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那月で『オフレコ』

「翔ちゃんには秘密にしておいてくださいね。僕ね、本当はあの女の子が翔ちゃんだって知ってました。何でそんな格好してるのかなあって思ったけど、知らない人の振りをしてたし可愛いなあって思ったから騙されちゃいました。レンくんがドッキリ仕掛けるのは真斗くんですよね。OA楽しみにしてますね」

那月『出来るなら苦労はしない』

こんな時さっちゃんならどうしただろうと、いなくなってしまったもうひとりの自分に語りかける。強くなりたいと願ってもどうすればいいのか分からず星を掴むより難しいことだった。見上げれば月が随分と高くまであがっている。どれぐらい歩き続けたのか見当もつかない。波の音以外に帰る音もなかった。

那月 『パスワードは2万通り』

自分の気持ちはどんな道を通ったとしても2万通りの組み合わせでやり直しても最後に到着する場所は一緒だ。でも向こうは?とふと考えて恐ろしくなる。困難を潜り抜けた先にまだ待っていてくれる保障などどこにもないのだ。不在着信を見ながら掛け直す勇気はまだ持てない。初夏の夜はぬるく過ぎていく。

那月で『若いときには無茶をしとけ』をお題にして140文字SSを書いてください。

直接の恩師ではありませんが日向せんせぇに「若いときの苦労は買ってでもしろ」と言われていました。幸い音楽の才能には恵まれていたのでそれを分かってもらう努力を頑張りました。僕は音楽を作るのが大好きなんですけど、それに色んな人の生活とか思いが乗るので純粋ではいられないこともありました。

貴方は那月で『なんて身勝手な願い』をお題にして140文字SSを書いてください。

「僕はもう触れることはできないけど幸せになってほしいなんて身勝手な願いだと思いませんか?」
美味しい紅茶が手に入ったからと呼ばれた先でそんな話をされた。
「いきなりなんだよ」
「今度好きな人とお別れする役をするんです」
「お前役柄にのめりこむタイプだもんな」
「難しいです。でも頑張ります」

Twitter企画終わって那月くんはどう思ってるでしょうか

 3月1日、21:00。
 昨日まではこのぐらいの時間はまだ劇場の楽屋にいたのに不思議な気分だ。今日はもう帰りの車の中で1日オフだった。今夜の藍は行く所があるというから昼間に翔と3人で打ち上げをかねてお茶会を開くことにした。マスターコース初期の懇親会をしたあのカフェでだ。藍はあの時みたいにシュークリームの皮を剥くことはなかったけど飲んだことのない紅茶を頼んでいた。
「ナツキが淹れた紅茶の味との差異が興味深い。大部分は同じ味がしているけどボクとしてはナツキが淹れていたほうが若干好ましいかな」
 藍はいつも一番に劇場に到着してよく外を眺めていた。それから那月が来て、大体嶺二が最後だった。準備が整って開演までの少しの時間は那月が紅茶を入れて、藍が「窓から見える景色」のうちいつもと違う箇所の話をして、それを聞いた嶺二が推理小説の探偵のようなことをするのがマスカレイドミラージュの楽屋の日常だった。
 外を眺めるのをやめてポケットから携帯を取り出した。迷わないようにと翔が待ち受け画面に作ってくれたショートカットを押すとこの4ヶ月間何度も眺めたtwitterの画面が開かれた。一番最新の呟きは昨日の日付のままだがリプライはこの瞬間にも届いていた。那月に向けられたことばはどれも暖かさに溢れていた。
「お前また携帯見てんの」
隣から眠気交じりの声がした。大あくびをして目を擦りながら那月のほうを見ている。
「翔ちゃん、まだ着かないし寝ててもいいよ」
「いやもう寝る気しねえな。まさか藍がスケートやりたいなんて言うなんてな。でもさすがに疲れた。まさかアイスダンスの飛ばされるほうまでやらされるとは思わなかった」
「翔ちゃん上手でしたよぉ。あいちゃんもちょっと手を繋いですべったらすぐに上達したしやっぱりあいちゃんは凄いですね」
「俺昔薫と一緒にスケートしてたことあったからちょっと自信あったけど、そういやお前北海道育ちだったよな……できるはずだった。んで、企画終わったししばらくこのアカウントを使うことは出来ねえけど、寂しいか?」
 那月の手の内を覗き込んでくる。携帯の小さな画面は昨日のパーティを遡って表示していた。
「そうだね、とっても楽しかったから。いろんなことがあったね。いろんなおはなしをしたよね。本当なら今日翔ちゃんとあいちゃんと3人でスケートしたこともみんなに言いたいけど」
しゅんと那月の眉が下がる。それを見た翔が那月の背中を優しく叩いた。
「ファンと話すっていう意味では俺より那月のほうがよく使ってたもんな」
「翔ちゃんはよく音也くんとそのまま話し込んでましたね。あとよく那月那月って呼んでくれてました」
「そんなに呼んでたつもりねえんだけど、ラーメンの時はレンとトキヤには突っ込まれた」
「忍者さんチームはいつもラーメン食べてましたもんね。僕も食べたいです」
「トキヤにはすんげ引かれたけどこの時間に食うラーメンすげえ美味いんだって」
「今度皆誘っていきましょうね」
「そうだな」
ふふ、と笑いあって名残惜しそうに画面を見つめると那月はtwitterの画面を閉じた。

askから。

(お題:愛と欲望の風邪 制限時間:15分)

