咳 はちみつ ゆびさき
- 2013/05/06 13:25
- Posted by minami_hato
- Category:お題 on twitter
- Tag:那月, 翔
寝室のほうからは相変わらず咳の声が絶えず聞こえてくる。トキヤ君に喉にいい飲み物を聞いて蜂蜜ももらった。お湯を沸かしながら蜂蜜を指ですくって食べる。美味しい。はやく美味しいものが食べれるようになるといいのに。
「早く翔ちゃんがよくなりますように」
願いを込めてマグカップを混ぜた。
だいたいうたプリ2次創作コンテンツ
寝室のほうからは相変わらず咳の声が絶えず聞こえてくる。トキヤ君に喉にいい飲み物を聞いて蜂蜜ももらった。お湯を沸かしながら蜂蜜を指ですくって食べる。美味しい。はやく美味しいものが食べれるようになるといいのに。
「早く翔ちゃんがよくなりますように」
願いを込めてマグカップを混ぜた。
真夜中に物音がしたからふと顔を上げてみると頭から水をかぶったみたいな那月が立ってて俺の心臓は飛び出るかと思った。翔ちゃんいたんだ、なんて言うからさらにむかついて手を伸ばしたら暖かい毛玉に触れた。もうコートの季節ではない。ということは。
「お前猫拾ってんじゃねえよ! 何匹目だよ!」
2012年12月24日、クリスマスイヴ。
毎年今年は何かしらの仕事が入っていたが今年はオフ、自分も同時期にデビューした友人たちもマスターコースの教官だった先輩も学園時代の先生もだ。そんなに揃いも揃って休みになるなど日食並に珍しい。それもそのはずで24日はオフであると同時に事務所のクリスマス企画に駆り出されることになっている。休みを過ごすのはいつもと同じ、違うのはシャイニング事務所公式アカウントでアイドル一ノ瀬トキヤとして呟くことを要求されていることだ。
シャイニング早乙女は「親近感あふれるアイドルと思われるよう頑張ってクダサーイ!」というばかりで実際のルールは日向龍也から説明があった。
基本的にフォローから発言内容までアイドル側にゆだねられている。ただファン個人にリプライをすることは禁止され、守秘義務とプライバシーに関してはいつも以上に気をつけるように厳命された。
24日までには全員フォローを済ませておくようにいわれていたが、年始番組の収録や新春ドラマの番宣やらなにやらで共演した真斗やレンをフォローしたら音也から電話がかかってきた。出てみれば開口一番に「俺のことも早くフォローしてよ」と喚くものだから黙りなさいと一言だけ伝えて電話を切った。その後トキヤはいつものように押し切られて音也をフォローした。
そして迎えた24日。気がつけば0時を過ぎていて、iPhoneからタイムラインを眺める。口火を切ったのはマスターコースの教官でもあった寿嶺二だ。トキヤは彼の言動を眺めながら場をリードする能力について考えた。自分ももう少し年齢を重ねれば嶺二のようになれるのだろうかと思っても、頭をよぎるのは音也のことだ。嶺二に近いのはどう考えても自分より音也だ。目標ははるか遠くにあって、どうやって歩いていけばそこまでたどり着けるのかも分からない。
そうして思考の袋小路に入っていたところからふっと戻ってくれば1時を過ぎている。自分はまだ何も呟いていない。発言回数は問わないが開始直後には全員がなにかしら呟くようにしてほしいといわれたのを思い出してトキヤはiPhoneを操作した。
【おつかれさまです】
読み込まれていた前の発言を見てみればなにやら騒然としている。今度一緒にユニットを組んでCDを出すことになっている那月が意味不明なことを呟いている。
【もいすすん そくすにとかもちと】
那月の意味不明な行動を読むのは翔がとても上手いと思っている。翔に言わせれば
「あいつの考えることなんて分かったためしがねーけど」
ということだが、それでも自分などよりよっぽどよく分かっているとトキヤはレコーディングでしみじみ感じた。今度の謎発言はあの時よりよほど簡単で、そのままタイムラインに流した。
【おそらくかな入力になっているだけでしょう。いま電話で説明します。待っていてください。】
