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2014夏コミペーパー

 シャイニング事務所は7月1日シャイニングオフィシャルショップを期間限定オープンすることを告知した。場所は東京都渋谷区神宮前。多くのアイドルショップが軒を連ねる一角に決まった。年内いっぱいの店舗としているが、今後は常設も前向きに検討したいとは事務所上層部からは聞かれている。
 シャイニングオフィシャルショップはコンサート時の物販コーナーの名称であり二階にはギャラリースペースを配置しこれまでのステージ衣装などを展示する。これまでも所属アイドルプロデュースクリスマスツリーなどが展示されたことがあったが単独施設をオープンさせてのイベントはこれがはじめて。
急ピッチで進められる館内の内装工事に立ち会う人物がいた。一ノ瀬トキヤ、その人である。一ノ瀬はシャイニングオフィシャルショップオープン企画、「ichinose museum」のプロデュースを任されている。

ーー準備は進んでいますか。
「上々です。このような晴れ晴れしいオープニングイベントの場を提供していただけることとなって、非常に光栄です。新作も何枚か描きおろしました。自分としてはよく描けたっと思うのですが、音也の反応を見るからにはあまり一般的ではないのかもしれません」
ーー個性的だとは思いますがあのペンギンも味があっていいと思いますよ
「ありがとうございます。聖川さんも一ノ瀬は最近いきいきしているなと言ってくださっているのでいいと思います。この絵も私の一部だと、ファンの皆さんにも好きになってもらえると嬉しいです」
ichinose museumは8月末までの開催。9月からも他アイドルによる展示が予定されている。
シャイニングオフィシャルショップにはこのショップ限定のアイテムも数多く存在するが、内装にも注目していおきたい点がある。数カ所に星に混ざって一十木音也作のキャラクターおんぷくんが隠されている。四ノ宮那月とたびたびコラボしているピヨちゃんも来店予定となっている。
また8月15日から17日まで代々木第1体育館でシャイニングサマーフェスティバルが開催され1日限りのユニットが続々と登場する予定とのこと。チケットは3公演ともすでに完売済でイベント参加客を見込んでこの3日はショップ入場も事前抽選方式がとられる。

また会わせた企画として、表参道を含む竹下通り一帯でST☆RISHとカルテットナイトのポスターが掲示されている。混雑が絶えない場所であるが早朝など人のいない時間帯をぬってカメラを構えるファンの姿が日々見られている。メンバーは各自ボタニカル柄の衣装をまとってポーズを決めている。シャイニング事務所の今後の展開はどうかとこちらにも注目が集まっている。



さて時間は少々さかのぼる。



レンとカミュ

 深夜の都内を走る車があった。持ち主によく似た華やかな車で車内では甘い匂いが漂っていた。香水ではなく先ほどまで助手席でスイーツが大量消費されていたせいだった。
「バロン、あの話聞いた?」
「なんだ」
 保冷剤が入ったボックスの中からアイスを取り出してはあっという間に胃の中に収めていく。手品じみて見える光景だ。
「今度の夏イベントのことだよ。ライブじゃなくてポスター撮影の方」
「バカ猫の故郷に咲くような花柄のおめでたい衣装のことか」
「バロンだってきっと似合うよ。でもその髪だとちょっと暑いかもしれないね」
「この国の良いところは優れた菓子の存在だが、最も忌まわしいことは夏があるということだな」
「オレも夏のたびに髪切ろうかなって思うよ。でもバロンはずっとその髪なんだろ」
「髪を伸ばしたままにすることは事務所の方針だ。帰国するならば別に切ろうがなにしようが構わないだろう」
「何それオレ初耳なんだけど」
ハンドルを握ったままレンは横目でカミュを見る。表情を全く変えないまま、視線には気づいているのだろうがちらりともレンのほうは見ようとしない。
「まだ決まっていないだけだ。いずれはそうなる。俺はいつまでもこの国にはいない。この国にきたのも女王の思し召し。俺が決めたのはその日まで夢を見せる存在であり続けることだけだ」
「……俺はバロンと浅からぬ関係だって今も思っているよ」
「くどい」


嶺二とレン


 やがて撮影当日となった。レンは鏡の前に座って馴染みのヘアメイク担当と談笑しながら今日の撮影へのイメージを伝えていた。
「新しい神宮寺レンを試してみたいんだけどいいかな」
 そしてレンと入れ違いにメイクルームに入った音也は扉越しに期待通りの答えを返してくれた。
「わぁレンかっこいいね、なんだかカミュ先輩みたいだよ」
 今日のレンは前髪をなくして額を全面に出した。レンとカミュは髪はもともと色の系統は似ていたからそれだけでもぐっと似たものに仕上がった。
「ちょっとレンレン、ミューちゃんみたいな髪型にしてどういうつもりー?」
「JTの時のオールバックが意外と好評だったからね。お揃いだよ」
「それだけじゃないでしょ。ぼくちんの目はそんなのでごまかされないんよ」
嶺二は肘でぐいぐいとレンのわき腹をつつきながらじろりと見上げてきた。
「この前バロンに言われたんだよね。いつかはシルクパレスに帰るって。なんていうかバロンは一番に優先させるものがシノミーみたいに決まっている分もっと思い出とか執着とかしがらみとか作ればいい。バロンに少しでも長くこの国にいてほしいから」
「なんかちょっといい話っぽくしているけど、レンレンよりぼくのほうがミューちゃんよりつきあい長いんだからね!」
「ブッキーは縄張りに忍び込む人間に敏感だねえ。こわいこわい。普段は綺麗に隠しているものがあふれ出しているよ」
「何のことだか分からないよ~?」
嶺二はぺろりと舌を出して廊下の向こうに馴染みのスタッフを見つけて走っていった。

