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2014年05月

カミュで『ひねくれた告白』

「これでも口にするとよかろう」
尊大な態度のままのカミュからは水色の飴玉が入ったビンを受けとった。
「ミューちゃんがお菓子くれるなんてどんな風の吹きまわし? 明日帰国するから餞別品とかなんとか言わないでよね!?」
「いくら寿とはいえ40過ぎてマラソンはきつかろう。ありがたく受け取れ」


2014年24時間テレビのマラソンランナーはTOKIO城島リーダーに決まる。

トキヤで『君の最期に』

思い起こせばあなたが私に遺してくれたものを考えると頭が上がりません。辛いことをたくさん押し付けました。自分にはその実力はないくせに疎んだりしました。
あなたには感謝しています。私は私として頑張っていきますのでいつものスタジオで見守っていてください。おやすみなさい、HAYATO。

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負 「夢の中で」「交差点」「カンカンカン」

 昨日すごい夢を見たんです、と那月は少し疲れた顔をして言った。Tシャツの背中の部分が汗で貼りついている。
 ST☆RISHツアースタートが近づいている。初日は7月大阪城ホールだ。ずっと関東での公演のみだったがはじめてのツアーで決めることも覚えることも増えてあわただしい日々が続いていた。
「もうずっと追いかけられている夢を見てて、もう駄目だーっていうときにピヨちゃんが降ってきて、僕の後ろを追いかけてた何だかよく忘れましたけど、それをぷちって潰してました」
 那月はダンスを覚えるのがそんなに早いほうではない。お前はやればできるんだからやれよ、ということで那月との仕事が終わった後そのまま翔も一緒にスタジオにやってきた。シャイニング事務所持ちのスタジオがあるということはしみじみありがたいことだなと思う。練習場所を考えなくてもここに来ればいいのだ。体格はまるで違うが動きぐらいなら翔が実演することだってできる。練習用のDVDをおいて確認していく。
今日の練習はまだこの後あるからあまりやりすぎてはいけない、と壁にもたれかかって休憩タイムに入って那月が話し始めたのが今だ。
「どんだけ追い詰められてるんだよ。ツアーはまだはじまってもないし今年はついに揃ってカウコンだって出られるんだぜ? 去年は寿先輩と黒崎先輩が出てるのをテレビで見るだけだったけどさあ」
「でもね、そのピヨちゃん中から翔ちゃんが出てきたんです。夢の中でも翔ちゃんはかわいいスーパーマンでしたよ」
かわいい、といわれて翔は思わずタオルを握る手に力が入る。
「うるせえ可愛いって言うな褒めたいならかっこいいスーパーマンって言え」
「だって可愛いピヨちゃんの中から翔ちゃんが出てきたらそれは可愛いって思うんだけど。翔ちゃんはどんな夢見る? 僕が出てきたりとかしない?」
「夢なあ……」
 聞かれて翔は最近の夜を思い起こす。ここ最近は熟睡してしまって、夢そのものは見ているのかもしれないが起きるまでその夢を覚えていることがなかった。
「最近はあんま夢見た! っていうのは覚えてないけどデビューしたての頃は俺だけ行き止まりの夢をよく見たなあ……」
 早乙女学園在学中に鳴り物入りでデビューしてうたプリアワードを獲得してとんとん拍子でステージを進んでいったST☆RISHだったが、翔は他のメンバーほど天性の才能を持ち合わせているわけではなかった。「親しみやすい翔ちゃん」が人気の理由だが、周りと比べて不足を感じないわけはない。
「7人揃って歩いてて、交差点が見えてきて、踏み切りじゃないはずなのに俺にだけ遮断機が下りてきて、皆は普通に歩いていってるのに俺だけそこで止まってるんだ。待っても遮断機は全然あがらなくて、名前を呼んでも音がうるさくて誰も振り返らなくて」
 昔は不安なことがあったら入院していたころの夢を見ていたのに、そういえばいつからかあの夢は見なくなった。代わりに見るようになったのがこの夢だった。なまじ繰り返し見るものだから「この前の続きだ」などと思ってしまうこともあった。
「翔ちゃん僕の名前もちゃんと呼んでくれました?」
夢の中の話だというの那月は若干不満そうな顔をしている。
「お前なんか隣歩いてたはずなのに一番最初に追い抜いていったっつうの」
「今度はもっとちゃんと呼んでください。走って戻って踏み切りぐらい僕が持ち上げますよ」
「いらねえよ。もうあの夢見てねえから。覚悟が出来たって事じゃねえの? この世界で勝ち上がって、7人そろってトップアイドルを目指すぞ。その手始めがこのツアーだ。持ち歌シャッフルとかもあるんだからしっかりしろよ」
「僕はレン君の歌を歌えるのが楽しみです。闘牛士になったつもりで頑張りますよぉ」
「よしその調子だ! 気合入れていくぞー! 再開だー!」
「おー!」
翔はスポーツドリンクを一気飲みして立ち上がった。

