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トキヤで『世界で一つだけの願い事』

「もう短冊に願い事を書く季節でもないと思いますが」「願い事は口にしたほうが叶うっていうでしょ」「私の願いならもう叶っていますから後は自力でなんと かします」「え」「私の願いは一ノ瀬トキヤとしてデビューすることでした。やりたいことはたくさんありますから一個ずつ達成していきますよ」

日本戦は6月15日AM10時キックオフです。

 今日は音也とシャニスタの撮影だ。入り時間は午前の早い時間だったが、特に変わりなくトキヤはいつも通りの少し早めの時間で楽屋に到着した。ドアを開けると音也が既にメイクも済ませた状態でスタンバイしていた。トキヤは思わず腕時計とスマートフォンの両方で時計を確認した。間違いなく時計は合っている。
「あ、トキヤおはよー」
 最近買い換えたスマートフォンから顔を上げて音也は伸びをした。また画面に熱中していたのだろうか。音也はワールドカップが近づいてきた頃画面の大きなスマートフォンに買い換えた。ST☆RISHが揃う仕事などでは翔と2人でひとつのスマートフォンを持って体を寄せ合ってサッカー関連の動画をみているところをよく見る。
「どうしたんですか。まだ入りの時間にもなっていませんよ。いつもぎりぎりの音也にしては珍しい」
鞄をおいて撮影に向けて用意をしていると音也の鞄から青いユニフォームから飛び出した。
「じゃーーん」
「ああ、そういえば日本は今日でしたね」
「日本は今日でしたね、じゃないよトキヤ!! 何そのテンションの低さ! ワールドカップなんだよ4年に1度しかないんだよ」
「……あなたオリンピックもろくに見てなかったじゃないですか」
 いちいちトキヤの口まねまでするところがまた憎らしい。トキヤは思わず不機嫌そうな声色が口にでてしまった。
「見ていたのと言えば翔が見たいからって言ってたフィギュアを一緒に見ていたぐらいでしょう? そんな人が4年に1回の希少性を説いても説得力がありませんね」
「過ぎたことより未来を見ないとだめだよ。それでさあ、この撮影巻いて終わったら俺後半丸まるか前半の終わりぐらいから見られると思うんだよね。だからトキヤも早く準備してきてよ。今日はみんなで巻いていこうよ」
「……別に巻き進行に異論はありませんが、前半終わりからってどこでワールドカップ見るつもりなんですか。タクシーで移動するにしても音也の自宅はここからだと結構離れているのでは?」
降って沸いた疑問をそのまま音也にぶつけると1枚のチケットを見せた。
「渋谷のスポーツバー、今回は行列できるだろうから入場も整理券対応するって言ってたんだけど店長がいい人でさ、いっちゃんにならくれてやるぜってくれたんだよ~もう1枚あるからトキヤもいっしょに」
「あなた馬鹿ですか何度言ったらわかるんですか学習能力ないんですか」
音也が喋っているのを遮って思わず語気を荒くしてしまったが音也はどこ吹く風か意に介していない。
「大丈夫だよ俺変装していくし何回も行ったことあるけど意外とバレないんだよ? 皆サッカー見て応援するのに必死だしね。せっかくだから誰かと試合をみる喜びを分かち合いたいんだよー」
「あんな人ゴミの中に行ってバレないとでも思ってるんですか。ただでさえ試合終わりの興奮している人たちばかりの中で混乱を呼ぶのはやめなさい」
「そこまでいうんだったらトキヤんちで見せてくれる? トキヤんち近いしこの後時間あるでしょ?」
「私はサッカーのルールなんて詳しくないんですし……翔のほうがいいんじゃないですか?」
「それ行っていいってことだよね!? やった!」
 音也は立ち上がって両手を振り上げると快哉を叫んだ。
「トキヤ俺が遊ぼっていってもなかなかうんっていってくれないし珍しい! あ、翔はまた今度約束してるからいいよ。それにルールわからなくても大丈夫だよ俺が解説するし! 楽しみにしてていいよ!」
「私は場所を提供するだけですよ。別に解説なんていりません」
 早く行っておいでよと追い出されるようにしてトキヤは楽屋を出た。背中越しにワールドカップのテーマソングを歌い始める音也の声を聞いた。

6/2は裏切りの日です。

「TOKIには色々悪い事をしたね。あそこで警察に密告したのはオレだよ」
かつての仲間はまるで知らない表情をして銃をつきつけられても平然としている。
「一息に楽にしちゃってよ。今更抵抗なんてしないよ。できるでしょ? 」
喉から獣のような唸り声がひねり出される。震えた手が引き金にかかった。

-

「まさかあなたが気付くとは思いませんでしたよ」
シャツを赤く染めて荒い呼吸をしながらもパーフェクトダイヤは変わらず綺麗な顔をしていた。「妙に聡いくせに人を信じすぎる。一度懐に入ってしまえば偽装は用意でした。裏切り者は私、トリッキーハートを死の淵に追いやったのも私です。憎いですか」

