レンで『好きなのにね』
- 2014/04/25 23:23
- Posted by minami_hato
- Category:お題 on twitter
- Tag:レン, 翔, トキヤ
おチビちゃん聞いてよイッチーが写真を撮らせてくれないよ」
レンは鏡に向かう翔の背中に向かって話しかける。
「また変なところで撮ろうとしたんじゃねえの? そういうのは大体お前が悪い」
「つれないなあ。オレはおチビちゃんもイッチーのことも好きなのにね」
「気持ちの悪い話はやめてください」
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Tag: トキヤ
おチビちゃん聞いてよイッチーが写真を撮らせてくれないよ」
レンは鏡に向かう翔の背中に向かって話しかける。
「また変なところで撮ろうとしたんじゃねえの? そういうのは大体お前が悪い」
「つれないなあ。オレはおチビちゃんもイッチーのことも好きなのにね」
「気持ちの悪い話はやめてください」
夢だと言われるならどんなによかったことかとトキヤは苦虫を噛み潰したような表情で手に持った週刊誌を机に叩きつけた。表紙に大きく踊る「一十木音也、年下モデルと深夜密会泥沼三角関係の一部始終」という文字は何よりもトキヤを苛立たせた。あの男は本当に何度繰り返しても懲りることを知らない。
劇団シャイニングの3舞台が終了してもうすぐ2ヶ月が経とうとしている。それに付随していたtwitter企画もいったん終了となって何かあればアプリを起動させていた癖もようやく抜けたがtwitterが連れてきた縁というのもあった。
万年筆だ。
松ヤニ入りキャンディとは違って値が張るものにも関わらずトキヤのファンはこぞって購入し、いまだに品薄状態が続いているのだという。シャニスタではついに小さなインタビューコーナーが用意された。今日はそれの取材だが少し早くついてしまった。何をしていようか考えてトキヤは手帳を開いて万年筆のキャップを取った。
そもそも幼き日に父の書斎で見た憧れが手元にやってきたのだから浮かれていたのだとは思う。父の万年筆の事を思い出したのは随分前に真斗と食事をともにして、招待状は万年筆で書くと書をしたためる時ほどではないにしろ気が引き締まると聞いたからだ。
そして先ほどまで別フロアにある事務所で万年筆が欲しいんですという那月の相談を受けていた。
「どういうところに行けば売っているのか分からなくて、近くの文房具屋さんに行ったんですけど取り扱いありませんって言われちゃったので」
「四ノ宮さんはいつもあのヒヨコのペンを使っていたと思うんですが、何かコラボ万年筆でも発売されたんですか?」
「え? ピヨちゃん万年筆とかちょうちょう可愛いと思うのであったら絶対買いますけど、僕が欲しいのは翔ちゃんへのプレゼント用です」
あと1ヶ月強で同期の中で唯一未成年だった翔も成人する。トキヤは同期のうちでも幼いころからこの世界で生きていて両親の庇護下にいた期間は短く、大人同様に扱われはじめた時期は早いがそれでも「節目」というのは感じた。翔の場合はそもそもここまでの道のりが用意されていなかった可能性が大きかったのだからなおさらだろう。
「毎年お揃いのものをプレゼントしているので、今年は何にしようかな、翔ちゃん20歳だからうんと特別なものがいいなって思ってたらトキヤくんの万年筆のことを思い出したんです。あんまり高いものは翔ちゃん受け取ってくれないかもしれないしよく分からないから、トキヤくんに教えてもらいたいです」
「書き味やデザインも大事ですけど翔が持つならとびきりお洒落なものが喜ばれるでしょうね。とりあえずネットで調べてからにしましょうか」
事務所の空きパソコンであれこれと説明をしながらイメージと予算を聞いていく。30分程度で何本かに絞れたからあとは売り場へ行くだけだ。ここで買ってもよかったが実際に書いてみたほうがいいし案内すると主張したのはトキヤのほうで、那月は顔を綻ばせて喜んだ。
「トキヤくんがいてくれて助かりました」
と次の約束をして那月は次の仕事へ旅立っていった。
成人といえばトキヤの元同室者でたびたびひとまとめにされる音也も翔と同い年で、先日成人を迎えたばかりだった。嶺二ともスケジュールをあわせてトキヤの部屋でささやかな誕生日パーティを開いた。嶺二はサングラスをプレゼントしていたがトキヤは音也たっての希望で「俺の好きなものフルコース」として料理を振舞った。しかし那月の献身振りを見ているとなにかサプライズを用意すればよかっただろうかと思ってしまう。
「もう終わってしまったことですが」
