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( お題:俺の村 制限時間:15分)

 俺の村には誰も住んでいない。何人か住んでいたこともあった。裏切ってどこかに行ってしまった。
 この人にはずっと住んでいてほしいと思ったこともあった。今はもう誰もいなくなった。
 ベース1本だけかついで宮城から出てきた。まったく芽が出なくて食うものにも困ってじいさんとばあさんが切り盛りしてる洋食屋ではかなり長い間世話になった。騙されそうになっていた所を俺が止めたことが何回かあるぐらい人を疑うことを知らない善人だった。
 シャイニング事務所に移籍してなんとか安定してきた所でバイトはやめた。しばらくしてくそめんどくさい後輩を2人ばかし押し付けられた。俺に因縁のある財閥の関係者だった。それが終われば今度は1年半もたって芽も出ない作曲家の卵、しかも女。
 指導なんか今度こそするつもりはなかった。俺が歌うのに相応しいロックを女が書けると思っていなかったからだ。なのにあいつはパセリのじいさんばあさんどもの上を行くバカだった。首輪でも付けて見える場所に置いておかないとこっちが不安になるレベルのだ。
 あんなふにゃふにゃしたなりであんな熱い音楽が流れてくるなんて本当に底が知れないやつだと思った。
  俺の村にはひとりの音楽家が住みついた。子犬か子猫みたいにじゃれ付いてくる。不思議と不快ではなく、誰かがいる生活というのは悪くない。そう思ったのは故郷を出て以来久しぶりのことだった。

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