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Category: SS

久しぶりに音也が走ってきた。

 今年はお花見をすることもサイクリングに出かけることなく春が終わってしまいそうだ。人が少ない早朝とかを見計らって外を走る程度だ。今年のはじめに悪い病気が流行って世界ががらっと変わって、俺みたいな人前に出る仕事は真っ先に影響を受けた。
 時間ができたからこれは「一十木音也の今を伝える日記」を書くことにした。ブログはないし配信も色んな所に許可を取らないといけないからトキヤの真似をして日記を残すことにした。
 今は週に1回、ラジオの収録があるぐらいでそれさえも自宅で収録だから「一歩も外出しない」ができてしまう。トキヤは俺のことを心配してるのか「夜遊びをしたくなったらうちに来てもいいですよ。不要不急の外出にはなりますが、なにかトラブルを起こすよりずっとマシですから」って言ってた。トキヤと初めて会ってもう10年ぐらい経つけどずっと優しい。オンラインで蘭丸先輩と筋トレしたり、翔とゲームするから大丈夫だってトキヤには言ったけど、時々トキヤが作ったごはんがどうしても食べたくなってタクシーに乗ってトキヤの家へ行ったりもあった。
 そういう時のトキヤは自分は何も食べなくて飲まなくて、ずっとマスクをしたままでいろんな話をしてくれるし聞いてくれる。トキヤは仕事がなくなって自由な時間が増えたから本を読む時間が増えたって言ってた。

 「人と距離をとらないといけない」っていうあれに那月が一番影響を受けてて最近落ち込みがちだって翔が悩んでた。那月の愛情表現がストレートなのは昔からずっと変わらなくて、両手を広げたところで固まりがちだから最近では翔がピヨちゃんを持ち歩いているらしい。

 今日の日記はここまで。

肉が食べたい(音也とトキヤ)

原案:5週目舞台挨拶のてらしーとマモが音也とトキヤを逆にした感じ、というフォロワーさんの言。

きょうはルーレット記念日

世界のルーレット担に花束を。他担だけどあのふたりははじまりのふたりだって思うわ。

かつてHAYATO担だった22歳の話

ついカッとなってやった

四ノ宮那月はサンタクロースの存在を信じていますか?(2013/12/19)

――クリスマスはいつもサンタさんを待って外を眺めていました。でもいつも眠たくなってしまって起きていたためしはないんです。クリスマスじゃなくても空を見上げるのが好きなのは優しい人たちの祈りが空を泳いでいる気がするからかもしれません。

「翔ちゃん! 翔ちゃんすごかったです! 格好よかったです!」
クリスマス公演を終えた忍び道楽屋は来客を迎えてにぎやかさに溢れていた。元々シャイニング事務所内でも年少組で構成されている忍者チームは教室かなにかかと思うぐらい騒がしい時がある。それでもいざ稽古なり公演前ともなれば真剣な雰囲気となるのだが、今日はマスカレイドミラージュチームが観劇後の感想を伝えにきたのだった。
「ステージの端からバク転で中央まで行くところすごかったです! 翔ちゃんの笑顔もしっかり見えました!」
「それだけ喜んでくれたら俺も稽古がんばった甲斐あるよ」
風邪を引いていないか、先輩方に迷惑をかけていないか、今度の休演日に頭から見に行くからな、と翔の話は徐々に実家の両親じみてきたところで嶺二の声が遮った。
「翔たんとなっつん、公演終了記念におにいさんがジュースを奢ってしんぜよう! クリスマスプレゼントだよ。何飲みたい?」
小銭入れを片手に嶺二が外を指差している。楽屋の少し向こうに自動販売機が置かれている。火気厳禁の場所柄さすがに喫煙スペースはないが、軽く横になれる程度の大きさのソファがあり休憩スペースも備えられていることから出演者から裏方まで等しくお世話になっている場所だ。
「寿先輩! 俺が買いだしに行きます!」
「翔ちゃんひとりじゃ持てないだろうから僕もいきます~」