ST☆RISHが口紅のCMに出ました。

「口紅……ですか」
 珍しく7人揃って事務所に呼び出されたかと思えばST☆RISHはそれぞれに企画書を渡された。化粧品関連の仕事はこれまでも香水のプロデュースなどをしたが7人揃ってCMに出るというのは久しぶりだ。
「那月は前にもこういうのやってたよね」
 音也がジュースを飲みながら向かいに座る那月に話しかける。
「うたプリアワードの前のことですか? あれは翔ちゃんも褒めてくれたからとてもよく覚えてますよぉ」
「まだ覚えてんのかよ早く忘れろよ。つかこれすげえな。実際塗るのか」
翔は自分の唇を触りながら撮影日や当日の流れを確認する。「今までにないセクシーなST☆RISHを」というのがメインテーマのようだった。
「別に唇じゃなくてもどこに塗るかはそれぞれで決めてもいいようだから、格言にあわせたいよね」
この手のことはレンが詳しいのだろう。鞄からタブレット端末を出してきたレンは笑顔で「キスの格言」と書かれたwebページを検索して皆が見やすいように置いた。
「ワタシ頬がいいです。満足感。おなかがいっぱいということです。とても素晴らしい」
「トキヤは首でしょ?」
仲良くタブレットを覗き込んでいた音也とセシルは、企画書とは別に1枚の紙に書かれた、キスマークを置く場所を示した人体図を指差した。音也の声を聞いてトキヤの頬が引きつった。
「何故あなたが私のことを言うんですか自分のことだけ言っておけばいいでしょう」
「だってトキヤこの前出てたCMえっろかったじゃない? 今度はセクシー路線でって言われてるからトキヤ今度はもっとやっても大丈夫だしたぶん皆喜ぶよ」
 音也の言うエロいCMとは何ということのない普通のワインのCMのことだ。ただ、唇と喉元がアップになるカットがあったのだがそのシーンが「色気がやばい」とキャプチャー画像が出回ったのだ。
「それは名案だ」
「レン」
「パブリックイメージって大事だよ。生かさない手はないよ? それで行くならおチビちゃんは額だね。オレはこの格言にはないけど胸がいいなあ。選択肢としてはあるようだし」
 諌めるような口調のトキヤに対してレンはウィンクひとつ飛ばして話を進める。
「那月は背が高いせいもあるんだけど、『ピヨちゃんといっしょ』でちっちゃい女の子相手だとよくしゃがんでるじゃない? この前見たとき目の前にちゅってされてるところ見ちゃって、那月はこういうのが似合っていいなって思ったよ」
 「ピヨちゃんといっしょ」は那月がついに勝ち得たピヨちゃんとの共演番組だ。幼児向け番組だが体操のコーナーやお遊戯のコーナーや歌のコーナーもあってこの上なく那月にマッチした番組になっている。
「朝早い番組なのに音也くん見てくれてるんですね。ありがとうございます! じゃ僕は目の上にしますね」
「ていうか聖川、さっきから全然喋ってないけど大丈夫か?」
 翔が心配して声をかけたのは企画書を見たままぴくりとも動かない真斗だ。ただでさえ白い顔が若干青白い気さえする。そういえば共演した女優を抱きしめることさえままならなかった真斗だ。あれから場数を踏んだとはいえ今回のようなCMはまったく縁がないから、ラジオで共演経験の長い翔には心中が透けて見えるようだった。
「俺と変わるか? 頬だけど」
「いやしかしそれでは来栖が困るのではないか? しかし他には……唇は……」
「根性のない奴だねえ」
 いつもなら反論するレンからの言葉にも返すことはなく手の内で企画書に寄る皺が徐々に増えていく。
「じゃあ、真斗くんはそのほくろにっていうのはどうですか? 真斗くんのチャームポイントですしとっても可愛いと思います」
「ああ、それならば……」
「じゃ俺が唇ね! 俺が一番目立つよこれ!」
音也は赤いペンを手にとって図の口の部分に丸をつけておんぷくんを書く。分担を決めた用紙は事務所スタッフに渡し後は撮影日を待つばかりだ。

グレイテスト元ネタ:https://twitter.com/jjiroooo/status/467328675113750528

藍で『甘えてよ』

「んん? どうしたのアイアイ珍しい」
呆れから出るため息なら嶺二はこれまでいくらでも見たが今日の藍はそれとは違った。
「……ナツキもショウもボクのことなんだと思ってるの? たまには頼ってくればいいのに」
「先輩の心後輩知らずていうやつだよ、うちだってトッキーがさあ」
「レイジうるさい」

翔で『縁のない話』

「半年間一緒に暮らした藍にだから言うんだけどさ」
珍しく藍が淹れてくれたフレーバーティなのに妙に味気ない。
「あいつ俺の事好きだろ? あ、そのままの意味だからな?」
「好きに種類がある話は今はいいよ。続けて」
「すげえ変な話だけど、那月が俺に黙っていなくなるなんて考えたこともなかった」

風呂場 真斗 白

「今日の温故知新ふたたびは東京を飛び出して道後温泉にやって参りました」
「風情のある街でよいな。今日は温泉ロケもあるということだが一ノ瀬、俺は疑問があるのだ」
「はい」
「温泉というのは大概透明だと思うのだが今日のロケ地はどこも濁り湯で有名なところだな。偏っていないか」
「気のせいです」


音也で『最近の発作です』

「もう俺トキヤと絶交する!」
「絶交ってお前小学生じゃないんだから」
「だって翔聞いてよトキヤったら酷いんだよ俺は気持ちよく歌いたいだけなのにトキヤはすぐ邪魔する!」
「いつものことですけど変なアレンジ入れ過ぎなんですよ」
「いつものことだろ? トキヤももうちょっと譲歩してやれよ」

トキヤで『自惚れないで』

「俺たち2人なら絶対すごいのができるって思うんだよね。ねえトキヤもそう思うでしょ」
学園長室からの帰りに話しかけられてトキヤは取り澄まして歩調を速める。
「私は出来ますがあなたと一緒にされるのは不愉快です」
「えー俺だってできるよ」
「根拠のない自信と憶測でものを言うのはやめてください」

一十木音也で『たった一分でいい』

「1分でいいんだよトキヤ、俺はトキヤが納得するような歌を歌ってみせる」
「そういうことを言っているのではありません」
「俺まだやれるよ!?」必死の形相で掴みかかるが点滴のルートが邪魔して動ける範囲が限られている。
「事故現場に居合わせた私の気持ちも考えてください。死んだかと思いました」

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