母子家庭で育った由奈はここ半年放課後に病院へ通う生活をしている。入院中の母を見舞うためだ。病院までそれなりに時間がかかる距離だったけど週3回は行くのは義務として自分で決めた。
由奈の母愛理はスナック勤めで誰からも愛されていた。今思えば貧困家庭だった由奈はそんな風に「母がお客さんに愛された結果」節目節目で必要なもの、例えばランドセルや制服は初対面のお客さんに買い与えられて育った。でも由奈は「男に頼って生きている」母ののことが嫌いで、そのせいで「何事もきっちりする」「人に頼らない」性分として育った

母の死を知らされたのは、状態が安定しているから面会の回数を減らそうかなと思ったり多少遅れていっても大丈夫だろうと思っていた日だった。そして葬儀の場で「1人になった由奈は誰が引き取るのか」問題が勃発していたところ父親だと名乗る男が2人現れた。
金髪で強面の竜二、眼鏡で硬い仕事の秋生。2人とも母から「黙っていたけどあなたの子供に子供がいる」という手紙を受け取っており、親戚一同は2人に由奈を押し付けて方々へ散った。
しかし由奈は「母と暮らしたこの家で暮らす。どちらにも引き取られない」「どうしてもいうならそっちがこの町に引っ越して来い」と啖呵を切り2人とも本当に引っ越してきた。
母と暮らした築60年のボロアパートに。

序盤の方から物語のゴールとしては第3の、真の父が出てくるんだろうなと思っていたので、そこに至るまでどういう道をたどるのかと楽しく読んだ。一緒に暮らすことは認めても、家賃生活費を受け取ることさえよしとしなかった由奈が、父候補2人とどうやって交わっていくのか、知らされていなかった母の過去などが丁寧に描かれていてよかった。

でもこの本を投げようかと思ったのは「坂口ディーン」という芸能人(中高年に人気のアイドル俳優)が思いのほかがっつり物語に関わってくることで、なんでこの名前にしたのかと多少いらついた。ディーン・フジオカがちらついてしょうがなかった。しかも謎に「坂口ディーン」と、何度もフルネーム呼びをされていてあまりいい役柄ではないので不思議とフジオカsageをされているような気分になる。わたしはディーンフジオカのファンではないが、ご存命の人間を想起させる人を出す場合は立ち位置を注意してほしい。
そこが無理という以外はよい王道疑似家族もの。でも登場するところがあのへんじゃなかったら読むのやめてました。