*

「寿先輩っていつもあんな感じなのか? 俺あんまり一緒の現場になったことないか分からないんだけどいい兄貴分て感じだよな」
「れいちゃん先輩はすっごく可愛いですよ。あいちゃんも可愛いですけど、レン君をもっと大人にした感じですねぇ」
那月がしゃがみこんで出てくる缶を取って、翔がお金とボタンを押す係だ。がしゃんがしゃんとすばやい手つきで小銭が自動販売機へ吸い込まれていく。
「クリスマスプレゼントなー。そういやお前なんかもらったんだったな。何だったんだ?」
「からあげが好きなサンタさんからはこれ探してるんですって言ったピヨちゃんで、お茶が好きなサンタさんからは僕がこの前見たいっていった舞台のチケットでした。優しいサンタさんたちです。僕も何が用意すればよかったな」
人数分揃っているか数えて那月は立ち上がった。袋の中で缶が転がってごろごろと音を立てている。翔は伸びををしながら歩き始めた。
「今からでもいいんじゃねえの。昨日だったか音也がブログに書いてたじゃん。クリスマスの日を皆と過ごせて嬉しい。俺忍者の役だけど明日はサンタの気持ちで皆に幸せを届けたいって。遅くはねえよ」
翔が何気なくそういった瞬間袋が那月の手を抜けて缶が床に散らばった。
「おおおい! 炭酸も混ざってんだぞちゃんと持っとけよ。ったく……」
翔が缶を拾おうとしたその瞬間、那月の腕が伸び翔をしっかりと捕らえた。
「翔ちゃんやっぱりすごい! そうだね今からでもいいよねじゃクリスマスプレゼントって何がいいかなやっぱり好きなものがいいよねあいちゃんが好きなものは……ツリーにぶら下げてたものだよね、あっれいちゃん先輩の大好きなもの僕からあげ以外はよく分からないや。そうだ音也くんなら分かるよね。れいちゃん先輩には秘密にして聞かないと! 翔ちゃん今僕が言ったこと内緒にしといてね!」
ぎゅうぎゅうと翔を締め上げて喋りながら那月の中で結論が出ると同時に楽屋へ向かって走り去った。後には崩れ落ちた翔と置き忘れられた空き缶が残された。

数十年後のBLOODY SHADOWS

 ずいぶんと永く生きてしまった。
 

2013年12月上旬(那月と翔)

書いたまま放置していた

2014/1/19 音也とトキヤと嶺二

書いたまま忘れていた

2014/1/27 劇団シャイニング(那月と翔)

書いたまま絶賛放置していた。

2014夏コミペーパー

 シャイニング事務所は7月1日シャイニングオフィシャルショップを期間限定オープンすることを告知した。場所は東京都渋谷区神宮前。多くのアイドルショップが軒を連ねる一角に決まった。年内いっぱいの店舗としているが、今後は常設も前向きに検討したいとは事務所上層部からは聞かれている。
 シャイニングオフィシャルショップはコンサート時の物販コーナーの名称であり二階にはギャラリースペースを配置しこれまでのステージ衣装などを展示する。これまでも所属アイドルプロデュースクリスマスツリーなどが展示されたことがあったが単独施設をオープンさせてのイベントはこれがはじめて。
急ピッチで進められる館内の内装工事に立ち会う人物がいた。一ノ瀬トキヤ、その人である。一ノ瀬はシャイニングオフィシャルショップオープン企画、「ichinose museum」のプロデュースを任されている。

ーー準備は進んでいますか。
「上々です。このような晴れ晴れしいオープニングイベントの場を提供していただけることとなって、非常に光栄です。新作も何枚か描きおろしました。自分としてはよく描けたっと思うのですが、音也の反応を見るからにはあまり一般的ではないのかもしれません」
ーー個性的だとは思いますがあのペンギンも味があっていいと思いますよ
「ありがとうございます。聖川さんも一ノ瀬は最近いきいきしているなと言ってくださっているのでいいと思います。この絵も私の一部だと、ファンの皆さんにも好きになってもらえると嬉しいです」
ichinose museumは8月末までの開催。9月からも他アイドルによる展示が予定されている。
シャイニングオフィシャルショップにはこのショップ限定のアイテムも数多く存在するが、内装にも注目していおきたい点がある。数カ所に星に混ざって一十木音也作のキャラクターおんぷくんが隠されている。四ノ宮那月とたびたびコラボしているピヨちゃんも来店予定となっている。
また8月15日から17日まで代々木第1体育館でシャイニングサマーフェスティバルが開催され1日限りのユニットが続々と登場する予定とのこと。チケットは3公演ともすでに完売済でイベント参加客を見込んでこの3日はショップ入場も事前抽選方式がとられる。

