カテゴリー「 単行本 」の記事

716件の投稿

小さいおうち

元女中の老婆タキによる追憶。
タキさんは以前に「タキおばあちゃんのスーパー家事ブック」という本を出した。これが結構売れた。
出版社からはエッセイを出しませんかと言われたが、もっと書くことがあるんじゃないかとタキさんは自分が10代前半の頃から女中として勤めていた屋敷の話を発表するあてもなく書く昭和初期の頃。

主にはタキ14歳のときに出会った時子、後の平井家の奥様と平井家の女中タキの話。

甥っ子の健史がタキさんの勝手に読んではひとことふたこという。
二・二六事件があったころがそんなに平和なわけないじゃないか。おばあちゃんボケちゃったんじゃないのという。歴史でしか知らない人がその時代を生きた人に偉そうに、とか思った。自分で置き換えたら「100年に1度の不況だの派遣切りだのリーマンショックだのあった時代にそんな安穏と生きてたの? 本当に?」って言われるようなもんじゃないか。

転換点はやはり戦争だった。
節々で出てきてはしたり顔な健史にいーっとなりつつ読んだよ。あと平井家の息子がだんだん育っていることに時間の移り変わりを感じた。

ロード&ゴー

神様のカルテとかバチスタみたいな主に医療系と思ったらそうではなかった。熱い救急車の話である。

病人を搬送した帰り吐血して倒れた男性・悠木を発見する。隊長の筒井・機関員の生田・救急救命士の森の3名はただちに悠木を搬送するため救急車に収容した。森が念のため体を固定しようとしたところ悠木は叫んだ。
「動くなっ」「二人とも俺の言う事を聞け。聞かなければこいつを殺す」
長きに渡る救急車ジャックのはじまりである。

読んでてすごくハラハラする。相棒の2時間SPを見守るような気分。
救急車内の緊迫した状況、犯人とのやりとり、無線の向こうの司令官、消防無線の傍聴者1、マスコミ関係者などの視点により話は展開する。傍聴者は大筋には関わらず掲示板に集って実況したり、情報を求めてやってきた傍受はしてない人とか色々いて、ちょっと「海の底」とか「ネットワークフォックスハンティング」みたい。

映像で見たらどうなるんだろうと思ったけどこのスピード感は本ならではだ。
最初の数10ページは医療用語が多いけどそこからはもう本当に80キロで走らされる感じ。
視点変わったら多少ブレーキになるのかと思ってたけどアクセル踏みっぱなしじゃないか。
消防歌のシーンとガソリンのところまじかっこいい。

  1. 初めて知ったのだけど消防無線の傍聴は盗聴ではなくまた合法らしい。内容を話したりなどは違法だそうだが。 []

ストーリー・セラー

Story Seller収録のストーリーセラーをSideAとしてSideBを書き下ろした一冊。
文庫のほうは未読なので不明ですが、雑誌のほうと比べるとがっつり加筆修正されてるように思います。

サラリーマンの夫と作家の妻。彼らを襲った過酷な運命。書くことを諦めなかった妻の行方など。

有川さんのインタビューとかエッセイとかかなり追いかけて読んでいたので、作中の「作家でもある妻」の言動や作家になったきっかけが有川さんそのものとだぶっていて、初読の時すごく驚きました。そのときの感想がこれです
今回は旦那との出会いのシーンも含まれていたり、さすがに2回目なのでがっつり虚構の話としていただきました1

読書メーターの感想を見て驚いたことには「それなりに多くの人はこれを泣ける話として認識していて、実際読みながら大泣きしているらしい」ということです。
個人的には「足の裏がぞわっとする理不尽ホラー+愛」の話だと思っています。「泣ける話」ではない。

あとこの作品の夫氏は「よくできた夫」すぎて、個人的には「ある日空から美少女が降ってきた」「ある日資産家の令嬢であることを知らされてイケメンにかしずかれる身分になった」と一緒のカテゴリに入れたい。
いっそ胡散臭いほどによくできすぎている。

しかし書き下ろしよりStorySeller発表の3作がまとまった1冊のほうが嬉しかったやもしれぬ。
いや単にSS3は雑誌こそ買っていても絶賛積読中なのであれなのですが……。
ヒトモドキとか最強に気持ち悪い話 (※褒め言葉)なのであれはぜひともどっかに収録して欲しいな。

  1. 有川さんの夫氏との初対面はどっちかというとレインツリーの国なんですな。オフ会が初対面でしたというようなことを講演会かトップランナーの公開収録の時に聞いた []

原稿零枚日記

小川洋子の対談とかエッセイは読んでたけど小説を読むのはこれがはじめてかも。
タイトルは日記だけど中身は小説です。日記調の小説です。
乙一の小生物語よりはもうちょっと小説寄りで、紺野キリフキのキリハラキリコよりはもうちょっと現実寄り。
日記の書き手は小説家で「小説を読んであらすじを語る」のが上手で、長編の執筆に悩んでいる。
ようやく3枚ほど書いたかと思えば次の日にはそれを棄てる。毎回の日記の締めは(原稿零枚)
母の見舞いへ行き、運動会に侵入し、パーティに参加し、取材に出向き、毎回締めは(原稿零枚)なのである。

「どうもありがとうございました」
形だけお辞儀をして、編集者は部屋を出て行った。
いいか、お前の話を聞きたがっている人間などこの世に一人もいないのだ。付け上がるんじゃない。
取材の後必ず自分に言い聞かせる戒めを、今日も高らかに唱える。

(P33)

あなたに贈るキス (ミステリーYA!)