アプリを終了させるとアドレス帳を終了させて那月の携帯に電話をかけた。3コールほどで相手は出た。
「はい、四ノ宮です~。トキヤ君こんばんは。素敵な夜ですね」
電話口からは花でも飛んでいそうなふわふわした発言が聞こえてくる。
「一ノ瀬です。四ノ宮さん、twitterのことですが」
「あれ楽しいですねえ。四角いところに翔ちゃんやあいちゃんや音也君の顔が見えていて、その人が喋ってるみたいです。僕、翔ちゃんにどうやったら皆とお話できるか教えてもらったんですが、なんだかうまくおしゃべりできないんです。翔ちゃん日向せんせえとお話できてなんだか嬉しそうでしたね。トキヤ君はそう思いませんでした?」
ほのぼのとした口調で話の主導権を浚われてトキヤは口を挟むタイミングを逃した。那月の話は本当に独特だ。トキヤは嶺二よりまず翔を目指すべきではないかと思った矢先に質問が飛んできてようやく発言の機会を得た。
「四ノ宮さん、あなたは今パソコンがかな入力になっているからうまく発言できないんだと思うのです。キーボードを見てください。ALTキーとカタカナひらがなと書いてあるキーはありませんか? そのふたつを押してみてください」
「んー……ごめんなさい僕うまくできていないみたいです。さっきと同じ文字がでます」
しばらく電話の向こうからキーボードをなぞるような音が聞こえたあと那月はそう伝えてきた。しゅんとうなだれる様が見えるような声色だった。
「……四ノ宮さんってパソコンは何を使っていましたか?」
「僕のは翔ちゃんとおそろいです。うすくてどこにでも持っていけそうな可愛い子です。よく分からないっていってたら、翔ちゃんがしょうがないなあって言って2人で一緒に買いにいったんです。翔ちゃんが持っているのはお母さんからもらったちょっと古いやつを使ってるって言ってました」
「いえそうではなくて、OSとかメーカーとかそういうことです」
「おー……? よく分からないですが僕のはりんごのマークがついてますよ。そういえば林檎せんせえも今日参加するんですよねえ、僕楽しみです」
トキヤは思わず額を押さえた。那月のPCはMacと聞いてトキヤは自身のパソコンを起動させる。相槌をうちながら検索キーを叩いてゆっくりと那月に伝え始める。電話の向こうの那月からは明らかに大量に疑問符がついた言葉が返ってきていたがそれでもなんとかたどり着いたようだった。
「ん、んーできま――」
そこまで聞こえたところで電話がぶつりと切れた。iPhoneは充電切れを示している。
さすがにもうできているだろうと判断して、トキヤはかけ直すことはせず充電ケーブルにつないでtwitterにログインした。
【先ほど終わりました。おかげで携帯の充電が切れました。無事伝わっているといいのですが。】
レンに茶化されたりしていたが数分もしないうちに待っていた言葉が流れてくる。
【Merry Christmas!】
それを見てトキヤはほっと表情が緩むのを感じた。
疲れたけど無事伝えることができてよかった。満足すると眠気が襲ってきた。明日も早いのだ。twitterにはもう休むことを呟くと音也からリプライがやってきて少しやり取りをしてブラウザを終了させた。終了させる直前に那月から不思議な単語がまた洩れていたのが見えた。あれを回収に行く翔はやはり凄いと、そう思いながらトキヤはベッドに入った。
布団の中で音也からのメールを見て、手配の順を頭の中で確認してから眠りに落ちた。
毎年のクリスマスイヴのシャイニング事務所恒例行事といえばST★RISHコンサートに決まっている。まだメンバーに18歳未満が多いことからカウントダウンコンサートは開催できないためイヴに前倒されている。この日のために集まるST★RISHファンの気合といえば尋常ではない。比較的大きな会場が選ばれるものの24日限り、映像化なしの幻の一夜のために屍はあとを絶たない。
この日のためにアカウントを貸してくださいと方々に頭を下げ各種プレオーダーに申し込んで祈るばかり。行けない者は妄想を具現化してtwitter上でエアコンサート会場を作り出す。