音也と蘭丸


 今年の「夏のご挨拶」の衣装はラフな半袖だった去年と違ってとても暑い。素材自体は涼しいもので作られているのかもしれないがこの季節にこれほどしっかり着込むことはないから、音也は撮影が始まるまでの間涼しいところを探して歩いていた。スタジオ前の打ち合わせスペースのソファでよく見覚えのある銀色の頭が見える。そういえばさっきメイクルームでも黒崎さんはまだなの? とスタッフ同士で話しているところを聞いた。
「蘭丸先輩まだ着替えないの?」
「あァ?」
蘭丸はいつものタンクトップにカーゴパンツで、手にタバコなんかあっても似合いそうなほどに雰囲気が荒んでいる。
「あんな女みたいな服着れっかよ」
 先輩チームは音也たちとはまた違ってどちらかといえば南国のアロハシャツのような雰囲気だった。その中でも蘭丸はスタイリスト泣かせな点があってトップスに派手な柄物を持ってくると異常に似合わないと言うことだった。花柄はボトムスに限られていた気がするがやはり気に入らないらしい。
「蘭丸先輩名前に花の名前ついているのに花嫌いなんだ」
「お前本当に憎たらしいことぐらいに嶺二と発想が一緒だな」
「だってあれちょうかっこよくない?」
「嶺二のやつもさっき同じこと言ったからぶん殴ってやった。ったく、んなガラじゃねー。おい音也、嶺二のやつに影響されんのもほどほどにしろ。ろくなやつじゃねえ」
蘭丸は立ち上がって音也を頭をぐしゃりとつかむと音也が来た方向へ歩いていった。
「蘭丸先輩どこ行くの?」
「着替えんだよ。今から準備すれば時間ちょうどだ。仕事は仕事だからな」

藍と那月

蘭丸がようやく着替え終わった頃撮影前の那月を呼び止めて衣装やら姿勢チェックが入っていた。あまり見られない直立不動の那月だが表情はいつになくゆるんでいる。
「ちょっとナツキ、ネクタイ曲がってる。裾も変。何でこんな短時間でこんなになってるの。ボクの後輩がかっこわるいとレイジたちに笑われるからしっかりして。……ちょっと何にやにやしてるの。ショウみたいにガチガチはマイナスだけどもうちょっと緊張感ぐらい持ったら?」
 ネクタイを締め直されながらいつも以上に笑顔の那月に藍はあきれたようにため息をついた。
「あいちゃん、僕いまとってもどきどきしています。舞台が終わってから僕たちバラバラの仕事が多かったでしょう? だからみーーんながそろう今回のお仕事をとってもとっても楽しみにしていたんです」
「そう」
「あいちゃんの新曲もちゃんと翔ちゃんと一緒に買いに行きましたよ」
「あげるっていったのに」
それまでは淡々としていた藍の声に不満そうな色がにじんだ。
「あいちゃんも僕と翔ちゃんが出てる雑誌とかちゃんと欠かさず見てくれているでしょ? ドラマの感想もらったって翔ちゃんも言ってました。あいちゃんの感情がぎゅっと詰まっててとっても素敵な歌でしたよ」
「感情が詰まっているというならそれはナツキとショウのおかげだよ。さあこれでいい。今回はナツキがボクらの中心になるんだ。失敗なんかしたら一番目立つポジションだからしっかりしてよね」
「あいちゃんありがとう。僕頑張ります!」

真斗と翔

 収録終わりに事務所に立ち寄ったら先日の撮影の色校が届いていると聞いて真斗と翔はメンバーの誰よりも早く見られることになった。会議室に広げられたポスターの数々に翔は思わず息をのんだ。
「お前も一十木もいい顔をするようになった。成人の貫禄か」
 穏やかな笑みを浮かべながらあれが一番良いと翔の写真のうちの1枚を指さした。
「よせよ、セシルとか聖川ならともかく、俺に貫禄なんて言葉はまだ似合わない。今度の撮影は那月のやつが一番目立つポジションだから差を付けられないように俺も全力で走らないと。当面の目標はとっとと那月に背中を向けられる人間になることだ」
7人の集合写真の、特にセンターの那月がアップで写っている写真を微妙な表情で眺めながら呟く。そんな翔を見て真斗は思わず吹き出した。
「微笑ましいことだ」
「なんだよ」
「別に。感想を述べたままだ」

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