口にすると自分が悪いことをしたような気になる。トキヤは目を閉じて大きく息を吐いた。まだいくらでも機会はある、とトキヤは万年筆を置いた。
「かつてはルームメイトでしたしその頃からの名残でユニットや仕事などでは一緒に行動することは多かったと思いますが、私は私です。影響など受けていません」
「てトキヤはいつも言うんだけどあなたとは永遠にライバルとして競い合いたいものですって言ってくれたのが俺のデビュー当時一番の思い出!」
目を丸くするトキヤに音也は逆にえ?と首を傾けた。
「別になんだっていいよ。あのトキヤが休みが欲しいって言うんだからよっぽどの何かがあるんだよ。でもまあ……」
音也はテーブルに肘をついてトキヤをしばらくじっと見て、にっと笑った。
「トキヤ、俺に嘘ついてない? それかなんか隠してるよね?」
「……何のことですか」
「だって今のトキヤ演技のスイッチ入ってる。瞬きの回数すんごい少ないもん」
音也は自分の目を指した後トキヤを指差した。
「那月んとこみたいにべったりじゃないけど俺トキヤの癖ぐらい分かるし」
【一ノ瀬選手ドッキリリベンジならず。またしても敗退、現在一十木選手全勝です】
「ST☆RISH様」と書かれたドアを開けると目の前に音也が裸で立っていた。
両手には脱いだばかりと思われるTシャツを持っていて、振り返り様にレンを見ていてぽかんと口を開けていた。
「あっ」
「昼間から大胆だねえイッキ」
「違うよただの着替えだよ。今日自転車で来たら通り雨にあっちゃってさ。もうびしょびしょなんだよ」
そういわれてレンは今日来る時に道路が濡れていた事を思い出した。ちょうど通り過ぎた後に移動していたのだろう。音也が着ていたシャツは色が変わるぐらい濡れていて水滴こそは落ちないものの重そうに垂れていた。
「ジム通いは成果を上げてるみたいだね。筋肉ついてるよ」
「本当に? 嬉しいな。俺頑張ってるんだよ。この前翔とやった腹筋勝負俺が勝ったしね!」
指差したとおりに背中を見ようとして、ひねったり鏡に向けたりしている音也の姿がいつに増して犬みたいで、レンは声を上げて笑いながらスマートフォンを向けて写真を撮った。シャッター音を聞くと仕事モードにでもなるのか音也はポーズを決めて、笑顔でピースを向けてきた。
「撮られといてなんだけどレン、俺の裸安くないよ? 高いよ?」
しゃがんで上目遣いのまま音也はレンに向かって手を突き出した。
「撮られる相手が身内なら可愛いもんだよ。イッキもそのうちレディと一緒の写真を撮られたりするんだよ」
レンは鞄からガムを出すと音也の手に乗せたが、「眠気すっきり」と書かれたそれは音也の苦手な味だったらしくまたつき返された。
「芸能記者ってどこに潜んでるの」
「……イッキには火遊びはまだ早いと思うけど聞くかい?」
「音也に妙なことを吹き込むのはやめてください」
レンもしゃがみこんで秘密の話を始めかけたところでトキヤがやってきた。そのままレンに対しては生活態度全般について、音也に対しては天気予報を見ろ、風邪を引くと説教の時間となった。
ちなみに後日談としてはこの時に撮られた半裸の音也の写真はレンのブログにアップされることとなり、各地の音也担のあいだでレン様まじ崇めるわと話題になった。
「休んでる間は何するの?」
そう尋ねるとトキヤは音也の背後の壁でも眺めるような遠い表情で呟いた。
「最近は旅行も行けてなかったのでどこかに行きましょうか、静かで綺麗なところがいいですね」「じゃ俺が一番いいところに案内する!俺もオフもらうしたぶん大丈夫だよ」
「聞かないんですか?」
「え、トキヤ今なんて言ったの?」
「ですから、しばらくお休みをいただくことにしました」
活動休止というやつですねと言う言葉はまたもや音也の耳を通り抜けていった。
聞き間違いではなかった。
「どっか悪いの!? 病院、病院行く?」「私はいたって健康ですよ。でもそうですね、少し疲れました」
「おやおや、繋ぐのは手だけではありませんよ」
トキヤは腰に腕を回してふたりの間にあったわずかな距離さえも縮めてしまった。
「エスコートというからにはこのぐらい寄り添っていただかなければ不審がられますよ。君は今だけ作曲家ではなく一流の女優だと思ってください。周りが注目していますよ」
「トキヤは大人しく降参すればいいのに」
個室居酒屋の一角ですやすやと寝息を立てているがこれからが大変だと音也はげんなりする。
「トッキーは負けず嫌いだからね」
「れいちゃんが変に挑発するからいけないんだよあのトキヤ1人でつれて帰れないんだからね!」
「レンレンにはもう電話しといたよ☆」
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