那月で『ちょっと黙って』
- 2014/04/23 23:27
- Posted by minami_hato
- Category:お題 on twitter
- Tag:藍, 那月, 嶺二
「あの、あいちゃん」
「ナツキは黙ってて。ボクはレイジに聞いてるんだよ。犬なんか拾ってどうするつもり? ボクたちがここにいるのは春までだしそれ以降は誰が世話をするの? そのあたりが明確にならないなら楽屋にも入れないよ」
「この子の目を見てよアイアイ! 捨てないでって言ってるよ」
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Tag: 那月
「あの、あいちゃん」
「ナツキは黙ってて。ボクはレイジに聞いてるんだよ。犬なんか拾ってどうするつもり? ボクたちがここにいるのは春までだしそれ以降は誰が世話をするの? そのあたりが明確にならないなら楽屋にも入れないよ」
「この子の目を見てよアイアイ! 捨てないでって言ってるよ」
劇団シャイニングの3舞台が終了してもうすぐ2ヶ月が経とうとしている。それに付随していたtwitter企画もいったん終了となって何かあればアプリを起動させていた癖もようやく抜けたがtwitterが連れてきた縁というのもあった。
万年筆だ。
松ヤニ入りキャンディとは違って値が張るものにも関わらずトキヤのファンはこぞって購入し、いまだに品薄状態が続いているのだという。シャニスタではついに小さなインタビューコーナーが用意された。今日はそれの取材だが少し早くついてしまった。何をしていようか考えてトキヤは手帳を開いて万年筆のキャップを取った。
そもそも幼き日に父の書斎で見た憧れが手元にやってきたのだから浮かれていたのだとは思う。父の万年筆の事を思い出したのは随分前に真斗と食事をともにして、招待状は万年筆で書くと書をしたためる時ほどではないにしろ気が引き締まると聞いたからだ。
そして先ほどまで別フロアにある事務所で万年筆が欲しいんですという那月の相談を受けていた。
「どういうところに行けば売っているのか分からなくて、近くの文房具屋さんに行ったんですけど取り扱いありませんって言われちゃったので」
「四ノ宮さんはいつもあのヒヨコのペンを使っていたと思うんですが、何かコラボ万年筆でも発売されたんですか?」
「え? ピヨちゃん万年筆とかちょうちょう可愛いと思うのであったら絶対買いますけど、僕が欲しいのは翔ちゃんへのプレゼント用です」
あと1ヶ月強で同期の中で唯一未成年だった翔も成人する。トキヤは同期のうちでも幼いころからこの世界で生きていて両親の庇護下にいた期間は短く、大人同様に扱われはじめた時期は早いがそれでも「節目」というのは感じた。翔の場合はそもそもここまでの道のりが用意されていなかった可能性が大きかったのだからなおさらだろう。
「毎年お揃いのものをプレゼントしているので、今年は何にしようかな、翔ちゃん20歳だからうんと特別なものがいいなって思ってたらトキヤくんの万年筆のことを思い出したんです。あんまり高いものは翔ちゃん受け取ってくれないかもしれないしよく分からないから、トキヤくんに教えてもらいたいです」
「書き味やデザインも大事ですけど翔が持つならとびきりお洒落なものが喜ばれるでしょうね。とりあえずネットで調べてからにしましょうか」
事務所の空きパソコンであれこれと説明をしながらイメージと予算を聞いていく。30分程度で何本かに絞れたからあとは売り場へ行くだけだ。ここで買ってもよかったが実際に書いてみたほうがいいし案内すると主張したのはトキヤのほうで、那月は顔を綻ばせて喜んだ。
「トキヤくんがいてくれて助かりました」
と次の約束をして那月は次の仕事へ旅立っていった。
成人といえばトキヤの元同室者でたびたびひとまとめにされる音也も翔と同い年で、先日成人を迎えたばかりだった。嶺二ともスケジュールをあわせてトキヤの部屋でささやかな誕生日パーティを開いた。嶺二はサングラスをプレゼントしていたがトキヤは音也たっての希望で「俺の好きなものフルコース」として料理を振舞った。しかし那月の献身振りを見ているとなにかサプライズを用意すればよかっただろうかと思ってしまう。
「もう終わってしまったことですが」
口にすると自分が悪いことをしたような気になる。トキヤは目を閉じて大きく息を吐いた。まだいくらでも機会はある、とトキヤは万年筆を置いた。
「でもね、1個だけ分かることはあります」
紅茶をカップに注いで翔に差し出しながら表情を綻ばせた。
「那月……あ、作中の僕だけど、絶対幸せだったと思うんです。好きな人といっぱい色んなところに行って思い出を作って……。トキヤくんはどう演じるのかな。色んなこといっぱいお話したいです」
「思い出すって今度はお前が旅立つ側なんだけど」
具体的に何をするのかは聞いていないが本格的に夏が来るぐらいまでは那月はヨーロッパに行くと聞かされたばかりだった。
「今はまだ秘密ですけどそのうちあっと驚くようなものを見せられると思うから楽しみにしててね」
「おう、公開は俺のが早えかな」
「好きなものを好きだって言って通るような世の中だったら……これで完成です!どうですか?」満足げな那月を見ながら翔は自分の爪に目を落とす。
「那月がネイルって縁がないと思ったけど上手い……ってピヨちゃん描いてんじゃねえよ!」
「これが消えるまでは見るたびに僕のこと思い出すでしょ?」
「その顔だけでも分かるけど僕としてはやっぱり言葉で聴きたいなあ。僕の我儘聞いてくれるなら今思ってること聞かせて」
他には聞かせないからとばかりに壁際に詰め寄って屈んで耳を寄せてくる。首筋からは深い森にいるような落ち着く匂いが漂ってきた。背後の壁に手をつかれてもう逃げようもなかった。
「僕は本当に思ったことしか言いませんよ」
向かいに座って真剣に翔の爪に色を乗せている那月は顔も上げずに言った。
「思ってもないことをいうのって僕この年齢になってもやっぱりあんまり好きじゃないです。どうしてもしょうがない時ってありますけど」
不意に言葉が途切れた。
「すっごく疲れます」
「四ノ宮さん、音也に何を教わったか知りませんがこれは2人でするようなゲームでは……まして男2人でするようなゲームでもありませんし別のものに」「ちゃんと王様気分に浸れるように小道具さんにお願いして王冠も貸してもらったのでふたりでも大丈夫ですよ!」「そういうことではありません」
僕は冬の間れいちゃん先輩とあいちゃんとたくさん過ごしてきました。2人とも仕事とプライベートの境界線が分からないぐらい色んなことをしてました。れいちゃん先輩は時々すごく疲れたようなひんやりした目で天井を眺めながら寝転んだりしていたからあれでスイッチを入れ替えているのかもしれません。
道ならぬ恋ー? そうだねえ。例えば後輩ちゃんが翔たんと付き合ってるとするじゃない? でもなっつんも後輩ちゃんのことがすっごい好きなの。でも3人でいるときの居心地もなっつんはすーごい好きなの。でも苦しいの。そういうのをもうちょっと変えればいいんじゃない?
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