去年は那月と翔は自分の楽器を持ち出してクリスマスソングを演奏してレンと真斗が仲良く赤鼻のトナカイを歌うという通常ではまず見られないような曲ばかりである。
子どものときに分からなかったものがある。うちは親が世界中飛び回っていたし俺は入退院を繰り返すことも多かったから見た回数はそんなに多いものではなかったけど。
酔っ払っている親、それから酒臭いというあれだ。
祝・酒合法となってから俺は音也と飲む機会が増えた。音也は新しいおもちゃを使う権利を得たこどものようにメニューに書いてある酒(といってもまだまだ初心者の俺らは日本酒とかハードルが高そうなものは飲まない)をあれこれ注文している。時々はレンとか那月とかもやってきてああだこうだと美味い酒を飲ませてくれるのはありがたいけど那月のやつは限度というものを知らない。そもそも俺は20歳になる前に1度那月にそうと知らされずワインを盛られた。うちの両親どもはヨーロッパでの生活が長いせいかワインの瓶がよく転がっていたのを覚えていたけど、飲まされたのは甘いものだったから余計に気がつくのが遅れたんだった。
我が家のベランダはちょっとしたバーベキューできる程度には広い。家族が誰もいない今私はひっそりとバケツと新聞紙を用意する。今までもらった全てを焼いてしまうのだ。手紙も大事にしていた水族館のチケットも写真も全て。苦くなった思い出などすべて秋の味覚の火力になってしまうがよい。
「夕方のベランダ」で登場人物が「さよならを言う」、「焼き芋」という単語を使ったお話を考えて下さい。
泣きじゃくる幼子の手を引いて夜の路地を行く兄弟がいた。二人とも浴衣姿で弟の手には空の金魚すくいの空の袋がぶら下がっている。水滴が袋の外側についていた。用水路の前で転んで袋の中は全て水に流してしまったのだ。兄の財布ではもう金魚すくいはできない。一度家へ帰ってからこれからを考えよう。
板チョコをくわえていたら寝起きの同居人にがぶりと食いつかれた。血糖値を上げるには糖分をとればいいとか訳分からない返答がかえってきたがなにも唇ごと噛みつかなくてもいいのではないかと思う。とりあえず動物かと教育的鉄拳を飛ばすことにした。そんな早朝である。
「朝のキッチン」で登場人物が「共有する」、「チョコレート」という単語を使ったお話を考えて下さい。
おかしい。流星群ピークはまだ10時間も先だというのに僕らはどうして既に床に転がっているというのか。天窓から見える空はようやく赤から紺に変わり始めている。隣からは子どもじみた高い体温と寝息が伝わってくる。こんな小さなうちから年上を振り回すとかとんだ悪女だ! どういうことだ!
「夕方の床の上」で登場人物が「感じる」、「星」という単語を使ったお話を考えて下さい。
今年は3ヶ月前の予想とはうって変わって暖冬なのだという。屋外に出ても頬が切れるような寒さを感じることは今年は例年より少ない気がする。
「冬なのになんだか暖かくて変な感じがします」
目の前にいる那月はセーターにマフラーを巻いただけでそこら辺にいる高校生みたいだ。北海道育ちというだけでこんなにも体感温度に差がつくものだろうか。俺は買ったばかりのマフラーに顔を埋めて那月を目だけでちらりと見上げる。
「お前そんな薄着で寒くねえのかよ」
「僕? 僕はいつもこんな感じだけど。翔ちゃんはもこもこしていて羊さんみたいですねえ。可愛い!」
帽子の上から撫でてくる手を振り払ってスマートフォンを取り出す。表示された先はtwitterだ。まだアカウントはできていないが、もうすぐしたらシャイニング事務所所属アイドル公式アカウントが作成されるはずだ。クリスマス限定の1日の夢を提供しようというものらしい。
社長から言われたのは適宜呟くこととフォローは各自のタイミングでやること、ファンとのふれあいは構わないが節度は守ること、写真を公開する場合は映りこんではいけないものが移らないように気をつけることなどがあげられていた。
「おい那月、お前事務所企画どうすんの」
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