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Tag: 翔

( お題:斬新な雲 制限時間:15分 未完)

早乙女学園は1年限定の芸能専門学校とはいえある程度は普通の授業も存在する。美術のような芸術系科目もまたしかりだ。シャイニング早乙女の思い付きによってとんでもない実技に変貌することはままあるが、そこは早乙女学園の施設は整っているため大抵のことは学内で事がたりる。
「ん? イッチーはどうしたんだい?」
いつもは姿勢よく座って譜面や参考書を開いているトキヤが、背中に何か重たい荷物でも背負っているようにしてしょげかえっている。
そんなトキヤを横目にレンは翔に小声で話しかけた。
「この前美術の時間に写生大会だー! つって外に出ただろ? その時に描いた絵が……」
「ああ、イッチーの絵はシノミーの料理みたいな芸術的センスに溢れてるからね」
「……お前それあいつに言ってやるなよ。ただの追い討ちだから。それでその時描いた学園長の銅像が春歌に見られて」
翔の声はよりいっそう潜められる。2人で肩を寄せ合ってよりいっそう内緒話をしている様相になる。
「『……斬新なかたちな雲ですね』って言われたみたいで」
「ぶっ」
こらえ切れなかったらしいレンは大声を上げて笑い出す。それに気付いたトキヤは一歩一歩重く踏みしめながら2人の所に歩いてくる。
「お2人とも、何の話をされているのですか?」
「ちょっとトキヤ、顔怖いって。おいレンいつまでも爆笑していないでトキヤを止めろって」
その後次の授業がはじまるまで2人は延々と説教されたという。
人の弱点について触ってはいけないと思い知った日のことだ。

(お題:愛と欲望の風邪 制限時間:15分)

 目の前がくらくらするなと思ったからためしに熱を測ったら38.5度って表示された。嫌だなあ、今日は翔ちゃんと春ちゃんと新曲の打ち合わせがあるんだけど。声を聞かせたほうが心配しそうだから翔ちゃんに今日は僕都合でごめんなさいってメールした。お薬飲んでお布団に入って寝てれば治るはず。ああ、冷蔵庫食べるものなにかあったかなあって思ってたらすっと意識が飛んでしまった。
 何かが触れた感じがして目が覚めると目の前に翔ちゃんがいてびっくりした。額に手を当てて熱を測っている。
「気分はどうだー?」
 そう尋ねてくる翔ちゃんに何も返せないでいると翔ちゃんは僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でていった。こういうところは翔ちゃん「お兄さん」なんだなって思った。僕より年下なのに。病気慣れしてる感じがする。
「俺が心配するとでも思ったんだろ。もっとさーいつもみたいに言ってこいよ調子狂うだろ」
へへって笑う翔ちゃんがなんだか眩しかった。
「僕、りんごが食べたいです」
「分かった。待ってろ」
「ピヨちゃんの形に切ってください」
「どうやれっていうんだよ! 小さく切るからそれで妥協しろ」

封筒、テープ、はさみ

那月に手紙ブームが来ている。聖川にオーダーメイドのピヨちゃんの万年筆を贈られてから机の前で手紙を書いている姿をよく見る。誰かと文通しているのだろうか。今日も丁寧にテープで封された封筒をはさみ片手に開封していた。試しに「誰から?」と聞いてみれば「秘密です」と言われたから面白くない。

さむい、あったかい、ひざかけ

最近忍者の楽屋にピヨちゃんを良く見かける。寒暖差に耐えかねている翔へ那月がプレゼントしたものらしい。ひざ掛けにもなるし肩にかければ前で止められるようにボタンもついている。簡易のフードもついていて重宝しているそうだ。そしてフードをかぶった翔の頭を撫でていくのが嶺二のブームらしい。

映画、メガネ、3D

「映画を見に行ったんです。宇宙にぽーんって投げ出される映画で、途中ですごく寂しくなりました」
「で、うちに来たってわけか。つか眼鏡で3Dって大変そうだよな。重たくねえの」
「実はこれ伊達眼鏡なんだよ。今日が休演日ってコンタクト入れて準備し終わってから気付いて」
「まじか」
「まじです」

けが、自転車、あるく

「舞台から落ちて捻るぐらいで済んで良かった。肝が冷えたぞ」
「でもしばらく自転車お預けだよね……」
「当たり前だ馬鹿。直るまでは歩け。乗ってたら寿先輩とトキヤに言うからな」
「2人ともそういうの厳しいんだからやめてよー」
「……ごめんなさいオトヤ。ワタシさっきトキヤに言ってしまいました」