-

「よかったよ。うちの姫様の情報何も知られてなくて。もうちょっとで殺さないといけないところだったかも」
はしゃいだ声の赤毛の忍者は地面に伏した黒服の傍でしゃがんで髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。突然の痛みに男は顔を歪ませ呻いた。
「せっかく仲良くなったんだしね。またどっかで会おうね」

小料理屋聖川

 駅前から少し奥に入ったところにその店はあった。ここが料理屋だという主張は控えめなもので気付かなければそのまま素通りしてしまうかもしれない程度だった。夜になるとその提灯には自動で明かりが灯る。提灯には達筆な筆文字で「聖川」と書かれている。夕方からほんの数時間だけ開店する小料理屋だ。
 暖簾をくぐり障子のような木枠の引き戸を開けるとこじんまりとした店内が見渡せる。カウンター席と奥には座敷があるのだろうか。脱ぎ捨てられた靴と赤い座布団が見える。カウンターの内側には常連客のものと思しき札付きの一升瓶やボトルが並べられている。
「いらっしゃいませ」
 凛とした声が聞こえた。
 芸能界から退いても年老いても張りのある良い声だとトキヤは思った。かつては同じ学園に通い同じ時期にデビューをした同期だったが真斗は家業の都合である時期から少しずつ仕事を減らしていき最後に主演舞台とコンサートを行って芸能界を引退した。数十年前のことだ。去年真斗から一通の手紙が届いた。
「ご招待いただいていたのに伺うのが遅くなってすみません」
「来てくれるだけで十分嬉しいぞ。まあ座れ、いや今日はもう仕舞おう」
カウンターを抜けて真斗は暖簾を下げ表の提灯も消灯した。
「すみません」
「構わん。道楽でやっている店だ」
「でもあちらにはどなたかいらっしゃるのでは?」
「黒崎さんだ。ありがたいことにうちを贔屓にしてくださっている。今日は神宮寺も来ているのだ」
 黒崎と聞いてトキヤは思わず立ち上がって座敷のほうへ向いた。
「黒崎さんならご挨拶をしておかなければ」
「行かないでおいてくれ。黒崎さんは今ご息女の結婚が決まったから傷心なのだ。今神宮寺が絡まれ……慰……お相手をしている」
 制止されてトキヤはまた席に座りなおす。そういえば時々座敷のほうからは地を這ううめき声のような何かが聞こえてくる。あれは蘭丸の声なのか。
「レンは頼られると嬉しい人だからどんな目に遭ってもきっと本望でしょう」
「違いない。何か食べるか。いや料理屋でその質問は妙だな。品書きはそこにある。まあここに書いていないものでも作れるものはあるが」
 真斗が差した先には達筆な筆文字で書かれた「今日のおすすめ」がある。文字のかすれ具合からすると印刷ではなく頻繁なペースで書き直されているものではないかと思われる。一点に目がいってトキヤは思わず噴出した。
「なんだ。笑う所などないだろう?」
「すみません、この『今日の味噌汁』が懐かしくて」
「そうだろう? 俺が店をやるならば味噌汁は必ず毎日提供したいと思ってな」
「今日の味噌汁は何ですか?」
「今日は油揚げとわかめだな。油揚げから出る旨みが味噌と合わさっていい味を出している」
「若い頃に戻ったような気分です。ではお味噌汁と魚料理を何かお願いします」
こぼれる様な笑顔を落としてトキヤは注文を告げた。
「一ノ瀬は相変わらず小食なのだな。この前一十木が来た時は何でもいいから美味い肉! と言っていたぞ」
「あれと一緒にするのはやめてください」
「仲が良いのはよいことだ。準備するから少し待て」
「はい」
 カウンター越しに包丁が動く音がする。インスト曲も流れていない店内にはよくその音が響いた。

音也で【 うしろ姿 】

トキヤがキッチンに立っているところを見るのはとても久しぶりな気がする。
「約束だったでしょう? 舞台が終わったらカレーを作ると」
と言われて散歩に誘われた犬みたいにしてついてきた。ブログ用の写真を撮っても怒らなかったし背後から見ていても一目で分かるぐらい今日のトキヤはご機嫌だ。

ワールドカップが始まる時期となりました。

「俺この日のために画面でっかいスマホに買い換えた! これで移動中にワールドカップ見られるよ!」
「でかしたぞ音也!」
そしてワールドカップが始まってからというものの音也と翔は暇さえあればふたりで音也のスマートフォンをもって体を寄せ合って画面を覗き込んでいる。騒々しいことこの上ない。

 

「翔ちゃーん」
「おう」
「翔ちゃんったらー聞いてるー?」
「うっせえ那月いまいいところなんだおぶ」
随分と大きななにかにぶつかった。謝ろうと顔をあげた瞬間翔は凍った。
「……美風のところの愚民風情が、よくも……」
カミュの足元ではソフトクリームが無残な姿を晒していた。 #歩きスマホ危険

