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小料理屋聖川

 駅前から少し奥に入ったところにその店はあった。ここが料理屋だという主張は控えめなもので気付かなければそのまま素通りしてしまうかもしれない程度だった。夜になるとその提灯には自動で明かりが灯る。提灯には達筆な筆文字で「聖川」と書かれている。夕方からほんの数時間だけ開店する小料理屋だ。
 暖簾をくぐり障子のような木枠の引き戸を開けるとこじんまりとした店内が見渡せる。カウンター席と奥には座敷があるのだろうか。脱ぎ捨てられた靴と赤い座布団が見える。カウンターの内側には常連客のものと思しき札付きの一升瓶やボトルが並べられている。
「いらっしゃいませ」
 凛とした声が聞こえた。
 芸能界から退いても年老いても張りのある良い声だとトキヤは思った。かつては同じ学園に通い同じ時期にデビューをした同期だったが真斗は家業の都合である時期から少しずつ仕事を減らしていき最後に主演舞台とコンサートを行って芸能界を引退した。数十年前のことだ。去年真斗から一通の手紙が届いた。
「ご招待いただいていたのに伺うのが遅くなってすみません」
「来てくれるだけで十分嬉しいぞ。まあ座れ、いや今日はもう仕舞おう」
カウンターを抜けて真斗は暖簾を下げ表の提灯も消灯した。
「すみません」
「構わん。道楽でやっている店だ」
「でもあちらにはどなたかいらっしゃるのでは?」
「黒崎さんだ。ありがたいことにうちを贔屓にしてくださっている。今日は神宮寺も来ているのだ」
 黒崎と聞いてトキヤは思わず立ち上がって座敷のほうへ向いた。
「黒崎さんならご挨拶をしておかなければ」
「行かないでおいてくれ。黒崎さんは今ご息女の結婚が決まったから傷心なのだ。今神宮寺が絡まれ……慰……お相手をしている」
 制止されてトキヤはまた席に座りなおす。そういえば時々座敷のほうからは地を這ううめき声のような何かが聞こえてくる。あれは蘭丸の声なのか。
「レンは頼られると嬉しい人だからどんな目に遭ってもきっと本望でしょう」
「違いない。何か食べるか。いや料理屋でその質問は妙だな。品書きはそこにある。まあここに書いていないものでも作れるものはあるが」
 真斗が差した先には達筆な筆文字で書かれた「今日のおすすめ」がある。文字のかすれ具合からすると印刷ではなく頻繁なペースで書き直されているものではないかと思われる。一点に目がいってトキヤは思わず噴出した。
「なんだ。笑う所などないだろう?」
「すみません、この『今日の味噌汁』が懐かしくて」
「そうだろう? 俺が店をやるならば味噌汁は必ず毎日提供したいと思ってな」
「今日の味噌汁は何ですか?」
「今日は油揚げとわかめだな。油揚げから出る旨みが味噌と合わさっていい味を出している」
「若い頃に戻ったような気分です。ではお味噌汁と魚料理を何かお願いします」
こぼれる様な笑顔を落としてトキヤは注文を告げた。
「一ノ瀬は相変わらず小食なのだな。この前一十木が来た時は何でもいいから美味い肉! と言っていたぞ」
「あれと一緒にするのはやめてください」
「仲が良いのはよいことだ。準備するから少し待て」
「はい」
 カウンター越しに包丁が動く音がする。インスト曲も流れていない店内にはよくその音が響いた。

小料理屋聖川

駅前から少し奥に入ったところにその店はあった。ここが料理屋だという主張は控えめなもので気付かなければそのまま素通りしてしまうかもしれない程度だった。夜になるとその提灯には自動で明かりが灯る。提灯には達筆な筆文字で「聖川」と書かれている。夕方からほんの数時間だけ開店する小料理屋だ。

風呂場 真斗 白

「今日の温故知新ふたたびは東京を飛び出して道後温泉にやって参りました」
「風情のある街でよいな。今日は温泉ロケもあるということだが一ノ瀬、俺は疑問があるのだ」
「はい」
「温泉というのは大概透明だと思うのだが今日のロケ地はどこも濁り湯で有名なところだな。偏っていないか」
「気のせいです」


(お題:純白の魚 制限時間:15分 未完)

 白魚のような指、というのは果たして男に使う形容詞として正しいものかどうか分からないが真斗は綺麗な手をしているとよく評されている。色白で細いがピアノを弾くに適した大きめの男らしい手だ。去年は紺色の浴衣で子供の手を引いて花火大会へ行くCMが好評を博した。思えばこのCMも子供と繋いだ手がテレビに大写しになったのだ。その年の印象的なCMとして賞を受賞し真斗もまた授賞式に赴いた。
 神宮寺レンあたりに言わせれば「苦労を全く知らない手だね」とでも言い放ってそのまま喧嘩に流れ込む所だろう。普段は仲裁役として間に入りがちのレンは真斗相手となると急に大人気なくなる。トキヤは真斗の肩を持ちたがるしとなればこの2人の喧嘩を中立の立場で止められるのは最近では翔ぐらいとなった。