寝落ち、目覚まし、毛布

「それで昨日の翔は寝落ち?」
楽屋でストレッチをしながら音也は鏡の前の翔に聞いた。
「いやちゃんとベッドの上。毛布かぶってたし」
「薄着で寝ていては風邪を引くぞ。夜中に目が覚めたのではないか」
「目は覚めなかったけど目覚ましは忘れてた。那月から朝電話があってちょうどよかったぜ」

タクシー、サングラス、メーター

「今日は降りたら桜通口からタクシーな」
車内にはまもなく到着のアナウンスが流れている。寝起きの翔ちゃんは帽子をかぶって似合わないサングラスをかけながら慌しく降りる準備をしている。
「この時間メーター早いけどいいの?」
「俺様を誰だと思ってんだ」
「同期に怒られるアイドル様」
「ぐっ」

ゲーム、昼寝、荷物

「ダウト」
レンの声が朗々と響く。顔を上げると唇を吊り上げてにこにこしながら翔を見ている。多大な負債を抱えることになり思わず顔が引きつった。この枚数をどう処理しろというのか。
「翔、あなたはもっと隠す努力をしてください」
「うっせえな」
「ランちゃんが起きちゃうよ? 静かにしないとね」

1/27の音也が非常に爆弾だったんだったので。

 夜公演を終えて反省会をかねたお茶会も終わった。先輩2名は次の仕事に旅立って行き那月はひとり楽屋に残っていた。この後はもう帰って寝るだけだ。それでもまだ帰らないのはさっき翔から1通メールが届いていたことによる。
――この後仕事ないなら楽屋でいてくれないか?
翔が那月たちの楽屋に来るのはなんら珍しいことではない。むしろこんな風にメールが来るほうが珍しい。なにか良くないことでもあったのだろうか。今の那月に出来ることはお湯を沸かして翔の好きな茶葉を用意することぐらいだった。
 翔はそれから10分もしないうちにやってきた。ノック音がまずして、応答するもドアが開く気配はなかった。不思議に思って那月は外を窺いに行くと帰り支度はもう終わらせてお気に入りの帽子もかぶった翔が立っていた。朝見かけた翔と変わらないが、ひとつ、表情が沈んでいて今もドアを開けた那月に気付いておらずうつむいている。
「翔ちゃん?」
「あ、おう。お疲れ」
「お疲れ様。翔ちゃん何が飲みたい? ミルクティにする?」
「ミルク多めにしてくれ」
話しかけてようやく笑顔を見せたが今日は言葉少なめに翔は楽屋に来た時の定位置に座り込んだ。翔が「ミルク多めで」という時は大体疲れている時だ。那月はいつもより甘めに仕立て上げて翔の前に差し出した。
両手でマグカップを持って息を吹きかけながら一口二口飲んで、翔は重い口をようやく開いた。
「今日さ、音也と聖川の意見が珍しく合わなくって。どっちも自分が正しいからって引かなくて。あ、別に喧嘩じゃないからな? 舞台の今後とか進行とか展開とか、よくしていこうっていう上での、言い争いだ」
なんだかいつもより煮え切らなくて、言い訳のような雰囲気がする。那月は隣に座ったままで急がせずに「うん、それで?」と相槌を打つことに専念していた。
「まだ学生だった頃に俺もトキヤと衝突したなあっていうのとか、俺はあの場でどうすればよかったのかとか考えちまって。実際音也が言ってることも聖川が言ってることも分かる。間違ってない。でもどっちのほうがよりいいっていうのは言えなかった。ああいう時、レンとかトキヤだったらどういうんだろうな。那月んとこはそういうのあるか?」
楽屋に常備されているクッキーの類のお菓子を薦めつつ那月はこれまでの公演を振り返る。
「僕のところは~……衝突とかはあんまりないかも、ですね。失敗するのは大体僕で、時々れいちゃん先輩がアドリブ入れすぎて足りなくなっちゃったりしますけど。そういう時はあいちゃんがれいちゃん先輩に指導されてますね。優しい先輩たちです」
ステップを間違えた時も少しぶつかっても有能な先輩達はフォローに事欠かない。
「忍者は皆似た年代ばかりだからマサにかかる負担も軽くしてやりてえんだよな……。半分過ぎてまだこういうのかんがえてんのな。遅いよな」
「悩めばキリがありませんよ。後悔してもあと1ヶ月で終わっちゃうんですよね」
「悔いが残らないようにしないとな。おし、話聞いてくれてありがとな。ラーメンでも食いにいくか」
「いいですねぇ~。僕今日はとんこつが食べたい気分です」
「俺はしょうゆかな。今日は俺のおごりだトッピングも好きに入れていいぞ」

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