 

「あなたの辞書には配慮とか遠慮とか言う言葉はないんですか。大体私はサッカーにはさほど興味がありません。勝敗を朝のニュースで知れればいい程度です毎晩毎晩電話をかけてくるのはやめてください翔に言えばいいことでしょう」
「でも俺の好きなことだしトキヤにも知ってほしい!」
「結構です!」

askより: 「防水」「スプレー」「黒」

 赤い、目立つ、信号機みたいだと言われる音也だがいつも着ているランニングウェアというのは地味なものだ。音也自体がとても目立つ存在だと思われているため地味な格好をすると途端に雰囲気が変わってしまうようだった。
 走りこみ自体は劇団シャイニングの頃からの名残だ。蘭丸は日常的に筋トレは欠かしていないというし、ステージ上やスタジオで走り回ることの多い音也にとって続けておいたほうがいいだろうと習慣になった。ただトキヤはそのことについてあまりいい顔をしていない。まだ走っているんだよと言ったときのトキヤはファンに顔バレをしたらどうするのかと、ジムで走ればいいのにと、まるで心配性の母親のようだった。
 ジム通いもまだ続いている。外を走るのは自転車といっしょでもはや音也の趣味のようなものだ。説得される気配はないと悟るとトキヤは小さくため息をついた。
「ならせめて皇居ランはやめなさい。あそこは人が多いですから」
「大丈夫だよちゃんと変装するし」
「あの辺は車通りも多いですからあまり空気はよくないんですよ。だいたい変装した所であの量の人の目を欺けるとでも思っているのですか。思ってるならあなたアイドルのオーラなんて1ミリも出ていないということですからアイドルなんて辞めてしまいなさい」
「トキヤひどい!」

 そんな風にして音也のウェアは上下とも黒くなって、自転車に乗ってるときも使っている鞄だけが赤くてたすきの様にいつもかけられていた。
 走っているときは無心になるという話を聞いたことがあるが音也が土手沿いを走りながら考えるのは次の曲のこと、この後食べるごはん、トキヤとやっている料理番組へのリクエスト料理について、これからの夢、いろんなことが形になっては消えていく。
 今イヤホンから流れている音楽もこれからレコーディングする予定のデモ曲だ。ハイテンポの、音也にしては珍しくダンスナンバーとなる予定だ。新しいことに挑戦できるのは楽しい。ひとつできるようになれば今まで考えようもなかった新しい道と解法が見えてきて、それらを全部ためしていくには時間が足りないと、焦りと楽しさで世界は溢れている。
 何だか急に薄暗くなった気がすると思えば霧吹きのような細い雨が降り出した。この辺は雨宿りできる所も少ない。音也は軽いジョギングから本気の走りに変えた。鞄の中のスマートフォンはともかく服の外にぶら下がっているお気に入りの音楽プレイヤーは防水ではないのだ。
 この辺唯一のコンビニに辿り着いた頃雨は勢いを増した。ぎりぎりセーフだった。
「このコンビニ来るの久しぶりだなあ」
レジの裏側に広めのイートインスペースが設けられたこのコンビニはこの冬音也たちが毎日通った劇場の近くにある。よくここで翔と肉まんを食べたりしていた。さすがに肉まんはもう売られていないが、セシルと半分ずつ食べていた和菓子のコーナーは今も健在だ。
「セシルはこの豆大福が好きだったよなあ……。そういや最近ラーメン食べてないや」
 あまりにも濃い時間だったから思い出すと驚くが天下無敵の忍び道の幕が下りてからまた3ヶ月程度なのだった。あの舞台のおかげで優れた身体能力が求められるバラエティ番組からオファーが来たりしている。だいたい翔もいっしょだ。
 雨はほんの10分ほど降り続いてからりと止んだ。虹がどこかで出ているかもしれない。音也は虹を探してコンビニを出た。

そうだ、京都へ行こう

「秋の京都なんてとても宿がとれると思わないですが一度行ってみたいものですねと雑談中に少し話したらですよ」
「ああ、聖川じゃなくても自分の育った町がいいところだって言われたら嬉しいもんな」
「私のオフにあわせてご招待していただきました。すべて聖川さんの案内付ですよ。至福の一時でした」

トキヤで『君の最期に』

思い起こせばあなたが私に遺してくれたものを考えると頭が上がりません。辛いことをたくさん押し付けました。自分にはその実力はないくせに疎んだりしました。
あなたには感謝しています。私は私として頑張っていきますのでいつものスタジオで見守っていてください。おやすみなさい、HAYATO。

風呂場 真斗 白

「今日の温故知新ふたたびは東京を飛び出して道後温泉にやって参りました」
「風情のある街でよいな。今日は温泉ロケもあるということだが一ノ瀬、俺は疑問があるのだ」
「はい」
「温泉というのは大概透明だと思うのだが今日のロケ地はどこも濁り湯で有名なところだな。偏っていないか」
「気のせいです」


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