この世界にはソムノスフォビアという病気が存在する。
発病すると異常に眠ることを恐れ、脳炎高熱嘔吐その他様々な症状を起こし遅くても2ヶ月以内に死に至る。
致死率100%のその病は世界をパニックに陥れた。やがて直接唾液の触れ合うキスで感染することが判明し、現在はほとんどの国で唇をあわせるキスは違法行為として禁じられている。

全寮制の学園、純潔を尊ぶリセ・アルピュスではひとりの女生徒の死が波紋を呼んでいる。
彼女の死はあの病によるものだと。織絵が死んだ謎をめぐり美詩は学園を走ることになる。

織絵と美詩の関係がやばい。あの死の真相・ラストシーンはすげえ! と思いました。
美詩は恩田陸「麦の海に沈む果実」の理瀬っぽいよな。色んな意味で。

唇と唇が触れあえば、どんな気持ちになるのか知りたくなる。目を見交わすよりも情熱的で、手を繋ぐよりもきっとぞくぞくして、セックスほど即物的ではない感覚。

(P98)

やっちゃれ、やっちゃれ!—独立・土佐黒潮共和国

京都よりも遠いお隣、高知県を舞台にした小説。
住民投票の結果、高知県は日本から独立して黒潮共和国になった。
混乱の世の中老人達は意気揚々と林業や農業を再開し、若者は生活の急激な不便さに戸惑っている。
あれはどうするのかこれはどうするのかと悩みながら決めていく前半が好きだな。
ところでわたしはよっちょれよっちょれ派です。

高知が独立するまでに至ったのは、この沸きあがるような土佐人の力だ。
問題は、この力を維持しつづけていくことだ。智彦がいった通り、祭りはいつか終わる。人々は日々の暮らしに戻っていく。いってみれば、日々の地道な暮らしがあるからこそ、祭りの日のエネルギーとして発散される。祭りの力で独立を果たした後には、地道な暮らしが待っている。それをどのくらいの人々が認めることができるか。きっと、それがこれからの黒潮共和国の課題だ。

(P213)

ついてくる怪談 黒い本 (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)

より怖いのは赤い本のほうなんだけど、怪奇現象がありありと起こっているのはこちらのほうだ。
テケテケさんは恒川光太郎の神家没落みたいだな。しかしP48はいいヤンデレ面をしている。

終わらない怪談 赤い本  (ポプラポケット文庫 児童文学・上級?)

装丁を語る。

右側に本のカバー、左側にデザインする時はこういうところをこのようにしましたというコメントだったり、こういう紙を使っています・こういう加工をしていますというデータが載っていました。

この前のダヴィンチとあわせて読みたい、という感じ。

ダ・ヴィンチ 2010年 08月号 [雑誌]

絶叫委員会

印象にのこったことばたちに書いてみようと思いますというエッセイ。
最初はちょっと短歌評みたいな硬めなのかなあとおもったらすごく笑える系だった。
身もふたもなくまとめると「穂村さん可愛いなあ」っていうかんじの。
私が好きなのは「OS」と「電車内の会話」である。好きだ。

書痴迷宮

倉庫で古本屋を営む北村古書店の客観察記録(※小説)

愛読積読印読猟読、本に魂を奪われている様々な人が出てきている。
3桁程度の積読を発生させたり定期的に本を買って趣味として月15冊以上読む辺りで結構少なくなる気はするのですが、twitter辺りでは珍しくもなんともない。ということで実在の人物が思い浮かぶ。
ちょーでるたんっぽいとかななきさんが怒り狂うとか。本読み的に自戒しつつ読み進めていくのが楽しい。

玄関から廊下へと壁の両側が天井まで本でいっぱいだ。三つある部屋も本が溢れている。どの本棚も二重に本が並べられている。ダイニングルームも本で埋められ、その隙間にテレビや冷蔵庫が隠れていた。テレビもあるが、ほとんど見ることはない。食卓の上も下も本でいっぱいなのだ。トイレの中も、風呂場の中にも本棚があり、本が並べられていた。これでは人間の住む空間はないといってよい。当然、所帯も持てない。嫁さんひとりでも、居場所はないのだった。

(P19)
PAGE TOP