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音也で『どうでもいいよ、そんなこと』

目を丸くするトキヤに音也は逆にえ?と首を傾けた。
「別になんだっていいよ。あのトキヤが休みが欲しいって言うんだからよっぽどの何かがあるんだよ。でもまあ……」
音也はテーブルに肘をついてトキヤをしばらくじっと見て、にっと笑った。
「トキヤ、俺に嘘ついてない? それかなんか隠してるよね?」
「……何のことですか」
「だって今のトキヤ演技のスイッチ入ってる。瞬きの回数すんごい少ないもん」
音也は自分の目を指した後トキヤを指差した。
「那月んとこみたいにべったりじゃないけど俺トキヤの癖ぐらい分かるし」
【一ノ瀬選手ドッキリリベンジならず。またしても敗退、現在一十木選手全勝です】

音也へのお題は『「私は高いわよ?」』

 「ST☆RISH様」と書かれたドアを開けると目の前に音也が裸で立っていた。
 両手には脱いだばかりと思われるTシャツを持っていて、振り返り様にレンを見ていてぽかんと口を開けていた。
「あっ」
「昼間から大胆だねえイッキ」
「違うよただの着替えだよ。今日自転車で来たら通り雨にあっちゃってさ。もうびしょびしょなんだよ」
 そういわれてレンは今日来る時に道路が濡れていた事を思い出した。ちょうど通り過ぎた後に移動していたのだろう。音也が着ていたシャツは色が変わるぐらい濡れていて水滴こそは落ちないものの重そうに垂れていた。
「ジム通いは成果を上げてるみたいだね。筋肉ついてるよ」
「本当に? 嬉しいな。俺頑張ってるんだよ。この前翔とやった腹筋勝負俺が勝ったしね!」
 指差したとおりに背中を見ようとして、ひねったり鏡に向けたりしている音也の姿がいつに増して犬みたいで、レンは声を上げて笑いながらスマートフォンを向けて写真を撮った。シャッター音を聞くと仕事モードにでもなるのか音也はポーズを決めて、笑顔でピースを向けてきた。
「撮られといてなんだけどレン、俺の裸安くないよ? 高いよ?」
しゃがんで上目遣いのまま音也はレンに向かって手を突き出した。
「撮られる相手が身内なら可愛いもんだよ。イッキもそのうちレディと一緒の写真を撮られたりするんだよ」
 レンは鞄からガムを出すと音也の手に乗せたが、「眠気すっきり」と書かれたそれは音也の苦手な味だったらしくまたつき返された。
「芸能記者ってどこに潜んでるの」
「……イッキには火遊びはまだ早いと思うけど聞くかい?」
「音也に妙なことを吹き込むのはやめてください」
 レンもしゃがみこんで秘密の話を始めかけたところでトキヤがやってきた。そのままレンに対しては生活態度全般について、音也に対しては天気予報を見ろ、風邪を引くと説教の時間となった。

 ちなみに後日談としてはこの時に撮られた半裸の音也の写真はレンのブログにアップされることとなり、各地の音也担のあいだでレン様まじ崇めるわと話題になった。

音也で『きっと大丈夫』

「休んでる間は何するの?」
そう尋ねるとトキヤは音也の背後の壁でも眺めるような遠い表情で呟いた。
「最近は旅行も行けてなかったのでどこかに行きましょうか、静かで綺麗なところがいいですね」「じゃ俺が一番いいところに案内する!俺もオフもらうしたぶん大丈夫だよ」
「聞かないんですか?」

那月と翔で『そのセリフ、そっくりそのまま返す』

「思い出すって今度はお前が旅立つ側なんだけど」
具体的に何をするのかは聞いていないが本格的に夏が来るぐらいまでは那月はヨーロッパに行くと聞かされたばかりだった。
「今はまだ秘密ですけどそのうちあっと驚くようなものを見せられると思うから楽しみにしててね」
「おう、公開は俺のが早えかな」

那月で『縁のない話』

「好きなものを好きだって言って通るような世の中だったら……これで完成です!どうですか?」満足げな那月を見ながら翔は自分の爪に目を落とす。
「那月がネイルって縁がないと思ったけど上手い……ってピヨちゃん描いてんじゃねえよ!」
「これが消えるまでは見るたびに僕のこと思い出すでしょ?」

音也で『なんて言ったの?』

「え、トキヤ今なんて言ったの?」
「ですから、しばらくお休みをいただくことにしました」
活動休止というやつですねと言う言葉はまたもや音也の耳を通り抜けていった。
聞き間違いではなかった。
「どっか悪いの!? 病院、病院行く?」「私はいたって健康ですよ。でもそうですね、少し疲れました」

那月で『惚れ直した?』

「その顔だけでも分かるけど僕としてはやっぱり言葉で聴きたいなあ。僕の我儘聞いてくれるなら今思ってること聞かせて」
他には聞かせないからとばかりに壁際に詰め寄って屈んで耳を寄せてくる。首筋からは深い森にいるような落ち着く匂いが漂ってきた。背後の壁に手をつかれてもう逃げようもなかった。

トキヤで『手だけつないで』

「おやおや、繋ぐのは手だけではありませんよ」
トキヤは腰に腕を回してふたりの間にあったわずかな距離さえも縮めてしまった。
「エスコートというからにはこのぐらい寄り添っていただかなければ不審がられますよ。君は今だけ作曲家ではなく一流の女優だと思ってください。周りが注目していますよ」

音也で『大人しく降参して』

「トキヤは大人しく降参すればいいのに」
個室居酒屋の一角ですやすやと寝息を立てているがこれからが大変だと音也はげんなりする。
「トッキーは負けず嫌いだからね」
「れいちゃんが変に挑発するからいけないんだよあのトキヤ1人でつれて帰れないんだからね!」
「レンレンにはもう電話しといたよ☆」

那月で『サービストーク』

「僕は本当に思ったことしか言いませんよ」
向かいに座って真剣に翔の爪に色を乗せている那月は顔も上げずに言った。
「思ってもないことをいうのって僕この年齢になってもやっぱりあんまり好きじゃないです。どうしてもしょうがない時ってありますけど」
不意に言葉が途切れた。
「すっごく疲れます」

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