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2014年02月08日

( お題:俺の村 制限時間:15分)

 俺の村には誰も住んでいない。何人か住んでいたこともあった。裏切ってどこかに行ってしまった。
 この人にはずっと住んでいてほしいと思ったこともあった。今はもう誰もいなくなった。
 ベース1本だけかついで宮城から出てきた。まったく芽が出なくて食うものにも困ってじいさんとばあさんが切り盛りしてる洋食屋ではかなり長い間世話になった。騙されそうになっていた所を俺が止めたことが何回かあるぐらい人を疑うことを知らない善人だった。
 シャイニング事務所に移籍してなんとか安定してきた所でバイトはやめた。しばらくしてくそめんどくさい後輩を2人ばかし押し付けられた。俺に因縁のある財閥の関係者だった。それが終われば今度は1年半もたって芽も出ない作曲家の卵、しかも女。
 指導なんか今度こそするつもりはなかった。俺が歌うのに相応しいロックを女が書けると思っていなかったからだ。なのにあいつはパセリのじいさんばあさんどもの上を行くバカだった。首輪でも付けて見える場所に置いておかないとこっちが不安になるレベルのだ。
 あんなふにゃふにゃしたなりであんな熱い音楽が流れてくるなんて本当に底が知れないやつだと思った。
  俺の村にはひとりの音楽家が住みついた。子犬か子猫みたいにじゃれ付いてくる。不思議と不快ではなく、誰かがいる生活というのは悪くない。そう思ったのは故郷を出て以来久しぶりのことだった。

(お題:寒いプレゼント 制限時間:15分 未完)

 雪でも降らねえかなあ、などと呟く程度には暑い日だった。今日は先輩が野外フェスに出演すると聞いて関係者パスを使って現地にやってきたのだった。当たり前だが野外フェスは暑い。フードタオルをかぶっていたがそれでもタオル越しに容赦なく肌を焼くほど太陽は猛威を振るっていた。
「それにしても暑いねえ! マイガール達元気~!?」
嶺二の声に女性ファンが歓声を上げる。
「負けてんじゃねえぞ男ども腹から声を出しやがれ!」
 対する蘭丸の声に野太い雄たけびがあがる。今はカルテットナイトでもなくシャイニング歌謡祭のコンビタイムだ。普段はあまり登場しない組み合わせに会場はさらに熱気を帯びている。
「ランラン暑いよね!? 僕がちょっと寒くなる話してあげよっか。この前タクシーに乗ったときに運ちゃんか聞いた話なんだけどね」
「そういうのは楽屋でやれ! くっだらねえ話してんじゃねえぞ」
「納涼プレゼントだよ~。ランランもしかして怖いのあとで肝試ししない?」
「この馬鹿はほっといて新曲だ」

(お題:愛と欲望の風邪 制限時間:15分)

 目の前がくらくらするなと思ったからためしに熱を測ったら38.5度って表示された。嫌だなあ、今日は翔ちゃんと春ちゃんと新曲の打ち合わせがあるんだけど。声を聞かせたほうが心配しそうだから翔ちゃんに今日は僕都合でごめんなさいってメールした。お薬飲んでお布団に入って寝てれば治るはず。ああ、冷蔵庫食べるものなにかあったかなあって思ってたらすっと意識が飛んでしまった。
 何かが触れた感じがして目が覚めると目の前に翔ちゃんがいてびっくりした。額に手を当てて熱を測っている。
「気分はどうだー?」
 そう尋ねてくる翔ちゃんに何も返せないでいると翔ちゃんは僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でていった。こういうところは翔ちゃん「お兄さん」なんだなって思った。僕より年下なのに。病気慣れしてる感じがする。
「俺が心配するとでも思ったんだろ。もっとさーいつもみたいに言ってこいよ調子狂うだろ」
へへって笑う翔ちゃんがなんだか眩しかった。
「僕、りんごが食べたいです」
「分かった。待ってろ」
「ピヨちゃんの形に切ってください」
「どうやれっていうんだよ! 小さく切るからそれで妥協しろ」

アルパカに乗ってやってきた。

 音也におんぷくん、那月にピヨちゃん、トキヤにペンギン。
 そして最近寿嶺二とセットにされる動物が増えた。アルパカだ。
 CMで脚光を浴びたことで日本ではようやく認知された動物で、どれが正解の顔なのか分からなくなるほど個体によって顔つきがまるで違う南米が原産の家畜だ。
「れいちゃんサンタできて嬉しいけど、なんでトナカイじゃなくてアルパカなの」
顔の下半分を覆い隠す白いひげをつけながら嶺二は何度目かの当然の疑問を呟いた。嶺二のブーイングはさておきアルパカは平和そうな表情を浮かべて時々「フェエエエ」と鳴いた。
「間抜けそうな顔がお前らしくていいじゃねえか」
「ランラン酷! そんなことを言う子のところにはサンタクロースは来ないんだからね! 後悔しても謝ってももう遅いんだから!」
 今日の収録はサンタクロースの格好をしてこのアルパカを連れてちびっこに夢と希望とプレゼントを渡すらしい。ちなみにこのアルパカもシャイニング事務所の動物タレントだ。元々はシャイング早乙女のペットだったという。
「ではアル君今日はよろしくお願いします」
 動物といえど共演者。嶺二はアルパカの背中を触って挨拶をして収録へと挑んだ。

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