また会わせた企画として、表参道を含む竹下通り一帯でST☆RISHとカルテットナイトのポスターが掲示されている。混雑が絶えない場所であるが早朝など人のいない時間帯をぬってカメラを構えるファンの姿が日々見られている。メンバーは各自ボタニカル柄の衣装をまとってポーズを決めている。シャイニング事務所の今後の展開はどうかとこちらにも注目が集まっている。



さて時間は少々さかのぼる。



レンとカミュ

 深夜の都内を走る車があった。持ち主によく似た華やかな車で車内では甘い匂いが漂っていた。香水ではなく先ほどまで助手席でスイーツが大量消費されていたせいだった。
「バロン、あの話聞いた?」
「なんだ」
 保冷剤が入ったボックスの中からアイスを取り出してはあっという間に胃の中に収めていく。手品じみて見える光景だ。
「今度の夏イベントのことだよ。ライブじゃなくてポスター撮影の方」
「バカ猫の故郷に咲くような花柄のおめでたい衣装のことか」
「バロンだってきっと似合うよ。でもその髪だとちょっと暑いかもしれないね」
「この国の良いところは優れた菓子の存在だが、最も忌まわしいことは夏があるということだな」
「オレも夏のたびに髪切ろうかなって思うよ。でもバロンはずっとその髪なんだろ」
「髪を伸ばしたままにすることは事務所の方針だ。帰国するならば別に切ろうがなにしようが構わないだろう」
「何それオレ初耳なんだけど」
ハンドルを握ったままレンは横目でカミュを見る。表情を全く変えないまま、視線には気づいているのだろうがちらりともレンのほうは見ようとしない。
「まだ決まっていないだけだ。いずれはそうなる。俺はいつまでもこの国にはいない。この国にきたのも女王の思し召し。俺が決めたのはその日まで夢を見せる存在であり続けることだけだ」
「……俺はバロンと浅からぬ関係だって今も思っているよ」
「くどい」


嶺二とレン


 やがて撮影当日となった。レンは鏡の前に座って馴染みのヘアメイク担当と談笑しながら今日の撮影へのイメージを伝えていた。
「新しい神宮寺レンを試してみたいんだけどいいかな」
 そしてレンと入れ違いにメイクルームに入った音也は扉越しに期待通りの答えを返してくれた。
「わぁレンかっこいいね、なんだかカミュ先輩みたいだよ」
 今日のレンは前髪をなくして額を全面に出した。レンとカミュは髪はもともと色の系統は似ていたからそれだけでもぐっと似たものに仕上がった。
「ちょっとレンレン、ミューちゃんみたいな髪型にしてどういうつもりー?」
「JTの時のオールバックが意外と好評だったからね。お揃いだよ」
「それだけじゃないでしょ。ぼくちんの目はそんなのでごまかされないんよ」
嶺二は肘でぐいぐいとレンのわき腹をつつきながらじろりと見上げてきた。
「この前バロンに言われたんだよね。いつかはシルクパレスに帰るって。なんていうかバロンは一番に優先させるものがシノミーみたいに決まっている分もっと思い出とか執着とかしがらみとか作ればいい。バロンに少しでも長くこの国にいてほしいから」
「なんかちょっといい話っぽくしているけど、レンレンよりぼくのほうがミューちゃんよりつきあい長いんだからね!」
「ブッキーは縄張りに忍び込む人間に敏感だねえ。こわいこわい。普段は綺麗に隠しているものがあふれ出しているよ」
「何のことだか分からないよ~?」
嶺二はぺろりと舌を出して廊下の向こうに馴染みのスタッフを見つけて走っていった。

