原作ファンです。見に行くのを楽しみにしていたけど、コロナ禍と緊急事態宣言に巻き込まれて公開延期になってようやく一昨日公開日を迎えました。

先に結論を書くとこの映画は佐藤流司と橋本環奈の顔面に課金した映画1でした。
上映時間106分、虚無の時間でした。

実写オタ恋もそうだったんだけど、物語をぶった切って突然ミュージックビデオが流れた。たびたび。スタッフロールで見た感じ4曲5曲はあったみたいなんだけど。ちょっとよく意味が分からない。
あと映画がはじまってまあまあの時間モノクロだった世界が「不動詩凪の物語」に触れた結果世界に色がついたり、「悲しみの表現」として雨の中傘も差さずに歩いてみたり、「私、好きよ あなたの小説」と謎な倒置法をたびたび使用してみたり面白いとか面白くないとか、良作駄作とか、そういうレベルではなくただただ虚しい時間だった。
佐藤流司と橋本環奈の顔面以外の良いところは恩田陸の「黒と茶の幻想」や講談社タイガや講談社ノベルスが棚に差さっていたところとかそういうレベル。

自分が見たものは何だったのか原作を再読したところ、映画で使われた台詞は原作準拠のものが多いが、その台詞に至るまでの展開がたびたびカットされあるいは展開を改変されてしまったらしい。その結果

「誰よりもまっすぐで繊細な売れない作家×秘密を抱えたドSな売れっ子人気作家 真逆な2人の高校生小説家がまさかの共作で大ベストセラーを目指す!“好き”だからあきらめない姿に胸がアツくなる共感度No.1青春ストーリー!」

と称する映画が出来上がったようだ。

原作は割と「小説を書くことは楽しいことばかりではない、それどころか現在の出版状況では初版もたいして刷ってもらえず打ち切りラインも高く、実際に収入として手元に残るものは少ない」「ネットリンチ」と絶望の淵に立たされるシーンは多く、詩凪の物語に対する真摯な姿勢に対してグッとくる物語ではあるが、そんな「共感度No.1青春ストーリー!」を感じる物語ではないのだ。

メディアミックスは必ずしも原作と同じものでなくてもいいと思うが、本作については驚くほど原作や、「小説」「物語」「本」に対するリスペクトを感じられなかった。たびたび音楽が挿入されていたが物語を象徴する歌や映像ではないと感じられたし、ハイローみたいに物語を高める存在ではなかったし、これは音楽で食べていきたい人間の話でもないし、ましてこれはアマチュア作家がプロになるまでの話ではない。彼らは既に仕事として小説を書いているプロだ。原作では完成した小説は映画の中では完成にも至らなかった。尺が足りなかったからカットしたとは言わせない少なくともミュージックビデオ5曲分の尺はあったのだから。
文字で語られた「小説」の話をせっかく映像でするのだから、映像だからこそできる表現を見たかった。

  1. なお橋本環奈は主演ですが、佐藤流司は主人公の友達
    ポジションです。出番は多いが三番手 []