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肉が食べたい(音也とトキヤ)

原案:5週目舞台挨拶のてらしーとマモが音也とトキヤを逆にした感じ、というフォロワーさんの言。


 俺たちが羽田に降り立って、いろいろやってあとは帰るだけってなってタクシーに乗った頃にはもう遅い時間になっていた。
 この1週間、俺とトキヤは撮影でアメリカにいた。1週間まるごと仕事ばっかりでもなくて、テーマパークで遊んだり向こうの有名なレコーディングスタジオが見学できたりして、俺もトキヤもすごく充実した1週間だった。



 窓の外は1週間ぶりによく知った街並みが流れている。明日からはいつもの毎日だ。
「トキヤとずっと一緒だった1週間ももう終わりかあ……」
 早乙女学園の寮と、そのあとちょっとの間は一緒の部屋で暮らしていたけど、今はもうお互いひとり暮らしだ。
 ホテルの部屋は別だったけど朝起きて一緒にご飯食べて行き先も一緒、なんていうのはいつぶりかちょっとすぐ思い出せない。
「少し、名残惜しい気がしますね」
 隣に座っているトキヤがそうつぶやいたから俺は弾け飛んだみたいにトキヤを見た。俺の勢いにびっくりしたのかトキヤは少し身をのけぞらせてこっちを見てきた。
「トキヤがそういうこと言うの珍しい! そういうときって大体『ようやくこれで落ち着けますよ』とかそういうのなのに」
「……アメリカの空気にあてられたんですよ」
「それってつまりもっと俺と一緒にいたいってことだよね?」
 俺は身を乗り出してずいっとトキヤに迫る。
「音也」
 諫めるようなトキヤの声を無視して俺は続ける。
「だったらさ、これから一緒に焼き肉行こうよ! 俺日本に帰ってきたって感じのやつ食べたいんだよね」
 アメリカのごはんがまずかったとは言わないけど、今食べたいものはと聞かれたら肉と米って言うと思う。今なら蘭丸先輩の気持ちがちょっと分かる。
「今からですか? もうすぐ23時ですよ」
「大丈夫だよ俺たちの体は今まだ昼だって思ってくれてるよ」
 だって飛行機に乗ったときはまだ午前中だったし。そういうとトキヤはちょっと笑ったみたいだった。
「しょうがないですね」 
 俺には分かる。トキヤの「しょうがないですね」はだいたい「いいですよ」っていうことだ。俺はタクシーの運転手さんに行き先変更を伝えた。 

 

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