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那月で「頑なに拒む両手」

翔の手はしっかりと両手で那月の腕を掴んでいる。同性とはいえ那月の力なら余裕で振り切って逃げられるだろう。でもさっき正面から翔の顔を見てしまった。説明するまで俺の前から消えることは許さないという気迫に溢れていた。もうすぐ藍も追いついてしまう。潮時だ。翔のあの瞳には勝てない。

音也で『寂しいなんて言えない』

準所属になって数ヶ月が経った。翔とは現場が同じことになることが時々あるけど他の皆とはほとんど顔を合わせない。何より16年間ではじめて誰もいない部屋に帰るのが地味に堪える。あんなに好きだったはずなのにカレーも味気ない。皆自分の足場を固めるのに必死なんだろう、それは音也だって同じだ。

一ノ瀬トキヤで『Marry me?』

プロポーズの言葉を聴かれてトキヤはそれはそれは幸せそうに笑って「演技上ではたくさん経験があるのですがいざ自分の事となると妙に緊張してしまって『私と結婚していただけませんか?』というのが精一杯でした」と言っていた。結婚の事は事前に聞かされていたけどトキヤが何だか知らない人みたいだ。

トキヤで『どうせ無意識なんだろ』

「さすがに今回はどう探せばいいか分かりませんね。前回も四ノ宮さんが翔に残していったメモがあったから分かったようなものですから」
「おチビちゃんもあれは内心相当参ってるね。オレとシノミーを間違えるぐらいだから」
「四ノ宮さんぐらいの人を見たら反応してますしね。黙ってても分かります」

トキヤで『どうせ無意識なんだろ』

「音也、そのポケットに直接小銭入れるのやめなさい」
「えっ」
言われて初めて気がついたように手を突っ込んでポケットの中身を出す。手のひらにはよれてちぎれたレシートもあった
「どうせ無意識なんでしょうが、もう子どもじゃないんですからそういうのはみっともないですよ。財布を使いなさい」

藍で『言うと思った』

「ねえアイアイそれ翔たんに言っちゃう? ぼくから聞いたって言っちゃう?」
「まあレイジなら言うと思った。本当に秘密なことならともかくそれ以外はガードが甘い」
藍は那月の実家住所を検索しながら次の手を考える。
「情報提供元はレイジの名誉のためにも黙っておくよ。それならいいでしょ」

嶺二で『生き方は似ているのです』

「レンレンはぼくと似ている所があるね。ある意味ぼくよりとっても優秀だ」
ダブルのアイスを食べながら隣に座ったレンの顔を見ずに言う。
「だからこそ言うんだけど欲しいものを見つけたらちゃんと手を伸ばすんだよ。後悔するよ」
「ありがとう。でもオレが認めてもらいたかった人はもういないんだ」

嶺二で『よくもそんな恥ずかしい台詞を』

「アイアイは本当に変わったよね。後輩くんたちの影響かな」
嶺二は机に肘をついて目尻を下げて藍を眺める。
「熱血藍先輩、クールな美風藍はどこに行ったのさ」
「ボクだって変わることができるっていう有意義な実証材料だよ」
「なっつんにも見せてあげたいよ。帰省なんて……あ、」
「ふぅん」

カレーパンまん

「トキヤはカレーパンマンだったらよかったのにね。そしたら俺いつでもどこでもトキヤのカレー食えるのに」
「あなた馬鹿ですか」
「アンパンマンのあの古い頭ってどうなるのかな。昔は何とも思わなかったけどすげえ不思議。トキヤんちの子育て手伝わないなら俺アンパンマンとか見る機会なかったかも」

四ノ宮那月で『生き方は似ているのです』

手元の楽譜に目を落とす。いつもなら音符が踊って見えるのに今日は皆どこかへ隠れてしまっている。
「朝起きてごはんを食べて音楽を作ってピヨちゃんたちを日向ぼっこさせて」
楽譜で顔を大方隠しながら目だけ向かいを見る。
「でもここには翔ちゃんがいないから似ている生活でも全然違う。寂しかった」

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