニケーション的にはやや難ありの酉野さんと須川くんの行方は! という学園で恋愛で青春なミステリです。

あてにならないプレディクタとあなたのためのワイルドカードが好きである。
P269のぶっ叩かれてるところとかとてもによっとした。

「いや、ポチよ。吹奏学部はいいらしいぞ。なんたって女子ばかりで、憧れの先輩達が、こう、手取り足取り教えてくれるわけだ。そりゃもう、至近距離でおさわりだぞ」
まぁ、いくら純情な僕とはいえ、そんなシチュエーションに多少の憧れを抱かなかったわけはない。なにせ僕も一応、男の子なのだ。しかし、もちろんそんな不純な動機で部活に入るわけもなく、その魅惑のシチュエーションのことなんて、きれいさっぱり忘れていた。
それが、それがなんということだろう。今、憧れの女の子に手取り足取り教えてもらってます!

(P116)

ほんものの魔法使 (ちくま文庫)

これがきになる。

どうして書くの?—穂村弘対談集

言葉を書くことを仕事にしている人による対談集。
高橋源一郎・長嶋有・中島たい子・一青窈・竹西寛子・山崎ナオコーラ・川上弘美が登場している。
章ごとにフォントとか分量とかとにかくデザインがちがう。同じ本なのに別の本を読んでいるような気分が楽しめる。
長嶋有・一青窈との対談がよかった。

ラインマーカーズ—The Best of Homura Hiroshi
から短歌が1ページ分載ってるんですが、
桟橋で愛し合ってもかまわないがんこな汚れにザブがあるから
終バスにふたりは眠る紫の< 降りますランプ>に取り囲まれて
に超ときめいた。超ときめくので原文をあたりたい。

(長嶋:穂村さんはペンネームをつけることに意味を感じてましたかというのを受けて)
穂村 僕の場合は去年まで本名で会社員をやっていたという必然性があったのですが、もともと自分に対する嫌悪感や絶望感がすごくあって、表現と「生まれ変わりたい」願望が密接にリンクしているんです。名前を新しくつけて、きらきらしている自分になりたいという執着が大きかったんですよ。
長嶋 でもそれで「弘」って名前自体は別にきらきらしてませんよね(笑)。「ペンネームで弘かよ」みたいな(笑)

(P49)

太陽の坐る場所

今「30前後女子の話が熱い!」1
ということで野良女→ゼロハチゼロナナ→アシンメトリーと来て今回は意図的にこの本を選んでみる。
買ってから約1年熟成していた。

悪意の話である。最後には光が見えるけどどろっとした悪意の話である。
クラスの女王様、その取り巻き、劣等感と自己顕示欲。あと東京で住む者、田舎で暮らす者。
SIMPLE1500 The ルサンチマン。

F県藤見高校3年2組クラス会は年に1度2度のペースで開かれ今年が10年目だ。
クラス会の話題によくあがるのは女優になった元クラスメイトのキョウコについて。
F県は東京隣接で進学や就職を機に上京する者もいる中田舎に残る者もいる、ということだったんだけど"東京隣接のF県"がどこなのか分からなかった。隣接というほど近くもないけど福島かなあ。
福島っていったらコウちゃんだよなあていうか冒頭のあれは環だよなあと思った。

一章ごとに変更を変えつつ話が進む。帯には10年目のクラス会 よみがえる「教室の悪夢」
とあったけどその「教室の悪夢」がなんなのか中々見えない。影はたまに見えるけど姿は見えない。
ぬぬぬん? と思いながら読む。ラストが近づいて事実発覚。びっくりする。違和感の正体はそれか!