料亭一ノ瀬

「聖川さんが美味しそうなエビをもってきてくださったので揚げてみました。どうぞ、小エビのフリッターです」
「トキヤが揚げ物なんてどうしたのうまそう……」
「どうしたんですか聖川さん」
「フリッターとはなんだ。これは天ぷらのように見えるがそうではないのか」

小料理屋聖川

最近新しい店ができたと聞くな。料理人は一ノ瀬と似ているそうだぞ。健康志向の店だと聞くがそちらに行ったりしないのか。……なんだその顔は。別に来るなと言っているわけではない。 #小料理屋聖川

えさ、なげる、帽子

クリスマスの時に観劇に来ていた四ノ宮は餌を目の前にした犬みたいだったぞ。それかフリスビーを投げられた犬だな。あんなに喜ばれればこちらも甲斐があるというものだ。来栖は来栖で四ノ宮の劇を力を入れて見ていてな、よく助言していたダンスシーンが終わると帽子を握る手が緩んでほっとしていたぞ。

#小料理屋聖川

よいブリが手に入ったから煮付けてみた。上手く出来ていれば良いが少し味を見てくれないか #小料理屋聖川


この揚げだし豆腐は一ノ瀬のお気に入りでな。揚げ物の類は一切口にしない一ノ瀬がこれだけは毎回注文するのだ。おかげでつゆの作り方を随分と研究したものだ。お前も何か食べたいものがあれば言うのだぞ。品書きになくても出来る料理はあるからな #小料理屋聖川


店の稼ぎにはなるがそのようなペースで一升瓶を開けるのではない。もっと体をいたわるがいい。せめて明日に響かないように胃と肝臓に優しい料理を出してやろう。これは俺からの気持ちだ。年始から残業続きで大変だろう。とりあえずだしまきでも食べておけ。美味いぞ #小料理屋聖川


この小料理屋は和食しか出さないのかい? などと鼻で笑われたものだから目にものを見せてやると思い一十木に店を選んでもらって作ったのがこのなぽりたんだ。神宮寺のやつはここはいつから喫茶店になったのかと腹を抱えて笑っていたが俺はどうすればよかったのだ。 #小料理屋聖川


黒崎さんお待たせしました! これだけおにぎりがあれば足りるでしょうか。片手でつまめるものをご所望ということでしたので一部は肉巻きおにぎりにいたしました! 今日はこちらの座敷は貸切にしています。トイレへ向かう客と鉢合わせになるかもしれないのでご注意ください #小料理屋聖川


いくら俺が京都出身とはいえ茶漬けを薦めたからといってとっとと帰れということではない。好きなだけゆっくりしていけ。……そんなにも誕生日を祝われたのが嬉しかったのか。せっかくの色男が台無しだな。タオルを持ってこよう。少し待て #小料理屋聖川


先日は来栖が弟とともにやってきた。2人とも酔っていてな、どっちが翔くんでしょうゲームなどと始められたが弟のほうが箸の持ち方が綺麗だったから一目で分かった。何故分かったのかと詰め寄られたのでそのことを指摘したら来栖に拗ねられてしまった。悪いことをしてしまったな #小料理屋聖川

味噌汁の具は毎日変えている。気分によって様々だな。常連客には「きょうの味噌汁」などと呼ばれていて、今日は何の具? などと聞かれるが基本は秘密だな。おにぎりと同じだ。出てきてからのお楽しみというものだ。 #小料理屋聖川


言いにくそうにしてなんだ相談事か。長くなりそうか。……ならもうのれんを仕舞おう。こんな雪の日に来る酔狂な客はそうはいまい。これで俺とお前は客と店主ではなく、ただの友となるのだ。この前仕入れた美味い酒がある。そのうち振舞おうと思っていたのだ #小料理屋聖川

原稿、締め切り、雑誌

シャニスタにはシャイニング事務所所属アイドルそれぞれに担当コーナーが持たされている。なかにはリレー日記のような短いエッセイもあるが、締切ぎりぎり提出となるのが真斗だ。書く内容を延々と考えては自主没にしていることが多い。レンとトキヤによる「缶詰作家付編集ごっこ」も堂に入ったものだ。

お蕎麦、作法、めんつゆ

今年は俺たち初めてカウコン出たんだけどね。紅白から移動後に年越しそばがふるまわれたんだけど、大きな容器に入っためんつゆを見たマサが凄い興味津々でさ、もしかしてああいうの初めて見るのかな?そばって音を立てて食べるのが作法なんだよって言ったら困った顔をしてすすろうとして凄いむせてた。

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