 目の前がくらくらするなと思ったからためしに熱を測ったら38.5度って表示された。嫌だなあ、今日は翔ちゃんと春ちゃんと新曲の打ち合わせがあるんだけど。声を聞かせたほうが心配しそうだから翔ちゃんに今日は僕都合でごめんなさいってメールした。お薬飲んでお布団に入って寝てれば治るはず。ああ、冷蔵庫食べるものなにかあったかなあって思ってたらすっと意識が飛んでしまった。
 何かが触れた感じがして目が覚めると目の前に翔ちゃんがいてびっくりした。額に手を当てて熱を測っている。
「気分はどうだー?」
 そう尋ねてくる翔ちゃんに何も返せないでいると翔ちゃんは僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でていった。こういうところは翔ちゃん「お兄さん」なんだなって思った。僕より年下なのに。病気慣れしてる感じがする。
「俺が心配するとでも思ったんだろ。もっとさーいつもみたいに言ってこいよ調子狂うだろ」
へへって笑う翔ちゃんがなんだか眩しかった。
「僕、りんごが食べたいです」
「分かった。待ってろ」
「ピヨちゃんの形に切ってください」
「どうやれっていうんだよ! 小さく切るからそれで妥協しろ」

封筒、テープ、はさみ

那月に手紙ブームが来ている。聖川にオーダーメイドのピヨちゃんの万年筆を贈られてから机の前で手紙を書いている姿をよく見る。誰かと文通しているのだろうか。今日も丁寧にテープで封された封筒をはさみ片手に開封していた。試しに「誰から?」と聞いてみれば「秘密です」と言われたから面白くない。

映画、メガネ、3D

「映画を見に行ったんです。宇宙にぽーんって投げ出される映画で、途中ですごく寂しくなりました」
「で、うちに来たってわけか。つか眼鏡で3Dって大変そうだよな。重たくねえの」
「実はこれ伊達眼鏡なんだよ。今日が休演日ってコンタクト入れて準備し終わってから気付いて」
「まじか」
「まじです」

1/27の音也が非常に爆弾だったんだったので。

 夜公演を終えて反省会をかねたお茶会も終わった。先輩2名は次の仕事に旅立って行き那月はひとり楽屋に残っていた。この後はもう帰って寝るだけだ。それでもまだ帰らないのはさっき翔から1通メールが届いていたことによる。
――この後仕事ないなら楽屋でいてくれないか?
翔が那月たちの楽屋に来るのはなんら珍しいことではない。むしろこんな風にメールが来るほうが珍しい。なにか良くないことでもあったのだろうか。今の那月に出来ることはお湯を沸かして翔の好きな茶葉を用意することぐらいだった。
 翔はそれから10分もしないうちにやってきた。ノック音がまずして、応答するもドアが開く気配はなかった。不思議に思って那月は外を窺いに行くと帰り支度はもう終わらせてお気に入りの帽子もかぶった翔が立っていた。朝見かけた翔と変わらないが、ひとつ、表情が沈んでいて今もドアを開けた那月に気付いておらずうつむいている。
「翔ちゃん?」
「あ、おう。お疲れ」
「お疲れ様。翔ちゃん何が飲みたい? ミルクティにする?」
「ミルク多めにしてくれ」
話しかけてようやく笑顔を見せたが今日は言葉少なめに翔は楽屋に来た時の定位置に座り込んだ。翔が「ミルク多めで」という時は大体疲れている時だ。那月はいつもより甘めに仕立て上げて翔の前に差し出した。
両手でマグカップを持って息を吹きかけながら一口二口飲んで、翔は重い口をようやく開いた。
「今日さ、音也と聖川の意見が珍しく合わなくって。どっちも自分が正しいからって引かなくて。あ、別に喧嘩じゃないからな? 舞台の今後とか進行とか展開とか、よくしていこうっていう上での、言い争いだ」
なんだかいつもより煮え切らなくて、言い訳のような雰囲気がする。那月は隣に座ったままで急がせずに「うん、それで?」と相槌を打つことに専念していた。
「まだ学生だった頃に俺もトキヤと衝突したなあっていうのとか、俺はあの場でどうすればよかったのかとか考えちまって。実際音也が言ってることも聖川が言ってることも分かる。間違ってない。でもどっちのほうがよりいいっていうのは言えなかった。ああいう時、レンとかトキヤだったらどういうんだろうな。那月んとこはそういうのあるか?」
楽屋に常備されているクッキーの類のお菓子を薦めつつ那月はこれまでの公演を振り返る。
「僕のところは~……衝突とかはあんまりないかも、ですね。失敗するのは大体僕で、時々れいちゃん先輩がアドリブ入れすぎて足りなくなっちゃったりしますけど。そういう時はあいちゃんがれいちゃん先輩に指導されてますね。優しい先輩たちです」
ステップを間違えた時も少しぶつかっても有能な先輩達はフォローに事欠かない。
「忍者は皆似た年代ばかりだからマサにかかる負担も軽くしてやりてえんだよな……。半分過ぎてまだこういうのかんがえてんのな。遅いよな」
「悩めばキリがありませんよ。後悔してもあと1ヶ月で終わっちゃうんですよね」
「悔いが残らないようにしないとな。おし、話聞いてくれてありがとな。ラーメンでも食いにいくか」
「いいですねぇ~。僕今日はとんこつが食べたい気分です」
「俺はしょうゆかな。今日は俺のおごりだトッピングも好きに入れていいぞ」

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