音也と蘭丸


 今年の「夏のご挨拶」の衣装はラフな半袖だった去年と違ってとても暑い。素材自体は涼しいもので作られているのかもしれないがこの季節にこれほどしっかり着込むことはないから、音也は撮影が始まるまでの間涼しいところを探して歩いていた。スタジオ前の打ち合わせスペースのソファでよく見覚えのある銀色の頭が見える。そういえばさっきメイクルームでも黒崎さんはまだなの? とスタッフ同士で話しているところを聞いた。
「蘭丸先輩まだ着替えないの?」
「あァ?」
蘭丸はいつものタンクトップにカーゴパンツで、手にタバコなんかあっても似合いそうなほどに雰囲気が荒んでいる。
「あんな女みたいな服着れっかよ」
 先輩チームは音也たちとはまた違ってどちらかといえば南国のアロハシャツのような雰囲気だった。その中でも蘭丸はスタイリスト泣かせな点があってトップスに派手な柄物を持ってくると異常に似合わないと言うことだった。花柄はボトムスに限られていた気がするがやはり気に入らないらしい。
「蘭丸先輩名前に花の名前ついているのに花嫌いなんだ」
「お前本当に憎たらしいことぐらいに嶺二と発想が一緒だな」
「だってあれちょうかっこよくない?」
「嶺二のやつもさっき同じこと言ったからぶん殴ってやった。ったく、んなガラじゃねー。おい音也、嶺二のやつに影響されんのもほどほどにしろ。ろくなやつじゃねえ」
蘭丸は立ち上がって音也を頭をぐしゃりとつかむと音也が来た方向へ歩いていった。
「蘭丸先輩どこ行くの?」
「着替えんだよ。今から準備すれば時間ちょうどだ。仕事は仕事だからな」

藍と那月

蘭丸がようやく着替え終わった頃撮影前の那月を呼び止めて衣装やら姿勢チェックが入っていた。あまり見られない直立不動の那月だが表情はいつになくゆるんでいる。
「ちょっとナツキ、ネクタイ曲がってる。裾も変。何でこんな短時間でこんなになってるの。ボクの後輩がかっこわるいとレイジたちに笑われるからしっかりして。……ちょっと何にやにやしてるの。ショウみたいにガチガチはマイナスだけどもうちょっと緊張感ぐらい持ったら?」
 ネクタイを締め直されながらいつも以上に笑顔の那月に藍はあきれたようにため息をついた。
「あいちゃん、僕いまとってもどきどきしています。舞台が終わってから僕たちバラバラの仕事が多かったでしょう? だからみーーんながそろう今回のお仕事をとってもとっても楽しみにしていたんです」
「そう」
「あいちゃんの新曲もちゃんと翔ちゃんと一緒に買いに行きましたよ」
「あげるっていったのに」
それまでは淡々としていた藍の声に不満そうな色がにじんだ。
「あいちゃんも僕と翔ちゃんが出てる雑誌とかちゃんと欠かさず見てくれているでしょ? ドラマの感想もらったって翔ちゃんも言ってました。あいちゃんの感情がぎゅっと詰まっててとっても素敵な歌でしたよ」
「感情が詰まっているというならそれはナツキとショウのおかげだよ。さあこれでいい。今回はナツキがボクらの中心になるんだ。失敗なんかしたら一番目立つポジションだからしっかりしてよね」
「あいちゃんありがとう。僕頑張ります!」

真斗と翔

 収録終わりに事務所に立ち寄ったら先日の撮影の色校が届いていると聞いて真斗と翔はメンバーの誰よりも早く見られることになった。会議室に広げられたポスターの数々に翔は思わず息をのんだ。
「お前も一十木もいい顔をするようになった。成人の貫禄か」
 穏やかな笑みを浮かべながらあれが一番良いと翔の写真のうちの1枚を指さした。
「よせよ、セシルとか聖川ならともかく、俺に貫禄なんて言葉はまだ似合わない。今度の撮影は那月のやつが一番目立つポジションだから差を付けられないように俺も全力で走らないと。当面の目標はとっとと那月に背中を向けられる人間になることだ」
7人の集合写真の、特にセンターの那月がアップで写っている写真を微妙な表情で眺めながら呟く。そんな翔を見て真斗は思わず吹き出した。
「微笑ましいことだ」
「なんだよ」
「別に。感想を述べたままだ」

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