視点変更の妙だよなあと思ったのは苦手だと思った由希が「いやいやこの子にも事情があるねん」とプラスに転がる。由希幼稚園のときの話は思わず本を落とした。うへあとなった。

70ページにあった学校の怖い話が素で怖かった。夏休み前の小学校体育倉庫に女の子がうっかり閉じ込められる。2学期になってからミイラ状になって発見される。壁には血まみれの手で引っかいた痕。
ほんの数行だったけど超ホラーだった。悲鳴が聞こえてくるようだった。

  1. 主に私の中で []

アシンメトリー

この人の作品はじめて読む。
なんか最近適当に選んでいるはずなのに妙に縁がある「30前後女子」「結婚」がメインです。
結婚に興味がなさそうだった紗雪に先を越された結婚したい朋美、紗雪の夫治樹と紗雪と治樹の友達・貴人1。この4人がメインの話です。

主に恋愛です。何の根拠もなく視点変更系短編やと思ったら普通に長編だった。
普通に恋愛モノかとおもったらちょっと黒っぽい話。
「Sweets, lala Sweets」かと思ったら「惨めな思いにさせるあの子なんて死んじゃえばいいのに」だった。

ぶっちゃけた話、治樹以外は基本性格が歪んでたりちょっと気持ち悪い系の人たちだなあと思った。
とりあえず朋美が無理だった。朋美はNo call No lifeの日野ちゃん系だよな。
スピリチュアルにはまる一般人て女性のみのイメージがあったんだけどちょっと覆った。紗雪は弱ヤンデレ。
あまり話が閉じないままに終わる。

  1. タカヒト []

トラベル・スクラップブック

おしゃれ雑貨的な本。
もうちょっと1人あたりにページが割かれていればよかったな。「写真オンリーキャプションはあってもほんの数行」がとても多い。スクラップブックの作り方ではなく完成品の一部をお披露目、雰囲気をおたのしみください写真集的な位置づけだと思う。

文章は写経のように書くのがいい

読まず嫌い。が面白かったのでそれ以外の千野帽子既刊を探しに行ってなんか気になる感じのオーラを放ってたので読んでみることにした。主に文章術っぽい本です。
文章を書く本来の楽しさは「自分のために書く」という自己完結型にあるのではないかというのにはじまる。

実践編。(香山さんの実際書くときにしていること)
構想はあまりしない→思いついたところから書く。考えが詰まりそうになったら具体例を。ちなみに嘘や作り事はよくないよ。話の着地点が分からなくなる。エンタメ目指すならそれもいいけどここではそれを目的としていない→具体例を書いたらそれについてのツッコミを。

図書館の007の棚の辺りにおいてあるちょっと気になってた本である週末作家入門の紹介が載ってた。小説家指南の本だとおもってスルーしてたんだけど普通に文章術的な方向の本らしい。それならいいかなと思って今度よむ。

作家が本当に悩むのは、この「どこまで書いていいのか」というギリギリの線引きについてなのではないか。誰もが読みたがる心温まる物語や美しい恋愛などをいかに上手く書くか、といったことはあまり問題にならない。本当に問題になるのは、「書かないほうがいいことや、書くことで自分のマイナスになったり読者を不愉快にさせたりすることをどう書くか」ということなのだ。

(P183~P184)

初恋ソムリエ

退出ゲームに続く第2作。
ハルタとチカは無事に高校2年生になりました。今巻は吹奏楽成分が前巻比割とあったり、文化系部活がいくつかでてきます。七色の紫陽花って酸性アルカリ性のあれでやるんだろうというのはわかるんだけど具体的な方法が分からない。てきとうにまた調べよう。

好きな順に並べると「周波数は77.4Mhz」「アスモデウスの視線」「初恋ソムリエ」「スプリングラフィ」
このまえBolero読んでたのでラジオネタがとてもときめきます。砂漠のうさぎの投書内容が好きだ。

ぐぐってみたら土ボタル(グロウワーム)がいる洞窟は本当に夜空みたいで凄かったです。
ニュージー早春の旅(ワイトモ)(和田フォト)(※音楽が再生されるため音量注意)

「トパーズだ。天然のブルートパーズ」
日野原さんは窓のカーテンの隙間からもれる茜色の陽に目を投じ、
「——またの名を、落日の宝石」

(P97)

ライバルとなる親友には、どんな心の傷もつけたくないけど、奪われるくらいなら三枚下ろしにしてしまいたいという過激な思いに悩んでいましたね。

(P75)

私の青春は深いようで浅い森の中で彷徨っていた。その森の中を照らしてくれる夜空の星の光は、私たちの場合はホタルの光だった。ホタルって星が垂れると書いて、『星垂る』ともいうのよ。

(P219)
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